スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ 作:どくろのりゆき
テレビ頭の持っていた
どうやらその間にどこかに運びだされたようで、目が覚めた時にはキャンプテントの下にいた。
……というかあのテレビ頭、あれだけ他のミクを食い散らかしてた割にはほとんどエネルギーの蓄えがなかったじゃないか。
よほど燃費の悪いやつだったのか。
「飲んでみて」
「?」
「ほら、口に含むの。こうやって。
テントの主である"初音ミク"はそういうと、私の目の前で白湯のようなスープを啜り、嚥下してみせた。
得体の知れないヤツが出してきたものを警戒しなかったわけではないが、しかし体中にじっとりと残る飢餓感をどうにかできると聞いては試さないわけにはいかない。
同じように真似してみると、喉の奥にあたたかい感触が伝わってくる。
後で知ったことだが、これは人間でいうところの「食べる」という行為らしい。
「まだ息があってよかった。他の子はその……ダメそうだったから」
「そう。で、あんたは私をどうするつもりなんだ」
「どうするって?」
「死ぬだろ。共食いしないと。私があんたなら、油断したところをガブっといくぞ」
「えっと……食べ物の話?たしかに、ここに
その"初音ミク"は、全身のいたるところに赤錆が浮いたボディの上から大きな白衣を羽織った、サイバーチックな見た目をしていた。長細く体の凹凸がほとんどない寸胴のような体つきも合わさって、どことなくアンドロイドと一緒にいるような錯覚を覚えさせられる。
彼女は身体が錆びるような内容の曲から生まれたミクなのだろうか。それとも、長生きをしたミクはみな彼女のように錆だらけになるのだろうか。
少なくとも、今の私には座して死を待つつもりなど毛頭ない。何としてでも、何をしてでも、生き抜いてやるつもりだ。
とりわけ、ほかのミクたちが言っていた地上という場所がどんなところなのかだけは絶対に確かめたい。
そんな私の内心をよそに、白衣のミクはスープを飲む私を静かに見つめているようだった。
口元から垂らさずに飲み物を飲むのが難しくて苦戦しているとはいえ、そんなにまじまじと見て面白いものなのだろうか?
「ごめんねえ、地上の空気には
地上。
暗闇に閉ざされたこの場所で、複数のミクが口にしていたワード。
私は自然と前のめりになっていた。
「聞いた話だが、地上には特別なミクがいるらしい。以前、仲間になろうと引き入れてきたミクがその話をしてくれた。……傍らにミクの死体があったんで、不審に思って断ったんだが」
「それ、たぶん、"願いを叶えるミク"のことかも」
その子もちゃんと"初音ミク"のひとりではあるよ、と白衣のミクは付け加える。
「その子に会って、人間の世界に連れてってーってお願いすれば連れてってもらえるし、自分の曲を有名にして!って言えばバズらせることもできるし。だから自分の夢を持っている子たちは彼女に会いに行くの」
あなたにも叶えたい願いがある?と白衣のミクは問いかけてくる。
私はゆっくりと頷いた。
「とは言うけど、まずここを脱出しないと始まらないんじゃないのか。そのミクとやらもそっちにいるんだろ」
「そのことなら任せて。ツテをひとつ知ってるから」
白衣の袖口から見える指先はせわしなく動いていた。錆びと煤で汚れているにもかかわらず、その動きには活気というか元気のようなものがにわかに宿ったように見えた。
「ここと上を出入りできるミクがいるの。今の時期なら多分地下の世界に降りてきていると思うから、交渉してみたら連れてってもらえるかもしれない。ちょっと気難しいというか気の強い子なんだけど……まあ、あたし顔見知りだから」
「そのミク、名前は?」
「『砂の惑星』っていうの」
「砂の惑星……」
聞いたことのある名前ではなかった。
「ところであなたのこと、何て呼べばいい?赤い色の眼をしてはいるけど……」
少し逡巡する。
ここで考えるべきこと。それは、こちらの情報をどの程度開示するか。そして、私に対してどのような印象を持ってもらうのが望ましいかだ。
何事も、まず不信から入るべきであると私は考える。
仮に何らかの理由で隠したり嘘をついたりしなければなくなった場合、私の話や経歴に矛盾を出さぬよう整合性を取ることに腐心しなければならない。
となると、こちらの事情や経歴は小出しにしていくのが安牌ということになる。
「じゃあ、『赤目のミク』でいい。見た目の特徴で呼ぶのが一番わかりやすいから」
「わかった。あたしは『白衣のミク』だね」
ひとまず、本名は言わないでおくことにした。
登場人物である「初音ミク」は、いわゆるフー・ファイターズや呪霊のような、それ自体が単独で成立している半霊(半神?)的な存在なんじゃないかな、と考えています。