龍騎外伝 仮面ライダーモリオン   作:EpoMeta

15 / 23
第14話「冷たい人」

 ネットの散文によると、お葬式の準備が慌ただしいのは、その忙しさが遺された人たちの悲しみを少しだけ紛らわせるからだそうです。

 

 深夜、大学病院の一室のドアが音もなく開き、そこから一組の男女が現れた。この大学病院に勤める医師、鳥飼友孝と彼の教え子でもある開業医、黒井由利亜であった。両者の表情は浮かないものであり、小さな蛍光灯の灯りが彼らの顔に影を落としていた。

「残念だったな、例の患者。まだ若いのに。執刀した君にはきついだろう」

「……いえ、戦地ではよくあることでしたので」

 鳥飼がその長い髭の隙間から口を開く。その言葉に静かに黒井は答えた。彼らがいたのは普段の手術室ではなく、法医学教室、検死解剖を行う部屋であった。

「術後も何度も顔を合わせていましたが……」

「そうか……」

 黒井は自分が出てきた部屋、そしてそこに横たわったままの人物の事を思い、小さく息を吐いた。人気のない病院の中で、彼らの足音だけが遠く響いた。

 

「黒井!」

 帰宅せんと歩く彼らを呼び止める声が、その足音を遮った。自らの名前を呼んだその声に、黒井はその足を止めて振り返った。

 そこに立っていたのは無地の黒のジャケットにネクタイ、糊の利いた白いワイシャツによく磨かれた革靴を身につけた長身の男、緑川雅也であった。年齢に見合わぬ深い皺の刻まれた眉間から鋭い目線が覗いている。

「あら緑川さん、こんばんは。その服装はまるでお葬式みたいね」

「当然だ。検死解剖の報告を聞きに来たのだから、死者への敬意だよ」

 黒井の挨拶に緑川は返す。しかし、彼の言葉を聞き鳥飼が疑問の声を上げた。

「報告だって?今日は遅いしそれは明日予定していたはずだが?」

 髭を弄りながら緑川にそう声を上げる鳥飼だが、緑川はその姿に何かを確認するようにわずかに沈黙する。その様子に何かを感づいた黒井が口を挟んだ。

「ああ、彼は鳥飼先生。この大学病院の勤務医でわたしの恩師」

 黒井がそう言いながら鳥飼の方を示すと、緑川は疑問が氷解したかのように表情を緩めた。

「あなたが鳥飼先生でしたか。私は緑川雅也と申します。書面で名前は存じ上げていましたがこうして直接会うのは初めてです。失礼をいたしました」

「いえ、こちらこそ。黒井先生とは以前からの知り合いのようだが?」

「職業柄、顔を合わせる機会が多く」

 そう言うと緑川は黒井の方をちらりと見た。視線に気づいた黒井は小さく舌を出して微笑むと、その表情に鳥飼が鼻を鳴らす。

「報告ですがやはり今日は遅いので、また明日出直しましょうか?」

 少し小さな声で、緑川はそう切り出した。その言葉に鳥飼は髭を弄りながら答えた。

「そうしていただけるとこちらとしても助かるが……」

「申し訳ないです。では明日改めて」

 緑川は懐から手帳を取り出して予定をメモする。質のいいボールペンが紙を撫でる音が静寂の中に響いた。

「……黒井先生には別の用があるのですが、よろしいでしょうか」

 ボールペンのキャップを閉めると、緑川は二人にそう尋ねた。その問いに黒井と鳥飼は目線をかわす。

「わたしは構いませんが」

「彼女がいいと言うなら、私も特に断る理由はないな。あまり遅くならないうちに帰るように」

「ありがとうございます」

 緑川が頭を下げて礼を言うと、鳥飼は黒井に注意事項を伝え先に帰ってしまった。その背中を見送ると、二人は待合用のベンチに並んで腰を下ろした。

 

「それで、わたしに一体何の用?夜のお誘いかしら?」

「あいにくだがデートじゃない」

 足を揃えて座った黒井に、緑川は手にした鞄からファイリングされた書類を手渡した。

「これは、今回の検死解剖の対象についてね……」

「そうだ。今回の遺体、飛び降りだという目撃証言がある。だが、先日事故による脚の怪我で手術を受けたそうだな。黒井、お前に」

 紙面をめくりながら緑川は続ける。書類に落とした目線はまるで剣のように鋭かった。

「その手術も本来なら両足の切断が手法として取られるようだが、お前は卓越した技術でぐちゃぐちゃになった骨や神経を元通り繋げてみせた」

「……まさか、わたしが手術したから飛び降りたとでも言いたいの?冗談でしょう?」

 黒井は緑川の言葉に驚いたように言葉を返した。しかし、黒井の声に緑川は何も返さない。その態度に黒井は小さく息を吐いた。

「……あいにく、そういうことなら明日鳥飼先生に聞いてみてくださる?先生の方がきっと詳しいわ」

「ああ、そうしよう」

 そうして緑川が会話を切り上げると、二人の間を重い沈黙が包んだ。暗い病棟の中で非常灯が小さく明滅を繰り返している。

 

「ねぇ、少し歩かない?」

 何分ほど経っただろう。ふと黒井は立ち上がると緑川にそう言った。彼はその言葉に無言で応じて立ち上がった。

 深夜、静まり返った病院は灯りも少なく薄暗い。同じ建物の中には今もまさに何百人もの患者が入院しているのに、人気のない外来病棟の方に来てしまえば、まるでこの世界に二人きりのようだった。

「これってデートじゃない?」

 小さな声でそう言いながら、黒井は緑川の方を向いてはにかんだ。その表情に、緑川は目を伏せて視線を逸らす。

「よせ、私には妻子がいる。直接会って知っているだろう」

 黒井の真っ黒な瞳を緑川は覗こうとはしなかった。何か自分の中の大事なものを崩されそうな気がしたから。

「もちろんよ。だからさっきのは冗談のつもり」

 自動販売機の前に立った黒井は、缶コーヒーを購入すると緑川へと投げ渡した。缶の金属質な表面が、自動販売機の光に照らされてきらめいた。

「冗談でも、言って良いことと悪いことがある」

 宙を舞った缶コーヒーをキャッチすると、緑川の手のひらにその冷たさが伝わってくる。水滴が彼の指の間を撫でた。

「誰がそれを決めるのかしら?緑川さんはどう思う?」

 自分の缶コーヒーを購入した黒井は、そう言いながら屈みこんで取り出し口に手を伸ばした。

「『法』だ。全てを決めるから法は法足りえる」

「そうね。だけど今は罪じゃないことでも過去、あるいは未来だと罪になっていることがあるじゃない?もちろんその逆も」

 缶コーヒーが引っ掛かっているのか、黒井は緑川に話しかけながらも自動販売機の取り出し口に手を入れていた。

「死のうとした人間の気持ちを知りたがることは、罪になるかしら?あ、やっととれた」

「……罪だと?」

 ようやくコーヒーを取り出した黒井は、屈んだ状態からゆっくりと立ち上がると緑川にそう尋ねた。黒井の表情はちょうど自動販売機の光の逆光となって読み取れない。

「それを決めるのも『法』だ。そして私は法の下に立っている」

 そう言い放った彼の横顔を眩しいくらいの光が照らし、法の番人を自負するその輪郭を鋭く浮かび上がらせた。光を受けた半分側だけを。

 

「わたしは生きるのも死ぬのも何百、何千と見てきたわ。それこそ星の数ほど」

 深夜の病院の屋上で、黒井は夜空を見上げながらそう言った。彼女の真っ黒な瞳の中ではいくつもの星が瞬いている。

「人の死って、いつ決まると思う?」

 緑川の顔を覗き込んだ黒井は、彼にそう問いかけた。その言葉に緑川は眼下に広がる街の夜景を見ながら口を開いた。

「呼吸停止、脈拍停止、瞳孔拡大……。この三つが確認できた時だろう。医者であるお前の方が詳しいはずだ」

「そう、その通りよ。だけどそれを判断できるのは、医者だけだわ」

 缶コーヒーを開けた黒井は、その飲み口に唇をつける。

「人の死を決めることができるのは医者だけ……。だからわたしはこの仕事が好きなの」

「どういう意味だ?」

「死を決めることができるなら、生を決めることもできる……。生命に携わるこの仕事は、いわば人間性の究極よ」

 そう語る黒井の言葉には、普段以上の熱意が込められていた。彼女は本当に、医者という仕事が好きで誇りを持っているのだろう。もしそうなら、先程手術したせいで患者が死んだ、というのは悪い言い方をしてしまったなと緑川は感じながら、缶コーヒーを口に含んだ。

「だから、殺人事件の犯人なんかが何人殺したとか言うのはわたしにとって滑稽で。首を絞めても体を刺してバラバラにしても、お前は誰一人殺せてないんだぞーって」

「……さっきから笑えない冗談ばかりだ」

「そう?あなたなら分かってくれると思ったのに」

 黒井は緑川に顔を向けて目を細めた。その表情に緑川は目線を合わせることなく、ただ街の夜景ばかりをぼんやりと見ていた。

 

 黒井の言う通り、緑川には彼女の気持ちがどこか理解できた。だからこそ、笑うことなどできず、理解したくもなかったのだ。

 黒井が自らを「生死」を決めることができるからこその医者だ、というが、緑川は検察官として刑罰の最前線に立ちながらも、自分が「罪」を決めた、とは一度も考えたことがない。それを決めるのは「法」であり、自分はそれに従い現世で正しく機能するように尽くす法の番人だと考えていた。

 だからこそ、殺人者でさえも殺人という行為そのものが規定できなければ無力である、という考え方には共感できた。「死」を判断できなければ殺人そのものが意味を持たない。罪も罰も何の意味がないどころか、存在できない。無い法を侵すことはできない。

 しかし、無い法などという存在を緑川は看過できない。六法全書と無数の判例、それらを繋ぎ合わせれば必ず罪には裁きを下せる。抜け道などはない。卑しい罪人が罪を逃れるのは「準備が足りなかった」からだ。もし法が届かぬ罪があっても、私がそこに必ず手を伸ばす。

 これまでだってそうだし、これからもそうする。人外の存在であるモンスターにさえ、判決を下せるのだ。これは緑川という人間の、「法」への絶対的な崇拝であった。

 法と医学という分野こそ違うが、その知識と技術をもって他者の人生を決めることを生業とする緑川と黒井は、表裏一体でどうしようもなく似た者同士であった。

 

「遅くなると、奥さんとお子さん心配しない?」

 コーヒーをまた一口飲むと、黒井は緑川の横に立ちそう言った。消毒液の香りが緑川の鼻腔へとかすかに入り込んだ。

「帰りが遅くなるのはいつものことだ。弘美と理子が住む世界を守るためにも、私は戦い続けなければならない」

「すごいなぁ。わたしは尊敬するわ。そんなお父さん」

 そう言いながら黒井は口角を緩めた。細い指先でコーヒーの缶が揺れる。

「わたしの父も母も、そんな人じゃなかった……。あのね、緑川さんの家族って少ししか会ったことないけど、わたしの理想の家族なの」

「私の家族が?」

「はたから見ても幸せって感じ。患者の家族も多く見てきたけど、幸福感で満ち溢れてる。理子ちゃんもとっても愛されてるように感じるわ」

 どこか恥ずかしそうにそう続けた黒井に、緑川は不思議そうな目線を向ける。

「わたしの父も母も、わたしにそんな風に愛情は向けてくれなかった……。仕事ばかりで病弱な妹も放っておいて……。最後には見捨てられて二人ともみっともなく死んだわ。昔の話だけど」

 黒井はそこまで言うと少しだけ大きく息を吐き出し、コーヒーを飲み干した。

「だから、あなたの家族が好きかな」

 そう言って黒井は緑川の目を見た。その眼差しは真剣でどこか悲しくも見えて、緑川は先程のように目線を逸らすことができなかった。

「……理子もお前のことは気に入っているようだ。今度またバイクを見せてやってほしい」

「それならお安い御用、わたしもまた会いたいわ」

 そう答えた黒井に、緑川はわずかに表情を緩めた。彼も缶コーヒーを飲み干すと、街並みに背を向けて帰路についた。その背中を追うように、彼の少しだけ後ろを黒井は歩いた。

 

 翌日、検死解剖を終えた遺体は家族の元に戻り葬儀の準備が進められていた。今日は通夜、明日以降葬儀や火葬を行う流れとなっていた。

 日が沈み雨が静かに降るその通夜に、黒井と鳥飼は参列していた。共に喪服に身を包んでいる。

「この度はご愁傷様でした」

「黒井先生……。来ていただいて」

 黒井が声をかけたのは患者の母だった。憔悴しきった雰囲気で、メイクの上からでも目元は涙で赤くはれているのが分かった。

「息子はよく黒井先生のことを話していました……。とても親身になって話を聞いてくれると」

「それは……」

 母親の言葉に、黒井は小さく目を伏せた。そしてその代わりに鳥飼が口を開いた。

「お母様、私たちの力が足りず誠に申し訳ございません」

 そう言うと鳥飼は頭を下げる。それに合わせる形で黒井も頭を下げた。その様子を見ながら、母親は目に涙を浮かべた。

「いえ……。私たちはどこで間違えてしまったんでしょうか……?」

「……」

 黒井は目を伏せ俯いたまま黙りこくっている。

「先生、息子は以前一度同じような大怪我をして、その時の手術で助けてくれたのがお二人なんですよね」

 雨が地面を濡らす音だけが静かに鳴っている。

「それで命が助かって、もうこんなことしないと思ったのに……。なんでこうなっちゃんでしょう」

 母親は涙を流しながら諦めたように口元だけが笑っていた。

「私たち家族は……あの子のことをずっと見てきたつもりだったのに、結局何もできなかった」

 香の匂いが満ちた部屋の中には白い花と遺影があった。母親は部屋の中の遺影を見つめながら続ける。

「もう何も分からないんです。ずっとどうすればよかったのか考えても」

 その言葉に鳥飼と黒井は何も答えることができなかった。先程より強くなった雨が窓を叩いている。

 やがて、母親が小さく頭を下げた。

「……今日は来てくださってありがとうございます。また誰かの命を救えるのなら救ってあげてください。うちの息子の分まで」

 鳥飼と黒井も同じように頭を下げた。息子を失った悲しみが全身に伝わってくるようだった。

 

 外に出ると、雨はさらに強くなっていた。傘をさした彼女らとすれ違うように一人の青年が駆け込んできた。

「おっと!」

「さーせん、急いでたもんで!ってお前……!」

「……こんなところで会うなんて」

 スーツの肩を濡らしながら走ってきたのは、仮面ライダーオグに変身する加賀谷晴輝であった。その偶然の遭遇に、彼は驚きの表情を浮かべた。

 

「黒井先生、彼は?」

「いえ、わたしの知り合いです。大丈夫です」

 黒井は鳥飼と離れ、加賀谷と共に少し離れた車庫の軒先へと入った。

「えーと、黒井。モリオンでいいんだよな?なんでこんなとこに」

「亡くなった方の手術を担当したの。それもあって今日ここに。加賀谷さんは?」

「オレは後輩が死んだって聞いて思わず」

 加賀谷はそう言いながら玄関の方を見た。提灯の光がぼんやりと彼の瞳に映る。

「後輩さん……。彼は確か……?」

「剣道の道場が同じで、その縁だ」

「剣道……。剣道なのね」

(やっぱり最初の予想通りだわ。学校剣道ね。二刀流は海外選手の動画かしら?)

 黒井は加賀谷の言葉を聞き、何かに納得したように声を漏らした。加賀谷の肩を雨が濡らしている。

「それよりも、またお前と会えたんだ。今度こそ戦おうぜ」

 好戦的な口調で加賀谷は黒井に話しかけた。その吐息が黒井の髪を揺らすほど顔を近づけている。

 しかし、黒井は加賀谷の顔に視線を合わせずに呟いた。

「それよりも、あなたは後輩さんに最後の挨拶を済ませてきたらどう?」

 そう言うと黒井は玄関の方を指差した。何事かと鳥飼がこちらを見る。しかしその黒井の姿に加賀谷は不快そうな表情を隠さない。

「……チッ!言われなくてもそうしてやるよ」

 加賀谷は思わず舌打ちし、吐き捨てるように黒井にそう言い放った。

 

「そうしてやる……?そうまでして戦いたいの、わたしと?」

 加賀谷のその態度に、黒井の表情が変わった。その張りつめたそれを交戦の意志だと感じ取った加賀谷は、にやりと笑い言葉を続ける。

「ああ、大体そもそもライダー同士ってそういうもんだろう?目と目が合ったら殺し合い。オレらが戦うことに理由なんていらねぇ。そんな本当の戦いがしたくてオレはライダーになったんだ!」

 その言葉、口調、表情、視線、全身の動き、その全てを黒井はつぶさに観察する。目の前に立つ男、加賀谷晴輝、そして仮面ライダーオグとの戦いを有利に進めるための情報を、彼のすべてから収集する。

「どうした?オレと戦わないのか?」

 加賀谷はそう言うと懐からカードデッキを覗かせた。その自信満々の態度に、黒井はあくまで流れるように、しかしわずかな時間で考え抜いたフレーズを口から取り出す。

「わたしは医者よ、死を悼まない人とは戦えないわ」

 黒井のその言葉は一瞬で加賀谷の頭に血を昇らせ、そしてだからこそ、その精神へと無理やりに冷静さを取り戻させた。

「……ッ!クソッ!分かったよ」

 苛立ちに右足を震わせ地団太を踏みながらも、加賀谷は玄関の方へと歩いて行った。その様子に鳥飼は驚きを隠せない。

「黒井先生……!大丈夫?あの人だいぶ怒ってたねぇ」

「怒りたいのはこっちです。通夜だというのに」

 そう言うと黒井は小さくため息をついた。その吐息には、侮蔑か、あるいは怒りの感情が込められていた。

「けど黒井先生、知り合いなんでしょ?彼と」

「……知り合いと言っても、これからもっと知る相手です。帰りましょう、先生」

 黒井は玄関の方へと背を向けて去っていく。その後ろを慌てた様子で鳥飼が傘をさして追いかけた。暗い夜の路面を強い雨が濡らしている。

 

「クソッ!黒井め!逃げやがって!」

 翌日のミラーワールド。加賀谷、仮面ライダーオグはそう怒声を放ちながら召喚機でもある刀を振り回していた。

 昨晩、後輩への通夜を足早に済ませたオグであったが、既に黒井の姿は通夜会場から消えていた。当然黒井は戦う気などなく帰ったのだが、それがオグにとってはたまらなく腹立たしいことであった。

「オレの戦いを台無しにしやがって!許さねぇ!」

 力任せに振り回した刀であるゼネルバイザーの切っ先が、電灯の柱を切り裂いていく。それも一本だけではない。何本も何本も、太いコンクリートと鉄でできたそれが枝のようにどんどんと切り倒されていく。

「別のライダー……。黒井や青池から聞いたのはお前か?」

 肩で息をするオグの背後から声がした。その言葉に思わず振り向いた彼の視界に入ってきたのは、緑川が変身する、まるで髑髏のような姿のライダー、モーティスであった。

「アンタか……!探してたんだよ!その姿、オレと戦うって事でいいんだよな!」

 オグはそう言うと刀を中段に構えモーティスへと向き直る。対するモーティスもその強い戦意を感じ取りオグの顔を見た。

「ライダーとこうして出会うのは初めてだな……」

 モーティスはゆっくりと息を吐き、呼吸を整えるとオグへと尋ねる。

「貴様は何者だ?黒井から話は聞いたが、だが罪に問えない者と戦う気はない」

 全身に絶えず張り詰めた闘気を漲らせながらも、だがモーティスは冷静な口調でオグへと問いかけた。法に則り罪には罰を。モーティスは自分が罪を知らない相手とは戦う気がなかった。

 しかし、その態度はさらにオグを苛立たせた。

「黒井、黒井って何だよお前!あいつはオレと戦わずに逃げた弱者!アンタも戦わないって言うなら、オレから行くぜ!」

 絶叫に近い形で怒声を放つと、オグは力強く大地を踏み込んだ。そして手にしたゼネルバイザーを大きく振り上げる。

「キエエエエエイ!」

 刀の切っ先がモーティスの腕に当たる。小手だ、まずは一本。仮面の中でオグはほくそ笑んだ。

 

「……暴行罪」

 小さく呟いたモーティスのその言葉がオグの耳に届くころには、彼の身体は大きく投げ飛ばされていた。何が起きたのか考える間もなく地面に叩きつけられたオグ。その眼前にモーティスの正拳が迫る。すんでのところで転がりながら回避するオグの頭の後ろで、アスファルトが砕ける音がした。

「ど、どうやった!?」

 中段に刀を構え直し距離を取りながらオグは叫んだ。その言葉には驚きの色が乗っている。

「何って、刀を掴んで投げ飛ばしただけだが」

 対するモーティスは冷静な口調でそう言いながら自らの拳を開いて見せた。わずかにそのスーツには切り傷が残っている。

「刀を……!真剣だぞ!?斬れるはずだろ!?」

 驚愕と苛立ちが混ざった声色でオグは問いただす。だが、その態度を見てもなおモーティスは冷静だった。

「その構え、学校剣道だろ?情報通り竹刀の振り方だ。その振り方じゃどんなに刀が鋭くても斬れない、なまくらだ」

 軽く手首を振るモーティスは、まるで何でもないような口調でオグの剣技をそう吐き捨てた。そしてそのまま続ける。

「それよりも、真剣だと分かって私に斬りかかったのか?殺そうと?」

 その自分を分析し品定めしようとする口調、態度はただでさえ苛立ちを抱えていたオグを激怒させるには十分なものでった。

「だったらなんだよ!ライダーバトルってそういうもんじゃねえのかよ!お前ら揃いも揃ってなれ合いばかりでおかしいぞ!」

 怒りのまま放ったオグのその言葉を聞き、モーティスは仮面に隠された表情を変えた。法廷での顔と同じ、罪人を裁く者としての顔だ。

「殺意を確認。暴行罪及び殺人未遂の現行犯。……ミラーワールド内において私は実力を行使する」

 瞬間、モーティスの全身から放たれる闘気が変質する。自然体に構えたその姿にまるで煮えたぎった油を鉄鍋に放り込んだような、見るだけでも火傷しそうなその闘気を感じ取り、オグは仮面の奥で舌なめずりした。

「やっと本気で戦ってくれんのかよ……!オレは受けて立つ!」

 ようやく出会えた本当の戦いの感触に、オグは大きく武者震いした。その切先の先に、死神の化身が立っている。

 

―続―

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。