大惨事聖杯戦争 with リリス   作:箱イベ・10周年備えなし

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二夜目

 

 

 誰一人通らない夜道を、優しい顔つきの男性が歩いていた。

 微笑めば、思わず女性が虜になってしまいそうな彼。けれどその姿には一つ不審な点があった。

 

 それは、彼の右手が物騒な刀を握っているところだろう。

 

 抜き身の刃物を持って彼は道を進んでいく。やがて大きな三叉路に辿り着くといったところで突如、立ち止まって辺りを見渡した。

 

 

「夜の街……というのは素敵ですね」

 

 彼は慈しむような声で語りかけた。その声は乾いた夜の風に乗って、消えていく。否、そこには確かに何かがいると優男……天草は気付いていた。それは令呪の繋がり、間桐臓硯の用意した細工はアサシンの気配遮断すら暴く。

 

「そうは思いませんか? アサシン」

 

 剣の切っ先を相手に向けながら、再度語りかけた。相手の返答は黒塗りの短刀を投げることである。その返しを天草は言葉を交わすのは無理だと判断する。残念ですと呟き、会話を試みることをやめて道具を取り出した。

 

「……」

 

「返事をしてくれませんか、残念」

 

 

 天草は、道具作成で大枠を作り、そこに臓硯が手を加えて改良を施した特性の魔力薬品を投げて動かないアサシンを無理矢理、反応させる。突如発生した閃光は霊体にダメージを与える類のものであったが、対魔力の高い天草には一切効かなかった。だが、アサシンはそうではない。アサシンは勢いよく飛び出し、そのまま殺意を天草へと向けた。

 

 アサシンの速度はなかなかであり、暗闇に紛れるその戦い方は、こうして視認している状態でも惑わされそうになる。天草自身の英霊としての格は低いと言わざるを得ない。アサシンですら真っ向勝負でやられることもあるのだ。

 

 

 

 いや、天草には考えることがあった。それは今の戦いを乗り越えた、この後の戦いについてであり、アサシン……ハサン・サッバーハについて裁定者としての見解を改めて整理する必要もあった。

 

 

(ハサン・サッバーハの厄介なところは()()()()()()()()()()()()()()()ところ! 一度宝具を使わせなければ傾向が掴めないッ!)

 

 アサシンは正面戦闘に弱い。けれど正面戦闘をするアサシンなどいない。故にステータスの低さなど気にならない。殺しに特化したクラスは攻めも逃げも得意だ。天草が無理に仕掛けようとも息の根を止める機会が、まるで掴みかけた鰻のようにするするとすり抜けて、逃げていくことだろう。

 

 ハサン・サッバーハ。二桁の長の中から相手を特定するのは難しい。相手が元々暗殺教団の長なら尚更だ。ハサン・サッバーハという名前がわかったところで、だから誰なんだよと言わざるを得ないのだ。

 

 天草の心に相手を知りたいという欲が出る。だがそれはアサシンに絶死の一撃(ほうぐ)を撃たせるということだ。アサシンを知るために宝具を使わせたいなんて通常ならなんと愚かなことだろうか。でもこれから必要になる。絶対撃たせる必要があるのだ。

 

 黒短剣による攻撃を弾いていく。天草が仕掛けず様子を見るということは防戦一方であるということだ。市街地という環境も、実に暗殺者には都合がいい。四方八方から攻撃が降り注いでいく。

 

 

 けれど、裁定者(ルーラー)。そのクラスの特性は異常を排除するために戦場に立ち続ける生存力と状況を把握する目にある。危険度のわかっているアサシンの攻撃など受けるわけがなかった。

 

 

 

 天草がアサシンの数度の短剣を弾き飛ばし慣れてきた頃、彼ら二人を囲むように気配が現れた。それは夜の街を徘徊する厄介な、

 

 

「人形……? ッ!?」

 

 

 人形の群れは天草を襲う。大人の数倍の怪力も、毒針すらも天草には効果がないが、いかんせん数が多すぎる。天草は殲滅用の防具を持っておらず彼らに対する対策を持っていなかった。

 

 攻撃が止まらない。短刀を捌き、後先考えない人形の突撃を対処する。

 

(私の宝具では効果が無い……アサシンよりも人形の方が厄介かもしれないな)

 

 

 彼の宝具を使用するには人形風情は過小過ぎた。どうにか打開できないかと機を伺う魔術師たる天草に群れに紛れてハサンが襲いかかる。

 

 

 ハサンが取った行動は、()()()()()()()()()()()()こと。それを合図に彼らの頭部に含まれていた火薬が激しい音を立てながら爆発する。

 

「なっ!?」

 

 

 天草は油断していた。所詮暗殺者であるハサンは己に攻撃を通すことはできないと思っていた。宝具も裁定者としての耐久力で耐えられると考えていた。けれどこれは、

 

 

「まさかこれは、英霊にも効く爆薬……!?」

 

 

 対魔力Aを貫く爆熱と閃光に天草は視界が塞がれる。その隙を待っていた暗殺者は、正面からの暗殺を決行した。

 

 

「油断したな魔術師」

 

「しまっ!?」

 

空想電脳(ザバーニーヤ)

 

 

 閃光の中に映り込む黒い体。左手が天草の頭を掴み取り、()()()()()()()()()()()()。それこそが彼のザバーニーヤ。爆炎を武器として使いこなす暗殺者の英霊だ。

 

 

 アサシンは派手な爆発と地味な短刀を用いる優れた凶手だった。

 

 彼は、──『頭』を掴むことで、その中身を英霊すら傷つける火薬に変える宝具を持っていた。それが実験の末に中身を変えられるのは頭でなくとも『楕円形の物体』ならなんでもいいことに気付き、彼のマスターはこう考えた。

 

(別に暗殺に拘る必要ありませんネ?)

 

 

 彼は自分の使役する人形の中身に、変換させた火薬を詰めて街へと放った。偵察を行う人形たちは万が一敵に破壊されても強力な対人宝具級の爆発を放つ。

 

 自爆特効を厭わない人形の群れ。その群れに紛れてチャンスを伺う白い仮面。

 

 この聖杯戦争で一番派手な一組。けれど最後の一撃だけは地味で堅実。それがアサシン陣営なのだ。

 

 

 

 

 

 爆風は辺りを全て蹴散らした。周りの建物ももはや見る影もない有様となっている。きっと明日にはガス会社のせいだという情報が流れるだろう。

 

 人形の火薬全てに誘爆して、なお頑丈な耐性故か、体は全て消し飛んだというのに原型が残った()()()は落ちている。もはや何も語らない頭は、驚愕に染まっており敵の瞳を覗き込む白い仮面は静かに己について語り出した。

 

「教えてやろう我が敵よ。我が教団より与えられた名は虚空(きょくう)

 

 

 死体にこそ語りかける。暗殺者として生きているものに言葉をかけるのはあってはならない。手で目を閉じさせてやり、髪を掴んで持ち運ぶ。英霊だというのに流す赤い液体を体に浴びるとアサシンはやってやったと空を眺めて達成感を味わった。

 

 

「我が葬りし敵の悉く。その(なかみ)火薬と入れ替えられて虚となる。凄まじい爆風に吹き飛ばされて何も残らず空へと消える(カラとなる)

 

 

 空には星が浮いている。生前と変わらずある星が過去のまま変わらず輝いていた。アサシンは当時が懐かしくなり、高揚感で口が滑った。それは普段は己が吹き飛ばす、頭だけが残っているという珍しい状況もあるかもしれない。

 

 

「故に虚空(きょくう)虚空(きょくう)のハサンよ。舐めてくれたな魔術師よ、だが助かった。おかげで戦果はありませんなどと主人に言うことは無くなった」

 

 

 

 誰も聞いているものはいない。己に言い聞かせる勝鬨の言葉。これも全て風に乗って消えるだろう。これから大仕事があるのだ、切り替えねばならないと彼はマスターに念話を繋いだ。

 

 

 

(はい、マスター。……はい。はい、今まさに魔術師のクラスを殺しました。首を離し胴体をバラバラに。生きてはいないでしょう。それでは例の計画に移ります)

 

 念話の先ではマスターも喜んでくれている。今日、これから大規模な()を開くのだ。その前に思わぬ成果をあげられて嬉しいらしい。

 

「あのように前に出てくる者でよかった。おかげで順調にことを進められる」

 

 まさかあれだけ準備を重ねて隠れていた最後の一騎があの程度だったとはアサシンも想像できなかった。けれどそれは己にとって好都合なこと。不満なことなど何一つない。

 

 アサシンは左手で空を掴む。いつだって、掴んで持ち運ぶ爆発しないこの空が好きだった。辛い時は常に空を掴んで乗り越えてきた。

 

「…………今日はもう星一つ見えなくなるかもしれませぬなぁ」

 

 アサシンは惜しむように空を見た。それはこれからとても明るくなると知っているが故に。

 

 

 

 

 

 

 

 臓硯は邸宅の地下に存在する空間で誰かに語りかける。その人物はちょっとしたショックで頭を白く染めたカソック姿の優男だった。

 

 

「どうじゃった、天草」

 

「いえ、何も問題はありません。変わり身がある様子もない。爆破を得意とする火薬職人……なんとも派手な暗殺者でした」

 

 

 天草士郎には令呪がある。自分自身に使用できる令呪が二つも首元に見えていた。それが今、一つ消えている。

 

 令呪による強制転移。魔法に近い奇跡を行い、あの爆風から逃れ切ったのだ。

 

 けれど、それだけではアサシンの目を誤魔化す事はできない。敵には死んだと誤認してもらう方が今後の立ち回りは容易になる。よって一つ工夫をしてみた。

 

 天草四郎の逸話には切り落とされた首があまりにも多く、どれが天草本人か判別できなかったというものがある。この逸話を用いて、彼は首級の誤認を行なった。暗殺者相手には影武者を立てるというのがセオリーというものだ。 

 

 

 天草が道具作成で用意した身代わりに臓硯が細工として蟲を入れて自由に動かせるようにした後に入れ替わった。派手な爆風も相まって暗殺者は気付けない。目眩しとはどちらにとっての目眩しだったのだろうか。

 

 一つ言える事は天草士郎は何も成せずただで死ねるほど安い命を持っていないというだけだ。

 

 

「カッカッカ!! そうかそうか、ならこちらも進めよう。天草よ、お主は戦場に赴け。儂も蟲を広げ戦場に全ての英霊を確認した後、お主に念話で合図を出そう」

 

 

 臓硯は上機嫌に笑う。何故なら全ての英霊の真名を知っているから。既に全てを裁定者の目で見て把握しており、これから仕掛ける罠への対抗手段が存在しないと確信している。

 

 ハサンには身代わりの類はない。今から行う作戦に抵抗する術を持たないとしれた。なら、もうこの試合は終わりだ。今日ここに、大聖杯を顕現させる。

 

 

 

 臓硯は全てを振り返る。今回、召喚された英霊の全てを。

 

 

 ──剣士。

 真名、スヴィプダグ。

 九つの呪文を授かり運命の花嫁である女神メングロズを手に入れた超克の戦士。銀の鎧を身につけた知恵の勇者、北欧神話の英雄である。救う、戦う、取り戻すといった目的を達成することに適した英雄である。水竜は彼が後に変えられた呪いの姿であろう。

 

 ──弓兵。

 真名、テウクロス。

 テラモンの子にして異母兄弟である大アイアスと共にトロイア戦争を駆けたギリシャの英雄。卓越した弓術と近接戦闘能力を持ちその矢は放つたびに敵に損害を与える。キュプロス島の支配者となった王。大アイアスの自刃を嘆いた男である。

 

 ──槍兵

 真名、フィン・マックール。

 フィオナ騎士団団長の団長にして数々の功績を立てた男。魔術と知恵を修め、治癒すら可能な万能の槍使い。戦神ヌアザの末裔にして神祖ヌアザを打ち負かしたエリンの守護者。彼個人の弱点を挙げるとすれば女難の運命しかない程の豪の者。

 

 ──暗殺者

 真名、ハサン・サッバーハ。

 自称虚空(きょくう)のハサン。アサシン教団の長。通称、山の翁。歴代十九人、襲名制でハサンを名乗る暗殺者である。左手で触れた頭に火薬を作り出す能力を所持しているが……遠距離攻撃には乏しそうな矮小な存在。

 

 ──復讐者

 真名、アンリマユ。

 この世全ての悪(アンリマユ)と呼ばれる拝火教に伝わる悪魔の王にして悪神の名を持つ黒い何かである。正直、名前倒れの存在であり反英雄の極地にしては英霊としての力もない儚き者。殺すことに特化した特性と特別な(エクストラ)クラスをしている今聖杯戦争の歪みだが、既にこの世にはいない。

 

 

 

 そして、

 

 

 ──狂戦士

 真名、リリス。

 メソポタミアにおける古い悪霊の名前である。夢魔や悪霊の母。梟の化身にして、夜の魔女の異名を持つ女。男を誑かし、子供を殺し、妊婦を穢す反英雄の象徴。原初の女にしてアダムを裏切り神罰を下された悪魔は、戦の逸話を持たない。そして何故だかリリンを生み出さない……こちらも名前倒れということか。

 

 

 天草を除いた六騎のサーヴァント。豪傑と何処か不安になる名前も紛れているが実力についてはそれなり。なんにしろ万事つつがなく。

 

 

「わかりました」

 

 

 天草は会心の笑みを臓硯に向けた。まさかこれほど簡単に我らの願いを果たせるとは思っていなかったからだ。それがもう目の前、手の届くところにある。笑わずにはいられない。

 

 それは臓硯も同じだ。天草を見て彼も笑う。ここまで準備をしてきた甲斐があった。外についてはもう知らぬ。対処する価値もない。今日で敵は全て死に、ひっそりと勝者として人間のための世界を作るのだ。

 

 

 

 

 彼らの行う作戦それは、

 

 

 

 ──裁定者としての能力の完璧な運用。臓硯の蟲を用いて全ての英霊の真名を暴き、最適な状況で()()()()()()()()()()()()()()()

 

 対魔力など気になることもあるが……臓硯がチューンアップした二画の強制命令権。正規のマスターが三画用いて行う勅令に等しい死刑宣告からは逃げられない。

 

 

 

 

「「今日で全てが終わる/ろうぞ」」

 

 

 

 

 今回、聖杯戦争最強の一組。キャスター陣営は全ての用意を終わらせて処刑道具の起動を待つ。





Fateと言ったらやっぱり爆発や
Fateと言ったらやっぱり自害や
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