ああ、なんて日だ。
とは思うまい。
僕の所為だというのはわかっていますから。
文章をでっちあげるのだけはうまいんですよ、と書いた報告書に始末書に反省文。
それはもう馬車馬のように働くだけの簡単なお仕事とばかりのコーヒーサーバーと化し。
そして今、剣道場にいる。
何故でしょうね、と笑うことしかできないものの。
目の前には木刀を構えた織斑千冬ちゃん。
胴着もちゃんと着てはいるけれど防具は一切付けていない。
武蔵型本赤樫の素振り用木刀を持つ彼女から発せられる殺気は尋常では無く。
どうして自分はスポーツチャンバラの短刀なんか持っているのだろうね。
まあどう考えても先日のアリーナ不法侵入の所為だけれども!
ええ、わかっています。大丈夫です。
記憶違いではないです。
すごくいい笑顔で「生徒たちにこの学園にいる職員が普通でないところをお見せしましょう。いいですね?拒否権はありませんとも」と言われれば是非もない。
剣道部の生徒たちにオマケで箒ちゃん一夏くん。
そして何故いる生徒会長ちゃん。
でも悪いですね防犯ブザーは鳴らした。
そうこう考えているうちに本日何度目かの
ごめん、遅い。
いや遅くは無いんだけど、僕にとっては普通の速さです。
普通の定義が乱れまくっていそうですがしょうがない。
これは右にちょっとずれて短刀の峰でコンってそうだスポチャンのだよ行かねえじゃん。
仕方なく押すようにそらすと最低限の動作で袈裟に切り返してくる。
こっちはバックステップ。油断するとそのまま連撃されるのは打ち合いで気が付いた。
そろそろ本気出さないと千冬ちゃんが……いや、怒ってはいないのか。
真剣勝負ではないものの、面白いものが見られるぞと煽ったからね彼女。
……真剣でもないのにこの殺気はいかがなものかと。
こっちは胴着以外面だけ被っているが振り下ろされたらとてもじゃないが返す自信が無いよ。
だから避けて逸らして防いでいるだけ。
うーん、次の攻撃を最後にしようか。
次の一撃を
ところで、ですが。
ジャストガードあるいはジャストスライドというものをご存じでしょうか。
ゲームにおける戦闘システムの話です。
そう、相手の攻撃を受けた瞬間にガードまたは回避行動をとると特殊な動きが出来るアレです。
ガードに必要なスタミナを消費しなくなったり、ダメージが入らなかったり。
回避直後の硬直が無くなったり、専用武器による追加攻撃ができたり。
急に何の話だ、と思いますでしょう?
実はこれ、出来るんですよ。
というのも僕の持っているガイメタルは大型ガイストへの
前提条件としてガイメタルを肌身離さず持っている場合に限り、出来るんですよ。ジャストスライド。
どうして防御の方が出来ないのかといえばおそらくですがゲージ技としての効能の所為。
ゲージ消費する技のゲージを、ジャスト入力で回復させる効能だったのですが、そんなもの現実には存在しません。そのほかに体力を削らない無敵バリアでもあったわけですが。
その分スライド回避は回避とダッシュ行動、そしてジャスト入力でいきなり背後をとれるというバカらしくなるほどの優遇設定で場合によっては相手を封殺できる意味の分からなさ加減でした。
そして必殺技のゲージと変身するためのゲージを回復させる手段という面。
もちろんゲーム時代の話。
では今の僕ではどうでしょう。
ジャストガードはゲージが現実に無いので出来ません。
必殺技はそもそも鎧モードになれないのでゲージ回復しません。
変身なんて自由にできるのでそこも関係ないですね。
そしてジャストスライドですが。これは明確にダッシュと回避行動を同時に行う、現実にもありうる状態なわけです。
現実にありうる状態をどうやってモノリス的なアレがガイメタルから僕に転写したのかは定かではありませんが、
この張りつめた空気感の中でそれがキチンと出来るかどうかは僕自身の精神状態にかかっていますけれども。
苦笑するように目を細めれば、千冬ちゃんの構えが変わった。
どこからどうみても暮桜の基本フォームなんですがそれは。
ごめんなさいとは言えませんね。何が悪いわけで無し。
わたしがみるなといったのになぜみたー(棒)な試合映像から察するにここから来るのは篠ノ之流剣術と我流を合わせた五連撃に終の二撃を加えた必殺剣。
一気に距離を詰めて零落白夜で落とす定石。
ゆえに。
踏み込む足の距離を同じく。
こちらも歩を進め。
相手と等間隔になるように立ち。
常に正面をとる。
ほら、簡単に連撃の最初を上段からの切降ろしに変えた。
そうすれば僕はそれをただ体幹の中心で受け止め。
次の瞬間には彼女の背後にいる。
なんてことはない。
そういうシステムの話。
「はいおしまい」
とんっ。
千冬ちゃんの頭頂部を軽くたたいた。
戦闘経験なんて無い普通の一般人が。
道具と外部から埋め合わせた能力、そしてありあわせの運だけで勝つのは意外と簡単なんですよ?
なにせ教員ではなく、ただの図書館司書。
いろいろ超越しちゃった人外たちと一緒にしないでいただきたい。