総武高校・昼前・グラウンド
3時間目、体育の時間。この時期の体育は基礎体力測定。小学校から変わらない、毎年恒例の地味な試練。1年生の時は、2人1組でやる測定で、奇数だと1人余る。その余りが私。それを見た体育教師が
【じゃあ俺と組むか!】
言ってくれたけど、断ることもできないし、しぶしぶ承諾した。
体育教師とペアでやって、周りからクスクス笑われた。悪目立ちじゃないから気にしてなかったけど、2年生も同じ運命か…と思ってたら。
【比企谷、ペア組む相手いないなら、一緒にやろう】
【え?麦野さんが1人!?】
麦野さん、突然の提案。
【組む相手いないからさ】
麦野さんも1人って、 見た目が強めだから、近づきにくいのかな。
【私も…まあ、いないし】
【なら、余りもの同士で組もう】
【余りものって…】
言葉どおりすぎるけど、間違いじゃないよね。
【うん、いいよ】
断る理由もないし、承諾。
50m走、反復横跳び、走り幅跳び、走り高跳び、垂直跳び…こんなの、日常生活に関係ないよね。最低限の体力でいいじゃん。一方、三浦さん達、陽キャ女子の一部は、男子の測定見てキャーキャー騒いでる。見ると、男子が100m走のタイム計測中。葉山君が走ったみたいで、だから騒ぎ。
海浜総合高校でも、雅史が走ったらこうなるんだろうな…。麦野さんも葉山君の方見て。
【葉山、女子にキャーキャーされてるね】
【そうね】
【そうね、って、比企谷、興味ない?】
【別に】
【ふーん】
葉山君が近づいてきたら、取り巻きの女子の怒りだけで平穏が終わる。中学のトラウマ、こりごり。麦野と一緒に50m走をさっさと終え、反復横跳びへ。
後で聞いたけど、葉山君、私の方をちらちらと見てたらしい。やめてよ、その視線で取り巻きに威圧されるんだから…。
ハンドボール投げも適度に。地味に測定を終えた。
総武高校・昼・教室
やっと昼休み、お弁当タイム。昨日、平塚先生に職員室呼ばれ、奉仕部に連行され、雪ノ下さんと出会い、強制入部。今日も奉仕部行くの、憂鬱…。鞄からお弁当出し、食べ始める。
体力測定、麦野さん、足速いし、走り幅跳びもすごかった。アニソン好きで運動も得意、なんか羨ましい。おかずを口に運びながら考える。そこへ、麦野さんが購買からパン2つ持って戻ってきた。…なんか怒ってる?
【ったく、焼きそばパン買えなかった】
席にドスンと座る。
【比企谷、ちょっと聞いてくれ】
【え? 何?】
【前の男子…先輩だったけど、最後の焼きそばパンを買ったんだ】
【焼きそばパン…】
麦野さんが狙ってた焼きそばパンを、先輩男子が購入。交換を頼んだら断られ、2つのパンとの交換も拒否されたらしい。私なら2つのパンと交換するけど、その先輩、よっぽど焼きそばパン好きだったんだね。
【先輩、焼きそばパンに命かけてたみたい】
【焼きそばパンで命かけてるって……それは褒めていいのかな?】
焼きそばパンの話題から麦野さんの視線は、机の上に広げている私の弁当を見ていた。
【比企谷、いつも弁当だけど、自分で作ってる?】
【たまに作るけど、ほとんどお母さん】
【お母さんが作るのか…いいな】
【…麦野さんのお母さんは作ってくれないの?】
【ハハ、恥ずかしい話、うち、母子家庭でさ。お母さん、1日中働いてる。料理してみたけど、うまくいかなくて…】
母子家庭…お母さんに全てがかかってるんだ。私、恵まれてるな…。
【比企谷、なんで暗い顔? 気にするなよ。お母さんと2人でも、幸せだから】
【麦野さん…】
【暗い顔だと弁当まずくなるよ。笑顔で食えよ】
麦野さん、クリームパンをパクリ。私も箸を動かし、弁当を再開。
総武高校・放課後・2年F組
ホームルーム終了。トイレで時間潰し、教室に戻って帰ろうとしたら、平塚先生に捕まった。仁王立ちで『帰すか!』オーラ全開。なんなの、この人…。
【比企谷、部活の時間だ】
【はぁ…】
ゴロゴロタイムがまた消滅。雪ノ下さんと顔合わせるの、憂鬱。平塚先生、私の腕を掴もうとする。スルッと交わす。ズイッと再び手を伸ばされ、ヌルリと避ける。
【あの、1つよろしいですか? この学校、生徒の自主性を尊重し、自立を促す教育方針じゃなかったですか?】
【残念だが、学校は社会に適応するための訓練の場だ。社会じゃ君の意見は通らん。今のうちに強制に慣れたまえ】
鋭い目で睨まれ、拳握ってる。私、男だったら絶対パンチくらってた…。
【次、逃げたらわかってるな? 私を煩わらせないでくれ】
次、拒否したら叩かれる確定!? 痛いの嫌いなのに…。
歩きながら、平塚先生が思い出したように。
【ああ、そうだ。次逃げたら、雪ノ下との勝負は問答無用で君の不戦敗だ。ペナルティも科す。3年で卒業できると思わない方がいい】
逃げ道、完全封鎖!? ゴロゴロタイム永久没収!? 作文の恨み、いつまで…。地獄の階段登ってる気分。
【平塚先生、いい加減、腕離してください。逃げませんから】
【寂しいこと言うな。私が一緒に行きたいんだよ】
優しげな微笑み。普段の吊り目とギャップありすぎて、ビックリ。
【君を逃がして後で苦労するなら、嫌々でも連行した方が私のストレスが少ない】
【何、その理由!?】
【嫌で嫌で仕方ないが、君を更生させるために付き合ってやってる。美しい師弟愛いうやつだ】
【師弟関係じゃないです! 気持ち悪いもの押し付けないで!】
【さっきの言い訳といい、捻くれてるな。秘孔が逆の位置にあるんじゃないか? 聖帝十字陵作るなよ?】
【なんで私が聖帝十字陵!? 中二病じゃないです!】
【もう少し素直なら可愛げがあるぞ。比企谷、素材はいいんだから、普通にしてれば男子にモテるぞ。なんで世の中を斜めに見る? 楽しくないだろ?】
【面倒事が舞い込むから、目立たず静かに暮らしてるんです】
【目立たず静かにって、お前な】
【価値観の押し付けもどうかと思います】
いつまで続く、このやり取り…。平塚先生、疲れた声で。
【はぁ~…そういえば、君、アニメ好きか?】
【まあ、好きですけど】
【一般文芸は? 東野圭吾、伊坂幸太郎は?】
【人並みに】
【好きなライトノベルレーベルは?】
アニメ、文芸、ライトノベル…決まってるよね。
【ガガガ、講談社BOX、電撃文庫。あと、ライトノベルじゃないけど、歴史小説】
【…期待を裏切らないな。立派な高二病だ】
高二病!? 中二病の上位互換? 違うよね…。平塚先生、説明開始。
【高二病は高二病だ。高校生特有の思想。ひねくれてるのがカッコいいとか、『働いたら負け』とかネットで流行る意見を言いたがる。売れてる作家や漫画家に『売れる前の作品が好き』とか言う。メジャーを馬鹿にし、マイナーを褒める。同類のオタクも馬鹿にする。悟った雰囲気でひねくれた理論を出す。一言で、嫌なやつ】
【…私がそう見えてます?】
【いや、世間一般論だ。近頃の生徒は器用で、現実と折り合いをつける。教師としては張り合いがない。工場で働いてる気分だ】
【近頃の生徒、ですか】
『近頃の若者』って、明治から言われてるよね。歴史の繰り返し。価値観は時代で変わる。
【君、言いたそうな顔してるな。それが高二病だよ】
【私が?】
【勘違いするな、割と本気で褒めてる。考えるのを放棄しない人間、好きだよ。捻くれてるけどな】
不思議な褒められ方…初めてかも。
【そんな捻くれた比企谷から、雪ノ下雪乃はどう映る?】
【…苦手なタイプかな】
【そうか】
平塚先生、苦笑。
【優秀な生徒だが、持つものは持つもので、苦悩もある。けど、優しい子だ】
雪ノ下さん、ムカつく雰囲気だけど、色々くぐり抜けてきた感じはある。私と同じ経験を、違う方法で乗り越えたのかも。それで、誰かを救いたいって思うようになった?
【彼女もどこか病気なんだろうな。優しくて正しいものを正したい。だが、世の中は優しくも正しくもないから、生きづらいだろう】
【そうですね】
世の中、良い方には動かない。悪い方にはすぐ動くのに。
【君も雪ノ下もひねくれてて、社会に適応できなさそうなのが心配だ。だから一箇所に集めたくなる】
【平塚先生、私達、隔離病棟の患者ですか!?】
【そうかもな。けど、君達みたいな生徒は面白くて好きだ。手元に置きたいだけだ】
楽しげに笑う平塚先生。私の腕、未だに掴んでる。諦めて歩く私だった。
八幡の相手は誰が良いですか?
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1ー高橋雅史
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2ー葉山隼人
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3ー材木座義輝
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4ー戸部翔
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5ーその他