ライダー同士の噂では、ある一人の女性が様々な情報を握っているそうです。
ボロボロのよれたスーツを着て毎朝出社し、社内キャリアに似合わぬ誰にでもできる業務を押し付けられては些細なミスを繰り返して叱責され、深夜まで残業。それが終わったかと思いきや着替えて深夜のバイトをこなす。家に帰る頃にはもう朝で、睡眠時間はほんのわずか。これが「立華 彰(たちばな あきら)」の日常だった。
今日も彼は死んだ目をしながら疲労困憊の肉体に鞭打って仕事をこなす。周囲は順当に出世を重ねているというのに、自分はヒラのまま。最も、要領が悪く社内政治も得意ではないというのは自分自身でも分かっていることだったが、体に無理を言わせた労働がなお、仕事の能率を悪化させていた。
だが、これほど働きづめの毎日を送るにもそれなりに理由がある。もとより気が弱く人の頼みを断れない立華であったが、社内での友人の借金の連帯保証人にされ、その友人は失踪。立華の元には彼には全く覚えのない莫大な借金だけが残された。とても彼には返しきれない金額だったが、立華はただ愚直に働くしかなかった。
そんな折に彼はライダーに選ばれた。彼の願いはただ一つ、「この現実を何とか抜け出すこと」だ。だが、苦しい生活環境の中ではモンスターを倒すのもやっとの思い。ましてやライダー、他人の命を奪うなんて。立華もまた、その覚悟はなかった。
「はぁ……まさか他のライダーとの同盟ですか……」
大きくため息をつく立華。既に深夜を過ぎて夜更けに近い時間帯だが、彼にとってはようやくの仕事終わりだ。
「あの人、加賀谷とか言いましたか。あんな子供でもライダーとして戦ってるなんて、彼は叶えたい願いがあるのでしょうか」
小さな缶コーヒーを手に、立華はそう呟いた。もっとも、加賀谷にも人の命を奪ってまで叶えたい願いは特にない。そういう意味では、二人は似た者同士だった。
「……他にはどんなライダーがいるんでしょう。生き残れるのでしょうか、自分は」
暗い夜空を見上げ缶コーヒーを呷る立華。その表情には焦燥がにじみ出ていた。
「どうすればいいんだ……!」
自分は強くない、それは彼自身が一番わかっていたことだった。それでも、一発逆転を信じて選んだ道だが、その選択には後悔があった。毎日死の危険に自分の身を晒し、いつ殺されるかもわからない。そんな危険な戦場に身を投じるとは、自分でもどうかしていたと思う。毎日自らの選択を悔いながら、彼は路上に這いつくばる虫けらのように生きていた。
だが、そんな臆病な男でも戦わなければならない。立華の耳に不気味な風鳴り音が響く。近くにモンスターが現れたしるしだ。彼は急いで手近な鏡面に近づくと、懐のカードデッキを取り出した。
「変身!」
掛け声と共に、立華の全身に無数の鏡像が重なり合い、その姿を異形のものへと変える。そこに立つのは、全身を刺々しい焦茶色の鎧で覆い、クワガタムシの顎を模したような角を頭から生やした異形の鬼のような戦士「仮面ライダールジア」だった。顔面を覆う仮面のスリットは、彼自身の心を反映してか、嘆き悶える苦しみを言葉なく語るようだった。
大きく深呼吸をしてリズムを整えると、ルジアはミラーワールドへと飛び込んだ。
「何なんでしょう、あいつ……!」
ミラーワールドに突入したルジアを待ち受けていたのは、辛うじて二足歩行の人型だが、獅子と山羊、二つの頭部を有する不気味なモンスターであった。ご丁寧に、背中側からは長い尻尾まで生やしている。モンスター「ミクスリーチャー」のその異様な姿は、ルジアの戦意を戦う前から削ぐには十分だった。
「でも、やらなくては」
弱々しい声だったが、そう呟くとルジアは腕部に装着した攻防一体のガントレット「顎召機鋏クロスバイザー」をミクスリーチャー向けて構える。その姿はちょうど、ルジアの腕に巨大なクワガタムシが取りついているような形だった。
「はああああ!」
召喚機の先端についた鋏を大きく開き、ルジアは敵向けて突撃する。その単純な突撃を、ミクスリーチャーは二つの顔から放つ光弾で迎撃する。爆風と共に巻き上がる砂煙を前に、ミクスリーチャーは勝利を確信したかのように動かなかった。
『GUARD VENT』
だが、煙の中からルジアが直進してくる。召喚した盾「クロシールド」とクロスバイザーとを構えることで、光弾によるダメージを最小限に抑えたのだ。
「えい!えい!」
力任せにクロスバイザーとクロシールドを振り回し、ルジアはミクスリーチャーを殴りつける。その必死な勢いがミクスリーチャーを追い詰めていく。
だが、ただやられるだけのミクスリーチャーではない。両腕に備えた鋭い爪の斬撃がクロシールドに傷をつけていく。防具を装備しない分、ミクスリーチャーの方がルジアよりわずかに身軽だ。
爪による斬撃が、ついにクロシールドを弾き飛ばした。その隙を見逃さんと、ミクスリーチャーが光弾を放ちルジアを弾き飛ばす。その大きなダメージに、ルジアの装甲の端から火花が散った。
ダメージを負ったルジアが膝をつく。彼にとって、モンスターと戦うこともライダーと戦うことと同様苦手としていた。そのため、彼自身できる限り戦闘を避け、必要がある時だけ戦ってきた。そのため、ルジアの戦闘経験値は少なく、モンスターに苦戦を強いられることは珍しいことではなかった。
肩で大きく息をしながらルジアは何とか立ち上がり、引き抜いた起死回生のカードを召喚機に装填した。
『FINAL VENT』
電子音声と共に、ルジアの契約モンスターであるクワガタムシ型のモンスター「クロスタッグ」が出現する。ルジアがそれに飛び乗ると、クロスタッグは一層加速する。巨大な顎を広げたクロスタッグは凄まじい勢いのままミクスリーチャーに突撃、両顎でそれを挟み込み粉砕する。必殺の「ブラッディクルセイド」を受けたミクスリーチャーはそのまま爆発四散する。
「ふう……」
吹き飛んだ爆心地を確認すると、ルジアは大きく息を吐いた。今日も何とか倒せた。だが、早々に必殺技を使ってのやっとの勝利。いつこれが通用しなくなるかと考えると、気が気ではなかった。
空中に浮かぶモンスターのエナジーを捕食すると、クロスタッグはミラーワールドの空に飛び去っていく。幸いなことにクロスタッグがエサを要求する頻度はかなり低い。おそらく飢餓に耐えられるエネルギー効率の良いモンスターなのだろう。もし大食らいのモンスターと契約していたらこれ以上に戦わなければならなかったはずだ。そう思うとルジアは肝を冷やした。
指先を見ると、自らの身体が次第に粒子化しかかっている。もうミラーワールドに残る理由もないと、ルジアは急いで現実世界へと脱出した。
「こんばんは。こんな遅くまで仕事ですか?」
ミラーワールドから戻ってきた立華の耳に、突然声が聞こえてきた。優し気な女の声だった。それだけにこんな夜中には全く似つかわしくなく、あまりに不気味だった。
「ヒィッ……!」
「ちょっと、そんなに驚かないでいただけます?わたし、見ての通り人間ですよー?」
腰を抜かしへたり込んだ立華に、頭上から声が掛けられた。その声のする方を彼は見上げる。
「に、人間……?」
見上げた先にいたのは長身の女性だった。全身に黒色の服をまとい、色白の顔と手だけが夜の闇にぽっかりと浮きあがっている。まるで幽霊だ。
「大丈夫ですか?ひどくお疲れのようですけど、残業か何かですか?」
その幽霊が自分に向けてゆっくりと手を差し出してくる。恐る恐る立華はその手を取った。少しやわらかな体温を感じた。
「ほら、人間でしょう?わたし」
目を丸くしながら立ち上がる立華に、幽霊女が優し気に微笑んだ。
「どうも……。それでは自分、失礼します」
だが立華は軽く会釈をすると、その背中を丸めたまま女の元を立ち去ろうとした。女が不気味というのもあったが、戦いで疲れた体を一刻も早く休めたかったからだ。
しかし、その思いは叶わなかった。足早に立ち去ろうとする立華の背中に刺すような言葉が投げつけられた。
「ライダーですよね、あなた?」
まるで背後から刃物を突き立てられたようなその言葉に、立華は恐る恐る振り向いた。まるで捕食者に睨まれたエサのように。
「な、なんで自分がライダーだって……?」
「そんなの、鏡から飛び出してきたらライダーだと思うに決まってるじゃない。こんな夜中だから大方モンスターを倒してきたんだと思うけど」
立華の不安げな問いかけに、その女はまるで知っていたかのように答えた。立華はその様子に恐る恐る声を返す。
「あの、もしかして『黒井 由利亜』ですか……?ライダーの間で噂の」
「噂……?まあその通りだけど、いきなりフルネームで呼び捨てはちょっと」
立華の震える声に、黒井は訝しげにそう言葉を返した。
「それよりも、あなた確かオグと組んでませんでした?」
「オグ?」
「そう、わたしでもあなたでもない別のライダー。大学生ぐらいの男の子なんだけど、知ってるでしょ?」
確かに自分は彼女の言うように確かに加賀谷、オグのことを知っているが、この女はどこまで知っているのだろう。こちらは自分以外のライダーでやっと二人目に出会ったというのに。
「それと自分に何の関係が……?」
「おそらく、ライダーバトルに入って間もないでしょう?わたしが色々サポートしてあげようと思って。先輩だから」
「はあ……」
黒井の言葉に、立華は学生時代を思い出していた。入学した時の学校紹介で、確か上級生が似たような口ぶりで話していた。最も、その時だけの面識で、以降会うことはなかったが。
「サポートって一体何を……?自分たちは結局、殺し合うはずじゃ?」
立華のその言葉に、黒井は何か面白いおもちゃを見つけたような表情を見せた。その表情に立華は瞬間的に違和感を持った。
「その通り。この戦いを生き残る戦い方を教えてあげる。噂通りの。けどその代わりにね……」
「代わり……?」
この女は何かおかしい。立華の勘が自らに迫るどす黒い瞳に危険信号を発していた。
「オグのこど、わたしに全部教えて欲しいの。もちろん彼には黙って」
自分に話しかけてきたその顔は、闇の中だった。いや、違う。その中には無数の目が、目が、目が!
「あ、いえ、すみません……。自分はこれで」
何か怯えた様子で立華はそれだけ呟くと、背中を丸めて一気に立ち去ってしまった。あまりに突然のことに、黒井はあっけに取られてしまった。
「ちょ、ちょっと……。あー、行っちゃった」
暗闇の中にどんどん小さくなる背中を、黒井は静かに見つめ、それが見えなくなったくらいの時に静かに口を開いた。
「ごめんね、今回はうまくいかなかったみたい……。それにしても、皆に気づくなんて目がいい、いや勘がいいのかしらね?」
そう言って黒井は周囲を見回す。そのあらゆる鏡面には彼女の契約モンスターであるヒドゥンビークの群れが顔をのぞかせていた。暗闇に紛れてはいるが、黒井と立華を覆いつくさんばかりにヒドゥンビークたちは周囲に待ち構えていた。
「まつりちゃんみたくうまくは行かないか……」
黒井は小さくため息をつき、上手くいかなかった苛立ちを小さく抑える。そして、わずかに視界の端で白み始めた夜空を見上げながら、彼女は契約モンスターに命じた。
「みんなの新しい餌よ。だけどライダーだからみんなを倒す力を持ってる。ばれないようにね。もし動きがあったらわたしを呼んで」
黒井がそう言い放つと、周囲を包んでいた暗闇は一気に晴れ、空の隅から次第に白み始める。ヒドゥンビークたちが立華を一気に追いかけていったのだ。その様子を確認すると、黒井は欠伸をしながら大きく伸びをした。そして踵を返すと帰路についた。
「姫、最近元気?」
「みんななんか噂してるよ」
姫神女学院の放課のチャイムが鳴り響くと、友人の女子生徒たちが白沢の机に向かってきた。どこか何かを隠しているような感じだ。
「噂?どんなものかしら?」
白沢は鞄に教科書を詰め終わると、不思議そうな目線で彼女らを見た。
「姫の家、めっちゃ豪邸じゃん?何かその家に入ってくゴツイバイク、みんな見たって」
「そうそう、その噂。強盗か何かの下見じゃないかって、みんな言ってたよ」
「姫ってばお金持ちだもんねー」
「ねー」
そう顔を見合わせる彼女らを見ながら、白沢はそんな人物がいたかと考える。が、その答えにはすぐに思い至った。
「……ああ!それは家に来てもらっているお医者さんですわ!全く強盗だなんて」
間違いない、黒井だ。
「えー、そうなんだ!びっくりした」
「でもさ、あんまりお医者さんって感じじゃなかったよね」
そう笑い合う彼女たちを見ながら、白沢はぼんやりと微笑んでいた。
(もうこれからバイクで来てもらうの止めてもらおうかしら……。黒井先生が聞くとは思えないですれど)
「バイク好きの方なんですの。お医者さんにしては、いささか珍しいかしら?」
「んー、そうだねぇ」
「確かに、あんまりお医者さんとバイクって結びつかないかも」
「そうでしょう?」
そう言うと、白沢は教科書を詰めた鞄を持ち上げた。あくまで、黒井のことなどどうでも良さそうな感じで。
「そういえば、今日小野塚さんの誕生パーティなんだって」
「姫も来る?」
小野塚、というのは別のクラスの女子生徒だ。剣道部所属の少女で、清廉潔白眼光炯々の武人のような気迫のある人物で、学内ではちょっとした有名人だ。今日はその誕生パーティだという。
「……ええ、もちろん」
わずかにためらいながらも、白沢は参加を承諾した。というのも、白沢は「誕生日」が嫌いだ。他人のものはそれほどでもないが、いつ死ぬか分からない自分にとって、誕生日というのは「死」へのカウントダウンに他ならないと考えていたからだ。
だからといって、高貴な身である自分が、他の人の誘いを無碍にはできないだろう。そう思い、白沢は友人たちの誘いに応じで見せた。
「それじゃあ、場所は駅前のカラオケなんだけど」
「わかりましたわ」
「おっけー、それじゃあ早速しゅっぱーつ!」
そう言うと友人は白沢の手を取り、一気に駆け出した。突然のことに白沢はつんのめって姿勢を崩した。
「ちょ、ちょっと……!」
そう言いながらも、白沢はわずかに表情を緩めていた。友人と過ごすこうした時間こそが、死に瀕している自分にとって大切なものだと感じていたからだ。
だが、そのような甘い時間は戦う身にある彼女には与えられなかった。校舎を出てしばらくすると、白沢の耳にミラーワールドからの知らせが届いたからだ。
「……すみません。先に行っていただけますか?」
「え?どうしたの?」
「大丈夫ですわ、後で追いつきますから!」
白沢はそれだけ言い残すと、友人らから離れ遠くへ駆け出して行った。走る度にミラーワールドからの耳障りな音が頭に響く。その音の源に近づくと、白沢の前に見知った顔が現れた。
その姿を見間違えることはない。異常にこだわられた質のいいスーツに糊の利いたシャツ。眉間に寄せた皺に剃刀のように鋭い目線は隠しきれない。
「緑川、さん……?」
「白沢か、とりあえずはモンスターを先に始末するか」
「……戦う気は?」
そう吐き捨てた白沢を前に、緑川はわずかにネクタイを直すと、懐からカードデッキを取り出した。続いて白沢もカードデッキをカバンから取り出す。
「変身!」
「……変身」
仮面ライダーシジル、仮面ライダーモーティスへと姿を変えた二人は、共にミラーワールドへと迷うことなく飛び込んだ。
「ッ!」
ミラーワールドに待ち構えていたのは、軍人のような姿をしたモンスター「カピパーノ・ラウドネス」だった。両腕そのものがスピーカーのような形状になっているだけでなく、顔そのものも角の生えたスピーカーのようになっている、異形の怪物であった。
「あいつ、音で攻撃してきますわ!」
かつて一度破れかけたモンスターに似た姿に、シジルはモーティス向けて叫ぶ。
「このタイプのモンスターか……」
そう言うシジルをよそに、モーティスは小さく嘆息すると、デッキからカードを引き抜き腰部の召喚機に装填した。
『STRANGE VE『ACCEL VENT』
ランダムに効果を決めるストレンジベントをもはや待たず、無理やりにモーティスは決定したカードの効果を発動させる。
「それはあたしの……!」
シジルも所有する、超高速移動を可能とするアクセルベントを発動させると、モーティスの脚部に無数のグレガストがまとわりつき、飛蝗の後肢を模した異形「グレガジャンパー」へと変形させる。何十もの巨大な蝗がおびただしくまとわりつく、嫌なその有り様に、シジルは思わず顔を顰めた。
「はぁ……。一気に決めるか」
一瞬の跳躍、シジルがわずかに瞬きしたその時には、既にモーティスはカピパーノ・ラウドネスの首を掴み持ち上げていた。音より早く接近したモーティスの大きく伸長したその脚部により、カピパーノの身体はたやすく持ち上げてられていた。
『ADVENT』
首を掴んだまま、モーティスは契約モンスターを召喚する。瞬間、虚空から彼の契約モンスターである無数のグレガストが姿を現した。虚空から湧き上がるその様は、まるで暗雲が立ち込めたようだった。
「ッ!この規模……!」
まるで一気にミラーワールドが夜になってしまったかのように空を覆いつくすグレガストにシジルは絶句する。これほどのモンスターを、彼は自在に操れるのか。
「行け」
モーティスのその言葉を待ってか待たずしてか、無数のグレガストが一斉にカピパーノに襲い掛かる。まるで嵐が直撃したかのようなその衝撃に、シジルは辛うじてオースバイザーを構えて防御した。
防御を構えて少し間を置いてわずかな衝撃、追って無数の羽音がシジルの耳に届いた。その音が鳴りやむと、すでにカピパーノの姿は消えていた。よもや契約モンスターの召喚だけで野良モンスターを倒して見せるとは、モーティスの異様な強さにシジルは戦慄した。
(いえ、緑川さんはここまでの規模でモンスターを操れたかしら……?黒井先生もここまでではなかったはず)
仮面の奥の白沢の顔は動揺した表情を貼り付けた様子だ。天を衝く積乱雲が如きグレガストの群れは「災害」と言っても過言ではない。それほどの規模の契約モンスターを操って見せるとは。
「終わったか……戻ろう」
「ええ、そうですわね……」
シジルの目に髑髏のようなモーティスの顔が映る。その顔はまさに死神のようだった。
「白沢。ああは言ったが、私と戦わなくてよかったのか?お前はライダーバトルに対してもっと積極的だったと思ったが」
眉間を触りながら緑川は白沢にそう尋ねた。努めて、凝り固まった眉間の皺をほぐしているようだった。
「どの口が仰っているのですの……?いつの間にかこれだけ殺しが得意になって」
べったりと皮肉をまとわせた白沢のその言葉を、しかし緑川は躱す。
「殺しがだと?人を襲う害獣、モンスターを殺処分するのは現行法に照らし合わせても妥当だと思うが?」
「へぇ。なら人を襲う殺人鬼、ライダーをあなたはどう裁くつもり?」
白沢のその言葉に、緑川はわずかに肩をすくめておどけて見せた。
「そんなの、人間を裁くのは法が全て決めている。私が判断するまでもない」
そう言って笑って見せる緑川の姿に、だが白沢はわずかに不気味さを感じた。その不気味さの方向性は黒井とは違うものだった。
まだ、白沢の手にはカードデッキが握られている。警戒心は解いていない。デッキを握りしめたまま、白沢は静かに口を開いた。
「……そういえば、緑川さん。気になっていたことがあるの」
「何だ?」
「あなたは妻も子供もいて、仕事もあってすごく満たされているように感じるけど、何かあたしのように叶えたい願いがあるの?何を願って戦っているの?」
白沢は、とりあえずは「高貴な身分として自分の栄誉を世界に知らしめる」と青池や緑川には説明していた。命がけのライダーバトル、それに身を投じるならば「勝者はあらゆる願いを叶えられる」という「ご褒美」に魅力を感じての事だろう。「難病を治したい」と考える、他ならぬ、白沢自身のように。
戦いを止めようとする青池、願いを叶えようと必死な人間と全力で戦う加賀谷、といった変則的な例もあるが、それらはあくまで変則的なもの。なればこそ、緑川は叶えようとする願いがあるはずだ。
白沢の問いかけに、緑川は少し考え込む様子を見せた。
「そうだな……。願いなどは、ない。私はただ『こうすることが正しいから』戦っているだけだ。過去も現在も、恐らく未来も変わらず」
「……!」
一切表情を変えず、緑川はそう言い放った。まるで言葉が通じていないのか、白沢は思わず混乱した。
―続―