転生司書だけどのんびり生きて行こうと思う。   作:欲望貯金箱

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食べ物で豹変する九重安寿くん。
息子の姿が変わっても平常運転の九重安奈さん。


母と僕の話

 唐突で悪いが、僕は男の娘ではない。

 童顔で痩せ型に見え身長は低くかわいらしい顔をしていると言われた事はあるが。

 本当に分からないのはこの状況だ。

 テスト期間が終了し、花菱の人生は終了したかは今だ分からないが約束をしてしまったのでナンパに繰り出した次第である。50回振られたらバッティングセンターだったはずなのだが。

 

「おい!お前イイ女連れてるじゃねえか!俺に貸せよ」

 

「え?これ俺のこと?」

 

「むしろ俺女とかはじめて見ましたよ。がんばってください。僕逃げるので」

 

 助けてくれないのか、という視線で花菱は僕を見ていた。かなりの美人に話しかけられた喜びはドコへやら、完全にヘタレ男である。『お前バーガー食ってて良いよ、俺行って来るぜ』などとのたまい何年前に消えたのであろうか弐千円札を押し付けた挙句30分もしないうちに帰ってきて同じ席に座り断りもなく僕のナゲットをパクつき始めたときはしばき倒してくれようかと思っていたのに。

 

「聞いてんのかフォルァ!」

 

「僕は男なので聞いてはいけないですね」

 

「!?いや、でも……うん、行ける行ける!俺はバイだ!」

 

「やったな九重!お前に春が来たぞ」

 

「ハンッ……二人ともとりあえずコチラの目を見なさい実は知り合いだったとか言うオチはないですよね」

 

 息が合いすぎてるだろ。どういうことだ。

 

「こんな粗末なもの食ってないで俺と一緒にいいことしようぜ?」

 

 今、この女はなんと言った?

 粗末なもの、だと?

 うん、とりあえず殴ろう。

 このような状況に巻き込んでくれた花菱も一緒に殴りつけよう。

 そして土下座させなければ気がすま……

 

「捨てちまえってこんなチャチなもの」

 

 もっていたオメガバーガー(バーガーショップの企画モノでデカく厚く食いづらい)をゴミ箱へシュートされた。まだ半分しか食ってなかったんだぞ、おい。

 

「ヒッ!ちょ、ちょっと急用思い出したから俺かえるわ!二人でヨロシクやっててくれ!」

 

「おう!帰れ帰れ!……笑顔もかわいいな、名前はなんていうんだ?」

 

「冥土の土産に教えて差し上げましょう。九重安寿と申します」

 

「へぇ!テンシサマみてぇな名前だな!……ん、メイド?」

 

「ザッケンナゴルァ!!!!!!」

 

 食べ物を粗末にするな、このアマァ!

 生きて返すと思うなよ!

 

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 女尊男卑の風潮が浸透しきっていないとは言ったが、肩身が狭いとも言った。

 営業妨害と暴力事件で学校に連絡された。

 だが学校も飲食店で僕が騒動を起こすことに関しては慣れたものであったが、今回は女性に手を上げてしまっているのだ。ヤンキーみたいな見た目と違ってさめざめと泣く少女()に「食材と農家と店員と全てのものに土下座して謝れ!あやまれぇ!」と襟首掴んでガックンガックン振り回したのだから当然といえば当然か、自宅謹慎と相成ったわけである。

 そして今。

 僕は背筋も凍るような笑顔の母の前で綺麗な土下座を披露していた。

 

「安寿さん」

 

「はい」

 

「女の子に手を上げましたね?」

 

「はい」

 

「お母さんとの約束は覚えていますか?」

 

「どのようなことがあってもみだりに異性に手を上げてはいけません」

 

「ではどうして手を上げたのですか?」

 

「半分しか食べてないハンバーガーをゴミ箱に捨てられたからです」

 

「ならしょうがないですね」

 

 割と食べ物については同じ思考なのだろうか、僕と母は。

 

「でも言葉で正す、諭すという行為も選択肢にはあったと思います。いきなり女の子に手を上げるだなんて、お母さんは悲しいです」

 

「はい」

 

「充分に反省しているようですので、この話はおしまいにしましょう。ただしお父さんにも報告しますのであしからず」

 

「わかりました」

 

 物理的にも関係的にも頭の上がらない母だが、ことこの関係が決定的になったのは前世の記憶を思い出した夏、七五参で母の実家である北海道のドが付く田舎に行った時の事であった。

 

 曾祖母にお前はこれを握り締めて生まれてきたんだよ、と手渡されたのは緑色の鉱石。

 記憶が解禁されたことによりソレがガイメタルであると理解した僕は、よくある転生ヒャッハー思考な主人公達と同じようにした。

 そう、ヒャッハーしちゃったのである。

 忘れていたのか意図的に記憶から消されていたのかは定かではないが、ガイメタルの登場する作品の中で可能な装甲を纏ったり武器にして構えたりすることなく、変身したのである。

 エクストリームフォームと呼ばれる状態に。

 ここでそもガイストクラッシャーとはどういった作品なのかを説明しよう。

 《ガイスト》と呼ばれる金属生命体から得る《ガイメタル》を加工して作られた鎧《ガイストギア》を纏って戦う少年達を描いたアクションゲームだ。

 ガイメタルとはそれぞれガイストの能力が封じられた鉱石であり、希少金属である。

 バランスの取れた格闘型の鎧《メイルフォーム》、様々な武装に変化する攻撃特化の《ウェポンフォーム》、最後にガイスト本来の姿になって戦う切札《エクストリームフォーム》といった武装を使い敵ガイストを屠って行くゲームで、やりこみ要素が終わると作業ゲーになりやすい。

 僕は前世であるミッションのタイムを縮めることに躍起になっていた記憶がある。

 そのミッションに登場する大型ガイストのガイメタルが、それだった。

 名をアステカ・ククルカン。やりこみ要素の一つである五大龍ガイストの一種、風属性のガイストであった。

 もちろん格好つけて「変…身!」などとのたまい、蓋を開けてみれば身の丈ゆうに3mを超え、翼まで含めれば8mはありそうな二足歩行の龍になったのだから堪らない。

 森に遊びに行くといってすっ飛んでいった子供がいる方角にそんなものが現れたのだから、大人陣のほうは阿鼻叫喚であっただろうと思われた。

 しかし、母は何を思ったのかその龍に向かって「晩ご飯までには帰ってきなさい!」と叫んだのだという。

 その声が聞こえたようには感じなかったのだが、変身が解けた。タイミング的にはジャストだったらしい。

 心が体に引き摺られていたのだろう。

 恐ろしい体験をしたと同時にわけのわからない錯乱状態になって泣きべそを掻きながらダッシュで戻ってきた僕に対して「まだ遊んでいてもいいんですよ?」という母は凄いと正直に思ったものだ。

 曾祖母も何気に龍が僕であることを理解していたらしく、どうやら遺伝のようなものである。

 隔世遺伝だな。

 

 ともかくも、かの出来事は五歳のときであり母の愛はすばらしいと思うと同時に、どのような姿であってもこの母には逆らえないと本能的に悟ったのである。

 ちなみに、この歳から毎回母の実家に帰ると変身をせがまれる様になるのだが。

 制御できるようになるため、という建前の元。

 地方紙の端っこに写真が載るなんとも恥ずかしい事態になっているのだった。




もしハンバーガーが踏まれていたら拾って食べる悪食の安寿くん。
もし安寿の姿が戻らなかったら実家住まいにしようと思っていた安奈さん。
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