ヤハタちゃんの青春ラブコメはできるのだろうか?   作:龍造寺

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第2章2話です。


第2話ー補習と期末テストと……新たなる決意。

 

比企谷家・朝・八幡の部屋。

 

終業式から数日が経ち、本格的な7月の補習期間が始まった。停学中に受けられなかった授業と期末テストを、7月末までにまとめて消化しなければならない。担任の先生は『午前中だけでいい』と言ってくれたけれど、正直に言えば、それだけでは足りない気がする。

 

私は自分から午後も残ることを申し出た。『遅れを取り戻すなら、それぐらいしないと』雪乃の言葉が頭に残っている。

 

ライバルだと言われた以上、中途半端な結果は出したくない。

 

総武高校・午前・2年F組。

 

補習は少人数だった。私と、赤点、病気や事故で長く休んでいた数人の生徒だけ。担任が丁寧に要点をまとめてくれるけれど、やはり1人で授業を受けるのとは勝手が違う。

 

午前の授業が終わる頃、教室のドアが軽くノックされて、麦野さんと上条さんが顔を出した。

 

「比企谷、ノート持ってきた。使え」

 

「私もプリントをまとめといたよ。比企谷さんならすぐにわかると思う」

 

「……ありがとう」

 

2人はそれ以上何も言わずに去っていった。余計な励ましも、心配の言葉もいらない。

 

ただ『普通に戻ってこい』という無言のメッセージが、何より嬉しかった。

 

午後は雪乃と結衣が、奉仕部の教室で待っていてくれた。

 

「比企谷さん、今日の範囲はここまでよ」

 

雪乃が淡々とプリントを差し出す。結衣は机に肘をついて、にこにこと笑っている。

 

「やーちゃん、無理してない?」

 

「してないよ。むしろ、しないと落ち着かないくらい」

 

「ふふ、やーちゃんらしい」

 

雪乃が本のページをめくりながら、静かに言った。

 

「追いついてきているわ。このペースなら、テストでも十分戦える」

 

「……ありがとう、雪乃」

 

ライバルという言葉を、彼女は本気で使ってくれている。

 

だから私も、本気で応えたい。

 

総武高校・7月下旬・空き教室。

 

補習が終わり、いよいよまとめの期末テスト。国語、数学、英語、社会、理科。停学中に勉強していた成果が、意外と出てくれた。

 

特に国語と歴史は手応えがあった。雪乃ほどの点数は取れないけれど、少なくとも『停学してたから』と言い訳する必要はない結果になったと思う。

 

テスト最終日の放課後、職員室横の掲示板で3人で結果を見た。雪乃が改めて出された順位を張り出された紙を確認して、少しだけ目を細めた。

 

「学年1位は私。比企谷さんは……5位ね」

 

「5位……まあ、及第点かな」

 

「及第点どころではないわ。停学明けでこの順位なら、十分すぎる」

 

結衣がぱちぱちと手を叩く。

 

「やーちゃんすごい! ゆきのんとそんなに変わらないよっ!」

 

「1位と5位じゃそんなに変わらないわけじゃないんだけどね…」

 

それでも、内心は少しだけ誇らしかった。

 

雪乃が『ライバル』と言ってくれた意味を、少しは証明できた気がする。

 

総武高校・正門前・夕方。

 

テストが全て終わり、ようやく本当の夏休みが始まる。校門を出ようとしたとき、背後から声をかけられた。

 

「八幡」

 

振り返ると、そこにいたのは高橋雅史だった。海浜総合高校の制服を着た、茶色い髪の爽やかなイケメン。近所の幼なじみで、幼稚園からの付き合い。綾音たちと一緒にいることが多い彼が、なぜここにいるのか。

 

「雅史……どうしたの?」

 

「終業式の日から、様子見に来ようと思ってたんだ。でも、補習とテストがあるって聞いて、今日まで待ってた」

 

彼は少し照れたように頭を掻いた。

 

「無事に終わってよかった。心配してたよ」

 

「……ごめんね。心配かけて」

 

「謝ることじゃない。それより」

 

雅史がまっすぐに私を見て、続けた。

 

「八幡、これから少し時間ある? 話したいことがあるんだ」

 

夕陽が差し込む正門前。事件が全て終わり、ようやく日常が戻ってきた今、幼なじみが私の前に立っている。

 

「……うん。いいよ」

 

私は短く答えて、彼と並んで歩き始めた。

 

暑い夏の風が、二人の間を優しく通り抜けていく。

 

 

正門を出た瞬間、雅史が並んで歩き始めた。

 

「少し歩こうか」

 

「うん」

 

2人で住宅街へ向かう。いつもなら自転車でさっさと帰る道を、今日は歩いていく。雅史は海浜総合の制服のまま、私の少し前を歩くこともなく、すぐ隣を保っていた。沈黙が続くわけでもなく、かといって無理に話題を探すわけでもない。ただ、自然に足を進める。

 

「補習とテスト、全部終わったんだって?」

 

「うん。なんとかね」

 

「期末テストの結果…八幡、5位だったらしいな」

 

「……誰から聞いたの」

 

「綾音経由で由比ヶ浜さんから。あの事件で雪ノ下さんたちとも知り合ったからな」

 

雅史が少しだけ笑う。その笑顔は、幼稚園の頃からほとんど変わっていない。私をからかうときの笑顔でもあり、心配しているときの笑顔でもある。

 

「無事でよかったよ、八幡」

 

「……ありがとう」

 

住宅街を抜け、いつもの公園が見えてきた。小さな遊具とベンチが並ぶ、近所の公園。子供の頃、綾音や緑子、七海、雅史と毎日のように遊んだ場所だ。

 

今は夕陽が斜めに差し込み、ベンチの影が長く伸びている。雅史がベンチを指差した。

 

「ここでいいか?」

 

「いいよ」

 

2人で並んで座る。風が少し暑さを和らげてくれる。

 

近所の公園・夕方。

 

雅史はしばらく空を見上げていた。それから、ゆっくりと口を開いた。

 

「今回の件……俺、色々考えさせられた」

 

「雅史も?」

 

「ああ。お前が停学になって、横浜に行って、警察が動いて……新聞にも載ったし、学校中がざわついてた。俺は直接何もできなかった」

 

彼は膝に手を置き、俯く。

 

「綾音たちと一緒に、署名とか抗議とかはしたけど……結局、八幡が1人で耐えてる間、俺は何もできなかった気がして」

 

「そんなことないよ。メールもくれたし、みんな動いてくれてた」

 

「それでも、足りなかった」

 

雅史が顔を上げる。夕陽が彼の横顔を赤く染めている。

 

「八幡がいない間、俺は何度も思った。『あの子がいないと、なんか足りない』って。幼稚園からの付き合いで、近所に住んでて、いつも当たり前にいた存在が、急にいなくなったら……こんなに痛いのかって」

 

私は黙って聞いている。言葉を挟むタイミングがわからない。

 

「最初は『幼なじみだから心配してる』って自分に言い聞かせてた。でも、違う。もっと……特別なんだ」

 

雅史が私の方を向く。目が、まっすぐだった。

 

「八幡。お前は俺にとって、大切な女の子だ。改めて、そう自覚した」

 

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

 

「だから……」

 

雅史が息を吸い込み、言葉を続けようとした瞬間、私は反射的に手を上げた。

 

「待って」

 

雅史の言葉が止まる。

 

「……ごめん。先に言わせて」

 

私は自分の膝を見つめたまま、話し始めた。

 

「雅史がそう言ってくれるの、嬉しい。本当に嬉しい。こんなふうに思ってもらえるなんて、光栄だよ」

 

「八幡……」

 

「でも、今は……まだ無理」

 

雅史の表情が、わずかに揺れた。

 

「今回の事件、完全に振り切れたわけじゃないの。夜、ふとした瞬間に思い出すこともあるし、自転車もまだ警察に押収されたままで、歩くと少し不安になることもある」

 

「……そうか」

 

「それに、勉強も遅れてる。停学中に必死でやったけど、まだまだ追いついてない部分がある。雪乃に『ライバル』って言われた以上、ちゃんと結果を出さないと、自分が納得できない」

 

私は顔を上げて、雅史を見た。

 

「だから今は、恋愛とか考える余裕が、正直ない。自分のペースで、まずは日常を取り戻したいの」

 

雅史は静かに頷いた。寂しそうな目をしている。でも、怒りや苛立ちは感じられなかった。

 

「……八幡らしいな」

 

「え?」

 

「ちゃんと自分の気持ちを優先する。無理に答えを出さない。昔からそうだった」彼が苦笑する。

 

「待ってるよ。焦らなくていい。お前が『いいよ』って言えるようになるまで」

 

「……ありがとう」

 

「礼なんかいい。俺の方こそ、いきなりこんな話して悪かった」

 

雅史が立ち上がる。ベンチの端で手を伸ばし、私の頭を軽く撫でた。子供の頃と同じ仕草。

 

「じゃあ、送るよ。家の前まで」

 

住宅街・夕方2人で並んで歩く。雅史の家は私の家の近くにある。幼稚園からの幼なじみだから、道を覚えるまでもない。雅史の家の前で立ち止まる。

 

「ここでいいよ」

 

「うん。八幡、無理するなよ」

 

「しない。雅史も」

 

「ああ」

 

彼は少しだけ手を振って、家の中に入っていった。ドアが閉まる音が、静かに響く。私は1人、夕陽を正面に見て立ち尽くした。

 

比企谷家近く。

 

夕陽の道空が真っ赤に染まっている。夏の夕陽は長い。雅史の言葉が、耳に残っている。

 

『大切な女の子だ』

 

嬉しい。本当に嬉しい。幼稚園から一緒にいて、中学の頃に私がイジメられていたときも、綾音たちと一緒に助けてくれた彼が、今こうして私を特別な存在だと言ってくれる。

 

でも、今はまだ無理だ。事件の傷は、完全に消えていない。夜中にふと目が覚めて、誰かに見られているような錯覚をすることがある。自転車がなくなったことで、歩くたびに周囲を警戒してしまう癖も残っている。

 

勉強も、まだ穴がある。雪乃に追いつけない自分を、許せない部分がある。恋愛を考える余裕なんて、今の私にはない。

 

でも——逃げているわけじゃない。

 

いつか、ちゃんとケリをつけないといけないこともわかっている。雅史の気持ちを、曖昧なままにし続けるのは失礼だ。自分の気持ちが固まったら、ちゃんと向き合おう。今は、一歩ずつ。

 

私はゆっくりと足を踏み出した。家までの短い道を、丁寧に歩く。夏の風が髪を揺らし、蝉の声が遠くで鳴いている。停学が明け、補習が終わり、テストも終わった。ようやく、私の遅れた夏休みが始まる。

 

比企谷家の玄関が見えてきた。鍵を開けて、中に入る。

 

「ただいま」

 

小町の声が、すぐに返ってきた。

 

「おかえり、お姉ちゃん!」

 

いつもの日常が、確かにここにある。私は靴を脱ぎ、ゆっくりとリビングへ向かった。夕陽が窓から差し込み、部屋をオレンジ色に染めていく。

 

これから始まる夏休みを、私は一歩一歩、自分のペースで歩いていくつもりだ。

 

八幡の相手は誰が良いですか?

  • 1ー高橋雅史
  • 2ー葉山隼人
  • 3ー材木座義輝
  • 4ー戸部翔
  • 5ーその他
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