スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第3話「劣等上等」

 

 白衣のミクは道すがら教えてくれた。

 

「ここと地上、元々は自由に行き来できたんだよ。ほらここ、地下とはいえ結構天井が高いでしょ。だから地上に行くための螺旋階段を使うの」

 

 あれがそう、と白衣のミクが指さした先には石造りの構造物があった。

 外壁が石でおおわれている塔のようなタイプの階段だったが、途中で折れ、そこから下が崩落していて、上半分だけが天から吊るされているような形になっている。

 歩を進めるうち、足元は舗装された石畳から浜のような砂地へと変わっていた。

 地下であり、さらに光源がある訳でもないのに、他の場所に比べて薄明るいのは、天井の隙間から月明かりがわずかに差し込んでいるからだろうか。

 

「……まあ、見ての通り壊れてるけど」

「階段が使えなくなったのはいつから?」

「ずいぶん前。あたしはもともと地上に住んでて、階段が無事だった頃はここを使って地上と地下を行き来してたんだ」

 

『砂の惑星』のミクとも地上で知り合ったんだよ、と彼女は付け加えた。

 上からかすかに吹き込むそよ風が地上へつながる道の存在を感じさせた。

 

「彼女に頼んだら、上に連れてってもらえるんだよな?」

「うん」

「てことは、ここを出たいミクはそいつに会いに行って頼めばいいわけだ。だったら、エネルギーの奪い合いになるまで地下に留まる理由がわからない。閉じ込められてるって言ってたあのテレビ頭も、歩く足があるなら何とかできたはずだ」

「居るとは限らないの。階段前に来て会える保証もないし。しょっちゅう居なくなるから、呼び出されてるのかもね。あと……その……言いにくいんだけど、『この子はだめだ』『この子は連れていけない』って断られることも多くて」

「断るって……なんでだよ」

「わからない。ちょっと変な子だから」

 

 その時。風が吹いた気がした。

 

「驚いた。まさかサティに『変な子』呼ばわりされるとは」

 

『砂の惑星』らしきミクが腕を組んで立っていた。

 見た目は……なんというか、チビでスカジャンを着ていて目つきの悪いミク、といった感じだった。

 サティというのは……白衣のミクのことだろうか。

 

「またミクを連れてきたの?」

「うん。この子が地上に出たいって」

「へーえ……?」

 

『砂の惑星』……改め"スカジャンのミク"は、私ににじり寄り、まじまじと顔を覗き込む。

 メンチを切っているかのような刺々しい視線だが、なにぶん彼女は小柄なので、覗き込むといっても上目遣いに見上げるような形である。

 

「…………」

 

 何故黙り込むんだ。何でもいいから何か言ってくれないか。

 

「サティさ、この子どこにいた子?」

「今野営してる第3キャンプの近くに倒れてたの」

「……ああ」

 

 全身を嘗め回すように見てから、スカジャンのミクは一歩身を引いた。

 彼女が指揮でもするように手を動かしたかと思うと、その場に砂嵐が起きた。

 

「ーーーじゃあテストだ、新人ちゃん。アタシを倒してみなよ。ほかのミクたちにやったように」

「え」

「アタシもちょっとだけ本気、出すからさ……」

 

 砂嵐はみるみる激しくなり、ついには天井が見えなくなるほどの勢いとなった。

 これが『砂の惑星』固有の能力だとするならば、これまでに見てきたどのミクの能力よりも大規模かつ強大だ。

 

 激しい砂嵐の中で、スカジャンのミクの前に砂像が出現するのを私は見逃さなかった。

 私より背の低い男女を象った砂像が一体ずつ。背の高い長髪の女の砂像が一体。同じ背丈で短髪の女の砂像が一体。男の砂像が一体。

 でかい方の砂像はともかく、小さい方の砂像はわかる。おそらく、『鏡音リン』『鏡音レン』を象った砂像なのだろう。

 私の記憶の通りなら、初音ミクの後継機として開発された第二世代の"歌姫"のはずだ。

 

「アタシに一発でも入れられたら新人ちゃんの勝ち。そしたら地上まで連れてってあげる」

 

 砂像が、同じく砂から取り出したであろう武器を手に取る。

 長髪の女が弓矢、短髪の女が巨大なメイス、鏡音リンとレンがどちらも手持ち式のソード&シールド。背の高い男は……その場でファイティングポーズを取った。こいつは徒手空拳らしい。

 

「『キメラ』!」

 

 私は走り出しつつ、両手から紅色の刀を生成する。

 真っ先に切りかかってきたのはリンとレン(の砂像)だった。

 手数で言えばこちらが圧倒的に不利である。激しい砂嵐の中、まばらに飛んでくる矢をかわしながら、リンレンを両手の刀でいなす。残り二人はどこにいるのかわからない。

 

 しかし、まずは飛び道具だ、と私は結論付ける。

 

 砂嵐のせいで視界がきかない。聴覚に頼るのも難しい。

 だが、それは相手も同じようだった。狙いをある程度定めて矢を撃ちこんではくるが、風の影響を受けて軌道が逸れている。

 あくまで本人ではなく砂像だからなのか、こちらの動きを加味して矢を撃つ、いわゆる「偏差撃ち」も精度が荒い。パターンを読まれないように絶え間なく動き、横や背後から切りかかってくるリンレン像を捌ければどうにか凌げる。

 ここであの大柄な二人まで出てこられたら、きっと対処できる限界を超えてしまうだろう。

 だが、こちらに対処策がない以上、そんなことを考えても無駄だ。

 何らかの理由で出来ないか、やらないかだと割り切るしかない。

 

 弓の使えない近接レンジまで踏み込んでから、長髪の女の砂像に刀を突き立てる。砂像はいともあっさりと崩れ落ちた。

 

 残るは二人。こちらは長刀の二刀流、向こうは剣闘士スタイルの片手剣と小盾。

 リーチではこちらが有利だが、相手にする以上懐に入られるリスクは付きまとう。とはいえ能力の使い過ぎによるガス欠も怖い。鎧を出すべきか? いや、出すまい。

 

 リン・レンの砂像は練度はそれなりだが、とにかく動きが速い。

 短いリーチを活かした素早い振り・突きで的確にこちらを追い込んでくる。大振りな動きをすればインファイトに持ち込まれると判断した私は、刀を一本捨てることにした。

 

「ふんッ!」

 

 リンの像めがけて右の刀を投げる。咄嗟にレンの像が前に出て小盾でカバーするが、刀にはそれなりの重量がある。受ければその重量分のノックバックは必至だ。

 レンの砂像が怯んだ一瞬の隙をつき、左の刀に両手を、前に出した足に体重をかけ、小盾の下あたりを狙うように横一文字に振り抜く。

 上下に分断された砂像は片手剣もろとも消え去った。

 ……片割れを消されても動揺する素振りひとつ見せないあたり、こいつらはやはり形を似せただけの模造品なのだろう。

 だが、あとは簡単だった。刃渡りの長さを利用して近づけないように立ち回りつつ、ガードが追い付かない速度で突きを繰り出せばいい。

 何度目かの被弾ののちに耐えられなくなったのか、リンの砂像はやがて音もなく崩壊した。

 

 嵐が止んだ。

 見慣れた薄闇、聞きなれた沈黙が私のもとへと戻ってきた。

 残る2体の砂像と、スカジャンのミクの姿もそこにあった。

 

「第二ラウンド。本気出さないと、死ぬぜ?」

 

 挑発するような言い回しとは裏腹に、彼女の目には一切の感情が見えない。

 肉食獣のようにかっ開いた瞳孔は、私ではない別の何かを見ているような気さえした。

 

 私が日本刀を構えたまま走り出すのと、短髪の女がメイスを振り抜くのが同時だった。

 短髪の男の砂像もほぼ同タイミングで駆け出す。

 

 これは明確なデメリットなのだが、『キメラ』で作り出せる武器は耐久性・切れ味ともに高くない。

『キメラ』の本領はあくまで変身能力であり、私のように物体生成能力として用いるのはいわゆる“保証外の用途”だからだ。

 なので重量のある武器との打ち合いをした場合、折れてしまう危険性があった。

 

「……!」

 

 短髪の女の砂像が全身を使って振り下ろしたメイスをかわす。

 かわしはしたが、すさまじい破壊力だった。足元には大きな跡ができ、衝撃が地面を通して私にまで伝わってくる。

 砂像は地鳴りには強いらしく、私が地震でバランスを崩すわずかな隙間を狙って、短髪の男の砂像がちまちまと攻撃を差し込んできた。

 

 短髪の女の砂像がジャイアントスイングの要領でメイスを振り回し始め、風の止んだ地底にふたたびつむじ風が巻き上がった。

 一旦こいつを放置することを思いついた私は、本体であろうスカジャンのミクを目で探す。そこに通せんぼするように現れたのが男の砂像だった。

 

 頬に容赦のない回し蹴りをもらう。さすがに痛い。

 続けざまに放たれるアッパーをすんでのところで回避し、私は一息ついた。

 やけに長い手足のリーチと四肢のどこを攻撃に使ってくるか読みづらい体術には面食らうが、しかしこちらには刀がある。一発当てればどうということはない。

 

「!? まずい……!」

 

 虫の知らせというのだろうか。ただならぬ気配を感じた私は咄嗟に足を投げ出し、尻餅をついた。

 削るような重みのメイスが頭の上を通過するのと、まだ立っていた男の砂像が一撃で破壊されるのとが同時だった。

 一瞬動きが止まったところで、片手で刀を持ち上げ、女の砂像の腹に突き立てて破壊する。残るはスカジャンのミクだけだ。

 

 スカジャンのミクは、砂像たちとは違い積極的に近づこうとはしてこない。

 周囲の砂を浮かせ、固めて、それを質量爆弾としてぶつける。そういう動きに終始しているようだった。

 

「っはぁぁぁぁぁ!」

 

 私は距離を詰めて切りかかった。だが砂で作られた壁に受け止められ失敗。

 

「どうした? 神話入りは小細工なしで殺せる相手じゃないぞ?」

「っ……!」

 

 スカジャンのミクは瞬きひとつしないまま私を凝視していた。

 とにもかくにも、あの砂の壁を突破しないことにはどうにもならない。

 ーーーだが、常時砂を出しっぱなしという訳でもない。

 彼女は、一度砂でリンゴのような物体を作ってから、それを攻撃や防御に転用する癖があるようだった。

 

「縫って歪んだ……『キメラ』!」

 

 刀を一度手の中にしまい、両手持ちの大槌に再構成する。

 狙うべきは砂のリンゴだ。彼女が砂からリンゴを形成するそのタイミングを狙う。そこにしかチャンスは生まれない。

 1個破壊。2個破壊。3個破壊。

 攻撃を通すためには、スカジャンのミクがリンゴを出したタイミングでーーー

 

「『リンゴを破壊しなければならない』?」

 

 突然、足元の砂地が急激に柔らかくなり、水のように波打ち始めた。

 中心地は当然、この私。踏みしめる足場を事実上失い、バランスを崩した私に、大槌を振ることなどできようはずもない。

 

「な……!?」

「甘いぜ、新人ちゃん」

 

 一度沈んだ体を持ち上げるように、砂地の中から質量を持った硬い砂岩が飛び出し、腹に直撃する。

 

「ごほっ……!」

「簡単な視線誘導さ。毎回コレを出してれば、林檎に何かあると相手は思い込む。頭で考えて生きてるタイプのミクほどハマる策だ。アタシはね、新人ちゃんが思ってるよりずっと経験豊富で、ずっと強いんだ。なんなら、この砂漠にある砂全部を好きなように操って一瞬で吊るし上げることだってできる。この砂漠全部を渓谷に作り変えて逃げ道を塞ぐのだって、わけはない」

 

 立ち上がれない。

 頭がくらくらする。

 地に叩きつけられ、うつ伏せに押さえられた今の私が力を振り絞ってできたのは、スカジャンのミクを首から上で見上げることだけだった。

 

「で、どうすんの? 新人ちゃん」

 

 それまでとは打って変わって煽るような気配の一切ない事務的な言い回しは、下手に馬鹿にされるよりもかえって突き刺さる感じがした。

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