大惨事聖杯戦争 with リリス   作:箱イベ・10周年備えなし

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今回は別陣営の紹介です。


4話

 

 地下で、暗がりの中ワイングラス片手に使い魔越しで火事騒ぎを楽しむ、夜戦灰色の軍服の男。胸には鷲章が付けられている。ニヤニヤとしたその顔は、実に楽しそうであった。

 

「聖っ! 杯っ! ……おぉ、聖杯とはなんぞや」

 

「戻りましたか。よくやりましたアサシン……アナタは聖杯とはなんだと思いますか?」

 

 男は、仮面の異形──アサシンを見るとグラスを置いて、立ち上がり敬礼を返す。アサシンはそれに対して頭を下げようとするが、男のラクにして良いという声にその動作を取りやめた。

 

「ハッ! ……魔術師の拵えた万能の願望器。万能にまで至らずとも我らが人命を賭して余りある何か……でありましょうか」

 

「ほうっ! ……いいですねぇ、アサシン」

 

 ……魔術師から突然聞かされた疑問。聖杯とはなんぞや。アサシンはその問いに自身の見解を答え、軍人はその答えに満足そうに頷く。

 

 

 

 タデル=ローターヒュゲル。

 

 とある魔術師の甘言に乗せられ国から派遣された軍人である。そして、アサシンのマスターだ。

 

 

 今回、この男が派遣された理由は大きく二つ。一つは、男の行動被害は大きくとも作戦遂行能力に長けていること。二つ目は、この世の奇妙な現象である魔術に触れていることである。

 

 タデルはその長身を大きく活かし、大袈裟な身振り手振りで役者にでもなったかのように命令を下した。

 

 

 

「アサシン!! アナタには命令を下します。この聖杯戦争で、そうですねぇ……五騎!! 五騎にしましょうか! この聖杯戦争で五騎脱落するまで単独行動をしてもらいます。好きにサーヴァントとマスターに対処なさい。その時、情報の確保だけに留めるか戦闘を行うかは自身の判断で行うこと。一日に三回、念話で情報共有をします。この命令が遂行されていない場合にこの拠点へ戻ることを禁じます。どうしても必要ならこちらが令呪で呼びます」

 

「なっ!? 主よそれはあまりにも」

 

 

 その命令は非常に挑戦的で、前例のないものだった。

 

 英霊同士が戦う、聖杯戦争。

 

 その最たる戦力は勿論英霊であり、その想定戦闘力は戦車や軍艦に匹敵する。

 

 一騎当千、人の夢と理想を背負う過去の影法師は宝具という神秘を扱い、一度力を振るえば家も街も吹き飛ばしてしまうだろう。

 

 霊体という物理に囚われない存在が、物理的に何もかもを破壊し得る兵器を持って襲いかかる。

 

 故に戦争。

 

 単騎でありながら、万の軍と同等以上に扱われぶつかり合う様は闘争の域をゆうに超える。

 

 

 

 だが、サーヴァントは途轍もない戦力だ。サーヴァントが優れていればどれだけ三流のマスターでも一流の魔術師と戦う土俵に立ててしまう切り札。

 

 

 それは、タデルは笑いながら自分の身の元から手放すと言ったのだ。正気の沙汰とは思えない。

 

 

 ──英霊には、英霊でしか抗えない。

 

 

 英霊の力に少しでも触れた者は一瞬で理解するだろう、絶対のルール。存在の格が違う。故にマスターは、そんな強力無比な英霊ではなく……マスター、要石を狙うのだが。それを守ることができるのもまた英霊。

 

 タデルはアサシンに笑いながら指を振るう。

 

「Oh!! 口答えは結構!! ……ですが、疑念は晴らしておきましょうか。アサシン? 戦争で最も怖いのはなんだと思いますか?」

 

 

 アサシンは考える。きっと、この問いには己がマスターの思う、先ほどの命令に対する答えがあるのだと。アサシンは集団の長を務めたとはいえ暗殺者……それほど得意としていない頭で意図を探る。

 

「ふむ、暗殺が主であった私ですが……兵站ですか?」

 

 アサシンが出したのは、生前苦しんだ飢えの記憶であった。荒野に一人、味方もおらず死ぬと思った記憶の一つ。アサシンは道具も食べ物もない中で身一つでどうにか切り抜けた思い出が蘇る。

 

「素晴らしい! 確かにそれもあります。この聖杯戦争でいえば兵站は魔力ぅ……他に陣地や令呪・礼装もコレに当たりますかね。けれど私は別のものに注目しています」

 

 

 タデルはその答えに満足したようにアサシンを褒める。──少なくとも考える力はあるようだと自分のサーヴァントを値踏みしながら。タデルも人を率いた身だ。過去、人と関わる以上どうしても折り合いの付かない人の一人や二人はいる。目の前の存在は、そんなどうしようもない存在ではないのだと安心しながら言葉を続ける。

 

 

「アサシン……私が戦争で最も困るのはイレギュラー。特に内部不和だったり、相手と盤上でやり合えないことですね」

 

「というと」

 

 アサシンは言葉の意味を探る。

 

「例えばですがアサシン、サーヴァントの運用についてですがセイバーならどう戦うと思いますか? アーチャーなら……一癖も二癖もありそうなキャスターやバーサーカーなら?」

 

「ふむ、私なら三騎士は前線ですが、アーチャーはキャスターと同様に後衛。バーサーカーについては……思考が出来ないのでサーヴァントが密集した場所に放ち混沌を生むか、閉鎖空間で一対一を行わせ確実に勝たせます」

 

 サーヴァントには、そのクラスで秀でた動かし方というものがあるだろう。単体を殺す力に秀でた己、真っ当な殺し合いで圧倒的有利を持つセイバー。遠距離から一方的に相手を葬るアーチャーもいれば縦横無尽に夜を駆け抜けるランサーやライダーだっている。

 

 運用方法というものは、似通うものだ。クラスという型は攻め方と守り方の基準となる。聖杯を狙い競い合う参加者は、どうにか自分のクラスに有利な戦場を押し付け、相手のクラスが不利な戦場になるよう策謀をし合う。

 

 思考の空中戦。強みを押し付けるために魔術師は頭を使ってやれることはないか探しているのだ。

 

「なるほど、いいですねアサシン! 私もかねがね同じ意見です」

 

 

 クラスによる有利不利。戦争を切り抜けるための計略。勝ち抜ける順序も大事である。そう補足しながらタデルは続ける。

 

 

「しかし、それが通用しないならば?」

 

 

 アサシンは、その問いに疑問が生じた。それはどういうことなのだろうか。

 

 

「アナタが言った通り、サーヴァント……とりわけクラスには戦術の定石があります。アナタで言うならズバリ暗殺!!」

 

 タデルは大袈裟に首を切る動きをして、アサシンの気を引く。暗殺者はサーヴァントを、マスターを不意打ちで仕留める。戦いという土俵にすら上げさせない恐ろしいクラスである。

 

「けれどその運用方法を誰もがしてくるとは限らない!」

 

 

 けれど、何故アサシンなら不意打ち以外しないと考えるのだろうか? 不意打ちが警戒されている時点でそれは不意打ちではない、そうタデルは考えるのだ。それなら真正面から突っ込んで、避けられない毒でも浴びせた方がよっぽど不意打ちだ。アサシンは正面から戦えない貧弱な奴だと思わせて真正面から武力で潰すのも不意打ちである。

 

 暗殺ですら一つの手段で特定できない。相手を襲うバリュエーションである。だからこそ、決めつけてはいけない。

 

 

「アーチャーだろうと想定した相手がもしアーチャーなのに近距離に秀でていたら? キャスターの陣地作成がボクシングのリングを整え殴り合うことを前提にしたような非常識なものならば?」

 

 

 意表を突かれて、負けました。その負けは許されないものです。負けることの価値が重い。慎重に動かなければならない。百回に一回、うまくいかないという変数を残して人生をベットできる胆力はない。そんなベットを他のサーヴァントの数だけ、すなわち六回も繰り返すつもりはない。

 

 

「サーヴァントクラスの基本運用と英霊本来の戦い方がズレている時、予想が外れている分、対応が難しくなります」

 

 

 真正面から戦う場合でも、奇襲をする場合でも情報は重要だ。

 

 

「これはクラスというレッテルでの勘違いです。この場合、相手の魔術師との読み合いが出来ません」

 

 

 魔術の逸話を持つ戦士だっている。セオリーは大事だが盲信できない。サーヴァントの能力が予想と大きく異なった場合、それを元にした魔術師の戦略も大きくずれる。これは、怖い。

 

 

 

 要するに、敵に意味不明な動き方をされると戦う側としては恐怖でしかないのだ。アサシンは、深く頷いた。

 

 

 

「次に、サーヴァントとの価値観です。アサシン、私は誇り高き軍人として立場に見合う振る舞いをしなくてはいけない。ですが、目標遂行のために非情な判断を行う場合もある」  

 

 

 タデルは、真面目な顔でアサシンを見る。アサシンにも納得出来る内容であったのだろう。冷酷な実利主義、戦争では大切な思考だろう。

 

 

「この非情な判断という決断がアナタの暗殺という価値観と合いました。ならば相手は?」

 

 

 どうでしょうかと言葉を続ける。

 

 

「現代の人間と過去の英霊では戦術眼など異なります。前提とした価値観や人生経験が異なりますからねぇ……魔術師なら特に」

 

 

 英霊と魔術師の戦略の不一致。兵法も時代によって大きく異なる。何を間違ってか大声で名乗りを上げて敵に突っ込んで行ってはマスターとしては頭が痛いだろう。

 

 今回の聖杯戦争という戦の形式。限られた資源をいかに使い相手から情報を……真名をいち早く手に入れられるか。対策を打ちどれだけ必要最低限の消費で連戦に励めるかといったところでだろうか。

 

 

「英雄……なんて言ってますが突撃を至上と考える者や道理に従い闘争を綺麗なモノと勘違いしている者もいらっしゃるでしょうっ!!」

 

 

 勇猛に敵陣に突っ込む英雄と穴倉に引っ込み悪巧みをする根暗が同じものの見方を出来ようはずがない。

 

 

「……この価値観の相違がすなわち内部不和! サーヴァントとマスターの行動不一致を生むのです」

 

 

 仲違いでもして、殺しやすくなるのなら歓迎だ。けれどいきなり我の強い英霊が自身の考えを押し通し変則的な行動をされても困る。

 

 ……味方にも言える。アサシンは実に頼もしい味方だがこれで「相手の魔術師はまだ子供! 手を出すべきではない」など言われればこちらとしてはどんな生ぬるい気持ちで戦争に参加しているのだと呆れざるを得ない。

 

 

 タデルは資料を手に取り、一番目につけているクラスの情報を探す。うんざりするような目でそれを見つけた。

 

 

「私が気にしているのは特にライダーのクラスでしてねぇ」

 

 それは、騎兵である。だが騎兵とは何に乗るのか? 

 

「ライダー……一国の主から戦車乗りまで、幅広く当てはまるクラスです。読み間違えた瞬間、恐ろしいことになりますよ……英明な帝王を想像していたのに突撃至上の大英雄なんてやって来たら即outです」

 

 

 ライダーだけは早々に死んで欲しいと心の底から思っていた。高速移動する規格外の存在。しかも、他のクラスよりも所有する宝具の数は多いという。

 

 ふざけるなと言いたくなる。一流の魔術師が用意した魔力を用いて、ライダーの宝具を後先考えず使わせながら夜の街を横断するという最悪の想定をしてしまう。そんなことは決してない、としてもいざという時を考えてしまうのは性分というものだ。

 

 

「よって、私はこの戦争の読み合いを放棄します。アサシン、無規則に殺めなさい。相手にとってのイレギュラーになるのです。この行いなら必ずマスターがバレません。ついでに、アサシンがはぐれの浮き駒とでも思ってくれれば幸いです。最後には全てを掻っ攫いますよ」

 

 

 

 よってタデルが選んだ道というのは読み合いをしないという道だ。アサシンが不規則に殺しに回る地獄を作り出す。バカなら、即座に殺せるし優れた英霊でも己のマスターが一瞬の油断で殺されるかもしれないと警戒を抱き続けるのは精神の疲弊に繋がる。勝手に警戒して疲れてくれるのなら大歓迎だ。

 

 それに、ここまで単独で好き勝手動いていれば、アサシンを()()()()()()()()()サーヴァントと思い接触を図ろうとする魔術師も出るのではと考える。別の英霊という選択肢は、時に良からぬ気持ちを助長する。特にサーヴァントと上手くいかず内心忌々しいと思いながら利用せざるを得ないマスターなら特に。

 

 のこのこと近づいてきて欲しい。アサシンを欲しがって取引を持ちかけてくればその勘違いを利用して一気に一組脱落に追い込める。

 

 

 でも、それは、

 

 

「アサシン……全ては祖国のために。アナタは願いのために」

 

 

 マスターという存在が、アサシンを最大限評価していなければできない選択であった。

 ──アサシンは現場で最良の判断を下す能力を有している。

 ──アサシンは単独であろうとも任務を遂行でき、情報の入手と敵の殲滅を十分にこなせる。

 

 サーヴァントを手元に置かないという選択肢は、裏切りを、不忠を絶対しないと信じている証である。

 

 

 アサシンは、己のマスターが自分をそこまで評価してくれているのだと歓喜した。

 

 

 

「…………ふふふ! 私は良いマスターに拾われたようだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンが出て行った後、タデルは残った部屋で誰にも聞かれるわけにはいかない独り言を呟く。

 

 

「……最悪アナタが負けようと、ダーニックを援助すればいいだけの話です」

 

 

 

 タデルは別に聖杯に拘泥していない。ただ、命令を下されたから戦争に参加しているだけである。負けたら負けたでそれでよし。それに、そこまで件の聖遺物に思い入れもなかった。見れるのならば、見てみたい。が、見れないのならそれでもいい。重要なのは本国の利になること。

 

 

 ──なんでも願いが叶うらしい。なんとご大層な代物なのだろう。普通の魔術師なら勿論、根源の渦へと向かう手段にする。

 

 

 けれど、もし根源に行くというのなら自分の力で行ってみたい。

 

 

 タデルは残した使い魔越しにようやく鎮火した火事の現場を見ながら笑った。

 

 

 

 

 

 火事を起こしたのは神秘の秘匿がどの程度働くのか見てみたかったから。実は、複数火事を起こして様子を見ていた。一つは、自分の操る人形によって引き起こした火事。二つ目は、アサシンの宝具を利用した小規模な火事。三つ目は部下にやらせた大規模な火事。

 

 

 興味深いのは、教会が一番に行動を起こしたのは二つ目、次に一つ目であり、最後に三つ目である。被害の規模を優先するのではないらしい。

 

 

 タデルは検証に満足しながらこれからを考える。

 

 

 戦というのならいつも通りにやればいい。

 

 自分たちの力を蓄え、相手の気を削ぐ。最後に全てを根こそぎ頂く。

 

 

 そもそも、

 

 

「サーヴァントとマスター、二人だけの陣営で戦争をするというのが私にはピンと来ません」

 

「魔術師の暗闘風情を戦争と? 肩腹痛し」

 

「現代の戦争ではない。……トロイア戦争あたりを想像してみるとイイんですかね? 夜は目一杯戦って昼になると皆大人しく逃げ帰る……なんと、お行儀のいいことか」

 

 

「バカですね。戦争っていうのは常に起こっているものです。神秘の秘匿が気になるのなら、神秘の秘匿以外で相手を追い込めばいいだけ」

 

「下劣な魔術師風情が、戦争を舐めないでいただきたい」

 

 

 

 タデル=ローターヒュゲル。

 

 とある魔術師(ユグドミレニア)の甘言に乗せられ国から派遣された軍人である。別名、【赤い丘】。

 

 

 

 殺し合いに秀でた、戦争家である。

 

 




聖杯戦争って真正面から戦う三騎士陣営よりもあーだのこうだの繰り返しながら勝ち抜きを目論む四騎士目線の方が個人的に面白く感じる。

最近のマスターの推しは土御門
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