覚悟の話
インスタントコーヒーとか言う泥水に食卓塩を一振りして胃の腑に叩き込む。
うーん、口当たりまろやかなのに雑味しかなくて酸味が暴力的。苦味は後味に面倒臭さをのこす。
クッソマズイ。
初心に帰ろうじゃあないか。
「店主、230で」
バッティングセンターで一人、バットを振りながら思う。
二学期も中盤に指しかかろうとしていた。
あの日ハッスプーに言われたとおりだ。
我ながら恥ずかしい限りだが、忘れていたのだろう。
原作だとか、最初の頃は考えていなかった。
世界が違うのだから、自由に生きようとした。
司書を目指したのは下心からだが、積極的に世界と関わりを持とうとは思わなかった。
それでいいではないか。
人と違う事が何だ。
あたりまえだろう。
キャラクターは本の中にしかいない。
目の前にいるのは人間で、自分も人間だ。
母も父も、僕も。
変わらないのだ。
で、あればこそ。
「よっと」
キンッと。
あたりはするがファール。
後ろへ飛ぶ。
「はっ!俺の勝ちだなクソガキ!」
「まだです!」
悩め悩めと先人は言う。
大いに悩んでやろうじゃないか。
そのために覚悟を決めてやろう。
「ここっだ!」
キィンッ!
パゴ。
チープなファンファーレ。
「んな!?」
「240は次にとっておきます。それでは店主、また」
「次が最後だクソガキャ!」
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「花菱、僕が一度死んだ人間であるといったらどうする?」
「どうもしねえよ」
公園に呼び出す。
一番の親友。
「ふざけていないですよ。笑う場面ではないです」
「見りゃわかる」
「……僕はここではないどこかで生まれて、成人して、死にました」
「ですがここに生きています」
「おう」
「君が思っているほど綺麗な人間ではないですし、仲間思いではないかもしれません」
「そいつは違うってw」
「茶化すな。僕にとって世界は物語でした」
「物語を読んでいる時分、君を含めて世界中モブだらけです」
「先日会った束ちゃんが、メインキャラクターでしたね」
「名脇役くらいにして欲しいな!俺は!」
「本来なら、僕もモブです」
「しかしここで生まれた際、色々と強化してもらいました」
「二次創作でありますよね」
「俺が間違えて殺したからお前転生しろ」
「似たようなものです」
「でも、頑張ろうがなにをしようがモブでした」
「所詮宝の持ち腐れでした」
違う。そういうことを言いたいんじゃない。
どう言えばいいんだ?
どうしたらいい。
「ですからモブで「違うって」し、た?」
「お前がどう思ってるかじゃねぇ!」
「俺が!お前を!信じてる!」
「最高の友達だろうが!」
「幼馴染だろうが!」
「それ、は…まあ」
「それでいいだろ!」
「俺はお前が大好きだぜ!」
「親友として誇りに思う!」
「泣くな!笑え!」
「泣いてません」
「泣いてんじゃねぇか!」
「泣いてません!」
鼻がつんとしていない。
声も潤んでいない。
泣いていない。
「だぁ!もう!」
「なんですか!」
叫んで走り出す花菱。
じゃない!?
コッチにかけてくる。
「俺もお前も泣いてるしいい加減俺のことも見やがれキィイック!」
「はぁ!?」
受けとめら、れない?
あ。ムリだ、これ。
そのまま芝生の上に倒れこむ。
大爆笑する花菱を叩く。
「いって!痛ぇ!」
「なにするんですか!」
「どうでもいいだろ」
「何が!」
「モブだとか主人公だとかそういう話はいいだろ」
「どうして」
「物語に入り込みました!じゃあ何する!?」
「生きようぜ!前見て!」
「俺たちはまだまだ若造だぜ!」
「先のことは後回しにしようぜ!」
「俺たちの戦いはまだまだこれからだ!」
「最終回ですか?」
「これからなんだよ!」
「何も考えていないんですね」
「上手く言えないけど九重!大好きだぜ!」
「気持ち悪い!」
なんだこいつ。
なんだ、こいつ!
僕がどれだけ悩んでいたと思ってるんだ。
そんな簡単に片付けてたまるか。
「気持ち悪いとは何だ!親友だろうが!」
「親友ではありますがとても気持ちが悪い!」
「だから!あぁ、もう。く、うはははははははははは」
「バッカ!ほんとに、クク!バカだお前!ククク!ヒイック!クハハハハ!」
二人して、笑い転げた。
プロレス技かけて。
ジャイアントスイングして。
ガキのように遊び転げた。
なんだ、こいつ。
最高じゃないか。
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あのあと。
花菱に洗いざらい話したら。
頭を撫でられた。
全力で振り払わせてもらったが。
優しい顔で見んなバカ。
今は、母さんと父さんが目の前にいる。
花菱に話していない部分もあるにはあった。
それこそ、こんどこそ。
全部話した。
一度目の生まれの事。
サラリーマンにまでなった事。
死んでしまった事。
黒い板のこと。
生まれなおした今生の事。
5歳の事。
ガイメタル、龍の事。
司書を目指し始めた理由。
もしかしたら母さんの家系の能力が、僕の願いのせいである事。
記憶力の事。
体が頑丈な事。
世界が小説であった事。
母さんや父さんが、名前の無いキャラクターであった事。
僕がイレギュラーであった事。
束ちゃんがメインキャラである事も。
関係ないと思われる事も、どれだけ小さな事も話した。
「それで、安寿さんはどうしたいの?」
「安寿が考えているこれからを、教えてくれ」
「僕は」
「僕は司書を目指します」
「それこそ、世界だ何だということでなく」
「18年分以上の思いがあるんです」
「誰にも邪魔させない」
「僕自身諦めたくない」
「これは僕の人生だ」
「黒い板がどうした」
「転生したからなんだ」
「母さんと、父さんの子供に生まれて」
「大切な友達が出来て」
「そこに来て束ちゃんでしたが」
「年下の可愛い女の子以外のなにものですか」
「もう知らない」
「投げます」
「ぶん投げます」
「全力投球です」
「僕が生きるこの世界は、僕の人生で進む世界は、僕だけのものだ!」
「僕は僕のやりたいようにします!原作小説登場人物環境その他何もかも全部!」
「関係ない!です!」
「泣くな、男だろ」
「鉄さんも泣いているでしょう?」
「ごめんなさい」
「どうした安寿。なにかしたのか?」
「黙っていて、ごめんなさい」
「話してくれたじゃない」
「それでも、ごめんなさい……」
「こっちにおいで」
「ほら、安寿さん」
「ごめんなさい、ごめん…なさ……ふぐ、ぅぅぅぅ……」
ガキじゃないといってはいたが。
案外、僕はガキだった。
母さんと父さんに抱きしめられて。
泣きじゃくった。
次の日。
泣きすぎて頭が痛い。
それでも。
すっきりとした目覚めだった。
僕はもう迷わない。
久しぶりにシリアスだ。
これで書き溜めは終了。
投稿ペースが落ちるよ。
それでも読んでくれたら嬉しいなぁ。