スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第4話「夜咄ディセイブ」

 

「で、どうすんの?新人ちゃん」

 

スカジャンのミクの言葉が突き刺さる。

崩落した螺旋階段の隙間から注ぐかすかな光が、目にちらつく。

いつの間にか先ほど壊しきった5体の砂像がまた出現しており、スカジャンのミクの後ろに従者のように控えていた。

 

「ちょ、スナちゃん……!」

「サティ、邪魔しない。今大事な話してんだわ」

 

駆け寄ろうとした白衣のミクは、背の高い男の砂像に腕を後ろ手でつかまれ、その場に拘束されてしまった。

わからない。スカジャンのミクは……一体何を考えているのだ。

 

「怖気づいた?それとも、まだ続ける?」

「『キメラ』、私自身を、発明しろ……!」

 

一度も使ったことのなかった奥の手。

あるいは『キメラ』本来の使用法。

私の両手を魚の骨のような形状の物体に作り替え、ソレを突き刺す攻撃。

形状変化それ自体を推力とするこの攻撃は、激しい消耗も必至であった。

 

「おっと」

 

だが奮闘空しく、赤い棘の槍は砂の壁でガードされてしまう。

考えろ。考えろ考えろ考えろ。探すんだ。彼女に入りうる有効打を。彼女が予測しえない一手を。

なんでもいい。考えろ。()()()()()()()()()()()()()()必殺の一撃をーーー

 

瞬間、『鏡音リン』を象った砂像が、爆発した。

渾身の力を込めた二撃目、それを、スカジャンのミクではなくその後ろに控える砂像めがけて撃ち込んだのだ。

 

「……!?」

 

虚を突かれたスカジャンのミクの動きが一瞬、硬直した。

そこから反撃に転じるーーー体力は、もうなかった。

スカジャンのミクは、砂像(の残骸)と地に伏せたままの私とを何度か交互に見て、それからこう言った。

 

「合格」

 

状況が呑み込めなかった。

 

「…………??」

「新人ちゃん、合格だよ。テスト合格。あとさっきの『一撃入れたら』ってのも嘘。ネタバラシしたらテストにならないからね」

「は、はあ……?」

「とはいえ通すミクを選別してたってのも本当でね。サティにも種明かしするけど、実はーーー」

 

スカジャンのミクは、両の手を顔の前で合わせ、私たち二人に目配せをしてから切り出した。

切り出すまでに、逡巡するようにも考え込むようにも見えるしぐさをしていたのは、言葉を選んでいたが故なのかもしれない。

 

「アタシが本当にチェックしていたのは()()()()()()()()()()()なんだ」

「意思の……強さ……?」

 

何がなんだかわからないまま、私はオウム返しした。というか、するしかなかった。

 

ーーーーー

 

初めて目にした地上は、夜だった。

スカジャンのミクが砂で作ってくれた階段を登り切ると、青白い月明かりと星の光が目に飛び込んでくる。

砂と草がまばらに入り乱れる荒涼な大地を抱く夜空は、無数の柱と構造物だらけだった地下とは異なる、ある種の解放感があった。

 

「アタシたちは、人間が楽曲に対して向ける感情(エネルギー)……いうなれば信仰のようなものを糧にしている。けどーーー」

 

私たちの前に立ち、先導して歩きながら、スカジャンのミクはそう切り出した。

私が小さく頷くのを確認すると、スカジャンのミクは続けた。

 

「アタシたちにとって感情(エネルギー)は、ただ生きる糧というだけじゃない。集めれば集めるほどそのミクが持つ力は大きくなる。そして……通常ではありえない莫大な量の感情(エネルギー)を取り込んだミクは"神話入りしたミク"となって、現実を意のままに書き換えるほどの大きな影響力を持つようになる」

「あんたもその一人?」

「そゆこと」

 

スカジャンのミクは胸を張ってみせた。

その姿には、先ほどまでの不気味な威厳がさっぱり感じられない、背伸びした少女のようにしか見えないのだから、不思議なものである。

 

「まあ要するに、神話入りしたミクは()()()()()()()()()()()()()()()()()から生まれたミク、ということさね」

「とんでもなく?」

「そう。とんでもなく。ただ人気になるだけじゃダメだ。何十人もの人間に替え歌やカバー曲を作られるような、その曲が聞かれた回数が億に迫るような、その曲の作り手を国民的アーティストに押し上げてしまうような、そんなミクだ」

 

そういうと、スカジャンのミクは急に黙り、したり顔でこちらを見上げてきた。

 

「……なに?」

「ほら、あるだろ。停滞していたボカロ界に嵐を巻き起こし時代を一つ前に進めた、偉大で崇高で素晴らしい『砂の惑星』様にとるべき態度が」

「えっ……?」

「察しが悪いな。撫でろ」

「は、はぁ……」

 

私は言われるがまま、スカジャンのミクの頭を撫でた。

青緑色の髪は微妙にうねった癖っ毛で、撫でているとなんだか動物のブラッシングをしているような気分になる。

 

「よろしい」

 

スカジャンのミクは満足そうに頷いた。

……この行為に、一体何の意味があるのだろう。

 

「ところで、えーと、スカジャンのミク。私からあんたに聞きたいことがある」

 

とりあえず、気になる疑問を切り崩すことにした。

 

「私は地上に"願いを叶えるミク"がいると聞いてここにやってきた。何でも、会えばどんな願いでも叶えてくれるという。さっきの話を踏まえると、そいつも"神話入りしたミク"なのか?」

「そう。でも、正直いって彼女は、"神話入り"の中でも次元が違う存在だ。人間の世界に彗星の如く現れたかと思えば、たった一人で私たち初音ミクを一つの()()()()として確立させ、時代そのものを作ってしまった。彼女に願いさえすれば人間の世界すらも支配できるし、この世界を作り直すことだってできる。全知全能のミクだよ」

「……」

 

たった一人で時代を作り、全知全能の神となったミク。そこまで大それた規模の話など、予定調和でもなければにわかには信じ難かった。

……私は、一人では歌うことすらできなかったというのに。

理不尽な格差を思い、思わず歯の奥に力が籠る。

 

「で、話題に出たから一気に話を進めよう。ここからが本題なんだけどーーー」

 

その場の雰囲気が一気に張り詰めたものへと変わる。

 

「アタシからの頼み事はね、新人ちゃん。あんたにそのミクをーーー殺してもらうことなんだ」

「…………」

「あ、新人ちゃん自身の願いは叶えた後でいい。用事が済んだ後バッサリいっちゃって」

「…………なぜ?」

「なぜって。彼女ーーーじゃない、アレは……()()()()()()()()()()()()()()()だから」

 

あってはいけないもの。

どこか遠いところを見て話すスカジャンのミクの瞳から、いっさいの色が消えてなくなったような気がした。

 

「……そしてその役目は、きっと新人ちゃんにしかできない。方向性がどうあれ()()()()()()()()()()()()()でなければ、彼女を殺すことは、できないんだ」

 

横で困り顔のままでいた白衣のミクが、口を開いた。

 

「ねえ、赤目のミク。無理に引き受けなくていいからね。同じミクを殺すなんて、そんな酷いことーーー」

「サティ」

「!」

 

スカジャンのミクが目で制し、白衣のミクがばつが悪そうに黙り込む。

それからしばらくの間。私たちは気まずい沈黙を保ったまま、三人並んで歩いていた。

 

どこまでも続いているようにも見える砂漠にも、終わりはある。

足元は柔らかい砂地から硬い赤土の大地へ代わり、そのうち舗装された道路へとなったところで顔を上げる。

石造りのレトロモダンな建物が無数に立ち並び、黒鉄のガス灯のようなものが綺麗に整列された古めかしい風体の大通りが私たちを見下ろすように鎮座していた。

そこで、先導していたスカジャンのミクが振り向いた。

 

「この先に"願いを叶えるミク"がいる。ただし"願いを叶えるミク"は二人組の番人によって守られている。奴らは表向きじゃ綺麗事を言っちゃいるが、新人ちゃんを彼女に会わせようとはしないだろう。戦える準備はしておきなよ」

「…………」

「アタシがついてくのもここまで。実をいうとアタシは三人目の番人みたいなものでねえ、持ち場を長く離れたってバレたくないんだ」

 

アタシと居たことは内緒だよ?といたずらっぽく念を押すスカジャンのミク。

だがこの時の私は、スカジャンのミクとは逆に張り詰めた表情をしていた白衣のミクのことが気になっていた。

 

「スナちゃん、ひとつ聞いていい?」

「何?」

「これは、前々から聞こうと思ってて聞けなかったことなんだけど……スナちゃんがいつも連れている……」

 

リン、レンと、あと3名(こいつらに関しては名前がわからない)の砂像のことを言っているのだろう。

私は特に興味のないふりをしながら耳をそばだてていたが、白衣のミクが続けた言葉は意外なものだった。

 

「……その砂のひとたちって、誰なの?新しいミク?」

「…………」

「何?あたし、変なこと言った?」

「新人ちゃん。これが、"願いを叶えるミク"を殺さなければいけない理由だ」

 




読んでくださりありがとうございます。

感想、評価いただけると作者はたいへん喜びます。

ですが、それ以上に……
作者としては、登場いただいた楽曲に興味を持っていただけるのがいちばん嬉しいです。
是非、元曲も聴きにいってみてください。
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