龍騎外伝 仮面ライダーモリオン   作:EpoMeta

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第23話「杯中の蛇影」

 とある研究によると、動物も人間の気持ちが分かるそうです。しかし、人間はお互いの気持ちさえ分かりません。

 

「ごめんなさい、遅れちゃったわ」

「黒井先生!」

 ビルの窓が映す鏡面を前に、黒井は斎条の隣に駆け寄った。頼れる黒井の到着に、斎条は安堵した表情を見せた。

「あの、さっきの人も、ライダー?ですか?」

「そうよ。斎条さん。あなたもいずれ倒さなければならないわ」

 加賀谷のことを尋ねた斎条に黒井は顔色一つ変えずに返した。その返答に斎条は唇を引き締める。

「それじゃ、モンスターを倒して強くならないと!」

 力強くそう言い放つと、斎条は取り出したカードデッキを鏡面に突き出した。隣を見ると、黒井も同じようにカードデッキを取り出している。

「変身!」

「変身」

 無数の鏡像が二人の身体に重なり合い、その姿を仮面ライダートワインと仮面ライダーモリオンへと変えた。トワインはモリオンの顔を見ると、そのままミラーワールドへと飛び込んでいった。

(斎条さんは、もう少し様子を見てもよさそうね)

 ペストマスクのような仮面の奥でそうほくそ笑むと、モリオンも彼女を追うようにミラーワールドへと移動した。

 

 ミラーワールドへの移動、そしてミラーワールド内での長距離移動には「ライドシューター」という特殊なバイクを使う。ミラーワールド内でライダーが活動できる時間は九分五十五秒と非常に短い。その中で長距離を移動するための手段として、この異形のマシンはライダーに与えられており、ライダーはそれを意のままに扱うことができるのだ。

「!?なにッ?」

 不意に、トワインの乗るライドシューターの側面に大きな衝撃が襲い掛かった。突然の出来事にトワインはハンドル操作を誤り、横転してしまう。

「モンスターね……」

 その様子を横目で観察しながら、黒井は周囲に意識を向けた。何、普段もバイクには毎日乗り慣れている。視界を広げることは造作もない。

「……そこッ!」

 わずかに展開したカバーの隙間から、散弾銃型の召喚機「ヒドゥンバイザー」を器用に突き出すと、モリオンはその引き金を引いた。

 その瞬間、モリオンの視界に不気味な影が映りこむ。弾幕に削られたアスファルトを避けるかのようにその影は飛びのき、ライドシューターのカバーに手にした分厚い短剣を突き立てた。

 まるで戦士のような甲冑を装備した獣人のようなそのモンスター「マキシマチータス」が、その口で咆哮しハンドルを握るモリオンを威嚇した。

「随分な健脚自慢ね。これよりも速いのかしら?」

 そう呟くと、モリオンは一層ライドシューターの速度を上げた。そしてそのままマキシマチータスを乗せたまま、ビルの壁面に向け加速していく。

「潰れてみたら?」

 壁面にぶつかる寸前でモリオンはライドシューターから無理やりに飛び降りる。加速をつけたライドシューターと壁面に挟まれれば、人型サイズのモンスターなら大ダメージだろう。そうしたら、シュートベントだけでも倒せる。

 

 だが、衝突音はしなかった。その代わりに、彼女の耳には力強いエンジン音が絶え間なく響いてくる。

「なるほど、学習したわけね」

 そう吐き捨てるモリオンの視界の前には、自らに向けて迫りくるライドシューター、そしてそのハンドルを握りしめるマキシマチータスだった。

 なんと、マキシマチータスはモリオンが乗り捨てたそのわずかな一瞬を突き、ライドシューターの操作を見事奪ってみせたのだ。

 だが、そのモンスターの高い知能を目の当たりにしても、モリオンは冷静に言い放つ。

「……けど、わたしのヒドゥンビークたちほど、賢くはないようね」

 しかし、操作方法自体は分からないのか、直感に従うようにハンドルを回しながら握りしめるばかりだった。その姿を見止めたモリオンは、仮面の奥でわずかにほくそ笑むと、自らに迫るライドシューター向けて静かに発砲した。

 果たして弾丸は正確にライドシューターの前輪を撃ち抜き、容易くスリップせしめた。自らを逸れていく車体を警戒しながら態勢を整える。

「黒井先生ぇ!大丈夫ですか!?」

 大声と共に、斎条が変身するトワインがやっと合流した。横転の衝撃か、全身を覆う水色のアンダースーツには砂汚れが付着していた。息を切らしながら駆け寄ってくるトワインに注意を向けながら、モリオンは小さな声で話しかけた。

「斎条さん……。今回のモンスターは手強いわ、とっても」

 そう言ったモリオンはヒドゥンバイザーを構え、警戒を解かない。その姿にトワインもファイティングポーズを構えた。

「……何?その構えは?」

「あの、最近フィットネスクラブ行ってて!ボクササイズ、やってるんです!」

「そう……」

 トワインがボクササイズを始めていたことは、当然モリオンは知っていた。患者の動向を把握することは、医者としての絶対的な義務だと彼女は考えているからだ。その手法にはヒドゥンビークらによる監視網が含まれており、当然のごとくプライバシーは侵害していたが。

 そして、まだそれは週一回程度の簡易なものであるが、それでもライダーバトルに前向きになっていることは良い傾向だと考えていた。

(けど、何ともへっぴり腰ね……)

 脇を締め、内股で尻を突き出したファイティングポーズに、モリオンは小さく嘆息した。彼女がボクササイズを始めたのはほんの数週間ほど前。他でもない黒井の元に通院を初めて病状が落ち着いてからだった。そんな短い期間のトレーニングでは、まだこんなものだろうと、モリオンは仮面の奥で目を細めた。

 

「相手が動く前に、カードを使っておいたら?」

「あっ!確かに、そうですね!黒井先生!」

 モリオンの言葉にトワインは構えを解き、腰のカードデッキからカードを抜き取ると、大腿部に巻き付いた召喚機「ボロスバイザー」に装填した。

『STRIKE VENT』

「よし、っと……!」

 電子音と共に、トワインの両拳に契約モンスターの頭部を模した手甲「ボロスウォーム」が装着される。

「!」

 装着した瞬間、トワインの腕に強力な衝撃が走る。目を見開いたトワインの視界に一瞬マキシマチータスが映りこみ、そしてすぐにその姿を消した。

「な、何!?」

「高速移動かしら……。厄介ね」

 周囲を確認しながら黒井は呟いた。敵がどう出るかが分からない以上、彼女は敢えて待ち伏せの姿勢を取った。そして、その動きが罠だと分かっていても、マキシマチータスは決して攻めることを止めない。

「!速いッ!」

 速度の乗った強烈な斬撃を辛うじてヒドゥンバイザーで受け止めるモリオンだが、勢いのついた斬撃を殺しきれず地面に押し倒されてしまう。

「ぐっ……!」

 ぎりぎりと音を立てながらヒドゥンバイザー越しに刃がモリオンの首に近づく。その窮地に、トワインが拳を握り締めた。

「黒井先生ェ!」

 トワインは両拳に力を込めると、諸手突きの要領でモリオンに覆いかぶさるマキシマチータス向けて突き出した。それと共に、装着されたボロスウォームから、強烈な水流「ボロスウォームストリーム」が放たれる。

 高圧水流を受けて、マキシマチータスは大きく体勢を崩す。その隙にモリオンが装甲の薄い下腹部に強烈な蹴りを見舞った。

 その蹴りに堪えかねたマキシマチータスはモリオンから離れ、ギュインという駆動音と共に姿を高速移動の中に消した。

 

「逃げちゃった……?」

「いえ、まだ狙っているわ……」

 泥が混じる地面に構えながらモリオンは呟いた。先程までの待ち伏せではない、完全な臨戦態勢だ。

「さっきは助かったわ。水が出せるのね?」

「えと、さっきのは初めてやったっていうか……」

「また出せる?」

 モリオンのその言葉は有無を言わせぬ迫力をもって、トワインの中に響いた。それは診察室で時折見せる、異常に真剣な言葉と同じだった。

「やってみます……」

 小さくそう返事すると、トワインは両拳に力を入れて構えた。集中した視界の端に高速移動する獣人の影が映りこむ。

「そこッ!」

 強烈な水流がマキシマチータスに襲い掛かる。だが、マキシマチータスは高速移動によりそのことごとくを回避する。

「あの速いのを何とかしないと……っ!」

 コツを掴んだのか、トワインはボロスウォームストリームを連射する。すると、そのうちのいくつかはマキシマチータスに当たり始めた。だが、その勢いを消すには至らない。

「チッ……!黒井先生!」

 焦りからトワインはモリオンの方を振り向いた。その姿に、モリオンはゆっくりと言葉を返す。

「斎条さん、真剣勝負の間に振り向いたら危険だわ」

 そしてそのままモリオンは引き抜いたカードをヒドゥンバイザーに装填する。

『SHOOT VENT』

「やはりわたしの思った通りね……」

 モリオンの腕部を覆う形で異形の銃火器「ヒドゥンスキャッター」が装着される。そしてもう片方の手に握るヒドゥンバイザーと共に、両方の銃口を上げた。その先には泥に刻まれた「轍」があった。

「ローラースケート、それが加速力の正体ね」

 無数の轍の中、自らに迫るその二本にだけ照準を合わせ、モリオンは両方の引き金を引いた。

「そうか!周りを泥まみれにして相手の動きを探ってたんだ!」

 合点したように叫ぶトワインに対し、しかし、自らに迫る危機を分からない程、マキシマチータスは愚かではなかった。すんでのところで方向を変え、水流を躱した時と同様にその銃弾を回避しようとする。

 だが、無情にもマキシマチータスの身体に無数の弾丸が食い込んだ。瞬間、その身体は吹き飛ばされる。

「散弾なのよ、わたしのは」

 ボロスウォームストリームのように収束した一点を狙い打つ射撃とは異なり、ヒドゥンバイザーもヒドゥンスキャッターも共に弾を「ばらまく」ことを得意とした武器であった。その射撃は狙撃銃のように精密ではないが、相手の動きを止める、ということに対して抜群の効果を発揮するのだ。

 今度は倒れ込んだマキシマチータスにモリオンが迫る。そしてためらいなくヒドゥンバイザーの銃剣とヒドゥンスキャッターのくちばしをマキシマチータスに突き刺した。

「一気に決めるわ」

 そう言い放つや否や、モリオンは両手の引き金を引いた。体内に食い込んだ銃口から、マキシマチータスの全身に無数の銃弾がぶち込まれる。モリオンの射撃技「ダブルスキャッター」だ。両手に構えた銃から直接打ち込まれる銃弾のエネルギーは、防御のできない体の内側に大ダメージを与えた。そのダメージはマキシマチータスの全身を駆け巡り、大爆発を起こした。

 

 爆散したモンスターから生じたエネルギー体、これは契約モンスターのエサでもある。空中に浮かぶエネルギー体に、モリオンの契約モンスターであるヒドゥンビーク・サミットが警戒しながら近づき、喰らった。

「強敵だったわ……もしかしたら、元契約モンスターだったのかも」

 モリオンのその言葉に、トワインは声を恐怖に震わせた。

「元、ってどういうことですか……?」

「それは、言った通りの意味よ。ライダーだけが倒されて契約が解除になったモンスター、ってこと。当然経験値を積んでいるから強力なモンスターね」

「そんな……」

 モリオンの言葉は、人知れず命を落とし脱落したライダーがいることを示唆していた。しかし、トワインにはその言葉は「ライダーとして願いを叶えるために必死で戦っても、場合によっては願いを叶えられず死ぬ」と伝わった。自分がライダーバトルに参加してからは誰々が死んだという話は聞いていない。だが、脱落の可能性を示唆されたことにより、自分もそうなるのではないか?という恐怖心が彼女の裡に渦巻いた。

「不安なの?」

 怯えて震える心に忍び込むように、モリオンの言葉はトワインの中に入り込んだ。その言葉にトワインは小さく頷く。

「……なら、他の誰かを倒せばいい。そうすれば、必ず生き残れるわ」

「ワタシなんかが、ですか……?」

「あなたが強くなろうと努力していることは分かるし、現に強くなっているわ。あなたの水を出す技がなければ、危なかったんだから」

 無条件の称賛。その言葉はトワインの枯れていた承認欲求にオアシスのように染み渡っていく。あなたのおかげだった、あなたはよく頑張っている。自分を大切に見てきたように感じさせるモリオンの言葉はトワインに深い安らぎを与えた。

 つねに負け犬街道を走ってばかりだと思っていた自分の人生だが、黒井という強い理解者を得て、そしてライダーとしても強い彼女から認められたのだ。これなら、自分も生きていていいと思えるかもしれない。そう思うと、トワインは何だか心から嬉しかった。

 この時、モリオンはようやく完全にトワインを手中に収めたと確信した。薄皮を積み重ねていくようなトワインへの自己肯定感への治療だったが、これで一段落だろう。トワインはライダーになってから何度も「生きていていいのか?」「ワタシは生きていていい!」を振れ幅大きく繰り返していたが、もう後者に針は振り切れ、ライダーである限りにおいてはこれまでのような不安に駆られることは少ないだろう。

 もう、彼女が自分を疑うことなどないだろう。よしんば疑ったとしても、わたしの意見が最上位に列するに違いない。よほどの例外がなければ。忠実な手駒を増やせたと思い、モリオンは仮面の奥で笑みを浮かべた。

「黒井先生、ありがとうございます……!」

「礼はいいのよ。それよりもそろそろ時間でしょう?現実世界に戻ったら?」

「あ、はい!待ってますから!」

 粒子化しかかった指先に気づくと、トワインは嬉しそうな背中を見せながら現実世界に帰還していった。

 

 トワインの帰還を見送ろと、モリオンは傍らに待機する自らの契約モンスター、ヒドゥンビーク・サミットに声をかけた。

「……大丈夫よ。ライダー同士は必ず戦う定め。頼れるのはあなたたちだけ。いつもありがとう」

 モリオンは小声でそう呟くと、ヒドゥンビークの方を見やる。ヒドゥンビークはモリオンの言葉に頷いたような仕草を見せると、先程マキシマチータスが爆散した辺りに降り立った。

「……?」

 すると、ヒドゥンビーク・サミットは数度大きな声で鳴いたと思うと、その周囲をくちばしで叩きつけ傷を刻み付け始めた。それはこれまで見られなかった行動であり、思わず黒井は目を見開いた。

 サミットが何らかの模様を刻み終えるころには、周囲に他にも群れを構成する若年個体「ヒドゥンビーク・マウント」や幼体である「ヒドゥンビーク・ヒル」らが姿を見せていた。彼らは長であるサミットの後ろに整然と並んでいた。人間の声真似さえ可能とする発声器官を持つ彼らだったが、今の彼らは何も話さず沈黙を守っていた。

 その神妙な様子に、モリオンはただ見守るしかなかった。彼女にしては珍しく、あっけに取られていたのだ。そのぼんやりとした脳内でどれほどの時間が経ったかは定かではないが、ヒドゥンビーク・サミットが何やらまた鳴き声を上げたとき、ふと思考に違和感を覚えた。

 それは、契約モンスターに意志を伝達するライダーの共通装備「ジペット・スレッド」からだった。通常はライダー側の意思を契約モンスターに一方的に伝え、思いのままに操る機能を持っているのだが、それが、逆に作用していた。

 今、モリオンに変身する黒井の脳内には、ヒドゥンビークたちの思考が流れ込んでいた。もちろん、そのまま流れ込んできているわけではない。通常そうであるように、ジペット・スレッドを通じて「翻訳」された意思が伝わってきた。

「あなたの、いのちは、わたしたちが、わすれません……」

 黒井の口から言葉が零れた。自分から発せられた、自分ではない言葉。その音を何度も反芻すると、大きく口角を吊り上げた。

「……スバラシイわ」

 

「加賀谷さん……!どうしたんですか、顔が真っ青ですよ……」

 夜の街を彷徨する加賀谷に偶然出くわした立華が心配そうに声をかけた。

「おっさんか……」

 立華の言葉に、加賀谷は小さな声で返す。その声には焦燥の色が乗っていた。彼はそのままビルの壁面に寄りかかると、大きなため息をついた。

「……黒井が、オレを狙っている」

「あの、黒井さんが?」

「そうだ……。あのドブ色の目に気味の悪い笑顔、あいつはいよいよ、ライダーバトルで誰か殺す気だ……!」

 そう忌々しげにつぶやくと、加賀谷は拳を壁面に叩きつけた。その様子に立華は呆然とする。

「……それが、加賀谷さんだって言うんですか」

「くそ……。殺されてたまるかよ……」

 そう言うとまた加賀谷は大きく息を吐いた。立華は返す言葉もなかった。彼らの目の前を雑踏が通過していく。

「加賀谷さんは、どうしたいんですか……?」

 不意に、立華が口を開いた。その質問に、加賀谷はじっと考え込み、ゆっくりと口を開いた。

「オレは……。死にたくねぇな……!」

「……!」

「ライダーバトルは黒井みたいな卑怯な奴が出てきて、オレが望んだ本当の戦いができない……!だからオレは勝って、勝って、勝って!全力で戦う願いを叶えるんだ……!」

 それは、自らの不安を押さえつけるような言葉だった。そして強い口調で加賀谷はそのまま続ける。

「だから、まずは黒井から潰す……!オレを狙ってるんだったらこっちから打って出てやる!」

「え……?」

「だから協力してくれよおっさん……!いずれ黒井は潰さなきゃいけない。おっさんにとっても必ず邪魔になるはずだ」

 加賀谷のその申し出に、立華は戸惑いの表情を見せた。

「え、それは……。でも、黒井さんはすごく強いはずでは……」

「だから今やるんだ。それに、二対一は卑怯じゃない」

「?」

「黒井は必ず一人では戦わない。あいつは全部じゃないと思うが、他のライダーと一緒に行動していることが多い。だからオレたちがあいつの不意を突いて攻撃したとしても、他のライダーが近くにいるはずだ」

 加賀谷の言葉を聞き、立華は何か気づいたように口を開いた。

「つまり、近くにいる他のライダーが援護しに来ると?」

「そうだ。黒井は一人では戦わない」

 そう語る加賀谷であったが、この推理は少し外れていた。黒井はモンスターを一人でも倒しており、ヒドゥンビークの探知網を用いて他のライダーが気づく前から戦闘を行っているため、一人で戦っている状態を見かける機会がないのである。そしてその行動範囲や行動時間も幅広く、加賀谷の生活時間と被っているタイミングによっては、他のライダーと一緒にいる場合もあるのだ。それらもまた、黒井の情報攪乱によるものだった。

「だから、おっさんは他のライダーが出てきたらそいつを抑えて欲しいんだ。それまでは二対一で戦う。あわよくば黒井を潰す」

 口ではそう言うが、加賀谷の目は不安げに揺れていた。しかしその表情は影になり、立華には伝わらなかった。

「いつか必ず黒井は倒さなきゃならない……!だから今余裕があるうちにやるんだ、おっさん!」

 言葉だけは強く、加賀谷はそう言い放った。そして、そのような言葉を断ることは、これまでの人生で出来なかった立華は、ただ加賀谷の言葉に頷いた。

「そ、それなら……」

「なら決まりだ。決まったからには早く動こう……」

 そう言った加賀谷の胸には深い決意があった。「オレは受けて立つ」。自らを支え続けてきたその自負を捻じ曲げてでも戦わなければならないと、彼は無意識に感じ取っていた。

 

 そしてその動きを感じ取っていたのは、彼ら本人だけではなかった。

 

―続―

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