龍騎外伝 仮面ライダーモリオン   作:EpoMeta

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第18話「ショータイム」

 最近の音楽チャートによると、その上位層はめまぐるしく移り変わっているそうです。ですが、そのランキングに現れる音楽だけが、世に出ているすべてではありません。

 

『正解だらけの街で私たちの声はノイズ 消される前に叫び返すよ』

 斎条がつけたイヤホンから、鋭いサウンドに混じり女性ボーカルの力強い歌声が聞こえてくる。斎条はその声に耳を傾ける。

『違法人 ここにいる理由は私が決める ひび割れた未来だっていい 破れた地図を持って進むよ』

(あ~『イリーガルズ』最高推せる、やっぱりデビュー曲の『違法人』はいい曲だな)

 斎条は小さく息を吐くと、機嫌よさげに微笑んだ。彼女にとって今箱推ししているアイドルグループ「イリーガルズ」に触れることは生きがいといって差し支えない。

(最近三枚目のアルバムも出したし、今日もライブ配信あったはずだから帰ったら投げ銭しよっと)

 鼻歌交じりで帰路につく斎条だったが、その時イヤホンを貫通して不気味な音が彼女の耳に入ると、彼女はその表情に不快感をあらわにした。

(さっき銭湯で戦ったばかりなのに……。やだなぁ……)

 そう考えながら斎条は周囲を確認する。そこには先程戦ったデバドベロスらと相対するモリオンの姿があった。

(黒井先生……戦ってるんだ。ワタシも行かないと)

 そう思い懐のカードデッキを手に取る斎条だったが、青池と緑川との会話が頭をよぎった。

『私達同士で戦わせたいんじゃないか?そうして効率的にライダーの数を減らしていく』

『あなたは戦えるのか?私たちだけじゃない、黒井と』

 目を閉じて深呼吸をすると、斎条は自分の顔を叩いて気合を入れた。

「よし!決めたんだもん。黒井先生を信じるって」

 自分に言い聞かせるようにそう言った斎条はカードデッキを鏡面に向けた。彼女の鏡像に機械的なベルトが装着される。

「変身!」

 斎条の身体に無数の鏡像が重なり合うと、その姿を仮面ライダートワインへと変えた。震える拳をぎゅっと握りしめると、斎条はミラーワールドへと飛び込んでいった。

 

 モリオンが構えたヒドゥンバイザーが火を噴くと、一体のデバドベロスを弾き飛ばした。だが別のデバドベロスがその鎖で彼女の動きを封じようとする。

 しかし、モーティスの鋭い拳がそれを阻むと、彼はその鎖を掴みデバドベロスを引き寄せ強烈な打撃を見舞った。その衝撃でデバドベロスは大きく吹き飛ぶ。

 そのモーティスの背中向けて、また別のデバドベロスが飛び掛かった。だが、その身体を強い衝撃が襲う。モリオンが握るヒドゥンバイザーから放たれた射撃がデバドベロスを吹き飛ばす。

 背中合わせに構えるモリオンとモーティス。その周囲を取り囲むように三体のデバドベロスが回る。

「三対二ね……。まるであなたが語った推測みたい」

「それとこれとは別だ。何も関係はない」

 モリオンの言葉にモーティスはそう答えると、カードデッキから一枚のカードを引き抜いた。その様子をモリオンは横目で確認する。

「またこの運任せのカードか」

『STRANGE VENT』

 効果を発動せず絵柄の変化したカードがグレバイザーから排出される。その絵柄を確認するモーティスだが、それを横からモリオンが覗き込んだ。

「そのカード、わたしも欲しいわね」

 ヒドゥンバイザーを構え、周囲を警戒しながらモリオンは呟いた。

「なら使ってみるか?私も他のライダーが所有者が別のカードを使った場合どうなるのか見てみたい」

 そう言うとモーティスは絵柄の変化したカードをモリオンに手渡す。彼女はそれをヒドゥンバイザーに装填し、効果を発動させた。

『SPIN VENT』

 その音声と共に虚空からグレガストの群れが出現する。そこまでは通常の召喚と同じだ。だが、グレガストの群れは渦を巻き始め次第に無数のドリルのような態様を取った。

「あら、やっぱり発動者じゃなくデッキの所有者の方が優先されて効果が発動するのね?」

「なるほど、つまり私が黒井のカードを使っても黒井側に効果が発動するということだな」

「そういうことみたいね」

 不気味に頭上を覆いつくす飛蝗の群れを観察しながら、モリオンは続ける。 

「シジルの槍と同じ名前のカードでも、様子に違いがあるのね……。モンスターの?それとも変化したカードだからかしら?」

「どうでもいい。奴らを倒せれば」

 まるでドリルで出来たスコールのように、無数のグレガストたちが渦を巻いた「グレガスクリュー」がデバドベロスたちに降り注ぐ。その密度はすさまじく、モリオンたちの方からもデバドベロスの姿を確認できない程だった。

 

「……止んだかしら?」

 ヒドゥンバイザーを構えながら、モリオンは周囲を警戒する。周囲には砂煙が立ち込め、グレガスクリューが地面に無数の陥没を生んでいた。彼女が足を動かすと、アスファルトが砕ける音が小さく鳴った。

「あら……まだ立ってる」

 砂煙の奥、しかしデバドベロスたちは未だ立っていた。だがその全身は傷だらけで全身から火花を散らしている。これならわたしのシュートベントでも倒せそうだ。そう判断した黒井は腰に装着したカードデッキに手を伸ばした。

「……黒井!」

「え?」

 モーティスの声に一歩立ち止まったモリオンの眼前を巨大な爪が切り裂いた。不意の攻撃に思わず飛びずさるモリオン。モーティスもそちらを向き構える。

 彼らの間を巨大な咆哮が裂いた。砂煙が消し飛び、デバドベロスがその姿を顕にする。だがそれは先程までの傷だらけのものではなかった。

「……どういうことだ」

 そこに立っていたのは、車を軽々と上回る巨体の四足歩行の獣。その四肢には剣のように鋭い爪が生えそろっている。全身の毛皮はまるで鎖帷子で装甲化したようで、複雑で重厚な輝きを放っていた。そして分厚い胴体からはデバドベロスの頭部が「三つ」伸びていた。「レーガケルベロス」、その異形はまるで神話の怪物だ。

「おそらく……さっきまでいたモンスターが合体したようね」

 見上げるほどのレーガケルベロスの巨体と、その足元を観察しながらモリオンは口を開いた。そして仮面の奥だけに響くような小さな声で呟いた。

「あのカードを使うとこうなるのね」

 

「前戦った巨人型と同じくらいの大物かしら。ひとまず撤退というのもありね」

 牽制にヒドゥンバイザーからの射撃を放ちながらモリオンはモーティスに話しかけた。だが、モーティスは躊躇なくカードを引き抜くと召喚機へと装填した。

『SWORD VENT』

 両手に一本ずつグレカッターを握ると、モーティスはレーガケルベロス向けて構えた。

「だからといって、奴の方が私たちを逃がすとは限らないだろう。それに、現行法に照らし合わせるとあのモンスターは殺処分だ」

 冷徹にそう放ったモーティスの言葉に、モリオンは心の中でどこか引っかかった。

(あのモンスターは?法律では殺処分にならないモンスターでもいるのかしら?)

 だが、そんなことは今の戦いには関係ないと心中から追いやり、引き抜いたカードをヒドゥンバイザーに装填した。

『SHOOT VENT』

「それなら手を貸すわ。あれだけのモンスターをエサにすれば、わたしのヒドゥンビークたちも喜ぶはずだしね」

 小さく深呼吸をして息を整えると、モリオンは左肩から腕全体を覆うように装着された異形の兵器、ヒドゥンスキャッターの砲口をレーガケルベロスに向けた。その動きに迷いなどない。

「私が前衛をする。黒井は後ろから援護を頼む」

「そう、射線から外れてね」

 かつて初めてミラーワールドに迷い込んだ際には、青池に対して言った言葉を今度は緑川に言う。その繰り返しがどこか可笑しく、モリオンはわずかに微笑みながらヒドゥンスキャッターの砲弾をレーガケルベロスへと打ち込んだ。

 

 ミラーワールドに入り込んだトワインだったが、その身体を突如として衝撃が襲う。まるで何か撃ち込まれたみたいだ。思わす手を動かして様子を確認するトワインだったが、そこには黒い姿のライダーの姿かたちがあった。

「え、黒井先生!」

「……トワイン、斎条さん、来てくれたのね」

 そう言って何とか立ち上がるモリオンであったが、その鎧の各部には傷が刻まれていた。

「ど、どうなってるんですか!?」

 トワインの言葉に、モリオンは呼吸を整えながら答える。

「ちょっとモンスターが手ごわくてね……。もう一人と組んで戦ってたんだけど、決定打に欠けてね」

「そ、そんな……。ワタシがもっと早く来てれば!」

「いいのよ、今来てくれたんだから」

 モリオンの声色は優しい。だがその優しさに、トワインは無性に不安に駆られた。

(けど、黒井先生がこんなに傷だらけに……。そんなの相手にしたってワタシなんか足手まといになるだけかも……)

 そう考え込むトワインであったが、せめてどんな相手なのか確認しておこうとモンスターの方を見た。

「あれ、さっき一緒に戦った……!」

 巨大な猛獣と戦う緑色の影。それは先程共に戦ったモーティスであるとトワインは確認した。

「やっぱり、緑川さんの言ったようにもう既にお知り合いのようね」

「それじゃあさっき倒しきれなかったから黒井先生も緑川さんも……!ワタシのせいだ……!」

 自分が他人を不幸にしてしまう。そう思うと絶望と恐怖で両膝が震え立っていられない。トワインはその場に崩れるようにうずくまった。このままではただ死んでしまう。トワインのその様子にモリオンは声を大きくした。

「ちょっと斎条さん!立って!戦うために来たんでしょう!わたしを信じてくれるんじゃなかったの!今までの自分から変わりたいんじゃないの!」

 しかし、モリオンの言葉に耳を貸すことなく、トワインは震えるばかりだ。それを見つめるモリオンの仮面の奥の瞳が歪む。

 その時だ。吹き飛ばされてきたグレカッターがトワインのスーツを切り裂き、斎条の身体に鋭い痛みを与えた。その斬撃で極限まで高まった死への恐怖が彼女の閾値を超え、思考を塗りつぶしていく。

「……ザ・ショーターイ!!」

 決壊。絶叫するとトワインはグレカッターを手に取り、レーガケルベロス向けて全力で駆け出した。

 

 モリオンにはああ言ったが、レーガケルベロスの予想外の手ごわさにモーティスも手を焼いていた。高い敏捷性に鋭い爪と牙、そして三つの頭部から放つ衝撃波に対し、モーティスは攻めきれずにいた。

「ッ!しまった!」

 強烈な爪の一撃に、グレカッターを一本吹き飛ばされてしまった。残されたもう一本を両手で構え直すとモーティスは力を込めてレーガケルベロスの足を弾き返した。

「こうも攻撃が激しいとカードも使えん!いっそ自動で発動してくれれば」

 そう毒づきモーティスは跳躍して一度距離を取る。モリオンや飛んで行ってしまったグレカッターを確認する余裕もない。

 その時、彼の背後から突如として絶叫が響いた。その声のした方をモーティスが見ると、そこには飛ばされたグレカッターを振り上げ突撃するトワインの姿があった。

「うわあああああ!」

「あの姿、斎条さんか!よせ、危ない!」

 驚くモーティスの制止も聞かず、トワインはレーガケルベロスに真っすぐ向かって行く。

「いやっ!いや!いやあああ!」

 絶叫のままグレカッターをぶつけるトワイン。甲高く響き渡るその叫びが、静かなミラーワールドの中を揺らしていく。

「斎条さん……」

 ヒドゥンバイザーの銃口をモンスターへと向けながら、モリオンは小さく呟いた。彼女とて、錯乱を見た経験は少なくない。戦地に行くと誰かは分かりやすく狂っている。彼女はその凄惨さを思い出していた。

 力任せに振り回したグレカッターだったが、レーガケルベロスの爪の前に先程同様弾かれてしまう。モーティスと比べ、トワインは筋量も、戦い方も、慣れも劣る。彼よりずっと歯が立たなくて当然だった。だが。

『SWING VENT』

「!」

 トワインのアクションに思わずモリオンは驚きを露わにした。至って落ち着いた様子でトワインはカードを大腿部の召喚機に装填し、鞭であるボロスナッチャーを召喚した。そしてその鞭を振るい、先端で巧みに飛ばされたグレカッターを絡めとったのである。

「おりゃあああ!」

 そしてそのままトワインはボロスナッチャーを振るい、レーガケルベロスを打ち据える。遠心力と速度が乗った斬撃は、先程までとは異なりレーガケルベロスの身体を切り裂きダメージを与えていく。

「チャンスよ!」

 トワインの攻撃で付いたその傷口をモリオンが巧みに狙撃しながらそう叫ぶ。斬撃と銃撃。重ね合わせのダメージに怯むレーガケルベロスへと、その隙を逃がさずモーティスがカードを切った。

『FINAL VENT』

無数のグレガストと共に空中に飛び上がったモーティスは、グレガストが起こす気流に乗りさらに宙返りで勢いをつけ強烈な飛び蹴り「ローカストライダーキック」を放つ。その直撃を頭上に受け、レーガケルベロスは大きくよろめいた。

「うおおおおお!」

『FINAL VENT』

 電子音声と共にトワインの両腕に手甲「ボロスウォーム」が装着されると、彼女の足元から契約モンスター「ツインボロス」が姿を現した。

 そしてツインボロスはそのまま彼女の下半身を丸ごと呑み込むようにすると、トワインはその両腕を諸手突きに構え、ツインボロスもろとも突撃する必殺の「カラミティボア」を放つ!

 強烈な攻撃を受け、レーガケルベロスは爆炎に包まれる。その爆炎の中に立つモーティスとトワインを、モリオンは静かに見つめていた。

 

「や、やった……」

 空中へ湧き上がる炎をぼうと眺めながら、トワインはそう呟いた。

「やったわね、斎条さん。お疲れ様。今日はあなたに助けられたわ。本当にありがとう」

 ぼんやりと立ったままのトワインに近づくと、モリオンは優しく彼女に声をかけた。その声に彼女は少し驚いた様子で振り返る。

「黒井先生、そんな……。ワタシなんて何も。足を引っ張ってばかりで」

「そんなことないわ。あなたが飛ばされた剣を鞭で掴んで仕掛けた攻撃のおかげで隙ができて、撃破に繋がったの。ねぇ、緑川さん?」

 そう言うとモリオンはモーティスに視線を向ける。つられるようにトワインからも向けられた瞳を、モーティスはまっすぐ見据える。

「そうだな。黒井の言う通りだ。斎条さん、あなたのおかげで助かった」

 そう言うとモーティスは少しだけ照れくさそうに視線を別に向けた。

「さっきは悪く言ってしまった。すまない」

 そう言うとモーティスは少しだけためらいがちに手を差し出した。トワインは戸惑いながらもそれをおずおずと握り返した。

「あ、はい……。こちらこそです……?」

「今日は私も助けられた。ありがとう」

 低く静かで、だがよく通るモーティスの声が、トワインの身体に響いていった。

 

(感謝された感謝された感謝された!)

 帰路につく斎条の内心は舞い上がっていた。

(こんなに感謝されたのなんて久しぶりかも!黒井先生に、緑川さん!ワタシよりも凄い人に!)

 道を歩く靴音も次第に跳ねるような軽快なステップとなっていく。まるで今の斎条は優雅に踊るダンサーのようだった。

『今日はあなたに助けられたわ。本当にありがとう』

『今日は私も助けられた。ありがとう』

 目を閉じると、感謝された瞬間がありありと思い出される。その嬉しさの前では、モンスターと戦う恐怖など、もはやどうでもよいほどであった。

(嬉しいから今日はコンビニよって何かスイーツ買ってこ!)

 小走りのステップで、斎条はコンビニに入る。目当てのスイーツを手にレジに並ぶと、そこには増加している行方不明事件への募金箱があった。その犯人は当然モンスターによる襲撃が多くを占める。だが、その真相を知るのは斎条らライダーだけだ。

「お品物と、こちらお返しでございます」

 袋に入ったスイーツと、レシートに乗ったお釣りが斎条に向けて差し出される。それらを受け取ると、斎条は少し考えてから、お釣りを全額募金箱に入れた。

「ワタシ今日は嬉しいから募金しちゃおうかな~」

「あ、ありがとうございますっ」

 店員のお礼もそこそこに、斎条は満足げな背中でコンビニを後にした。

「フ!」

 嬉しさのあまり、斎条は道端で笑い声を漏らした。思わず出た声に周囲を確認する彼女であったが、周りには誰もいない。変な奴だとは思われていないと安心すると、斎条は大きく息を吐いた。

「ミラーワールドでの戦いって、結構いいかも……」

 そう呟くと、斎条は夜空を見上げた。そこには雲に隠れた朧月がぽっかりと浮かんでいた。

 

「お嬢様、根を詰め過ぎでは……?」

「いいのよ。いずれあたしは他のライダーを倒して黒井先生を倒さないといけないんだから。準備のし過ぎということはありえませんわ」

 深夜まで白沢は黛との戦闘訓練に精を出していた。これは今日に始まったことではない。青池から共同の訓練を持ちかけられてから、彼が帰った後は白沢は黛からのサポートを受けて、自主訓練に励んでいた。

「ですが……」

「何?あたしの身体の心配?大丈夫、黒井先生はあたしが死ぬのを見逃さないはずよ。必ず」

 ためらいがちに口を開いた黛の言葉に、白沢はそう力強く断言した。それは皮肉にも、倒すべき相手に自分の命を握られているという宣言に他ならなかった。

「それもありますが……」

 白沢の拳打をさばきながら、黛は言葉を漏らす。一際力の込められた白沢の一撃を跳躍によって衝撃を受け流しながら距離を取ると、黛はゆっくりと声を漏らした。

「お嬢様に、人を殺すことができますか?」

 静かに構えを緩める黛とは対照的に、白沢は勢いよく拳を突き出す。

「そんなの……できるに決まってるじゃない!あたしなら!」

 だが、大きかったのは勢いだけで、その拳は黛に受け止められてしまう。白沢の拳を握りながら黛は言葉を零す。

「お嬢様には手を汚してほしくありません。いざとなれば私がライダーとなって、お嬢様に黒井の首を」

 その言葉に白沢は表情を一気に暗くし、俯いた。

「……やめてよ。あたしの願いはあたし自身の手で叶えないと意味がないの。与えられるままに生きて、与えられるままに死ぬなんて、いやよ」

「お嬢様……。申し訳ございませんでした」

 黛はそう言うと白沢に頭を下げた。その様子を白沢は静かに見つめ、何かを考え込んでいるようだった。

 

「……誰か一人でも倒せば、黛も考えを改めてくれるかしら?」

「お嬢様……」

「青池には内緒よ。あいつが知ったらまた面倒なことになるわ」

 そう言うと白沢は口元に手をやり考え込んだ。夜風が彼女の髪を撫でる。

「そうね……。黒井先生を真っ先に始末できたらいいけど、あたしに謀反の気配在りというのを察せない人じゃないわ」

 白沢は周囲を見やり、何かを探すように庭を歩き始めた。

「……盗み聞きなんて、罪じゃない?黒井先生の契約モンスター」

 白沢がそう言って立ち止まったのは、邸宅の窓の前だった。カーテンが閉められたそれは淡い月明かりを受けて白沢の青白い顔を映している。

 その窓の端に、一目散に逃げていく鳥人のような影があった。黒井が契約するカラス型モンスターのヒナ「ヒドゥンビーク・ヒル」であった。白沢の気配を感じ、ヒドゥンビーク・ヒルはこちらに目もくれず逃げ出していった。

「お嬢様……?」

「おそらく、黒井先生が他のライダーの動向を監視するために用意した偵察部隊、といったところかしら。おそらくあたしだけじゃなく、青池や緑川さんにも同じように尾行させているはず」

 視界からモンスターが消え去るのを確認してから、白沢は黛の方を向いた。

「黒井を狙うのは得策ではないと?」

「そう。黒井先生の持つ情報アドバンテージはとても大きい。今のライダーバトルの状況では、黒井先生の味方に入ればそれだけで生き延びることができるくらい」

 そこまで言うと、白沢は小さく息を吐き、黛に尋ねる。

「もし、黛なら一体誰を狙う?黒井の情報網の中で、最も倒しやすい相手って誰だと思うかしら?」

 白沢の問いかけに、黛は静かに口を開いた。その輪郭を月明かりが照らしている。

「そうですね……。私なら黒井の軍団に入っていない人物から狙います。そうなれば情報と数的優位とを保ったまま相手を潰すことができます」

 黛の答えに、白沢は満足げな表情を見せる。

「そうね。その通りだわ……。だけどあたしがあいつを狙う理由はそれだけじゃないわ」

「誰か心当たりがあるのですか?」

 雲が晴れ、白沢の顔を眩い月光が照らす。その表情は自信にあふれたものだった。

「リベンジはあたしの手で果たさないと」

 そう言い放った白沢の瞳には、鎧武者のような戦士、仮面ライダーオグの姿が映っていた。このあたしが、負けたままでなんていられない。

 

―続―

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