ヤハタちゃんの青春ラブコメはできるのだろうか?   作:龍造寺

30 / 30
第3話です。


第3話ー家族で九州旅行。

 

比企谷家・8月上旬・リビング。

 

8月に入ってすぐ、家族会議が開かれた。

 

「今年の夏休み、九州に行かない?」

 

お父さんが、いつものようにゴルフ雑誌を置きながら切り出した。お母さんがすぐに頷く。

 

「八幡も小町も、長いこと遠出してないし。塵山の件も一段落したことだし、気分転換にいいんじゃない?」

 

私は一瞬、戸惑った。補習とテストが終わったばかりで、まだ『夏休みが始まった」』という実感が薄い。でも、雅史との会話の後、何か新しい風が欲しい気がしていた。

 

「……いいよ。行きたい」

 

小町が目を輝かせる。

 

「やったー! 九州! 温泉入って、おいしいもの食べて、歴史スポット巡って!」

 

「小町、欲張りすぎ」

 

「お姉ちゃんも歴史好きじゃん。一緒に回ろうよ」

 

結局、日程は8月5日から12日までの1週間。鹿児島から始まって、宮崎、熊本、天草、長崎、佐賀、福岡と回るルートになった。大分は時間が足りなくなりそうなので、今回は見送り。出発の前日、私はスマホを開いて、連絡を入れた。

 

雪乃には短く。

 

『8月5日から九州旅行に行きます。1週間ほど不在です』

 

すぐに返信が来た。

 

『気をつけて。歴史の話、戻ったら聞かせてちょうだい』

 

結衣にはもう少し柔らかく。『結衣、九州旅行行くよ。1週間くらい』

 

『えー! 楽しんできてね! 写真いっぱい送って! お土産お願い!』

 

麦野さんと上条さん、綾音、緑子、七海、雅史にも簡単に報告した。

 

みんな『楽しんできて』『無理するなよ』と返してくれた。

 

雅史だけは少し長めに。『ゆっくりしてこい。待ってる』

 

私は画面を閉じて、深く息を吐いた。

 

8月6日・宮崎

 

次の日は宮崎へ移動。天の戸(天岩戸神社)と高千穂を回る。天岩戸神社の奥宮まで歩いて、天の岩戸伝説の舞台を見た。木々が生い茂る中に、静かな空気が流れている。高千穂峡では、ボートに乗って真名井の滝を見上げた。エメラルドグリーンの水面が、夏の日差しを反射してきれいだった。小町がボートの縁から身を乗り出して、

 

「お姉ちゃん、写真撮って!」

 

「危ないから座って」

 

それでも私はスマホを構えて、小町と背景の滝を撮った。自分も一緒に写っている写真を、後で雪乃や結衣に送ろうと思った。夜は高千穂の温泉旅館。露天風呂に浸かりながら、私は空を見上げた。星が、千葉よりずっと近くに見えた。

 

「……戻ってきたら、もっとちゃんと日常を歩こう」

 

小さく呟く。誰も聞いていない言葉。でも、自分には聞こえた。

 

 

8月7日〜8日・熊本。

 

熊本では、熊本城と阿蘇を中心に回った。熊本城は修復が進んでいて、黒く荘厳な姿が残っている。加藤清正の時代から続く歴史を、ガイドの説明を聞きながら歩いた。阿蘇は雄大だった。

 

カルデラの大きさと、草千里の広さに、小町が『広大すぎる!』と叫ぶ。

 

私たち家族は、草の上に座って弁当を食べた。風が強くて、髪が顔に貼りつく。

 

「八幡、笑顔が増えたわね」

 

お母さんが、ふと私を見て言った。

 

「……そう?」

 

「うん。横浜から帰ってきた頃より、ずっと自然よ」

 

お父さんが横から

 

「まあ、旅行の効果だな」

 

と笑う。小町が

 

「お姉ちゃん、もっと笑って!」

 

と私の顔を両手で挟む。

 

私は苦笑しながら、小町の手を払いのけた。家族の温かさが、じんわりと胸に染みる。事件の傷が消えたわけじゃない。でも、こうして笑える自分が、確かに戻ってきている。

 

8月9日・天草〜長崎。

 

天草から船で長崎へ。長崎は坂の街で、出島やグラバー園、平和公園を回った。出島では江戸時代の锁国時代の交流の跡を見て、グラバー園では異人館の建築に目を奪われた。

 

平和公園では、静かに頭を下げた。夜は中華街でちゃんぽんを食べる。小町が『おいしい!』を連発し、私も素直に頷いた。

 

久しぶりの家族旅行で、こんなに大きな声で笑ったのはいつ以来だろう。

 

8月10日・佐賀。

 

佐賀では『佐賀の七賢人』を扱った資料館を中心に回った。大隈重信、江藤新平、副島種臣など、明治維新を支えた人々の足跡。展示を丁寧に読みながら、私はまたメモを取った。

 

「お姉ちゃん、歴史オタク全開だね」

 

「小町こそ、さっきの武雄温泉で『もっと浸かりたい』って言ってたくせに」

 

「だって気持ちよかったんだもん」

 

2人で軽口を叩き合いながら、資料館を出る。

 

両親が後ろで『久しぶりに姉妹げんかみたいなのを見ると安心する』と話しているのが聞こえた。

 

8月11日・福岡。

 

最後は福岡。太宰府天満宮と、博多の街を軽く回って、夜は屋台でラーメンを食べた。明太子のお土産をたくさん買って、帰りの荷物が重くなる。空港で帰る便を待つ間、小町が私の肩に頭を預けてきた。

 

「お姉ちゃん、楽しかったね」

 

「うん。楽しかった」

 

「また来ようね」

 

「……そうだね」

 

飛行機が離陸するとき、窓の外に九州の夜景が広がった。私はスマホを開いて、写真を何枚か選んで送信した。雪乃へ。結衣へ。麦野さんと上条さんへ。綾音たちへ。雅史へ。

 

『九州、楽しかったよ。また詳しくは後で』

 

すぐに既読がつき、短い返信が並ぶ。

 

『おかえり』『写真ありがとう! 高千穂きれい!』『比企谷、顔色よくなったな』『待ってる』

 

画面を見ながら、私は小さく息を吐いた。

 

比企谷家・8月13日・夜。

 

家に戻って、荷物をほどく。お土産を分けて、写真を整理して、やっと落ち着いた。小町がリビングで

 

「また行きたい!」

 

と騒いでいる。お父さんが

 

「来年は大分も入れようか」

 

と答え、お母さんが

 

「八幡の笑顔が戻ってきてよかった」

 

と、私の方を見て微笑む。

 

私は自分の部屋に戻り、ベッドに寝転んだ。九州の風と、家族の声と、友達からの返信が、胸の中に残っている。

 

事件の傷は、まだ完全には消えていない。でも、確実に、一歩ずつ前に進んでいる気がする。

 

数日後・比企谷家・午後。

 

九州から帰って、何日かが過ぎた。部屋で本を読んでいると、スマホが鳴った。画面に表示された名前は

 

『上条美紗希』

 

「……上条さん?」

 

電話に出ると、彼女のいつもの落ち着いた声が聞こえた。

 

「比企谷さん、今、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だけど。どうしたの?」

 

「ちょっと相談があるの。直接会って話せる? 急がないから、都合のいいときに」

 

上条さんの声は、以前より少し真剣だった。

 

「……わかった。いつがいい?」

 

「じゃあ、明日の午後、駅前のカフェで」

 

「了解」

 

電話を切って、私は窓の外を見た。夏の陽射しが、カーテンの隙間から差し込んでいる。九州旅行で取り戻したばかりの穏やかな日常に、また新しい波が来ようとしている。でも、今度は1人じゃない。

 

だから頑張れるんだ。

 




今回は、観光地の本、歴史の本、自身が知っている情報、SNS等の情報を参考にいたしました。自分が知ってる情報が間違いではないか色々と確認しながら執筆致しました。

八幡の相手は誰が良いですか?

  • 1ー高橋雅史
  • 2ー葉山隼人
  • 3ー材木座義輝
  • 4ー戸部翔
  • 5ーその他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。