スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第7話「命辛辛」

 

「白衣のミク。あんたに聞きたいことがある」

 

私たちはかろうじて損壊を免れた建物に二人で隠れていた。

照明用らしきスイッチもあったが手を触れず、部屋は暗いままにしておいた。

万が一あの黒ずくめのミクに居場所がバレては事だからだ。

 

「私と出会う前の、あんたの話を聞かせてほしい。『Sadistic.Music∞Factory』としての……経歴を」

「…………」

 

目の前のこのミクが"忌まわしき同胞"呼ばわりされる理由について、正直私にはピンとこなかった。

だから私は、努めて平静に聞こえるような言い回しを意識して聞いてみた。

彼女の過去の悪事を責めたてているとも、その弱みにつけ込んで虐めているとも、解釈してほしくはなかった。

 

「誰から聞いたの?」

「制帽のミクだ。あの標識を持ってた奴」

「そっか。もう代々語り継がれるまでになっちゃったんだね」

 

頭の中で疑問符を浮かべる私に、あたしとあの標識の子は一度も会ったことがなかったのよ、と彼女は補足してくれた。

 

「結論から言うとね、制帽のミクが言っていたことは本当。あたしは地下で生まれて、他のミクと同じように夢を叶えることを目指して地上へと旅をした。……その夢は、危険なものだったけど」

「……」

「『音楽工場を作って、"わたしたち"がもっとたくさん増えればきっと楽しいな、みんなが"わたしたち"をつくることに永遠に心血を注ぎ続ける世界はきっと素敵だろうな』なんて……バカなこと考えちゃってさ」

 

私は、思う。

目の前で俯いて語るこの"初音ミク"の頭の中には、強制労働という概念はなかったのだろう、と。

"音楽を作る"という行為は彼女にとって疑いの余地なく「()()()続けたいほど楽しいもの」であり、それは人間にとっても同じはず。

そういう類のものだったのだ。

 

「それを見咎められたあたしは捕まって、地下施設で暮らすことになった。君を見つけたのは、それから長い時間が経った後」

「あんた以外にも居たのか?その……"思想の危ない"ミクが」

「思想が危ない……かどうかは分からないけど、上から目をつけられた子はいたみたい。少なくとも『細菌汚染』はある時期を境に姿を消したらしいし……あ、それから『キメラ』も同じようにいなくなったみたい」

「いなくなった?」

「うん。どこに行ったか知らない?って聞きにくる子が何人かいたから、覚えてる。まあ……今は目の前にいるけどね」

「なるほど。上ってのは?」

「『ブラック★ロックシューター』と『メテオ』。スナちゃんが言ってた"二人組の番人"がその子たちよ。で、さっきの黒い子が『ブラック★ロックシューター』。とにかく、二人はあたしが捕まったのを境にネガティブな曲のミクに対して目を光らせるようになった。万が一にも人間界に被害の出るお願いがされないように、って」

「なるほど……」

 

なるほど、そんな事情が。

いつの間にか、うんうんと感心しながら聞き入ってしまっている私がいた。

……そういえば、"願いを叶えるミク"は「どんな願いでも叶えてくれる」という触れ込みだったはずだ。

どんな願いでも叶えてくれるのなら、「人間を皆殺しにしろ」とか「他のミクを消してくれ」とか、そういう物騒な願い事を持ち込んでも叶えてくれることになる。

そのような願いに対して、"願いを叶えるミク"自身は何を思うのだろうか?

 

「ありがとう、白衣のミク。最後に一つ聞かせてほしい」

 

最も重要な質問を忘れてはならない。

 

「白衣のミク。今のあんたは、自分自身の願いについて……どう思ってる?」

 

彼女は少し目を丸くしたが、息を呑んで、こう答えた。

 

「少なくとも、もう叶える気はないかな」

 

そうか。()()()()

 

ーーーーー

 

「自分で言うのも何だけど……あたし、初音ミクの間では有名人なの」

 

それを口にする白衣のミクは、たいへんばつの悪そうな顔をしていた。

やはり気分のいいものではないのだろう。

 

「だから、二人は必ずあたしを警戒する。地下牢に繋いでいたはずのミクが脱走してまた登ってきたわけだから。でも君はまだ二人にとって無名のミクだし、マークされてはいないと思う」

「無名、か……」

 

そういえば、制帽のミクは私のことを「白衣のミクのボディーガード」だと決めつけて話していた。

 

「ってことはあんたの能力も二人には筒抜けってことか」

「ううん。能力についてあの二人は知らないはず。二人の前で使ったことがないから」

「何で使わなかったんだ?」

「使えなかったの。あたしの能力は一人では使えないから」

 

その能力が使えない状態で、白衣のミクは"願いを叶えるミク"の寸前まで辿り着いている。

推測だが、その頃はそもそも能力を使う必要性自体がなかったのかもしれない。

 

「それは、私でもいいのか?」

「うん。あたし以外の誰かであれば、誰でも」

 

なるほど。警戒されているが能力は割れていない、と。

隠れて進むか、倒して進むかは、その能力が奴……『ブラック★ロックシューター』に通用するかどうかで考えた方が良さそうだ。

私と白衣のミクはしばらくの間、守護者攻略作戦について語り合った。

 

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