龍騎外伝 仮面ライダーモリオン   作:EpoMeta

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第1話「都市伝説の戦士」

 新聞の記事によると、この街の行方不明者数は近年大きく増え、今では全国の八倍以上だそうです。その理由はまだわかっていません。

 

 

 

 人気の無い閑静な住宅街、その片隅にひっそりと建つ小さなアパートの軒先で二人組が話していた。一人は腰を曲げた老人であり、そしてもう一方は作業着に身を包んだ男であった。

「あー大家さん。現場は二階でよかった、んでしたっけ?」

「そうよぉ。この人家賃も滞納、もうずっと出てこないから、何かあったんじゃないかと思ってぇ」

「へぇ、それでウチに……。まあ取り合えず今後の対応見るために確認すっか」

「頼むよ、青池さん」

 大家からそう呼ばれた男、「青池 壮真(あおいけ そうま)」は階段に足を掛ける。錆びた踏板がぎっぎっ、と小さな金属音を立てた。その度に小さな錆の粉が宙に舞った。

 青池は特殊清掃のアルバイトでこのアパートを訪れていた。最近この街では行方不明者数がやけに増えており、それに伴い周囲とのつながりが減り、急病で身動きが取れなくなっても気づいてもらえず、そのまま孤独死するという事例も増加していた。そういう意味ではここの住人は幸運なものだ。大家という、自らの様子を少なからず気にかけてくれる存在がいるのだから。

「それにしても、穏やかじゃないよなぁ」

 そう言いながら、青池は今回の仕事場となる二階の一室の玄関に手を掛けた。郵便物が満載にポストへ詰まったドアを開けようと力を入れる彼だったが、玄関のドアはまるでびくともしない。

「青池さん、鍵持ってってないでしょ!」

「あっ!いっけね!」

 一階で待つ大家の声に青池は振り返る。ちょうど振り返った手元に、大家が放り投げた鍵が入った。それを指先でつまむと、彼は大家に向けて見せる。その様子に大家は肩をすくめた。

「ま、何とかなるだろ」

 鍵を回すがちゃりと音がして、今度は滑らかに玄関のドアは開いた。

 

 部屋に入った青池をまず出迎えたのは、圧倒的な暗闇だった。青池は思わず瞬きして視界を慣らす。何とかクリアになった視界で、青池は部屋の様子を確認する。

 まず、部屋の中はまるで無臭であった。放置死体特有の独特の腐敗集は全くなかった。清掃員のバイトもそれなりに積み、今では現場も任される青池であったがそれだけに無臭の現場には面食らった。

「ヘンだな……」

 土足のまま、青池は部屋の中に足を踏み入れる。散乱物による裂傷を避けるための行動であった。だが、それも無意味に終わった。暗闇に慣れてきた彼の瞳が捉えた部屋の中はまったく散らかっていなかった。恐る恐る手を伸ばし、青池は部屋の照明を点灯する。

「おい、誰もいないのか……?」

 そこにはまるで人の存在感はなかった。この部屋にいると目されていた住人の姿が影も形もなかったのである。低めの天井の部屋の中には隠れるような場所はない。だが、大家の話では住人はこの部屋から出てきていないはずだ。不思議に思い、青池は部屋の中を確認する。

 住人のいないその部屋に、残された家具の姿が異様であった。姿見、洗面所といった鏡は全て新聞紙とテープで執拗に目張りされており、部屋の窓ガラスさえ例外ではなかった。その部屋はありとあらゆる「鏡面」を拒絶していたように彼には感じられた。

「ん……?何だこりゃあ?」

 ふと、青池の目に留まったのは、テーブルの上に置かれていた黒い無機質なケースであった。水が入ったコップの隣に置かれたそれを、青池は持ち上げる。ちょうど手のひらサイズのそれは、開けて見ると数枚のカードが入っていた。それにはファンタジーチックのイラストが描かれており、最近流行のトレーディングカードのようであった。

「こんなものあってもな……。本人がいないんじゃしょうがないぜ」

 青池はそのカードケースを無造作にズボンのポケットに突っ込むと、職場に電話をかけ始めた。この現場を上司に報告し対応を相談するためである。光が差す玄関口に出た青池の背中を、コップの水底から何者かが覗いていた。

 

「って話がこの前あったわけよ。全く、最近現場行っても行方不明ばっかりでこっちも困るもんよ。でも、ホトケさんいないってのは良いことなのかもな」

 数日後の夜、やっと太陽が沈みかけた頃に、青池の姿は繁華街の焼肉屋の中にあった。ジョッキビールを片手に語る青池の言葉を、繫華街に不釣り合いな折り目正しいスーツ姿の男が聞いていた。

「なあ、ぶっちゃけどう思う?緑川?」

「そうだな……」

 緑川と呼ばれたその男は、腕を組み考え込む。脂ののった肉が焼ける煙が彼の視界を覆った。

「実は人食い妖怪の仕業で、人智を超えた力で人々を襲っているから証拠が残らないってのはどうだ?それで、その妖怪と戦う秘密組織があるとか……」

「なんだそりゃ、一級検事の緑川らしくもない冗談だな」

「まあな、娘が見てるドラマにそういう話があってな。娘は主役のクールで強いお姉ちゃんに夢中だ」

「お、画面奥のキャラクターに嫉妬か?親バカだなぁ」

「よせやい、青池」

 緑川はそう言うと、青池同様にジョッキを掴み口の中に流し込んだ。飲み干した口を離すと、彼の口の周りに残った白い泡が髭の様になっている。

「その顔で帰っていったら娘さん喜ぶぜ」

「季節外れのサンタクロースだ」

 ぺろりと舌を回し、緑川は口についた泡を拭った。そのひょうきんな姿に、青池は声を上げて笑い、緑川もそれにつられて笑った。

 だが、この「緑川 雅也(みどりかわ まさや)」という男は普段は検事として裁判に携わっている。家庭と正義を守るため日々悪に立ち向かい、それらを裁いている。アルバイトを転々とするフリーターである青池とは幼少期からの親友であり、その付き合いは長い。タイミングが合った際は時たまこうして共に酒を酌み交わす仲である。

 

「そういえば、その現場でこんなもん拾ったんだよ。何だか知ってるか?」

 青池はふと思い出したように、懐から例の黒いカードケースを取り出した。緑川は身を乗り出し、それを確認する。黒く硬質なケースは、開くと中から数枚のカードが飛び出した。

「……いや、私もこれは分からないな。だが、何だろうなこのカードは。トレーディングカードか何かか?」

「俺に聞かれてもわからねぇけどさ。緑川が分からないってんなら、それはそれで謎のアイテムだぜ」

 青池はそう言いながら手にしたカードを眺める。その中の一枚、白く輝く光が描かれたカードを一枚選ぶと、彼はそれを緑川に見せる。

「『CONTRACT』……。契約、だってよ。こんなカードで一体何と契約するんだ?」

「そうは言うが青池、今どきカード一枚で色々な契約ができるもんだ。クレジットカードもそうだし、そもそも大体の契約はたった一枚の書面で成立してしまう」

「げ、現役検事が言うことには説得力がスゲェ……」

 その時、不意に携帯電話の着信音が彼らの間に響いた。緑川が携帯電話を確認するとそこには彼の妻から帰宅を心配するメッセージが届いていた。

「時間か?」

「ああ、妻からだ。悪いが今日はこのくらいで出よう」

 緑川はそう言うと身支度を整え、卓上に並ぶ多くの皿とグラスを見た。かなり飲み食いし、料金はそれなりに昇っているだろう。

「……さて、今回どっちが払うかコイントスで決めようか」

「いっつもそれだな、緑川」

 呆れた様子で笑う青池をよそに、緑川は懐から一枚のコインを取り出した。緑川はといえば、常にこうして自分の行動をコイントスで占うのが癖だった。

 彼が取り出したコインはローマ皇帝の顔が刻まれた時代ものだ。青池はその肖像は誰かと一度だけ聞いたことがある。緑川はそれに対し、若かりし頃より皇位に就くことを運命づけられた、民衆と月に愛された皇帝だと返した。

「コインが表なら私が払い、裏ならお前に払ってもらう」

「おう、ばっちこいだ」

 緑川はにやりと笑い、指先でコインを弾いた。肉が焼ける煙と熱の中に煌めくコインが舞う。ぱしっと音がなり、緑川は手首に押さえつけたコインから手を寄せた。

「……表だ。今回は私が払おう」

「おぉ!ゴチになります!」

 伝票を手に取りレジに歩みを進める緑川の背中を、青池は身支度をしながら見ていた。

「……いつもながら、恩に着るぜ」

 だが、青池は知っていた。緑川が常に両面表のコインを使っていることを。運に頼らず自分の意志を信じる男なのだ、彼は。緑川は青池と食事をする際は必ず会計をコイントスで決め、自分が表なら払うと宣言する。それはつまり、自分が払うということなのだ。それは、検察官という安定した職に就く自分に対して、フリーターである青池を金銭的に気遣っていることに他ならない。あくまで運で支払っているという体の緑川を思い口には出さなかったが、青池はいつも彼のそうした行いに感謝していた。

 

「……しかし今日は悪かったな、俺の話に付き合わせて」

「いや、私も面白い話を聞けてよかったよ。土産にできる」

「それはありがてぇよ」

 ほろ酔い気分で青池と緑川は川べりの道を歩いていた。暗い夜とはいえ、街灯が照らす街並みは明るかった。

「だいぶ話は戻るんだけどよ、行方不明の話だ。……本当に何でだと思う?」

 ぼうっと街並みを眺めながら青池は呟いた。その表情は暗い。

「それはこれから私や警察が調べることだ。集団誘拐事件か某国の組織的犯行か……。青池、お前が気にすることはない」

 緑川も同様に街並みを眺める。同じくその表情も暗いものだった。

「そういえば、こんな都市伝説を聞いたことがあるぜ……。夜に川を見ると、ある時不気味な光が水面に現れるらしい。だけど反射したその光の上を見ても何もない……。だがどうしても目が離せない……。不思議に思って身を乗り出した途端!そいつらの身体は水の中に消えちまって二度と浮かび上がってこないらしいぜ……。ちょうどこんな夜みたいに!」

 そう言って青池はおどかすように大きく手を広げて見せた。その大げさな態度に緑川は鼻を鳴らして笑った。それにつられて青池も笑う。

「フン、全く縁起でもないな」

「ハハハッ!あー全く縁起でもない……。いや、何だありゃ……」

 ひとしきり笑った青池の目に、不気味な光が映った。その光を追うように青池は周囲を見回す。その彼の耳元に、不気味な風鳴り音が響き渡る。

「ッ……なんだこの音!」

「音……?私には聞こえないが」

 耳元を押さえる青池を、緑川は怪訝そうな目で見つめる。だが、緑川の様子を意に介さず、青池はよろめいた。

「この音が……!水の中からか!?」

「お、おい!一体どうしたんだ!」

 思わず水面を覗き込んだ青池を抑える緑川であったが、その並々ならぬ力の強さに彼も思わず顔を水面の方へ向けた。

「なっ!」

「ッ!」

 水際の柵から大きく身を乗り出した彼らの眼前に突如網のようなものが開き、彼らを捕らえ水面に引きずり込んだ。暗い欄干の下に水飛沫が飛び散った。

 

「……おい青池、大丈夫か?」

「ああ……。酔いが醒めちまったぜ」

 気が付いた二人はお互いの様子を確認しあう。どうやらお互いに無事なようだ。だが、青池は自分の身体に目線を下ろすと、ある違和感に気づいた。

「何で俺たち、濡れてないんだ……?」

 彼らの全身は勢いよく水面に突っ込んだのにも関わらず、奇妙なことにその身体にはまるで濡れた部分はなかった。全身を確認する青池に対し、緑川は何かを探るように周囲を見回した。

「この妙な音……さっきお前が言っていたのはこれか?」

「ああ、この風鳴りみたいな耳障りな音。緑川も聞こえるのか?」

 青池のその言葉に、緑川は耳を押さえながら頷いた。そしてそのまま彼は周囲に目線を向ける。

「それになんだこの空間……。場所はさっきと同じだと思うが、この鏡文字は一体」

「まるで『鏡の中の世界』ってところだな……。これも都市伝説にあった奴か?」

「今どきの都市伝説は色々あるな……」

 左右が反転した鏡文字となった看板を指で撫でながら、緑川は呟いた。すっかり酔いは醒め落ち着いた様子である。

「さて、とりあえずは脱出だが……。どうやったら出られる?」

「そんなこと俺に言われても厳しいぜ……。こっちの出口は向こうから見れば入口だといいんだけどな」

 そう言いながら水面に身を乗り出した青池の瞳に、不気味に灯るいくつもの光が反射した。

「いや、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。やっこさんのお出ましだ」

 青池はそう言いながら水面を睨む。その言葉に緑川も立ち上がり、そこにいるであろう主犯を確認すべく水面を見た。川の水面からそれは次第に道に近づくにつれ、街灯に照らされその姿を顕にした。

「……あの姿はなんだ?まるで甲冑を着込んだ怪人……!」

「こいつが都市伝説の『仮面ライダー』かよ……!?」

 そいつは音もなく水面から飛びあがると、青池らの前に静かに降り立った。体表から垂れた雫がその足元に水溜りを作った。

 その姿はまるで鎧を着込んだ魚人であった。手にした三叉鎗の切先が街灯の光を受けて眩くきらめいている。その日常離れした異様な風体の怪人はその静かな歩みに反して禍々しい殺気を纏いながら彼らに一歩、また一歩と近づいた。近づくたびに、それは「人間ではない、バケモノだ」という実感が彼らの胸にふつふつと沸いてきた。

「おい、マジでバケモノだぜ……。どうするよ」

「どうするって、今考えてるさ……!」

 狼狽える青池は緑川を頼る。だが、彼も普段は人間相手の舌戦に戦っているためこのような場の切り抜け方と言っても、何の手掛かりも思い浮かばない状態であった。

 万事休すか、後ずさる彼らの前に、怪物がその顔面を向けた。古代の剣闘士が被るようなその仮面の中にが不気味な光だけが灯っていた。その姿を見た青池は、ああ、これが都市伝説の水面の光の正体かと、やけに落ち着いた様子で納得した。

 ついに青池と緑川を仕留めんと、その鎧の魚人は手にした三叉槍を大きく振りかぶった。

 だが、今まさに彼らの身体に切先が突き刺さろうとしたその瞬間、周囲に発砲音が鳴り響いた。その音とほぼ同時に鎧の魚人は大きく吹き飛ばされ大地を転がる。

 何事かと驚いた青池と緑川は共に発砲音の源の方を見る。そこからやってきたのは長銃を構えて接近する不気味な影だった。暗がりの中に差し込んだ街灯の光が、ペストマスクかガスマスクを模したような不吉な外見を露わにする。

「こんなところにモンスターが……!」

 女の声だった。そう言う間にも彼女は数回発砲し、魚人の動きを封じる。

「お二人さん、大丈夫かしら?」

 モンスターを警戒するためあくまで背中を向けながらだが、そのペストマスクの視界の端で女は青池と緑川に尋ねた。

「あ、ああ……。俺たちは今のところ大丈夫だが、アンタは一体?」

 青池の言葉に、女は背中を向けたまま答えた。

「さしずめ都市伝説で噂の『仮面ライダー』ってところ」

 座り込む彼らの瞳に映ったその黒い姿は、まるで暗闇に降り立つ死神のようだった。

 

「さて、何発か撃ち込んだけれど……」

 土埃が上げた煙の中を、黒い仮面ライダー「モリオン」は距離を取りながら観察する。彼女は手にした長銃、正確にはショットガン型の武器「鴉召銃剣ヒドゥンバイザー」を煙の中に向けながら、ゆっくりと近づき距離を縮めた。

「ッ!」

 不意に、土煙から三叉槍が飛び出した。そしてそのまま魚人型のミラーモンスター「アングラビス」はモリオンとの距離を一気に詰める。銃のような長距離武器は、その間合いさえ詰めてしまえば長所を一気に失うこととなる。

 だが、モリオンは落ち着いた様子で銃の先端に取り付けられた銃剣を振るい応戦する。切先が幾度もぶつかり合い、暗がりの中に眩い火花を散らした。

「……仮面ライダー同士が戦ってるのか?」

 ぼそりと、緑川が零した。その声が聞こえたのか、モリオンは剣戟の合間を縫って言葉を返した。

「え?今は違うよ?わたしは人間だけどこっちは人喰いのバケモノ!」

 そう言うとモリオンは銃剣をアングラビスの腹部に突き立て、そのまま地面へと押し倒す。だが、それだけにとどまらない。突きたった銃剣の先端は地面にまで届いている。そのままモリオンは銃の引き金を引いた。

 くぐもった発砲音と共にモンスターの体表から火花が飛び散る。アングラビスが手足を振り回し抵抗するたびに、モリオンはそのむき出しとなった腹部に銃弾を撃ち込んだ。

 だが、されるがままのアングラビスではない。槍の後端を掴み、大幅にリーチを伸ばした状態でモリオンめがけ突き出す。重心などの関係で人間には不可能な、怪物であるミラーモンスターならではの芸当だった。これに不意を突かれたモリオンは思わず身体をのけぞらせて槍を回避する。その隙を見逃さず、アングラビスはモリオンに横になった状態から蹴りを繰り出す。その威力は高く、腹部に突き刺さったヒドゥンバイザーごとモリオンを吹き飛ばした。

「並のモンスターにしてはやるじゃない。誰かと契約してたのかしら」

 何とか着地し態勢を整えるモリオン。だが、彼女の視界が不意に暗く染まった。

「!?」

「あれは!」

「なるほど!あの網が俺たちをこっち側に引っ張り込んだんだな!」

 モリオン向けて突き出されたアングラビスの腕からは、彼女の全身を覆ってなお余りあるほどの網が射出されていた。それはモリオンの全身に絡みつき移動の自由を奪った。

 動きを封じられたモリオンに向けて、アングラビスは手にした槍を突き出す。何とか身をよじり攻撃をいなすモリオンであったが、網に捕まった今、それには限界があった。モリオンの動きを封じたアングラビスは青池たちの方を向き直す。その兜の奥の光はまっすぐに彼らを見据えていた。

「このままじゃやられる。何か俺にもできないのか……!?」

 そう口にしながらも、思わず青池はアングラビス向けて駆け出していた。もちろん、具体的に何か策があったわけではない。

「お、おい!青池!」

 心配する緑川をよそに青池はアングラビスに殴りかかった。だが生身の人間と怪人とでは肉体が違いすぎる。むしろ殴った青池の方が拳を痛めてしまった。

「~ッ!痛ってぇ!」

「危ない!青池!」

 拳を庇いよろめいた青池を、アングラビスはまるで邪魔な虫を払いのけるかのように吹き飛ばした。青池の身体はまるで紙切れの様に地面の上を舞った。その拍子に彼の懐からカードケースが転がる。そのカードケースをモリオンは注視する。

「そのカードデッキをベルトに!」

「え、ベルト!?そんなもん……っていつの間にこんなのが!?」

 モリオンの言葉を聞き、青池は地面に落ちたカードデッキを拾った。だが彼の眼前にはアングラビスの切先が迫る。このままだと間違いなく死ぬ!

「や、やるしかない!」

 そして青池は「いつの間にか」腰に巻かれていた重厚なベルトに、カードデッキを見様見真似で装填する。すると、異形の鏡像が彼の身体に重なりその姿を鎧を纏った戦士へと変えた。

「これであなたもわたしたちと同じね……。願いを叶えるため戦い続ける存在『仮面ライダー』に」

 モリオンは仮面の奥で静かに呟いた。その言葉を発したモリオンは果たしてどんな感情を抱いていたのか。それは仮面に覆われ、読み取ることは誰にもできなかった。

 

 

 

 合わせ鏡が無限の世界を形作るように、現実における運命も一つではない。同じなのは欲望だけ。すべての人間が欲望を背負い、そのために戦っている。そして、その欲望が背負い切れないほど大きくなったとき……人はライダーになる。

 

―続―

 

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