勝利の女神:ゴッデンドンデンドンデンドン 作:白あん
お爺さんは昔、軍にいたらしい。
顔にある大きな傷は、若い頃に無茶してできたそうだ。
『昔の知り合い』だという初老のおじさんに妙に畏まられながら厳格に話すお爺さんは、いつもの好々爺然とした表情とは打って変わって、少し怖い表情をしていた。
「野乃ちゃんは、おばあさんと一緒に居なさい。儂は軍の方に向かわねばならなくなった」
「軍って………おじいちゃん、何しに行くんですか? ちゃんと帰ってこれるんですか?」
「…………帰ってくるとも。お土産をいっぱい買ってくるから、安心して待ってなさい」
不安そうにしてるのが伝わってしまったらしい。お爺さんは少しだけいつもの茶目っ気の有る表情に戻ると、軍服を着たおじさんと一緒にハイテクな軍の車に乗っていってしまった。
☆
俺の生活は変わってしまった。
元居た居心地のいい田舎からお爺さんが『用意した』という、都会にある住居に移ることになってしまったのだ。
俺は問題ない。ここでのバイトもなんとかやっていけている。
だが、問題はおばあさんだ。お爺さんが滅多に帰らなくなってしまって不安がっている。俺が代わりに元気づけなければ、とワガママという体で引っ越し先の都市にある観光名所を連れまわしたり、それをお爺さんにビデオメッセージで色々と送ったりしてなんとかやっていけている。お爺さんは今、軍の方で『軌道エレベーター』と呼ばれる場所についての対応をしているらしい。
都市─────AIで管理されているという、元の世界よりも不自由ないその場所での生活は、確かに楽と言えば楽なのだが、どうにも既に自然に慣れていた俺としては、少し………慣れない場所だった。
「確かに農作業、かなり楽だったもんなあ」
薄々感じていたが、この世界は元の世界よりもかなり科学技術が進んでいたらしい。
道理で農作物の育ちや収穫が妙に速かったり大量だったりしていたわけだ。農作業の大部分も農作業用のロボットくんたちが担ってくれていたし、俺が手伝っていたのは彼らが出来ない部分だけ。
それでも、ここのような緑の少ない場所だと、元の田舎が恋しく感じる。あそこはもう、俺にとって第二の故郷になっていた。
今は2031年の5月。
お爺さんがいる場所では何やら『宇宙人』との戦争が激化しており、危なくなってきているらしい。
元の田舎も今は帰れなくなっており、まだ此処には戦火が届いていないが、じきに危なくなる空気を感じている。
「戦争、かあ」
一般人である俺にやれることは何もない。
精々がお爺さんが帰ってくる家をおばあさんと一緒に守っていくぐらいのことで、後はもう、現実でそういうことが起こっているんだな、と受け止めることしかできない。
宇宙人は次第に色々な場所に現れているようで、人類はそいつらに押され気味らしい。
らしい、というのはまだ実物を自分の目で確かめたわけではないからだろうか。正直、そんなフィクションド真ん中みたいな要素を持ってこられても、あんまり現実味がないというか。………まあ、異世界で身体が女の子になっている時点で今さらではあるか。
─────しかし、そこから更にニ年後。
俺はこの世界がいよいよフィクションではないかと思うような出来事に遭遇することになる。
☆
「美少女が宇宙人と戦っているとか、どんな世界だよここ」
お爺さんが所属して色々しているという元は軍の組織─────人類連合軍こと、人類軍は対宇宙人用の最強の兵器を開発したらしい。
その名も、『ニケ』。
一年ほど前に最初に開発されたという新たな人類の希望は、なんと人型─────というか、美少女の姿をしていた。どんなアニメの世界だよ。いや、アニメじゃねえよ現実だよ。
ゴッデス、と呼ばれる特殊部隊を創設し、宇宙人たちとの戦争に劇的な変化を齎したという彼女たちは、元は人間らしい。そう、彼女たちは人類の平和と自由のために戦う改造人間なのである。どこのニチアサだよ。
今は三人らしいが、これからも増える予定らしい。
この世界は何かの創作物があったりするのだろうか。
…………いや、この世界は紛れもなく現実だ。
どうか早く平和に戻って、お爺さんが早く帰ってこれますように。
☆
「ニケの適性検査、ですか?」
最近、手慣れてきたバイトの帰りに人類軍の一員だという黒服を着た男性に話しかけられた。
お爺さんから話は少し聞いていたが、どうやら俺も任意ではあるが、対象者らしい。
お爺さんはこのことを知っているんだろうか? 少し過保護なところがあるあの人は、こういう事を俺たち身内の人間から遠ざけようとしているフシがある。このことを知られたら大騒ぎしそうだ。
少し不信感を抱きつつも、それ以上にニチアサ的ヒーローになれるかもしれないというワクワクと、俺が活躍すればお爺さんも早く帰ってこれるんじゃないかという考えが、俺に検査を受ける、という選択を選ばせた。
☆
3か月後。
俺はニケの適性検査に受からなかった。
………というと、すこし語弊がある。
正確に言うと、受ける受けない以前の事態になってしまった。
俺、実は元から人間ではなかったらしい。
どういうことかというと、本格的な適性検査を受ける前の精密検査で『殆ど人間のような、ニケのような何か』であることが判明したのである。ニケのような何かってなんだよ。
というのも、「分類的にはニケっぽいが、正直よくわからない。というか、5年前には居たってどういうこと??」だの混乱した様子で研究員の人に教えてもらった。
俺がこの世界でこの身体で目覚めたのは5年前。
つまり、表向き世界初のニケである『リリーバイス』が開発される以前─────最低でも、4年前から居た謎存在であることが判明した。何それ知らん、こわ………。
暫く慌ただしく研究員が来るなり、研究所にたらい回しにされるなり、お爺さんと再開して話したりもしたが、今は一つの研究所で定住している。
なんでも、リリーバイスもそうなのだが、俺の身体もよくわからない技術が使われているようで、所々理解不能な構造をしていると伝えられた。
可能性があるとすれば、どうやらどこかの非公開の研究施設が宇宙人─────今はラプチャーと呼ばれている存在が進行してくる以前にニケの基礎系統の技術を開発するまでの間の試作品として開発していたプロトタイプのようなものが俺で、それが脱走していたのではないかと結論付けられた。
実際、ニケの開発は一年前────ラプチャーが現れてすぐに開発に成功していたし、リリーバイス以前のニケの前身のような何かがあってもそれほど違和感は無い。それほどまでに異様な早さだった。
ただ、ニケの誕生についてはかなり秘匿性が高い研究施設で行われてきたらしく、俺の調査をしていた研究員も予測の域を出ないと諦めていた。
ともあれ。
俺はニケのような何か(リリーバイスのプロトタイプ?)と推測され、注目を浴びることとなった。
☆
「貴女が噂の私の先輩ね?」
「げ、本物だ」
「いい挨拶ね、怒っていいかしら」
注目を浴びた俺は、今戦場で最も活躍中の史上初のニケに会うこととなった。なんでも、お偉いさんが一度本当かどうか確かめてほしいと彼女に依頼したそうで、研究所の近場に来たタイミングで会うこととなったのである。
「えーっと………リリーバイスさん、ですよね。私が先輩って………ただの推測ですよね、それ?」
「でも、私と同じくニケのような何かで、私よりもかなり前に生まれていたのは事実でしょ?」
「う、それは………そうかもしれませんけど」
「それに─────写真で見た時も思ったけど、『瞳』が私と同じで…………青い瞳の中に、星のような十字架がある。
─────うん、ノノ先輩ね。よろしく」
「うえええ!? 判断ポイントそこ!? いや、そうかもしれないけど!!?」
慌てる、というかびっくりするしかない俺にくすり、と笑う彼女。
確かに、彼女の言うように俺の瞳は彼女と同じ構造をしている。
厳密に言えば、俺が『黒い十字架』なのに対して、彼女は『白い十字架』。
類似性の余りの高さが、胡乱な妄言と切り捨てることが出来なくなってしまっていた。
「でも、私、リリーバイスさんみたいな力ないですよ? あっ、耐久性ならかなり自信ありますけど」
「それは開発段階の試作機とかなら仕方ないんじゃない? あと、耐久性も確かめていいかしら?」
「え?」
そんなことを言いながら、握手を求めるリリーバイスさん。
目をぱちくりさせながら手を握り返すと、すごい握力で握り返された。あだだだだだだ!?
「手、潰す気か!?」
「うん、潰す気で本気で握ったんだけど、ほんとに潰れてない。想像以上かな、これは」
「へ?」
突如グラップラーな超握力を披露されたかと思えば、本気で驚かれていた。驚きたいのはこっちだよ。
「ノノ先輩─────とりあえず、ゴッデスに来てみないかしら?」
「……………はい???」
─────拝啓、お爺さんおばあさん。
俺こと野乃は、爆速でゴッデス入りしました。なんで????
続くのか??