大惨事聖杯戦争 with リリス 作:箱イベ・10周年備えなし
お久しぶりです
りんごが溶けたので皆様に会いにきました。
合計216箱。礼装5凸で終わり悔しいですね。
一夜目
喧騒を掻き分け、歩みを止めず楽しそうに進んでいく金の長髪をもつ男。やがて人通りの少ない道へと入り込み、まるで馴染みの道であるかのように入り組んだ場所に立つ廃墟へと入っていく。
「ランサー偵察は終わったか」
「もちろんだともマスター、いやはや現世とは実に楽しいところだ……異国の貴婦人とたわぶれる。実に楽しいことだと思わないか?」
金髪の男を迎えたのは異国の軍服で身を固めた外人。長い髪を後ろで纏めてきっちりと袖を通したその姿は生真面目で動作に隠せない気品がある。軍人ではなく貴族と言われた方が納得する男だ。
「遊んでも構わないが、仕事はしてもらうぞエリンの守護者よ。その名に恥じぬ働きぶりを見せてくれ」
「なに、そこは任せてくれていいだろう。今の私ならば零落した神霊アレーンすら倒して見せよう。優美に、高潔に敵を蹴散らして見せよう……と言いたいところだが」
軍服の彼の名はダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。時計塔枠の最後の参加者である。通称、八枚舌のダーニック。政治を得意として……あの魔境で『冠位』の位を手に入れることができた程、優秀な魔術師である。
ダーニックは自信を見せる自分のサーヴァントを一切見縊っていると感じさせない瞳で観察し、思考を続けていた。その姿にランサーは喜びを覚える。
戦とは真剣さでやりやすさが異なる事をエリンの守護者は知っている。前線のことを知る主人が謀をちゃんと行うのならそれはどれだけ頼もしいだろうか。優れた王に騎士として仕えていたランサーにはその頼もしさがわかるのだ。
「どうにも今回の敵はなりふり構わないらしい。」
ランサーは今回の聖杯戦争の様子を主観だがマスターに伝えた。今回の聖杯戦争はすでに物騒だ。街中には殺戮人形の類が溢れ、夜になると竜が泳ぎ出しセイバーが歩き回る。遠坂の召喚したアーチャーも一方的な攻撃が強力で近寄りがたいものだ。まだ誰も落ちていないという膠着状態を壊すため働くキャスターもいるだろうと告げる。
「ふむ」
マスターは自分の意見を受け止めて、思考の海へと潜った。その姿にまた、ランサーは満足する。騎士として仕えるのであれば、それは尊敬のできる人物である方がいいと思うもの。
マスターは上の者として覚悟を持って私を扱おうとしている。私を使い、私を頼るが……必要以上に命令しない。英霊に対する畏怖もない。ただ個人として重宝してくれる、それのなんと心地よいものか。
「ランサー、それは
「いいや、これは私の長としての勘さ。……今、水を手繰り少しずつ蟲を排除してるのはわかるだろう?マスター。これは貴方からの言いつけでもある」
「そうだ、冬木に住まう最も注意すべき存在……間桐の蟲を野放しにするべきではない。あれの支配も水が由来だ。一匹残らず丁寧に対処してくれ」
ダーニックにとってこの聖杯戦争で最も注意している敵はやはり間桐臓硯だ。これは当の個人が魔術師として優秀なのもあるが、終わらせる際、外部から人手を呼ぶ時に邪魔になるから排除するというのもある。ランサー的にはぷちぷちと蟲退治など英雄の仕事としては少し肩透かしだが、サーヴァントとしてやらざるを得ない。
「……蟲退治を頼まれたのは初めてだったが。なんとかなるものだなぁ……ダーニック。今は順調だが油断してくれるなよ」
ランサーはダーニックに真剣に語りかけた。
「こういう手合いは、攻め時を図らなければ厄介なことになる。マスター、
「わかっている。ランサー、お前にはこれからより働いてもらうぞ」
「はっはっは!ならば上王のように使いこなしてくれ。私は
ランサーは霊体化してこの場を去っていった。
ダーニックは忌々しげに自分の着ている服を握りしめて、己の使命を見つめ直す。その目は理性を兼ね備えた狂気の瞳だ。八枚舌の本領は嘘と立場を使いこなす優れた立ち回りにある。
…………まともに聖杯戦争をしてやる義理などない。我らがユグドミレニアの存続と栄光のために顕現した大聖杯そのものを確保する。
大聖杯さえ確保して仕舞えば後はこちらが主導で儀式を再度執り行えばいい。一族内で聖杯戦争を起こし
既に協力を要請した軍にこの地を滅ぼす用意を整えて貰っている。外部の人間を排除する間桐の怪人の実力でも流石に街そのものの炎上と制圧は避けられまい。
拠点を構える事のなんと愚かなことか。戦とは守りよりも攻めが有利なのだ。今はじわじわとランサーに地面を、軍には街中を刺激して貰い余力を削り取る。私は、最後の準備を整えて置くだけでいい。
ダーニックは己すらも使う道具として未来を見据える。……物騒か。結構なことだと笑う。神秘の秘匿に引っかからなければ何をしてもいいのだからそれが魔術師というものだ。
魔術などとは関わりのない、誇りと伝統の感じさせられぬありふれた拳銃を見る。
優れた殺しの道具だ。殺す事に魔術以上に適性を持つ人の道具だ。それを用いて魔術師を殺す。それは魔術師を……相対する相手も自分すらも貶める行為であるのだが。構うものか。野望のためには理想など些事。
「なんとしてでも辿り着く。私は
騎士を裏切り、魔術師を貶め目的のために直走る。
ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアは屈辱を糧に盤面全てを仕切り直すために今を壊そうとしていた。
聖杯の魔力だけが現状の泥をなんとかする手段であり、解決のためにどうにか願いを叶える立場になるという目標に辿り着かなければならない。
覚悟を決めて、勝ちに駒を進める。そのためにより積極的に動くことを決めた。
昼間から俺たちは外に出ている。まだあの例外を除いて何処も脱落していないという事実は不安だが、均衡してるというのなら刺激してやれば事態は動くだろう。怪しい場所を探して動き回る。足を動かすというのは馬鹿にはできない。他のサーヴァント……特に何かを企んでいるだろうキャスターを中心的に探していこうと思っている。とはいっても数日中にデカい花火が打ち上がることくらい予想はつく。
……にしてもリリス、目立つなぁ。
今回、あえて目立つために素材を活かす装いをした相棒に目を向ける。
普段とは違う装いをしたリリスはその外見の珍しさも合わせて周囲から人の目を集めていた。
リリスに着せたのは当代の貴婦人の着る着物だ。何かあっても全力で対処できるように当分は化身のままでいてもらいたいので大枚叩いて用意してみた。流石に化生そのままである夜の化身としての姿で現代を歩かせてしまえば目立つことこの上ないからだ。結構要素は隠れている。
藤の模様が綺麗な紫と黒を基調とした着物。りんごの木の簪の刺された結った髪は絹のように滑らかで美しい。髪の奥から覗かせる華奢で可憐な白い首筋は実に神秘的で女を感じさせる。
動作一つ一つが注目を集めていた。たおやかな女性の体は目を閉じて歩いているだけでも品がある。印象的な白髪は月明かりを思わせる優美さがあった。歩き方一つでも魅力的に見える。
効果ありすぎ。目立ちすぎた。……暗示使って調整すればよかったかもなと思ってしまう。俺も一緒に魔術的なちゃんとした服を着ているがこんなに目立つと思わなかった。
「ベル……これからどうしようか」
「考えなしに外に出たんですか?」
外に出ているので偽名を呼んでいる。真名は論外、バーサーカーでも悪目立ちする。適当にベルセルクだからベルと呼んでいる。最初呼んだ時すっごい顔されたけど……彼女がそんな顔する理由、何かあったっけ?呼び慣れるとむしろ渾名みたいで新鮮と楽しんでいたけど。
「まさか。目星はついているよ。けれど俺は物騒なのは得意じゃないし君の意見も聞こうかなぁと」
知らないとはいえ戦争中の街は活気に溢れている。悪い気持ちになるが……手段は選んでいられない。ここからは大胆に敵を討つ。
戦闘に関する逸話のないリリスにこんなことを聞くのは変かもしれないが一人で詰めるより会話をした方がいい意見も出るというもの。
「
魔術儀式というやつは基本的に発案者の有利になる状況が整えられている。安全な場所だったり一方的に危害を加えることができたり。利益を独占できる仕組みになっていたり。
主導となった御三家なら?アインツベルンは聖杯の仕組みそのもの。間桐なら聖杯戦争のシステム。遠坂なら土地そのものだ。この有利に打ち勝つために他の魔術師は創意工夫を行うのだが。
「油断を狙う。シンプルかつ効果的な手だろう?」
私たちにできることなんて限られている。闇に紛れて背後を取るなんて、後手有利で挑ませてもらおう。
「そういうのは置いとして」
「?」
「今日で平和な街並みを見るのは終わりかも知れない。記念に君と同じ景色を見納めしとこうかなぁと」
「!?……そうですか」
俺は彼女の耳元で囁いた。ギャラリーはそんな俺たちの親密な様子を見て俄かに盛り上がる。平日の昼間なのにうるさいことだ。
彼女とは短い間になるが楽しい思い出を共有できた。もうこうしてまとまった遊ぶ時間はないかもしれないから、最後に精一杯エスコートしようと思う。
目的もわからず聖杯戦争に呼び出されて、リリンを生まずに過ごせる時間を手に入れたリリスなんていうのはその存在そのものが奇跡のような産物だ。……夢で見た風と夜の景色以外にも覚えて座に帰ってほしいという我儘を伝えても困ってしまうだけだろうから言葉にするのは控えるけれど。
君に俺のサーヴァントで良かったと少しでも思ってほしいから、素敵な時間を過ごすための努力を惜しまない。
彼女はすぐに消えてしまう稀人だ。まさしく一期一会。過ごす日数もあと僅かなのだから。
大切に過ごそう。俺の記憶にも一生残るように、そう思いを込めて彼女の手を握りしめる。
「遅れたけど綺麗だよ、リリス。現代の服装は君によく似合っている」
「当然ですとも……けど、ありがとうございます」
白い肌は実に綺麗だ。俺の褒め言葉で紅潮するのがよく目立つ。彼女のお礼を受け止めて暫く戦争のことを忘れて楽しんだ。