スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第6話「いかないで」

 

「待て!」

 

夜空より深い黒色の()()は、ぬるり、と振り向いた。

胸元にお姫様抱っこされた白衣のミク(気絶している)がいなければ、()()が人型である事すら判別できなかったはずだ。

 

「…………」

 

()()は青い目でこちらを一瞥すると、興味をなくしたように視線を反らし、走り出そうとするがーーー

 

「待てって……言ってる、だろっ!!」

 

ーーーそうはさせない。

先ほどまで指にはめていたナックルダスターを外して蹴り飛ばし命中させると、()()は面倒くさそうに向き直り、白衣のミクをその場に降ろした。

 

月が雲を抜け、月明かりがレトロ通りに差し込むとようやくその姿があらわになった。

墨のような色をしたアシンメトリーのツインテール。縦にラインの入った漆黒のジャージ。背中に斜め掛けした大砲。そして、黒ばかりの色味の中で異彩を放つ空色の瞳と、同じ色をした左目の炎。

ミクなのかどうかすらよくわからない、異様なデザインの"初音ミク"だった。

 

「『キメラ』!」

 

悪い予感というのは大抵当たるものである。

黒ずくめのミクが背中の大砲で殴りかかってくるのと、両手に生成した二枚の盾でそれを受け止めるのとが同時だった。

盾と私の腕、両方が軋む嫌な感触がはっきり伝わってきた。

 

「…………」

 

反動で持ち上がった大砲の重量を利用して間髪入れずの回し蹴り。そこから派生する大砲の叩きつけ。衝撃でバランスを崩す私に、追い打ちでのゼロ距離砲撃。

一撃一撃がシンプルに重い。それでいてとてつもなく速い。

打撃を一発受け止めるたびに、身体が強い衝撃とともに後ろに吹っ飛びそうになる圧力を感じた。

威力と攻撃速度が全く釣り合わない冗談のような猛攻に、一周回って乾いた笑いすら出てしまいそうだ。

……どうしろっていうんだ?

 

亀裂の入った盾を捨てて距離を取ると、黒ずくめのミクはおもむろに大砲を高く掲げた。

それが空中で立体パズルのように分解・再構築され、弾倉が増設された機関砲のような形状になると、大砲だったものはこちらを向きーーー

 

「!」

 

雨あられ、という生ぬるい表現では片付かない、機銃掃射の嵐が襲いかかってきた。

咄嗟に近くの建物の窓ガラスを突き破り、柱の裏に身を隠す。

 

近づけばあのバカみたいな膂力ですり潰される。

遠距離から仕掛けようとすれば大砲(なのか機関銃なのかよくわからないが)で蜂の巣にされる。

これはもう……腹を括るしかないのだろう。

()()()()()()()()()()()()

奴に見られず、気づかれもせず、奴の意識の外から白衣のミクを助け出さなければならない。

 

耳をつんざく爆音の中、瓦礫の中をほふく前進で移動する。

あの黒ずくめのミクに襲い掛かられたとき、腕の中に白衣のミクの姿はなかった。

だとすると、彼女はどこかに置きっぱなしにされているのだろうか?

そんなことを考えながら、建物を隣へ、また隣へ、と移動していく。

 

「大丈夫!?」

「白衣のミク!?逃げ出してきたのか?」

 

何軒目かの建物の中、カウンターの裏手に、白衣のミクが隠れていた。

 

「うん、あれだけの銃声……?を鳴らされたら、誰だって起きちゃうよ」

「だろうな。私は音どころか弾が足をかすめてばっちり死にかけた」

「あ、ごめん……」

「冗談だ、気にするな。それより、奴を撒く方法を考えよう」

 

爆音が鳴り止む。

と次の瞬間、先ほどのものまでとは種類の異なる、重たい轟音が聞こえてきた。

強い地響きとともに、建物が揺れるのを感じた。

 

「建物ごと吹っ飛ばすつもりか……!」

 

無人の家屋の中から長机を見つけてきた私は、それを一番頑丈そうな柱の裏手に引きずってきた。

そして白衣のミクを呼び、二人でその下へと隠れる。柱と長机、その両方の陰になるように。

轟音。激しい地響き。轟音。痛みすら感じられるほどの振動。轟音。一瞬で消し飛ぶ隣の壁。

 

「ね、ねえ、これ大丈夫なの……!?」

「大丈夫。おそらく……だが」

 

白衣のミクが制帽のミクの言う通りの"忌まわしき同胞"であるならば、その生死に奴はこだわらないはずだ。

加えて、奴は私たちが見つからないと見るや、砲撃で建物ごと消し飛ばそうとする程度には……大雑把な性分なのだろう。

崩れた瓦礫をいちいちひっくり返してネズミを探すような真似はしない。ましてや、崩壊した家屋の残骸に踏み込んで机と柱の位置に疑問を抱くことも、たぶんない。

 

何度目かの轟音。強い閃光と、脳を直接揺すぶられるような衝撃とともに、私たちのいる建物が崩壊した。

屋根が崩れ、壁が消え、本来なら天に位置していたはずのものが一斉に降ってくる。

足の折れた長机と柱の残骸が、私たちを守る殻と隠れ蓑となる役割を果たしてくれると信じるしかない。

 

「…………」

 

その後、轟音が何度か鳴り響いたあと、あたりは再び静寂に包まれた。

5分待ち、10分待ち、30分くらい経過したであろうという頃合いを見計らって瓦礫から顔を出す。

何割かが半壊したゴーストタウンと、見慣れた星空、それ以外のものがあたりにないことを確認した私は、ようやく胸を撫でおろした。

 

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