スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ 作:どくろのりゆき
「"願いを叶えるミク"の所在に見当はついているのか?」
「うん。道はこっちで合ってるよ。ここから先、斜めの坂に街が並ぶような感じになってて、その一番奥の高台の神社に"願いを叶えるミク"がいてね。初めて来た時、一番上まで登ったら眺めがいいだろうなあ、って思ったの」
この地上という場所にどこまでも続く、無数の星がまたたく深い深い夜空にも、もう目が慣れてしまっていた。
地下施設と同様、地上も暗く視界の悪い世界ではあるけれど、月と星空のひんやりとした光が降り注ぐこの光景は嫌いではなかった。
レトロ通りを抜け、ゆるやかな斜面に立つ街並みに差し掛かると、景色が変わった。
縦と横に線が走る規則的な構造だった先ほどとは明らかに違う。
サイズの不揃いな石畳で舗装されたゆるい階段に、どこが継ぎ目かわからない木造の家屋と瓦ぶきの屋根でできた背の低い長屋が立ち並ぶ、和風の長屋通り。
まるで、江戸時代から街が丸ごと飛ばされてきたかのようである。
そして同時にこの街は、番人たちの
「わたくしも話に混ぜてくださいますか?」
「!!!」
その"初音ミク"は唐突にそこにいた。
音も気配もなく、まるで有史以前からその場所に居たかのように、茶屋のベンチに腰をかけて座っていた。
目の中に星をかたどった特徴的な模様があり、カーテンのようにゆるいワンピースの上から金の懐中時計をネックレスのように提げた、幽霊を思わせる風体のミクだった。
彼女は私ーーーというより、白衣のミクを見るなり、若干うんざりした様子でこめかみに手を当てた。
「あなた方がここに向かっていることは知っていました。……『Sadistic.Music∞Factory』。わたくしたちがあなたを追い出すのみならず地下施設に封印して鍵までかけた理由、お忘れではないですね?」
「……赤目のミク、この子が『メテオ』だよ」
白衣のミクの耳打ちに、私は小さな首肯で返事をした。
「ううん、あたしじゃない。隣のこの子の願いを叶えにきたの」
『メテオ』……金時計のミクは、私たちふたりを交互に見やり、少し考え込む様子を見せてから、こう返した。
「ならば問わせてください。『砂の惑星』とあなた方は、何を企んでいるのですか?」
「え?」
「は……??」
「彼女には役割がありました。地下施設の管理者。そして……看守です。『Sadistic.Music∞Factory』のように問題のあるミクたちを、何があろうと絶対に地上に出さないための。彼女にも、そのことを厳命していたはずです」
「あたしたちは、何も……」
「それだけではありません。わたくしは彼女に管理者の役目を任せましたが、ある時期を境に無関係な"初音ミク"も数十人単位でいなくなり、今も戻ってきていません。となれば、その
「そんな、スナちゃんのせいだと決まったわけじゃ……!」
「だとしたら、『砂の惑星』の管理不行き届きということになりますね?」
「……」
「もういい。あんたに私達を通す気がないのはよーくわかった」
「赤目のミク……!」
「白衣のミク、下がってな」
そう。ここまではプランの想定内だ。
『砂の惑星』ことスカジャンのミクとの共謀を疑われたのは想定外だったが、元より信用してもらえるなどという甘い考えだけでここへ来てはいない。
「力ずくで通させてもらうさ……」
「そうですか。『ブラック★ロックシューター』?」
瞬間。轟音と共に、あの黒ずくめのミクが空から降ってきた。
「彼女たちを無力化します。手伝ってくれますね?」
黒ずくめのミクはやはり無言のまま小さく頷くと、大砲を構えた。
「走れ!」
白衣のミクに合図をし、私は『キメラ』で作り出したサバイバルナイフを構える。
白衣のミクは手筈通り機械扉を召喚し、それを斜め上に向けてガードの姿勢をとった。
私は真っ先に胸元に飛び込み、黒ずくめのミクをサバイバルナイフの突きで牽制した。
「ふッ!!」
流れるように突きを避けた黒ずくめのミクが、左ストレート。
頭を軽く傾けて衝撃を避け、ナイフを持つ手を引き、再度押し込む。
ナイフを横に振り抜くこともできたが、あえてそれはしなかった。
「……!」
至近距離で睨み合いつつ、私たちは高速で互いの攻撃を潰し合う応酬をする。
たった一発に詰み手となるほどの影響力があるからこそ、当たらないことを前提にした戦術が自然と組み上がる。
黒ずくめのミクは、右手に握った大砲を横に振ってきた。
私は大砲に手と全身の体重を任せて、跳び箱を飛び越える要領でそれを回避する。
超接近戦なので大砲の振り抜きも助走がつけられず、したがって威力も高いものにはならない。
続けざまに蹴り上げのようなこともしてきたが、それは一歩身体を引いて回避する。そして間髪入れずにまた距離を詰める。
……身の丈ほどもある大砲をまるで木の枝のごとく振り回すギャグのような身体能力は何度見ても苦笑するしかない。
「相変わらずとんでもないパワーだが……ゴリ押しだけでどうにかできると思うなよ……!」
前回の戦闘を踏まえて、私はあるひとつの結論を出していた。
黒ずくめのミクには私のそれを大きく凌駕するパワーと機動力がある。
しかしいくら奴といえども、人体の構造を逸脱した動きをすることはできない。
距離をとってしまえば例の大砲の餌食だが、大砲にはそれなりの長さと太さがある。
つまり大砲が使用できないほどの超接近戦に持ち込めば向こうも格闘戦で応じるほかなく、そうなれば長い得物である大砲自体も動きの邪魔になる。
また、こうして密着している私に金時計のミクが攻撃を当てようとした場合、必然的に黒ずくめのミクまで巻き込んでしまう。
金時計のミクがどう出てくるかは知らないが、彼女からの攻撃もこれである程度抑制することもできる。
突く。かわされる。素早く腕を引き次の一撃を放つ。それを絶え間なく、隙間なく繰り返す。
黒ずくめのミクも大振りの技は不利だと判断したらしく、大砲を捨て、パンチや蹴りなどで応戦してきた。
だからこちらも、身を捻り体幹をずらし、衝撃が直に来ないようのらりくらりとかわすことに徹する。
重要なのは、どのような理由であれ黒ずくめのミクと
向こうは一撃一撃が落雷のように重い。
一撃でも貰えば私は怯む。そしてその隙を使って間合いを取られてしまうだろう。
向こうの攻撃をガードで防いでしまった場合も、結果は同様だ。
だからこちらの攻撃を当てることにはあえてこだわらず、動きの牽制を目的にした攻撃軌道で黒ずくめのミクの動きを制限することに専念する。
「何もッ、喋んない、相手はッ……やりづらいなァ、やりにくくて!」
「……」
それから、リスクの話だ。
私は回避と攻撃を織り交ぜて衝撃を受け止めない立ち回りに専念しているが、それは相手が打撃攻撃を狙っている場合に限り成立する。
もし仮に黒ずくめのミクが組み技や掴み技に転じてきた場合、私はなすすべなく拘束されてしまう可能性が高い。
「!」
黒ずくめのミクの動きが一瞬止まったかと思えば、腕をネジのように差し込まれ、二の腕をものすごい力で捻られてしまった。
膂力で劣る私が敵うはずもない。
瞬く間にナイフを叩き落とされ、両の手を後ろ手に回され、拘束されてしまった。
やはり悪い予想というものは、ことごとく的中してしまうもののようだ。
「……頼んだぞ!!」
だがしかし。
私が用意しているのは
攻撃の要である白衣のミクさえ無事なら、次の段階に進むことができる。
今の私にできるのは、彼女を信じて託すことだけ。
……待てよ。
私は、今、他人を信用しているのか?生まれて初めて……
「赤目のミク!」
「ん!?あ、ああ、そのまま続けてくれ!」
白衣のミクと事前に取り込めた手筈はこうである。
まず、私が黒ずくめのミクへと特攻し、取っ組み合いの喧嘩へと持ち込む。織り込み済みと表現した通り、これ自体は白衣のミクを
やがて私か黒ずくめのミク、どちらかの旗色が悪くなるタイミングが来る。そうなれば拘束するなりノックアウトするなりで、二人の動きは止まるだろう。
そこでーーー
「『Sadistic.Music∞Factory』!」
白衣のミクの宣言に呼応して、2メートルほどの機械仕掛けの扉がその場に出現する。
歯車が噛み合うような金属音と白い冷気を漏らしながら扉が開かれ、その奥に広がる無機質な世界を覗かせていた。
それを細長い両の手で持ち上げ、白衣のミクは再び走り出す。
白衣のミクが能力『Sadistic.Music∞Factory』で召喚する機械扉は「音楽工場」という異空間に繋がっている。
ここに放り込まれると、一人分の初音ミクを制作する作業を強要され、それが終わると完成したミクとともに外に放り出される。
つまり、時間制限付きで人を拘束できる能力というわけだ。
「白衣のミク!やれ!」
私は黒ずくめのミクに後ろ手で縛られている。だが、構わない。
力の限りもがき、暴れてやる。当然、黒ずくめのミクは逃げようとする私に力を掛け、動きを封じてくる。
黒ずくめのミクの力は強いが体重そのものは重くはないようで、地面を踏み締める足の力も自然と強くなる。
と、そこで、私は唐突に体の力を抜いてやるのだ。
反対側に引っ張ろうとした力が慣性となって黒ずくめのミクの身体を後ろへ引っ張り。
そして、後ろに控えていた機械扉に肩口が触れる。
瞬間、黒ずくめのミクは魔法のように消滅した。
「やった……!」
閉じ込めた対象が音楽工場を脱出するまでの時間は、閉じ込めた相手のモチベーションや状況によってある程度変動するらしい。
白衣のミクによれば、長ければ数週間程度、最短でも1時間半はかかるとの目算だ。
黒ずくめのミクは最低90分間、行動できない。
緊張の糸が切れたらしき白衣のミクが大きく息を吐く。
だが、まだ終わりではない。
彼女にも見えるよう、空を指差した。
「まだだ。まだ金時計のミクがいる」
彼女は、体から光を放ちながら浮かんでいた。