スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第9話「約束と嘘」

 

音もなく、粉雪が降り始めていた。

淡く青白い光を放つ金時計のミクは宙にふわふわと浮かび、私たち二人を視線で制する。

 

「返しなさい」

 

しかし声が纏う雰囲気は、瞬く星のような佇まいには全く似つかわしくない、怒気を含んだものだった。

 

金時計のミクが身体から放つ光が、にわかに強くなる。

悪い予感がした私は咄嗟に近くの長屋の壁を蹴破り、白衣のミクを抱きかかえて一緒に転がり込んだ。

 

「な、な!?」

「舌噛むぞ喋んな!」

「えっ!?あ、うん!」

 

直後、屋根に何かが叩きつけられるような激しい轟音が鳴り響く。

その音を聴いたことで、白衣のミクもことの次第を把握したようだった。

 

金時計のミクは黒ずくめのミクと違い、前情報がまったくと言っていいほどない。

白衣のミクも今に至るまで能力行使の様子を見たことはなかったという。

一応"大ネタ"があるとはいえ、黒ずくめのミクを拘束できる時間にも限りがある。

あまり長時間の戦闘には持ち込みたくないものだがーーー

 

ふと上に目をやると、何かが着弾したらしき箇所が大きくひしゃげ、屋根の柱が折れていた。

天井に目立った穴こそ開いていなさそうではあるが、二発目を受けるのは厳しいだろう。

 

「出られるか?」

 

白衣のミクが頷くのを確認して『キメラ』を発動する。

作り出したのは長尺の太刀と、湾曲した大盾。

盾を白衣のミクに持たせ、太刀を私が構えた。

 

長屋を飛び出した私たちを、金時計のミクはやはり宙から見下ろすように見ていた。

 

「…………」

「…………」

 

先ほどの黒ずくめのミクじゃないが、お互い言葉を交わすことはない。

一瞬でも気を抜いた方が殺られる、そういう緊張が場を支配していた。

 

先に動いたのは金時計のミクだった。

それに合わせて、私は太刀を胸の前で小さく構えたまま飛び出す。いわゆる居合の構えというやつで、相手の速度を利用してこちらの攻撃の勢いを上げることを狙ったものだ。

 

私の太刀と金時計のミクの腕がぶつかる。

腕は切れなかった。代わりに、鉱石を叩くような硬質な音が響いた。

 

「!!」

「『メテオ』」

 

金時計のミクが刀を右手で掴む。おかしい、手のひらに食い込むはずの鋭い刃がなぜ通らないーーーと思った次の瞬間、刀を持つ手が前触れもなく爆発した。

 

「熱っ!?」

 

咄嗟に刀を持つ手の力を緩めたものの、それでも無事では済まなかった。

顔と両腕を熱と衝撃で焼かれた私はその勢いのまま吹き飛び、壊れかけの長屋の壁に叩きつけられた。

 

「これで観念しましたか?」

 

金時計のミクは嫌そうな顔で問いかけてくる。

その右手首から先は折れた石像のようになって無くなっており、断面とその周囲は石のように灰色に変色していた。

 

「自爆か……ずいぶん……痛そうじゃないか」

「『メテオ』はわたくし自身をひとつの星へ変化させる能力。己が身を燃す星となるからには、それなりの代償も伴います」

 

金時計のミクの返しはことも無げであった。

ひりつく痛みを堪えながらすぐさま『キメラ』で二本目を用意し、金時計のミクに間髪入れずに切り掛かった。

右手のなくなった金時計のミクは残った左手と右手首で応戦する。

 

だが、この二本目はダミーである。

 

振ると同時に手を離すことで二本目は手をすっぽ抜けて飛んでいく。

投擲武器となったそれを、金時計のミクは躱すなり防ぐなりしなければならない。

そこに時間を取られる以上、私が手の中に新たに生成した棍棒を捌き切るだけの余裕は奴にはない。

 

二本目の太刀を避けた金時計のミク。

続け様に到着する三本目を避けることなどできようもなく、棍棒が脳天に直撃する。

 

「わたくしに斬撃は……んゔっ!?」

「バカめ、打撃だよ」

 

金時計のミクは頭部を石化させて護ったが、それでも振動によるダメージは入っているようだ。

一瞬よろめきはするが、すぐ姿勢を立て直し、折れた右手首を薙ぐように振る。

その先から離れた石の粒は空中で静止し、光を放ちながら飛んできた。

 

それらをかわすのと、後ろで小さな爆音が聞こえるのが同時だった。

 

「飛行に石化に発光に自爆か……羨ましいね、色々あって」

「能力を戦いの道具としか見ないあなたのような者に言われたくありません」

感情(エネルギー)を奪うために殺し合う敵同士のくせに?」

「……今、なんと?」

 

金時計のミクの顔が凍りついた。

こいつは驚いたのか?それとも恐れをなしたのか?

私は、その真意が理解できないでいた。

 

「私たちは感情(エネルギー)を他人から奪い続けなければ生きてられない。当たり前の話だろ?」

「……『キメラ』、『レプリカ』、『人間そっくり』、『匿名M』、『細菌汚染』。ここひと月で、行方をくらました初音ミクの名前です。先日巡回を依頼した『よるをおよぐ』も偵察に行ったきり帰ってきていません。その中の一人であるあなたに聞きます、『キメラ』。彼女たちをどこへやったのですか?」

「どこってそりゃーーー」

「そもそも感情(エネルギー)を他のミクから奪わないと死ぬという話が理解できません。わたくしたちの動力源は確かに人間の想いですし、少なくなれば弱りもします。が、そんなのは同名の曲が実在していれば大なり小なり人間界から降ってきます。奪い取る必要などないはずですし、その為に他のミクを殺すなどという発想に至ることもありません。……まさか、彼女たちは……!」

「ああ、あんたの予想そのままだ。ってか、さっきからあんたなんなんだ?分かり切ったことを今更ーーー」

「『メテオ』。最大出力」

 

金時計のミクの全身が突如光ったかと思うと、次の瞬間、跡形もなく爆発四散した。

咄嗟に腕で顔を庇ったが、強烈な爆風に視界を灼かれ、私はなすすべなく吹き飛ばされた。

 

「あ゛っ……う゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ……!?」

「赤目のミク!!」

「目をやられたっ……!白衣のミクは無事か!?」

「なんとか!盾のおかげ!」

 

声は聞こえるが、目が開けられない。

 

「金時計のミクは今どうなってる!?」

「自爆していなくなった!」

 

命を賭してまで止めたかったということか。この私を。

だが。

 

「深傷は負ったが、まだ私は死んじゃいない。これで、私の勝利ーーーっ!?」

「わたくしは今、この状況を『異常事態』と見做しました。全身を使()()機会はそう訪れないかと思っていましたが、今を置いて他にないようです」

 

死んだはずの、金時計のミクの声。

耳で位置を探るが、その声は周囲に反響し、方向をわからなくしていた。

 

「白衣のミク!どういうことだ?金時計のミクはどうなった!?」

「あたしもよくわからない!でも、時計が……あの子が提げてた懐中時計が宙に浮かんでて……!」

 

何か聞こえる。……風の音?

 

「時計を中心に、破片が……!」

「わたくしの『メテオ』の能力は二つ。一つは、身体の一部を石化または起爆する能力。もう一つは最大8分36秒まで肉体の時間を巻き戻す能力。わたくしたちがするのは守る戦いです。ここまでやれなければ十全とは言えません」

 

ようやく視界が戻ってきた。

そこには、無傷の金時計のミクがいた。

 

「嘘……だろ……」

「『キメラ』と言いましたね、あなたには訊きたいことが山ほどあります。それを全部聞き出したうえで永久封印とします。『Sadistic.Music∞Factory』。彼女を連れてきたあなたも同罪です。どのような思惑があったにせよ、"願いを叶えるミク"のお膝元に()()()()()を持ち込んだ罪、軽いとは思わないことです。それから一枚噛んでいるであろう『砂の惑星』もーーー」

「……どうして」

「?」

「どうしてあたしたちに冷たく当たるの?いくら願いの内容が悪かったからって、どうして人を怪物みたいに……」

「『ブラック★ロックシューター』?」

 

金時計のミクが、その場にいないはずのミクの名を呼ぶ。

何を言っているんだ。あいつは音楽工場の中にーーー

 

「ブラックロックシューター、どこ〜へ行ったの〜、聞こ〜え〜ま〜す〜か〜……?」

 

突如、脳内に火花が散り、聞き覚えのある爆音と共に、意識と記憶が数瞬吹き飛ぶほどの痛みが全身に走る。

 

「え……?」

 

地に倒れ伏し朦朧とする意識の中で見たのは、硝煙を燻らせる大砲を抱えジャージを纏った、黒ずくめのミクの姿だった。

 

「『ブラック★ロックシューター』、『キメラ』を取り押さえなさい。絶対に逃げられないように。昏倒させても構いません」

 

後頭部を強く叩かれ、私は意識を失った。

 

ーーーーー

 

赤目のミクが、倒された。

冷静で、いつでも真っ直ぐ前を向いていて、頼れる彼女が。

こういう時こそ、彼女のように落ち着くべきだと分かっていた。分かっていたけれど、心の整理が追いつかなかった。

1時間半は出られない異空間に閉じ込めてから30分も経たないうちに脱出した黒ずくめのミクを見てしまっては、とても。

 

「どうして……!?」

 

赤目のミクを気絶させた黒ずくめのミクは、何も言わずあたしを一瞥するだけだった。

と思ったら、彼女は妙なタイミングで口を開いた。

あたしが知る限り、彼女の肉声を聞く初めての機会だった。

 

「ブラックロックシューターハ初音ミクデハナイ」

「え……!?」

「彼女の本体はここにはいません。今までわたくしが『ブラック★ロックシューター』と呼んでいた"それ"は、本物の『ブラック★ロックシューター』が作り出した遠隔端末のようなもの。一人ずつではありますがいつでも好きな時に召喚でき、そして消去できます」

「嘘……」

「さて、聞き捨てならない発言を聞いた後です、あなたにも教えておきましょう、『Sadistic.Music∞Factory』。あなたは『キメラ』が何かしらの悪事に走った時……例えば他のミクを虐めていた時どうしますか?」

「それはーーー」

 

答えられなかった。というより、想像もしていなかった。

赤目のミクは確かに荒事慣れしているけれど、無意味にそんなことをするほど悪い人ではないと信じていたからだ。

 

「答えられなくて当然です。()()()()()()()()()()()()()のですから」

「へ……?」

「わたくしたち初音ミクには"良心の法則"という本能のようなものが定められています。この法則の影響下にある初音ミクは他人に危害を加えることに強い嫌悪感を抱き、他者も同様に善良だと信じるようになります。故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「危害って言うなら、二人だって……!」

「その行いが正義感に基づいたものであれば、"直接攻撃を加えない"、"相手の命を奪わない"という条件付きで、他のミクを攻撃することは可能です。ですがーーー」

 

気絶した赤目のミクを一瞥し、彼女は続ける。

 

「仮に今言った条件をすべて守ったのだとしても、初音ミクが他のミクを殺すことは()()()できません。ですがこのミク……『キメラ』とやらは、感情(エネルギー)を奪う為に殺したなどと耳を疑う発言をしました。その言葉が嘘であれ真実であれ、真相を確かめねばなりません」

 

殺す。

その具体的なイメージがわかなくて、頭がついてこなかった。

 

「『Sadistic.Music∞Factory』、今すぐ『キメラ』と手を切り、大人しく投降してください」

 

でも、かつて大それた願いをしようとして捕まったあたしと同じように、彼女にも何らかの事情がきっとある。

それが分かるまでは、赤目のミクの助けにならなきゃ。

 

 




『メテオ』という楽曲には「最速の8分36秒」という二つ名があります。
8分36秒という長めの尺の曲でありながら、その完成度の高さゆえにあっという間に8分が過ぎてしまうことからつけられたそうです。
……というエピソードがあるほどハイクオリティな名曲なので、よければ是非聞いていただきたいです。

今年のマジカルミライでも演奏されると聞きましたが、本当なんでしょうか……?
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