毒の記憶、君のかたち   作:ストスト

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某サイトで書いてもらった擬人化イラストが癖に刺さったので描きました



ユグレ湿原にて

ポケットモンスター、縮めてポケモン。

この星の不思議な不思議な生き物。 空に、海に、森に、街に、世界中の至る所でその姿を見ることができる────というのは、今更語るまでもない常識だ。

 

それでも、彼らについて分からないことはまだまだ多い。それこそ星の数にも等しいくらいに。

例えばポケモンの種類。昔昔、オーキド博士という偉い学者が「ポケモンは全部で150種類いる‼」という論文を出した。

けれど、それから堰を切ったかのように世界各地で新種のポケモンの発見報告が相次いで、ポケモンの種類は300に至り、やがて500を超え……今では1000を超えるポケモンがいるんじゃないか、という論文が出ているらしい。

恐らく今後も増えていくのだろう彼らポケモンは、本当はどれほどの種類がいるのだろうか────。

 

 

「……いないなあ」

 

そんな取り留めのないことを考えながら、繁茂する長草に紛れるように腹這いの体勢で双眼鏡を覗き込んでいた青年は溜息混じりに目当てのポケモンを探していた。

 

点在する木々以外には果てなく広がる沼地と1mは優に越える背丈の草むら。 

ここはウオーク地方の南東部、ユグレ湿原。

同じような環境の場所にはサファリ興行でも有名なシンオウ地方のノモセ大湿原があるが、このユグレ湿原はそのノモセ大湿原の倍以上の面積がある。普通に遭難の危険がある広さなのだ。

そしてユグレ湿原には、ノモセ大湿原にはない()()がある。

 

「ベトー」

 

「ベタァ〜」

 

「おっ……なんだ、ベトベターくんか」

 

湿原の沼に混じって蠢く紫色の塊に慌てて双眼鏡を向けるが、目当てのポケモンであるベトベトンではない────正確にはその進化前であることに────青年は肩を落としつつも、こちらに気づいたベトベター達に持ってきていたオレンのみを投げ渡した。

 

「もしキミらの親御さんか兄弟姉妹にベトベトンがいたら、連れてきてくれないかなー‼そうしたらきのみをまたあげるよー」

 

「ベトォ」

 

「ベトべ〜」

 

─────かつてのユグレ湿原は、毒で汚染されていた。

今では閉鎖されているが、付近にあった鉱山の採掘作業の過程で発生した鉱毒がユグレ湿原に流出し、深刻な環境破壊を齎していたのだ。

 

その汚染された湿原の環境を回復させたのが、彼らベトベター達の存在だ。

『ヘドロや汚水などの毒物を主食にする』という生態故に嫌われがちなベトベターであるが、このユグレ湿原においては染み付いていた鉱毒を食べることで浄化し、自然環境を回復させる救世主となったのである。

 

投げられてきたオレンのみを巧みにヘドロの身体で受け止めたり器用に口でキャッチして食べていたベトベター達は、青年の言葉を理解してか知らずか、のそのそと湿原の奥へ消えていった。

その背中を見送りながら青年はぼそりと独りごちる。

 

「……こういう時、ポケモンと話が出来たらなあ」

 

ポケモン達の言葉が分かったら。あるいはポケモンと話が出来るなら……どれだけ色んなことが出来るだろう。どこまでわかり合えるのだろう。

そんな夢みたいなことは─────()()()以外には無理だろう。

 

「ノ〜ウ〜ル〜?」

 

「わひっ!?」

 

不意に上から降ってきた声と共に伸びてきた腕が青年の……ノウルの頭を鷲掴みにし、万力の如くギリギリと締め付ける。

アイアンクローを喰らいながらノウルが唯一動かせる目で腕の先を辿っていくと、こちらを見下ろしている怜悧さを感じさせる青く透き通る髪色をした少女と目が合った。

 

「『野生のポケモンに無闇に餌付けしません』ってこの間約束したわよね?なんでまたやってる訳?ねえ?」

 

「いだだだだだだ‼ごめんクローネ、考え事しててつい‼」

 

クローネと呼ばれたその少女は、少々奇抜な格好をしていた。

まず目を引くのが引き締まった肢体のラインをくっきりと浮き上がらせるほどにピッチリとした青いボディスーツ。

所々に黒いラインの入ったそのスーツの胸元にはこれまた鮮やかな、赤くて丸いクッションのようなアクセサリーが付いていて……それは心なしか、クローネの怒りに応じてごぼごぼと音を立てて膨らみつつある。

 

溜息を吐いたクローネがフリーになっている右手をノウルの眼前に突き出すと、その中指の爪がシュカッ‼と音を立てて何倍にも伸びた。

その先端からは半透明の緑色の雫が滴っていて、それが人体に優しい類のものではないことは誰の目にも明らかだった。

 

「ちょっ、クローネ‼流石に(それ)は勘弁……‼」

 

「アンタ、この間も同じことヤミカラスにやって群れにタカられたの忘れた訳!?アイツら追っ払うのにどれだけ苦労したか……」

 

「ごめん、本当に悪かったからっ‼」

 

「……今度やらかしたら、()()だからね?」

 

「はい……」

 

一通り説教して反省したと判断したか、クローネは伸ばした爪を元に戻してアイアンクローを解いてノウルの側にしゃがみ込む。

 

「で?見つかったの、ベトベトンは?そろそろ粘って6時間くらいするわけだけど」

 

「いや、それがまだ……皆、鉱山跡に引っ込んじゃってるみたいで」

 

「だからこの間『多めに取っておかないの』って聞いたじゃないノウル……それかゲットしておけば苦労しないで済んだのに」

 

「まがりなりにもベトベトンの身体の一部なんだ、多く取って弱らせたら不味いよ」

 

ノウルの職業はポケモンの研究者である。とはいえ「駆け出し」の「助手見習い」という二重の枕詞が付くが。

そんな彼の専攻研究テーマは「ポケモンと毒」だ。

 

ポケモンが生み出す毒。その種類、影響、あるいは利用法。

ノウル自身、まだ新人の身であるために明確な研究目標は定まっていないが、どんな道を進む予定であれフィールドワークは欠かせない。

自然こそが最大の研究試料であり、新たな発見と未知なる真実達をその内に隠した宝庫なのだから。

 

「ゲットするにしても、飼育環境と自然環境じゃ体組織内の毒の組成が変わる可能性があるし……いや待てよ、環境の違いによる毒性の違いについて論文を書いてみるのも……」

 

「……この研究バカときたら、もう……ん?」

 

やはりどくづき(オシオキ)するべきか、とクローネが考え直し始めながら天を仰ぐと、ふと遠くの空で騒がしげに翼をはためかせてこちらに飛んでくる影に気付く。

 

「ゴー‼ゴルッ、ゴルルーッ‼」

 

「ノウル、ナハトが呼んでる」

 

「ナハトが?……あ、ホントだ」

 

それは、ノウルがフィールドワークの為に連れてきていた手持ちのポケモン……ノウルが「ナハト」と名付けたゴルバットだ。

物静かな性格の彼女にしては珍しく騒がしい様子だな、と思いながら青年が見ていると、ナハトはある程度の高さまで降りてきてからぐるぐると旋回し始めた。

 

「あそこまでナハトが焦るなんて……滅多にないわ」

「嫌な予感がする」

 

一抹の不安を胸に、ノウルは身体の下に敷いていた板の上に片膝立ちになると、もう片方の脚で泥を掻くようにしてゴルバットが旋回する場所まで進んでいく。

 

ユグレ湿原のような、泥質の地形のフィールドワーでは徒歩による移動方法はとても非効率だ。

水分を多量に含んだ柔らかい地面は足を踏み入れれば容易に沈み、泥に手足を取られてしまうからである。

そのため、湿原にフィールドワークに行く多くのポケモン研究者はこうしたスキー板を持参するのが鉄則となったいる。

板なら柔らかい地面にかかる圧力が分散して沈みにくくなり、泥を蹴ることで徒歩よりずっと早く移動できる。

 

「さて、ここらへんだよな……と……」

 

真上でゴルバットが旋回している位置まで進んできたノウルは辺りを見回して────絶句した。

 

「ノウル?ナハトが騒いでた原因、何か掴め……?」

 

やや遅れて青年を追ってきたクローネもまた、その存在を認めて立ち止まる。

それは────前方のタイヤがぬかるみに嵌り、立ち往生したジープ車両。前輪は半分程沈み込んでおり、他の車両か、あるいはかくとうタイプのポケモンでもいなければ引っ張り出すのは厳しいだろう。

 

「ここの辺り、普通の地面と泥地の境が曖昧だから車だと嵌りやすいのよね……旅行者のかしら、乗り捨てていくなんて」 

 

「違う」 

 

「え」

 

「旅行者じゃない」

 

後部の荷台を漁っていたノウルが冷たい声で言った。

襤褸の外套で覆われていた荷台の中には、長い縄に網、そしてケージ型の鉄檻……。

 

密猟者(ハンター)だ……‼」

 

グレッグル、スコルピ、モジャンボ。

湿原地帯にしかいない希少なポケモン、というものは多々存在する。

ポケモンハンター達はそうしたポケモン達を密猟し、高値でマニア達に売りつける手法で荒稼ぎする者が多い。

が、このユグレ湿原においてポケモンハンター達の標的となるのは───ベトベターやベトベトンである。

 

何故か? その理由は、彼らが毒物を摂取する過程で排出される不純物……特に純金の結晶である「きんのたま」にある。

通常、ベトベター達が消化できないような金成分が蓄積し、きんのたまとなるペースは非常に遅い。自然界にある金成分がとても微小であるためだ。

しかしながらこのユグレ湿原はかつて鉱毒で汚染されていた。鉱山より鉱毒に混じって流出した大量の、そして微細な鉱物成分をベトベター達は食べているため、他の地域に比べ希少な鉱石を排出しやすい。

ハンター達はそれを狙って密猟をしているのだ。

 

「だとしたら、不味いじゃない!?近くのレンジャーに連絡しないと……」

 

「あ、ああそっか‼えっと、番号は……」

 

慌てて懐からポケギアを取り出し、ポケモンレンジャーへの緊急ダイアルに繋げるノウル。

 

「ゴル‼ゴルバーッ‼」

 

「何よナハト、今対応してるから……は!?ノウル‼ちょっと、これ見て‼」

「はい、荷台に檻が……運転者?近くにはいない様子で……え、何?」

 

不意のタイミングもあり意図せずして呑気そうな声を出してしまったノウルの頭をクローネは引っ掴んで無理矢理左に向かせる。

 

「ひだぎゃ!?」

 

カイロプラクティックめいた力技に潰れたような悲鳴と首元からメキャッと異音が響いたが必要な犠牲だ。

そうして向かされた、ジープ車両の方。

湿地に嵌った前輪の側にしっかりと刻まれた足跡の存在に、そこで漸くノウルも気付くことが出来た。

 

その足跡は明らかにノウルやクローネのものではない。

ノウルはソリで来ていて足跡は付かないし、件の足跡は『()()()ジープの方を向いている』。

ノウルについてきたクローネはジープに近づいているわけだから、『()()()()()ジープの方を向いていなければ』ならない。

つまりこの今見つけた足跡は……『ジープから湿地帯に移動した』という証なのだ。

 

「ハンターの奴ら、諦めて逃げたんじゃない……むしろ奥地に入ってったのね……‼」

 

「……不味い……それはとんでもなく不味いよ……‼」

 

その事実に顔色を蒼白にしたのはノウルである。

 

「この辺りはともかく、奥の方……特にユグレ鉱山跡なんてジムバッジ所有者でもないと侵入禁止の危険な場所だ‼下手に鉱山内のポケモンなんか刺激した日には……ナハト、一旦戻って‼」

 

「ゴルゥ‼」

 

手早くナハトをボールに戻し懐にしまうと、ノウルは縋るような目でクローネのアクアマリン色の瞳を見た。

 

「クローネ、跡を辿っていけるかな?」

 

「……舐めないで頂戴。ここはあたしの生まれ故郷、それくらい余裕に決まってるわ」

 

()()()()を解く。

クローネがそう言った瞬間、彼女の全身が視界を焼くほどの眩い光に包まれ────光が止んだ直後、そこには少女の姿はなく、代わりに一匹のドクロッグが立っていた。

 

「……クロッ」

 

親指で自分の背中を何度も指し示すドクロッグ。

『背中に乗れ』。

そう言っていることはノウルにも明らかに読み取れた。

 

「ありがとう、()()()()

 

己の相棒の頭を撫でると、ノウルはややしっとりとした背中に体を預ける。

しっかりと自分のトレーナーを乗せたことを確認すると、ドクロッグ……クローネは、足跡を辿ってぬかるんだ湿地をまるで跳ねるように大股で走り出したのだった。




独自設定
・ギジンカ
特定の条件を満たしたポケモンは人間に近い形態「ギジンカフォルム」となれる。ギジンカはポケモン自身の意思で元の姿である「オリジンフォルム」と任意で切り替えられる。
ギジンカフォルムを得たポケモンはその殆どが強力な個体であるため、一種のステータスとしても扱われることが多い。
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