大惨事聖杯戦争 with リリス   作:箱イベ・10周年備えなし

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間話

 

 夢を見た。

 

 

 暗い、暗い夜の中。

 

 

 月明かりに従い歩いていくだけの夢を見た。

 

 

 途中までは()()()()()と思ったけれど、それはどうも違うようで。

 

 

 砂の上に倒れている赤子を模した人形が目に入ったところで膝をついて視点が倒れた。

 

 

 そこで気付いた。

 

 

()()()()()()()()()()()()だと。

 

 

 英霊との契約をしている以上、そこには魔力の供給線が繋がる。そこからお互いの情報が流れ込み夢のような形で現れたのだと答えに辿り着く。

 

 

 情報と認識すると認知度が上がり、より実体を持って記憶を追体験するようになる。己の頭で考えない。己の口では喋れない。けれど連動した視点でその時の情報を一方的に伝えられる。

 

 

 女は、砂を掻き上げた。指の隙間からポロポロと溢れるだけで手のひらには何も残らない。女は人ではない。指も狼の鋭い指で、真っ黒なその手にはドス黒い血の跡が残っていた。

 

 

 それが自分のものか。はたまた誰かのものなのか。俺にはわからなかったが。

 

 

 女はその人形に手を伸ばすわけにはいかなかった。伸ばす資格がないと理解していたから。本来ならその場から離れて永遠に関わらない方が相手のためだと頭では理解しながら、それでも動けず。本能は自然と人形に手を伸ばした。

 

 

 手が触れる寸前。上から髑髏が落ちてきた。節穴の瞳が鋭くあなた(リリス)を睨む。我が子を死んでも守る母親の意志に怯え、彼女は空へと飛び立った。

 

 

 夜は寒い。

 

 

 冷たい風が上空を吹いている。その風に乗って人の元へと飛んでいく。

 

 

 嵐は痛い。

 

 

 風を操るその悪霊は夜中を支配する夜の魔女だ。彼女のいる夜の空では存在を許されるのは天高く輝く月のみ。

 

 

 月は眩しい。

 

 

 女には届かない位置で全てを照らす月明かりに私の全てを糾弾されているように感じた。全部見ているぞ、()からは逃げられないぞと私にとって最も恐ろしい言葉を放っているようで怖かった。

 

 

 闇は優しい。

 

 

 責められても、向き合うことはせず。それでも全ての()を覚えている。生きている限り、人を襲い、罪を重ねて。魔女として生きていく。闇だけはそんな私を包み込み優しく癒してくれる。

 

 

 

 

 …………あぁ、叶うならば。

 

 

 木の上(あんじゅうのち)に辿り着きたい。

 

 

 もし、私が罪を抱えず罰を受けず。そんな安心できる場所を見つけられたら……それはどんなに幸せなことか。

 

 

 その気持ちすら、その思いすら溢れていく。砂になる。風で飛ばされる。闇の中へと葬られていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂と風と夜。生まれた記憶の場所しか持たずそれ以外は曖昧で、それ以外の感情は置き去りで。

 

 

 生命維持のため、全てを押し殺した。世界屈指の人殺しの一生。そんな日陰でしか生きることの出来なかった怪物の残滓(ゆめ)

 

 

 俺は怪物が、怪物の心が欠片だけでも()であったことに、涙を流した。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 

(あ……れ……?)

 

 

 暗闇の中で夢を見た。

 

 

 リリスは、()()()()()()()()()()()()()()とすぐに気付いた。明かりの届かぬ暗闇の中、色を言うなら赤黒い天井。()()の胎内で意識を持った赤子の景色を見続けていた。

 

 

 こんな記憶は私にはない。

 

 

 サーヴァントは夢を見ない。そのような機能は存在せず考えられるとすれば、己と繋がったマスター。アグドの記憶を追体験しているのだと気付いた。

 

 

 魔力と共に互いに流れる情報。それを夢という形で私が見ていると理解する。そうやって考えている間にも場面は進み、彼に残った強い記憶が私の空っぽな心に影響を与えていく。

 

 

 

 アグド。アグドは親に与えられた名前は()()。生まれながらの怪物であると、気味悪がられて母親に捨てられたからだ。

 

 

 アグドは赤子の頃から常に意識を持っていた。子の生誕を喜ぶ母の顔はやがて歪み、忌み子を見る顔になっていったのを覚えている。結果、七日と持たずに捨てられてしまった。

 

 

 といっても理由がある。彼には実は兄弟がいた。それも三人。生まれると確定するまでの間、起源や属性すら一致する奇跡の兄弟である。それが()()する。

 

 

 双子は胎内でアグドに喰われた。魂を喰らい肉体を糧にされてより強靭な力を手に入れた。

 

 

 赤子の頃から兄弟殺し、産まれきっての人殺しである。彼はエネルギーを無駄にはせず己の魂を強化させて人としての進化を成し遂げた。

 

 

 交わった魂は生物の存在を上昇させて、一瞬だけ魂を星幽界へと触れさせた。

 

 

 不死者アグド。今を生きる長命な彼は、

 

 

 生まれながらの亜種第三魔法体現者である。

 

 

 今よりもずっと奇跡が近い世界で起こった偶然が彼の一生を狂わせた。

 

 

 当初は人より三倍遅い時間で育っているだけだった。人より三倍遅い時間で生きていくだけで正真正銘の人間だった。

 

 

 魂と肉体が結びつき、即座に補完をしあう少し死が遠く育ちの遅い人間は……不気味がられて母親の手で、池の中へと沈められた。

 

 

 

 その池も普通のものなら死ねていただろうに。優れた神秘を抱えた神の亡骸、死体から流れる神の血の池に生贄代わりに落とされたことで彼は完璧に再臨する。

 

 

 血を飲み育ち、急速な体の成長に泣き言を溢す。酸欠に陥りながらも死なせてもらえない身の上で、苦しみから逃げるために苦行を乗り越えた彼はいつの日か二足の足で池から飛び出した。

 

 

 

 無知にして超越者である彼が到達したのは……土地神。原始の世の中で、まだ人の開拓が行き届いていない世界。人が安寧を手に入れるためには、強いものに(おもね)って生きていくしかなかった。強い彼は充分に彼らの願いに応えることができ……人の期待を押し付けられた。

 

 

 

(ああ、なぜそのような顔をしてボクに祈るのだろうか)

 

 

 

 人として育たぬ彼は、彼らの気持ちを理解できず。人として彼を扱わぬ待遇はますます彼を人から遠ざけた。

 

 

 

 人ではなく(ひと)として時間を過ごす彼は何年の月日を費やしたのか、希薄な意識では覚えていない。覚えているのは、

 

 

 神としての扱いはやがてされないようになったということ。集落は滅び、敬うものはいなくなり彼は世界に取り残された。

 

 

 やがては現象として消えていくのだろうと足らない頭で覚悟した時、そこに訪れたのは

 

 

 

「あれぇ!? こんな森の中で何をしているの!」

 

 

 

 ベルと名乗る、白い女との出会いであった。

 

 

 

 

「ねぇねぇ!? どうして、こんな場所で生きているの? 君は誰!」

 

 

 ベルは元気のいい女の子だった。明らかに不審な(ひと)に問いかけ、楽しそうに笑っていた。彼には何故そのように笑っているのかわからないかった。今まで見てきた人とは違う……わからないから知りたかった。彼は彼女に興味を持った。

 

 

 幸運なことに彼女も彼に興味を持ってかれたようで交流を続けることができた。ボクは彼女について問いを投げかけて、彼女はボクや滅びたここについて質問を投げかける。どうも、相性が良かったようで交流する回数も密度も次第に上がっていった。

 

 

 彼女から聞いた話によれば彼女は魔女らしい。

 

 

 人の輪からはみ出ていろんなものを見て、聞いて。好奇心を慰めては別の土地へと去っていく。そのような生き方をしていたらしい。

 

 

 手を振るえば家が出る。何処からか鳴き声が聞こえたと思ったら狩られた獲物が降ってくる。(ひと)であるボクもそれは不思議で、不思議そうな顔をする彼女はボクを見て笑った。

 

 

 

 彼女といると孤独が安らいだ。彼女といると気持ちが昂った。魂が覚えている昔の苦悩も彼女といる時だけは穏やかだった。彼女もそうだったのだろうか。やがてお互いに歩み寄り、二人でいる時間を大切にした。彼女の旅の記憶を聞いて笑い合う時間も好きだが、お互いに静かに風の音を聴く時間も好きだった。

 

 

 

 時間は(ひと)を人へと戻していく。男は自然な笑顔を取り戻していった。神の無機質で威圧的な様子は薄れていき、男の笑みを向けられた人が安心できるような顔を見る機会が増えた。魔女は見惚れた。

 

 

 男と女が関わって、良い仲になっていく。行き着く先は当然交わりで、お互いがお互いを求めて昂った。男は嬉しかった。女も嬉しかった。お互いに幸せだった。この時間が今までのように続くと思っていたけれど。

 

 

 

 ベルは、人に堕ちた魔女になってしまった。

 

 

 

 男が神なら大丈夫だったのだろう。けれど時を経て人間性を取り戻す内に危なくなっていき、やがて一線を踏み越えた。

 

 

 彼女は何も言わなかった。何も言わずに男に笑いかけた。出会った頃よりも綺麗だった。男は事情はわからないけれど、優れた勘で別れが来てしまったことはわかった。湧き上がる感情は言葉に出来ず内に抱えた。ありがとうと感謝を伝えて見送った。

 

 

 

 彼女は彼から(ひと)を持っていって、大地に帰った。彼女が消え去ったその場所には立派な低木が生えていた。

 

 

 ギンバイカ。後に成った植物である。初めてその花を見た時美しすぎて、涙が出た。そのギンバイカの実を噛んで食べたことで彼は魔術を手に入れた。己の在り方を整える魔術である。

 

 




花言葉は、「愛」「愛のささやき」「高貴な美しさ」「平和」「祝福」
不死を象徴する白い花

長いので次も続き
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