大惨事聖杯戦争 with リリス   作:箱イベ・10周年備えなし

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1話

 

 

 

 ──私を呼んだのは貴方ですか? マスター。

 

 

 

 暇つぶしの筈だった。

 

 

 

 永い時をどうにか持て余さないための些細な享楽のはずだった。はずだったのに──

 

 

 あまりの存在感に眩暈がした。

 

 

 極東で起こる、聖杯戦争という名の眉唾物の儀式。その三代目。

 

 

 

 英霊という超越存在をサーヴァントなる型に嵌めて、聖杯を獲る為に使役する。なんて。少しでも疑心のあるものなら近寄らないだろう胡散臭さだ。

 

 

 

 何故、根源への可能性を他者へ譲らんとするのか。そもそも聖杯の仕組みとはなんぞや。英霊という存在を甘く見ていないか、そんな技術が自由に研究できるのなら冠位だって目指せるではないか。

 

 

 

 魔術関係者はおおよそ、それを極東の筋書きだけはご大層な代物と決めつけた。

 

 

 

 多くの者が途轍もなく汚臭のする蠱毒であると断定するのは早かった。まぁそれでもいいかと思った。聖杯なんて聖遺物があるのかと聖堂教会の輩が動き出すのを見て自分も動いた。魔術協会は極東のペテンだと捨て置いたが。

 

 

 

 自分も、聖杯なんてどうでもいい。

 

 

 

 ──サーヴァント。

 

 

 

 そんな存在を呼び出すことは一貫性を持って出来るならば。それ程の奇跡を起こせるのならば、その神秘に触れたい。暇つぶしにはなるだろうと考えた。

 

 

 

 既に魔術刻印は子孫に継承している。自分は既に出涸らしだ。失くすものなど何もない。そう思って参加した。

 

 

 

 

 

 …………だというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 ──暗い、夜の様な女だった。

 

 

 

 蠍の尾、狼の爪。爪先から首元に至るまで衣装は扇状的で。性を誘う見た目をしている。

 

 

 

 立派な角。確かな魔性の証。金の瞳は人ならざる魅力を醸し出し、体には幾つか刺青が見える。

 

 

 

 そして、決定的な雄々しい翼。梟の化身。一般的な悪魔らしさを感じさせるサキュバスの要素。

 

 

 

 

 

 バカでもわかる。これは、コレは……!?

 

 

 

「聖書の悪魔、リリス……ッ!? いや、古代メソポタミアの悪霊リリートゥだと!! ふざけるな、お遊びで出していい限度を超えているぞ!! 聖杯、なんぞとほざきよって!! 魔女の夜宴サバトなんかに引き込まれたか!!」

 

 

 

 この儀式のセーフティを過信していた。

 

 

 

 魔術儀式において扱うモノというのは大抵の場合、魔術師の技量の範疇を越えないものだ。

 

 生贄魔術に態々ゾウの遺体を使う奴はいない。単純に手間だから。リーズナブルな値段で価値あるものを手に入れることを目的とするのだ。手に入りやすく、切り捨てやすいものを扱うに決まっている。

 

 

 

 それを英霊で扱うというのなら信仰の方向性などで決まると予想していた。

 

 

 

 例えば野心家の英霊。聖杯という願望器に目が眩んだ存在。聖杯という目的が明瞭だ。それ故に話し合いが通じないという最悪を回避することができる。

 

 

 

 例えば善性の英霊。誰かを守る、誰かを救うといった存在だ。自身の命を犠牲に他者を守るというのは立派だ。だがそれ故に魔術師にとって付け入る隙が大きい。

 

 

 

 例えば悲嘆の英霊。人間の咎を押し付けられた英霊。非業の英霊の多くは自身の在り方を悔やみ、だからこそ願いを叶えてくれる聖杯に火にたかる虫のように集まる。その生い立ち故に思考は盲目的であり酷く害しやすいだろう。

 

 

 

 例えば空想の英霊。人の幻想から生まれた存在だ。存在としてはあまりにも希薄な自己と能力を持つだろうことが想像できる。力量としては不安なれど、制御のし易さという観点から見れば最上だろう。

 

 

 

 サーヴァントなんて言ってるのだ。使い魔……十中八九、切り捨てる為の駒なのだろう。それなのに、こんな大それた存在がポンと出るとは。まるで管理がなっていない。設計者は異常事態(バグ)を肯定しているのだろうか?そこらの家畜でも小屋に入れて躾けなければ人を殺せるぞ。

 

 

 

 マスターは一人、もっと、こう……なんかあるだろ! と英霊召喚の仕組みを作った開発者に対して思った。

 

 

 

 第三次というのだから試行錯誤はされていると思った。よしんば件の魔術師にとって聖杯や英霊が目的ではなくそれ以外の狙いがあったとしても、願いを確実に叶えるために外部からの不確定要素を極力消しているものと……例えば英霊の思考能力を落とすなどして。

 

 

 

 

 

 だというのに、これは何だ……?

 

 

 

 国一つ軽く滅ぼせそうな悪霊が現れてしまった。英霊、霊体という存在の一つ最悪なところは倒した人間を、その魂をリソースに変えられるところだと考える。ただでさえ強い英霊が被害を考えず脆い人々を襲う。襲われた人の魂は英霊に取り込まれ強化を促し、また人を襲う。その繰り返しで際限なく活動ができるようになる。

 

 

 

 場合によっては、この世を混沌に陥れる暴力の化身が世に解き放たれてしまう。

 

 

 

 そんなことをしたら、神秘の秘匿が危うい。

 

 

 

「奇跡を望むか悪魔。今更この世に何を望む? 貴様ほどの暴虐がこの世界に何を齎そうとしておるのか!!!」

 

 

 

 決死の覚悟で魔術師は英霊に問いを投げかける。超常存在の機嫌を損ねて敵対するなどという想定を考えるまでもない。今すぐ対処すべき問題だと思った。これは、周りを巻き込むモノだ。我が身可愛さでなあなあにしていいモノじゃない。

 

 その真剣な様子が伝わったのか。呼び出された英霊はコチラの様子に戸惑い、自信なさげに問いをに答えた。

 

 

 

「……あの、マスター? 私、聖杯なんて求めておりませんが……?」

 

 

 

 そう言って、コチラを困った風に見てくる邪悪な女。それは明らかにコチラを騙す様子などしておらず、何なら絡めとる様な淫美も醸し出していなかった。

 

 

 

 普通なら嘘、信じられないとでも言うべきだが。明らかに経験的に嘘をついていない。なんというか拍子抜けしてしまう。あちらいきなり怒鳴られても何が何だかわからないだろう。

 

 

 

 意味わからないことに困惑する。悪魔というには普通の、一人の女の様な姿。

 

 

 

「は?」

 

 

 

 これが、聖杯戦争を戦い抜く私と英霊との初対面──にしてはいささか緊張感に欠ける、けれど私たちらしい幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 この後、リリスと少し話すことにした。

 

 ただの木偶人形のような使い魔が呼び出されるならいざ知らず、目の前に現れたのは血が通い肉のある純然たる英霊。先ほどの脅迫めいた一方的な問答を受けて混乱した様子から見ても……人間のそれだった。

 

 ならば、ある程度の会談の形を整えねばならない。

 埃りぶった召喚場から出て、明るい照明のついた談話室へと出る。リリスは暗い場所から明るいところに出たため眩しそうに目を細めた。一瞬の仕草、だがやはり人間っぽい。やはり丁寧に接するべきだろう。

 

 リリスにソファーに座るように促す。こちらは備え付けの水差しで杯に二人分の水を入れて一つを渡す。リリスは両手でそれを受け取った。

 

「……さっきはすまなかった!」

 

 大事にする前に初手で謝罪だ。しっかりと頭を下げて深く詫びる。

 状況に戸惑うリリスはしっかりと対応できなかった。

 

「いきなりなんです!?」

 

「何って謝罪だ。意味も分からない相手に怒鳴ってしまっただろう? こういうのは経験上早く謝るに限る」

 

「はぁ……なんだか動揺していた自分が馬鹿らしく感じてきました。はい、謝罪を受け入れます」

 

 彼女は穏やかに、安心したような笑みを浮かべた。彼女からすれば自分は気の抜けない老人だっただろうからさっきの一連の流れはいい印象につながったんだろう。よかったよかった。

 

「なら、次は本題に入ろう」

「本題?」

「私にとっても、君にとっても大事なこと……今回の聖杯戦争についてのことさ」

 

 なら、次の話ができる。

 聖杯戦争──英霊視点で見てみれば後世でもう一度願いがかなえられる貴重な機会の場だ。そこで何を願うか、おおよその英雄なら未練を解消したり、何かしらの機会や挑戦を欲するのだろうが彼女は反英雄。

 

 あまり進んでしたいことではないが、ものによっては断らざるを得ないだろう。

 その結果、恐ろしい呪詛の類を受けることになろうが抵抗する。諦めさせるのは絶対だ。

 テーブルに右手を──令呪、契約した英霊に対する絶対命令権を置き回答に備える。

 

 さて、何と答えるか──

 

「聖杯……? あの、別に私はそのようなもの必要としていませんよ。なぜ呼ばれたのかもわかっていませんし」

 

 その答えを聞いて思いっきり頭をテーブルにぶつけた。特に願望のない無欲な怪物とかそれはそれで手に余る! これからどうしようと深く悩んだ。

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