大惨事聖杯戦争 with リリス   作:箱イベ・10周年備えなし

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2話

 

 

 

 リリス、バーサーカーとこれからについて話をした。

 

 バーサーカー……狂戦士と会話が交わせるというのも妙な話だが、言葉で向き合えるというなら悪い話ではない。

 

 聖杯を望まない悪霊の英霊にこの世を生きるための暇つぶしの一つとして戦争に参加した享楽主義のマスター。

 

 どっちも酷い字面である。明らかに真面目に聖杯戦争をする気がない面子だが、それでもちゃんと会話をしておくべきだ。駄弁るだけでも意味はある。

 

「でさ、ちょっと年齢を弄ってみたんだけど……どう?」

 

「え、マスターまで若返ってんじゃん!? それ、どうやったの!? ……ちょっと、それは女として聞きたい」

 

 猫のような目で若返りのコツを聞いてくるが、それは無視する。悪いが、“なんでもあり”な魔術師だと思っておいてほしい。どうせ言っても使えないし。

 

 ちなみにリリスも霊基を調整して若返ってもらっている。聖杯のシステムにとって、彼女の霊基は“重すぎる”らしい。まぁ当然か──リリスなのだから。下手な悪魔より遥かに強い。

 

 本来、聖杯戦争に参加した英霊には聖杯戦争と召喚された場所の一般常識が聖杯から与えられるのだが。リリスは召喚時の姿では、生前の記憶と聖杯戦争の概要しか理解できなかったという。翼を小さくし、爪や尻尾を引っ込めて霊基を落とせば、ようやくルール程度は教えられたそうだ。それでも、一般常識は身につかないらしい。

 

 なら、一般常識を教えるついでに外を散策でもしよう。つまり逢引(デート)の誘いである。興味はあるらしく、受けてくれた。やったぜ。

 

 

 

 

 時は昭和。ピリピリとした軍国主義の空気が漂う中でも、町は人で賑わっていた。西洋かぶれのスーツ姿の男もいれば、洒落た着物の婦人もいる。目を別のところに移せば通りを忙しなく自転車で駆ける者も見える。

 

 ガタンゴトンと揺れる車内で、現代の風景を眺めるのもまた一興だ。

 

「……なんで、路面電車に乗ってるんですか?」

 

 伽藍とした車内で向かい合うリリスが、呆れた様にそんなことを言ってきた。おい、召喚した時の“地”が出てるぞ。若返った姿のはずなのに、思わず敬語になるくらいには俺の突飛な行動に驚いたらしい。まぁ、それも無理はないか。けれど、

 

「結構いいだろ、路面電車」

 

 ぽんぽんと座席を叩く。ふかふかで乗り心地がいい。

 

 これのおかげで移動が格段に楽になった。暗示を使い、大金を払って貸し切った甲斐があるというものだ。魔術は古いものに価値を見出すのが常だが、個人的には新しい技術から発想を得るのも大事だと思っている。だから、こういうものはもっと増えてほしい。

 

 たとえ神秘が衰えても、それを上回る娯楽があるのなら──それでも、俺は構わないと思っているから。

 

 

「それに──こうして君と一緒に見たかったんだ。今の時代の賑やかな、人が行き交うこの光景を。君の時代では考えられないだろ? これほどの人混みってやつは」

 

 人混みという奴は意外と見てて面白いのである。あまり現地にはいたくないけど。

 

 俺がそう言うと、バーサーカーはふたたび外を見つめ始めた。視線の先には、楽しげに笑う家族連れの姿。

 電車内には広告の宣伝がやかましく響く──だが、それも妙にクセになる。

 

 ガタンゴトンと揺れる中、二人は黙って外を見つめる。そんな時間も楽しかった。

 

「確かに……いい。これ、いいですね。風は感じないし、夜のように静かで安らげるわけでもない。でも、人がよく見えます」

 

 見ていた──バーサーカーは“人”を見ていた。

 羨望の眼差しで。妬ましさを滲ませながら。

 美しいものに触れるように、あるいは手が届かないものを見るように。

 彼女は、“人”を見ていた。

 

 一時も逃すまいと真剣に見ていて、俺はその姿に少し見惚れた。

 

 

「……うん。やっぱりアテシ、人が好きだわ」

 

 そう、彼女は口にした。

 その言葉に込められた想いの深さは、並ではなかったのだろう。聞いているだけで胸の奥にじんと染みるものがある。彼女がなぜ“人”を好きだと感じるのか──考えてみようかとも思ったが、それは野暮だと悟り、やめておいた。

 

「満足してもらえたなら、よかった」

 

 

 ホッと息をついた。今までの人生で、悪魔と話すなんて経験はなかった。何が地雷かもわからない。頬が緩んだ俺を見て、どうやら見られていたのが恥ずかしかったのか──彼女は髪をくるくるといじりながら、頬を染めて問いかけてきた。

 

 

 

「で?」

「で? ……とは?」

「だ・か・ら! 聖杯戦争のことだってば!」

 

 からかわれたように感じたのか、彼女はさらにムキになって問い詰めてくる。

 

「いくらなんでも無謀すぎない? いきなりアテシ連れて外出るとかさ。やることって殺し合いなんでしょ? なら、敵が索敵してるかもしれないじゃん」

「お? 君もついに真面目にやる気になってくれたか。これは嬉しいねぇ」

 

「茶化すなー!」

「ごめん」と軽く謝る。彼女は案外ノリがよくて、話していて──からかっていても、実に面白い。

 その反応が余計気に触ったのかもっと不機嫌になった彼女の機嫌を取るため、少しだけ種明かしをすることにした。

 

 少しくらいなら外に出ても大丈夫な理由……俺の使用する魔術についてだ。

 

「俺……私個人は、隠蔽の魔術に注力していてね。何をどこまで隠せるか、力をどこまで消せるか──そんなことばかり考えてる」

 

 彼女に令呪を見せてみる。赤い鳥の羽の様な紋様のそれをゆらゆらと見せながら揺らす。

 

 そうすると彼女は見えなくなったのだろう。令呪と俺以外。周りに気が行かなくなったともいう。

 

「すべてを隠しきって、誰からも──それこそ“星”からすらも──見えなくなったその時、残された最後の繋がりに“根源”が見えるだとかなんとか。そんなお題目を研究していてね。今でも子孫たちが真面目に取り組んでくれてるよ」

 

 おかげで今は魔術刻印すら持たない、身一つの魔術師崩れさ──なんて、気楽に言ってみる。

 真剣な様子で話してみたが本当は、根源なんて行けたらいいなくらいの軽い気持ちしかない。死が遠のいた身だからこそ、全てはついでの暇つぶし。私の気づかないうちに頭の中身は既に阿呆のそれになっていたとしても不思議じゃない。けれど、そんな中身のない話をしても、相手は反応に困るだろうけど。

 

「……つまり、それのおかげで今も見つかってないってこと?」

 

「結論から言えば、そう。特に聖堂教会には、絶対に見つかりたくない」

 

 彼女からの問いに頷く。

 

 ちらりと電車の窓の外を見やれば、それらしい魔力の持ち主たちが周囲を探っているのが見える。探してみれば教会関係者に軍の関係者、使い魔までいる。これだけ騒がしいなら、俺たちの召喚が最後だったのかもしれないな。

 

 

「よし、リリス。最後に一つだけ頼む」

「んー? 何よ、マスター」

「聖杯戦争の間、俺に力を貸してほしい」

 

 目と目を合わせてお願いをする。思えば彼女から戦争に参加するという確約をもらっていない。別に地獄に片足突っ込んで欲しいわけじゃない。私と共に戦って程々のところで満足して終わりたいってだけだ。欲を掻きすぎない。長生きの秘訣である。

 

 

「最初に……召喚された時に言ったでしょマスター」

 

 リリスはお願いをする俺に真面目な顔をする。そこには少しの不満とこれからを楽しみたいと思う好奇心があった。

 

「私を呼んだのは貴方ですか? マスターってね」

 

 笑みを浮かべながら、最初に言った言葉を思い出させる。彼女は、俺がマスターであることは認めていた。俺が、悪魔であることと規則を詳しく知らない彼女を深く信用できないだけだった。だからこうして言葉を使って約束をしようとしていた。

 

「マスター、どうせなら俺について来いくらい言って魅せてください」

 

 彼女は俺が思う以上にやる気だった。大きな音を立てて、彼女の翼が車内一面に広がる。俺は笑って彼女へと頷いたのだった。

 

 

「……おうよ! 一緒に勝とうぜ、バーサーカー!」

 

 

 そう言うと、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。俺はその顔を一生忘れないかも知れない。

 

 

 返事に満足したのか少し目を閉じていたかと思うと、いきなり目を開け何かに気づいたようにこちらを指差してきた。

 

 

「あーっ!!!」


「ん? どうした、バーサーカー」


「マスターの名前!」


「……俺の、名前?」


「そう! 名前! まだ教えてもらってないよ!」

 


「…………え!? マジで!? 自己紹介すらしてなかったのか、俺」

 

 …………悪魔を呼び出した衝撃で自己紹介を忘れていたらしい。なら、今までやってきた友好的な行動ってめちゃくちゃ胡散臭かったのでは? と反省する。うわぁやっちまった……でもまぁしょうがない。過去は取り返し聞かないし、これから取り戻していけばいい。

 

 

「それじゃあ、改めまして──」

「これからマスターを務める、天羽 結絡(あもう けつらく)。……いや、アグド。アグドで頼む。俺の元の名前だ」

「そっかぁ。よろしくね、マスター」

 

 

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