総武高校・夕方・用務員室。
八神と雪乃、結衣と話してから2日後、総武高校の用務員室に、森崎の姿があった。八神がモップを壁に立てかけ、ドアを閉める。森崎は肩を震わせ、うつむいたまま立っていた。顔は青ざめ、唇を噛んでいる。八神は椅子に腰掛け、煙草をくわえずにただ指で弄ぶ。
「座れよ、森崎。話があるんだろ?」
森崎はゆっくりと椅子に座り、震える声で切り出した。
「……もう、耐えられないんです。塵山絵里に……命令されて……」
八神は静かに頷く。
「続けろ。全部話せ」
森崎は、バス停で絵里に絡まれた日から、下着を盗んだこと、久保と同じく脅されていたこと、八幡の情報を送り続けていたことを、途切れ途切れに語った。絵里の脅し文句、久保との連絡、八幡の席を撮影した写真――全てを吐き出した。
「俺……もう逃げられないと思って……八神さん、助けてください……」
八神は煙草をくわえ、火をつけずにため息をつく。
「逃げられないのは、俺も同じだ。だが、逃げ続けるより、向き合った方がマシだろ。警察に出頭しろ。俺が証人になる」
森崎は涙をこぼし、頷いた。八神はすぐに雪乃と結衣にメールを送る。
「森崎が助けを求めてきた。絵里のことを話した。詳細は俺が聞く。まずは待機してくれ」
雪乃からの返信は短い。
「わかりました。八神さん、森崎君の安全を優先してください」
八神はスマホをポケットにしまい、森崎に言う。
「今すぐ警察に行け。俺がついてく」
森崎は立ち上がり、震える足で用務員室を出た。八神は後ろからついていく。校舎の裏口から出ると、すでに警察のパトカーが待機していた。八神が事前に連絡していたのだ。森崎はパトカーに乗せられ、警察署へ。八神は「後で証言する」とだけ言い、校舎に戻った。
千葉県内・夕方・千葉市内・廃工場跡。
同じ頃、藍沢姫香は千葉市内の廃工場跡にいた。八神の仲間から「塵山絵里がここにいる」というタレコミが入ったため、単身で向かった。
廃工場は鉄骨が剥き出しになり、コンクリートの床に雑草が生え、夕陽が赤く差し込んでいた。藍沢は静かに建物に入る。奥の部屋から、笑い声が聞こえる。絵里が一人で座り、スマホを弄っていた。絵里は藍沢を見つけ、ケラケラ笑う。
「あら、藍沢姫香? 昔のナンバー2とは思えないほど、変わったわね」
藍沢はため息をつく。
「変わったのはお前の方だろ、塵山」
絵里は立ち上がり、金属バットを手に持つ。
「ふふ、八幡を苦しめてるの、私の楽しみなのよ。あなたには関係ないわよね?」
藍沢は静かに構える。
「関係ある。比企谷八幡を守る依頼を受けてる」
絵里は笑いながらバットを振り上げる。
「じゃあ、昔みたいに遊ぼうか!」
バットが空を切る。藍沢は一瞬で距離を詰め、絵里の腕を掴む。バットが落ち、絵里の体がねじ伏せられる。藍沢の護身術は、横浜で鍛えられたものだ。絵里は抵抗するが、すぐに地面に押さえつけられる。
「もう終わりだ、塵山」
藍沢はスマホを取り出し、八神と自分の仲間たちに連絡。
「塵山絵里、確保した。警察を呼んでくれ」
絵里は地面に押さえつけられながら、笑う。
「ふふ……まだ終わらないわよ、藍沢……」
だが、その笑顔はすでに崩れ始めていた。
千葉県・夜・◯◯警察署。
森崎は警察に出頭し、八幡の下着を盗んだ事実、絵里の脅し、久保との連携を全て自白した。久保も、警察の事情聴取を受け、すぐに罪を認めた。
万引きから始まった脅迫、八幡への痴漢、ストーキング、下着泥棒――全て絵里の指示だったことを認めたのだ。美津雄の父、久保光彦弁護士は、息子の自白により、隠匿罪、証拠隠滅、圧力による学校への不正干渉で逮捕された。
学校側は大慌てで謝罪会見を開き、平塚静の謹慎と比企谷八幡の停学は無効となった。名誉回復と賠償金が支払われることが決まった。怒級高校も同様に調査が入り、絵里の行動が明るみに出た。藍沢が絵里を確保したことで、事件は決着した。総武高校では、八幡の無実が証明され、奉仕部は再び活動を再開。雪乃と結衣は、八幡の帰りを待つ。
神奈川県内・夕方・横浜市・異人町・ミライ横浜ビル・5ー14・麦谷家・リビング。
藍沢さんとの再会から数日経っていろんなことがあった。
いつものように予習復習をやっていたら、雪乃からメールがきた。
「森崎君、八神さんに助けを求めた。絵里のことを話したよ。久保も落ちたから」
森崎君……私と同じクラスの男子。なんで絵里と繋がってたの? 八神さん、用務員として潜入して、森崎君の自白引き出したって。久保も、警察に出頭したらしい。絵里、廃工場で藍沢さんに捕まったって。藍沢さん、ほんと変わったよ。昔のいじめっ子が、私を守るために動いてくれるなんて。
平塚先生の謹慎も無効、停学も取り消された。名誉回復と賠償金、支払われるって。学校、謝罪会見開いたらしい。久保の親父、逮捕されたって。
私、横浜で静かに過ごしてたけど、みんなが動いてくれた。雪乃の冷静な報告、結衣の「やーちゃん、早く戻ってきて!」ってメール、他のみんなの励ましのメール、本当に私を勇気づけてくれた。みんな、私のために動いてくれた。
桜花叔母さんが笑顔で
「八幡さん、もう大丈夫ですわね」
と、丁寧に微笑んでくれた。
停学、終わった。私の横浜生活は終わりを告げる。
横浜もすごく良かったけれど、やっぱり千葉に戻るよ。
夏休み前だけど、私、奉仕部に戻れることが嬉しくなってる。雪乃、結衣、みんなに、めっちゃお礼言わなきゃ。藍沢さんにもメールを送った。
「色々と助けてもらってありがとう。短い間だったけど藍沢さんと話せてよかったよ」
藍沢さんすぐに返信してくれて
「私にとってはこれくらいで借りを返せたとは思ってないから。これから何かあったらすぐに連絡して。必ず助けに行くから。私もあの人……横浜の英雄みたいになりたいから」
横浜の英雄……八神さんかな? 藍沢さん、変わったよ。昔の悪魔みたいな女じゃなくなった。私も、変わったかも。
トラウマ、完全には消えないけど、みんながいるから、強くなれる。横浜の空、きれい。千葉に戻ったら、また騒がしい日常が待ってる。嫌いじゃないよ、もう。横浜で色々と私自身も見つめ直すこともできたから。
私は私なりのスピードで、進むよ。
第一部終了です。次回からは第二部になります。
八幡の相手は誰が良いですか?
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1ー高橋雅史
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2ー葉山隼人
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3ー材木座義輝
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4ー戸部翔
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5ーその他