毒の記憶、君のかたち   作:ストスト

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今回は二人目のギジンカポケモンが出ます
元のポケモンは……さて、誰でしょうかねえ


ユグレ鉱山 ①

 どくづきポケモン、ドクロッグ。

 湿地帯を主な生息域とするこのポケモンは泥濘の上でも平地と変わらない機動力で獲物を襲うことが出来る。

 秘訣はその足の形状だ。

彼らの足は幅広でベッタリと地面に密着するような構造となっている。

足の接地面積を大きくすることで地面にかかる圧力をかんじき*1のように分散させ深く沈み込むことを防ぎ、これによってドクロッグはぬかるみの多い湿地で逃げる獲物に素早く襲いかかることを可能としているのだ。

 

 その脚を活かし、ノウルを背中に乗せたクローネは泥濘をものともせずにユグレ湿原を疾駆する。

 

「グ、グ、グ、グッ‼」

 

「うわっ!? ちょ、ちょっクロー、クローネ‼もう少しだけスピードを……」 

 

「……グゥ」

 

「……ごめんなさい」

 

 ゆっくりめにして欲しいと言いかけ、クローネに胡乱な目で見られたノウルは言葉を飲み込んで揺さぶられるままになる。

やがてクローネは湿地帯を抜け、その先にある竪穴の辺りまで来て漸く停まってノウルを地面に降ろすと、クローネは大きく伸びをしながら光に包まれ────ポケモンの姿(オリジンフォルム)から人間の姿(ギジンカフォルム)へカタチを変え、竪穴に(わだかま)る闇を睨み据えた。

 

「……この中に足跡が続いてる。きっと中に入ったのね」

 

 ギジンカ。

それは未だ謎の多いポケモンの生態でも、殊更に未知に包まれたもの。

ポケモンが、ヒトのカタチとコトバを得る現象である。

 多くのポケモン学者がこの現象を研究しているが、その発生条件は未だ特定されていない。

ただ一つ分かっているのは、この現象の報告が段々とではあるが増えてきている、ということだけだ。

 

「多分、この穴は野生のポケモンが掘って出来たものだね。……間違いなくユグレ鉱山に繋がってるはずだ」

 

 ジムバッジ所有者でなければ侵入は禁止されているユグレ鉱山跡。

それは単純に内部に住処を構えるポケモンのレベルが高いという理由もあるが────この鉱山そのものが危険であるという理由もある。

かつて、ユグレ鉱山には多くの炭鉱夫が採掘に従事し、それらが齎す富と利益によって周囲の村落を街となる程に大いに賑わせた。

 

 だが、15年前。鉱山内の大規模落盤事故、そして鉱毒による自然破壊、自然破壊によるポケモンの凶暴化。

これらが連鎖的に起こった結果少なくない数の人間が命を落とし、多くの人々がユグレから離れていった。

 その大破壊の契機たるユグレ鉱山内には、未だその火種が埋まっているであろうという懸念から10年以上の月日が経った今でも尚、厳しい入山規制が敷かれているのだ。

 

「確かにベトベトンとか、珍しいポケモンの多くは鉱山内に住んでいるけど……」

 

「ここまで追ってきたけどほっといた方が良いんじゃない? そもそもあいつらが悪いんだしさ。救助なり確保なり、そういうのはレンジャーに任せ『ウワァァァァアアアアアアーッ‼‼‼‼』ッ!」

 

 クローネの声を遮るように洞窟内から聞こえてきたのは、恐怖と苦痛に塗れた、絞り出すような男の悲鳴。

その声が鉱山内の危険や、入山規制のことを考えていたノウルの思考を真っ白に塗り替え、その身を竪穴の中に飛び込ませるには余りにも充分すぎた。

 

「ッ、馬鹿っ‼勝手に一人で飛び込んで‼」

 

 一拍遅れてノウルの行動に気付いたクローネが後を追う。

彼女以外にもノウルは今ナハト(ゴルバット)と他にもう一匹を手持ちに入れているが、ボールに入れたままの状態で不用意に踏み込むのはそれこそ自殺行為だ。

 

『ウイィィィィィィーッ‼‼』

「うわっ!?」

 

 案の定、いきなり飛び込んできたノウルに驚いたヤミラミが彼の方に飛び出してきて─────。

 

「シィッ‼」

『ウィギャアッ!?』

 

 鋭い爪でノウルを斬り裂くより早く、青年の背後から飛んできた拳が顔に直撃し吹き飛ばされた。

当然、拳を放ったのはクローネだ。

不意の一撃をもらったヤミラミは元より臆病な性格だったのか、悲鳴を上げながら洞窟の奥へと跳ねるようにして逃げ去っていく。

 

「気をつけなさいよ。今回は守れたけど、先に行かないで」

「ごめん‼でもそんなこと言ってる場合じゃなグエエーッ!?」

「だから先に行くな‼アタシが先‼いいわね‼」

 

 焦る気持ちから先行しようとする主の襟首をクローネは掴んで引き止め、かくとうタイプ特有の膂力でしっかりと首根っこを押さえて引きずるようにして進んでいく。

 些か……いやかなり情けない有様ではあるが、人間のノウルよりも感覚の鋭敏なクローネならば危険な道は進まない上、先程のような野生ポケモンの襲撃に対応出来る。

 

「……空気が張り詰めてるね」

「分かるの? いつもポヤーっとしてるアンタでも」

 

 ポケモン達が長い時間をかけて掘り進めてきた天然の小道をズルズルと荷物じみて引きずられながら、ノウルはクローネの方に顔を向ける。

 

「さっき襲ってきたヤミラミ。彼らは本来臆病な性格だし、もっと深層の場所に住んでるはずなんだ。そっちの方がまだ採掘されてない宝石(エサ)が多いからね」

 

 そのヤミラミが、入って数分ほどの浅い場所へ出てきている。

それはつまるところ─────。

 

「奥で何かがあって、ここまで追い出されてきたってこと?」

「ポケモンハンターという異物が入り込んでいるんだ。それに加えて僕らもね。何が起きても不思議じゃない」

 

 やがて曲がりくねる迷路状の道を抜け、ノウルとクローネは開けた空間に出た。

半分程朽ちた木組みやトロッコの残骸が散らばる、かつては盛んな採掘場所となっていたであろう大空洞。

 そのすり鉢状の中心部に、果たしてハンターらしき黒っぽい服装の男がへたり込んでいた。

しかしながら、その場にいたのは男だけではない。

 

「ひ……ひ、ひィ……」

「シィー……ッ‼シャアァ……‼」

 

 震えて動けない男の周囲を音もなく這いずりながら、威圧的に腹部の不気味な模様を見せつけるのは、コブラポケモンのアーボック。

模様を見せつけているのは、獲物であろう男が逃げないよう怯え竦ませる為であり─────。

 

「バギャ……グルルル……‼」

 

 そしてそれ以上に、同じく哀れな獲物を狩りに来たバンギラスに餌を取られまいという威嚇でもあった。

 

「……あいつらを出し抜いて上手く逃げられるかな?」

「……キツイわね」

 

 ダメ元の質問に対するクローネの返答は、ノウルも分かりきったものだった。

アーボックもバンギラスも獲物に対する執着に関してはかなり高い部類のポケモンだ。

 それだけでも厄介なのに、バンギラスに関してはクローネよりも明らかに強さ(レベル)が上だ。

彼らの間で腰砕けになって動けそうにない男を連れて逃げ切るには、どうしても彼らを置き去りにできるほどの速さが足りない。

 

「バンギラスはアタシがやる。他の奴らじゃ相性が悪いし」

「じゃあ俺とナハトがあの人を運び出すよ。アーボックは……」

「『アイツ』に任せた方が良いわね……癪だけど

 

 じり、じり、と男を中心に円弧を描くように対峙していたアーボックとバンギラスの動きが不意に止まった。

─────そして、一瞬の静は動へ。

 

「バギャアアアアアアッ‼」

「シャアァァァーッ‼」

「ヒ、ヒィイイイイッ‼」

 

 痺れを切らした両者が、多少の流血も厭わない覚悟で同時に獲物へと襲いかかる。 

二匹のターゲットである男はただ怯えて身体を丸め、今正に訪れようとしている死の結末を待つことしか出来ない。

 

「クローネ‼『けたぐり』‼」

「バギャッ!?」

 

 開けた鉱山の中で、ノウルの叫び声が反響した。

瞬間、弾けるような快音と共にバンギラスの片脚が蹴り飛ばされ、バランスを崩した巨体がハンターに向かって倒れ込む。

 ノウルの指示と同時に飛び出したクローネが破竹の勢いでバンギラスに肉薄、そのまますれ違うようにしてけたぐりで転ばせたのだ。

 

「ゴルーッ‼」

「う、わぁああああ!?」

 

 バンギラスの倒れ込む先で動けずに震えていた男の肩をゴルバットのナハトが掴み、間一髪圧死から彼を救い出しつつノウルの元へ運んでいく。

 だが当然これを看過しない者がいる。誰からの妨害も受けていないアーボックだ。

彼はしなやかな体捌きで倒れ込むバンギラスをぬるりと避けると、矢のように逃げるゴルバットの背後から獲物を取り返さんとばかりに飛びかかり────。

 

「『つじぎり』‼」

「シャガァッ!?」

 

 不意に横合いから飛び出てきた小柄な影が放った一撃に強かに顔を打たれ、地面へと叩き落とされた。

 

「────きひっ、きひっ♫クローネだけじゃあ手に余るって訳ですわね、マスター♪」

 

 くるりと宙空で身を翻し、音もなく着地したその影は鈴を転がすようなあどけない声音で笑いながらその姿を衆目の前に曝け出した。

 この場には些か相応しくない、紫色を基調としたロングドレス。それを纏うのは、若い……いや幼いと呼んでも差支えない見た目の少女である。

前髪を水平に一直線(ぱっつんヘアー)にしているのもその印象に拍車をかけているが、殊更に目を引くのはやはり────ドレスの裾からその凶悪な雰囲気と存在感を隠しきれていない、サソリの如き長大な尻尾だろう。

 

「単純にアンタは露払い要員よ、クソチビ(ピアニー)

「ええ、ええ?それは勿論重々理解しておりますわ。そのお胸に相応しくカターいディフェンスを期待してますわよ、絶壁女(クローネ)

 

 ピアニー、と呼ばれた少女とクローネはにこやかに毒を交えながら軽口を交わし合う。

当然ながら彼女達の本心は敵愾心と対抗心でバチバチ。心なしか周囲の空気がぜったいれいど級に冷え込んでいく幻覚すら感じられる程だ。

 

「「うふふふふ」」

「ちょっと二人とも、喧嘩は後で!?今はそれどころじゃ……‼」

「バッギャアアアアアアアアッ‼‼‼‼」

 

 手持ち二名のキャットファイトを止めようとしたノウルの声を掻き消すに留まらず、大気を震わせぴしぴしと周囲の小石が跳ね回るほどの咆哮が響き渡る。

 その犯人は、先程クローネに転がされた野生のバンギラスだ。

獲物を目の前にして邪魔をされた上、クローネに転ばされた屈辱と強者としてのプライドを著しく傷つけられたことも相まって、完全に我を忘れて怒り狂っていた。

 

「シィイイイイ……‼」

 

 そして不意の一撃を食らってダウンしていたアーボックも体勢を立て直し、獲物の追走から乱入者であるピアニーの排除へと完全にターゲットを切り替えた。

 

「……確かに、私が露払いとして呼ばれる訳ですわねぇ?」

「そっちは任せたわよピアニー。正直な所、気を配ってられない」

「きひっ♫ええ。そちらにも、なによりマスターにも一切手は出させませんことよ」

 

 互いに背中を預けるようにしてそれぞれの相手と対峙するクローネとピアニー。

そんな彼女達を取り囲むようにして、バンギラスとアーボックが立ち塞がった。

 

「ノウル‼そういう訳だからとっとと行きなさい‼こっちは何とかするから‼」

「……分かった‼」

 

 数瞬の沈黙を経て、ノウルは踵を返してナハトが運んでいった男の後を追うように大空洞を出る直前、二人を振り返る。

 彼は分かっていた。あのレベル帯の野生ポケモンを相手にして、クローネやピアニーが周りへの流れ弾まで気にしていられるほどの余裕は持てないことに。

むしろあの場に留まった方が、二人が自由に動くための枷になってしまうだろう。

 

「……ちゃんと、戻ってこいよ‼」

 

 今の自分ができる唯一のこと、精一杯の応援。

その言葉に対し、クローネとピアニーは言葉を返さず───サムズアップで応える。

心配無用、と言わんばかりに。

 

 それ以上の問答は、互いに無用だった。

ノウルは出口を目指し、走り出す。自分の無事のため、殿を務める二人の為。

 同時に、必ず帰ってくる二人を出口で待つために。

 

*1
雪や泥の上など不安定な地面を歩くための民具。靴・わらじなどの下に着用する。




ノウルの現在手持ち
クローネ(ドクロッグ)

・けたぐり ・インファイト
・どくづき ・バレットパンチ

ナハト(ゴルバット)

・エアカッター ・でんこうせっか
・エアスラッシュ ・どくどくのキバ

ピアニー(???) 

・つじぎり ・クロスポイズン
・どくびし ・じしん

ピアニーの種族は読者の皆様にはもうお分かりでしょうが、あえてぼかさせて頂きます
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