本年もよろしくお願いいたします。
「おや」
五月に差し掛かかろうという、夜とも夕方ともつかぬ時間。
今夜は泊りかな、なんて考えつつも許可取ってクロエちゃんに連絡して車庫にバイクを移すことを考えると億劫だなとも思ってしまって内心苦笑する。
ステンレス製の背負子と、二代の台車を抱えて歩く。
そんな時に見知った雰囲気を持つ少女の後姿を見つけるアリーナゲート付近。
小柄な体なれどもモデルとして映えそうな少女。
夜風にたなびくツーテールの髪を金の髪留めでまとめている。
ちなみに髪型の呼び方、これはツーテール派なだけで。
ツインテールって言うと生まれたてはエビに近い味のする古代怪獣が思い浮かんでしまうんですよ。
知ってます?アイツ水の中なら無双状態になるんです。
なんで陸に上がって登場するんでしょうかね……。
そんなことはどうでもよいですが。
「鈴音さん」
「ひゃわぁ!……って、なんでいるんですか?ここ、女子高ですけど」
「君ね、僕の職業は司書ですよ?」
あー……そういやそんな学部に居たわねーと抜かす彼女こそ、セカンド幼馴染でおなじみの鳳鈴音さんである。
そしてアレですね。
「なるほど、ハスモですか」
「セクハラで訴えていいですか?」
「努力の証といわずにそこらへんぶっこんで来るのは変わりませんか。しかしまあ他はお変わりなく。元気そうで何よりです」
「安寿さんも変わらないですねー、特にし、ん、ちょ、う、が!」
「知ってますか。僕、薄いIS装甲くらいなら余裕で防げるんですよ」
「まっさか!そんな千冬さんじゃあるまいし」
君の中で千冬ちゃんはどんな存在になってるんですか。
ともかく。
彼女の体型の、本当に一部分だけが激変していた。
主に胸部装甲が。
トランジスタグラマーって言うんでしたっけ。栄養配分どうなっているのやら。
身長は低く、モデルのようなスレンダーにアンバランスな胸元。
どこの成人向けDVDかな?
体に不釣り合いなボストンバックを肩にかけ手にはくしゃくしゃの紙片。
これもまた所謂一つのバタフライエフェクトなのだろうか。
ふむん。
「あ、そうだ安寿さん。本校舎一階総合事務受付ってわかります?」
「すぐ近くです、ご案内いたしましょうお嬢様」
「ふふん、良きにはからえ……って合ってる?」
大丈夫ですよ。
まあ本校舎の裏手にあるのがアリーナなのですぐについてしまうんですが。
本当にすぐ近くですからね。
そのうえで一夏くんの着替える男子更衣室が割と遠いのはどうにかならないものか。
せめて職員室付近の男性職員更衣室に入れてあげればいいのに。
本校舎に着くと早速事務受付の方に向かってしまう鈴音さんとはここでお別れ。
受付にはもう一つの入り口があります。
ぶっちゃけ搬入口なんですがね。
今回も結構な量のリクエストがあり、それを選別するのに時間がかかったとはいえ。
それでも二冊ずつ注文すればそれなりの量になってしまう書籍の箱。
大型80リットルサイズのそれは15個。
背負子に3個載せれば台車2代で充分ですね。
台車に6個ずつ載っていると動かないとお思いですね。
大丈夫です。動くんですよ。
こう、右の足を右の台車に乗せ、左の足を左の台車に乗せ。
小刻みな足の動きと微量なククルカンからのブーストで今、発進!
かろ、かろかろかろ、かろかろかろかろ……。
かろかろかろかろかろかろガッガガガガガガガガガガガガガガッ!
エンジン付いてるんじゃないかというほどの勢いで自(分の能力で)走(りだす)を開始。
「ちょ!?九重さんまたそれやってる!やめて下さいって言ったじゃないですか!」
「ごめんなさい事務員さん。始末書は提出しますね」
僕、文章をでっちあげるのはうまいんですよ。
次の始末書もうまく書けるでしょう。
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案の定次の日に持ち越して始末書を書く。
とはいえ本当に形だけの始末書なんですよね、これ。
昨日は学校側から図書館側の搬入口へ運んだだけで帰りましたし。
家に付いたら8時半ですよ。先に食べちゃってくださいって言ったのにクロエちゃん海外ドラマ見ながら待ってたみたいですし。
束ちゃんの教育なのか、それとも別のところからなのかは不明ですがなるべく誰かと一緒に食べるようにしているみたいで。
それは子供の教育に良いとされる、愛のある食卓というもので。
そういった意味では彼女は健やかに成長しているようです。
でも最近の植物性石けんは添加物が無いとはいえ食べられませんよ。ケチャップかければ良いわけでもありません。
ネコも食べちゃいけません。束ちゃんに僕が怒られるから。
それはドラマの中だけの話です。
はい書き終わりました。まあ今日中に提出すればいい書類なので万が一コーヒーがこぼれてもいいような位置に置いておきましょう。
……僕は覚えてられるから良いですけどこうやって置き忘れる人って多いんだろうな。
いつも通りのお昼時、ちょっと前のようなざわめきが券売機のあたりであるようですが今回は華麗にスルー。
今日はですね、食堂を切り盛りするお姉さま方のご厚意により6月から新しく導入する特別メニューを先にいただくことができるんですよ。
その名もズヴァリ!メガ盛り定食!
なお飲み物は別に買うべきですが今回はセルフサービスの白湯で。
……うん、僕の所為でしかないですね。
影響され過ぎじゃないですかね国立専門教育機関。
大丈夫ですか。
まあ大丈夫じゃないのは見て分かる通りですよ。
おお、このボリュームよ。
「ほら、司書さん。熱いから気を付けな」
「これは何とも見事なカレーうどん。どんぶりではなくすり鉢ですか」
「盆じゃ乗らないからねぇ。どうしても味噌汁やお漬物とは別に持って行かなくちゃならないところが課題だわ」
「なんと!流石は定食と銘打つだけの事はありますね」
「当然さね。もちろん味の方も感想貰うからね」
「ありがとうございます」
すり鉢を右手に、味噌汁や白米や漬物やサラダの乗った盆を左手に。
開いてる席は……。
あー、うん。
二か所しかない。
主に生徒会長ちゃんが良い笑顔で手を振る席。
そして一夏くんハーレム建設予定地であろう席。
……これはミスった。
間違えたな、うん。
おとなしく司書室で非常食でも突いていればよかったなどと後悔しながら。
僕はとりあえず歩き出した。
ハスモ:雪蛤
やわらかくトロトロとした食感の中国伝統の健康食材。
中国林蛙の卵管でもあります。
美肌美容、滋養強壮、女性ホルモンの分泌を助ける働きがあります。
また、今回の話の中では鳳鈴音が安寿の振った話によってセクハラ発言を摘発する内容を話しましたが、それもそのはず。
このハスモという食材は豊胸に効果のある食べ物なんです。
クロエの見ていた海外ドラマ:アルフ
UFOごと落下してきた宇宙人が居候となるというアメリカのコメディドラマ。
作者が子供のころNHKで放送されていて、最近DVDをやっとそろえたのでブチ込んだ次第。
そもNHKでやっていたアメリカン・ホームコメディ・ドラマの中でも群を抜いて子供受けのしない見た目の宇宙人がバカ笑いをする姿は子供心に衝撃だったのを覚えている。
クロエが見ていたのは安寿がもっているDVDのやつ。
ブラック通り越してダークでウィットに富んだジョークが縦横無尽に飛び交うホームコメディを子供たちの見る時間帯に流していた衝撃を忘れない。
なお最終話に納得できない人はザ・ファイナルを見るべき(ステマ。