龍騎外伝 仮面ライダーモリオン   作:EpoMeta

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第3話「水面の契約」

 業界の噂によると、仮面ライダー同士の戦いに勝利した人はどんな願いでも叶えられるそうです。ですが、誰がどうやって願いを叶えるのか、本当のところはわかりません。

 

 鏡の中の世界、ミラーワールドに飛び込んだ青池壮真と、黒井由利亜が変身した仮面ライダーモリオンは鏡面から地面に降り立つと周囲を確認する。彼らはミラーワールドに住まう怪人、ミラーモンスターの一体である「アングラビス」にさらわれた女性を救うために来たのだ。

「ご存知だと思うけど、ミラーワールドでは生身の人間は数分と持たない……。早く見つけないと手遅れになるわ」

「そんなのごめんだぜ……!」

 モリオンの言葉に青池はそう返した。さらわれた女性を救うためにミラーワールドに飛び込んだ彼にとっては、彼女の命が最優先であった。

 だが、彼の心配は杞憂であった。怪人アングラビスはまるで青池を待っていたかのように、ミラーワールドの中に佇んでいたのである。

「いた……!彼女も!」

 アングラビスは女性を青池に見せつけるように腕に抱える。気を失った彼女の身体は無事だが、いずれこのままではミラーワールドの中に消えてしまう。

「しかし妙ね……?モンスターは大体人間をすぐに食べるんだけど、こうして食べないでいるのはわたしも初めて見たわ」

 モリオンは手にした銃「ヒドゥンバイザー」を向けながらそう呟いた。その顔をアングラビスは砕けた兜の隙間から覗いている。

「!?」

 アングラビスの顔に灯る光が不意に歪んだ。そして怪人は手にしていた女性の身体をモリオンに向けて放り投げた。その行動に動揺する彼女であったが、心を落ち着けて女性を受け止めた。

「な、何だよ!?モンスターは人を喰うんじゃないのかよ!?」

「モンスターにも色々なタイプがいるってことね……。勉強になるわ」

 モリオンは少なくとも昨日変身したばかりの青池よりは、はるかに長くミラーワールドの中で戦ってきた。だが、ほぼすべてのモンスターは人間を見るや否や捕食する。ミラーワールドで生身の人間を見ることは迷い込んだ人間か、他のライダーが倒れた時ぐらいしかない。

 それだけに、アングラビスのこの行動は不気味で異様だった。その様子はまるで人間、あるいはライダーじみた姿として、モリオンには感じられた。

 

 モリオンが女性を受け止めたことを確認すると、アングラビスは手にした槍を振り上げ、青池の方へ向けた。そしてその切先を僅かに動かした。

「……俺と戦いたいのか?」

「だとしたら面白いわね」

 青池の疑問に黒井はそう返すと手にしたヒドゥンバイザーから数発の銃弾をアングラビス向けて撃ち込んだ。怪人の鱗のような皮膚に食い込んだ銃弾が火花を散らす。

 だが、そのダメージを意に介さずアングラビスは青池向けて迫り寄る。そしてそのまま手にした槍を突き出した。その切先をすんでのところで青池はかわす。

「ッ!」

「いや、まだよ!」

 だが、アングラビスが手にした槍を中心に巨大な渦が現れ、青池を薙ぎ払った。

その衝撃に青池は吹き飛ばされる。

「あの槍……!俺にも何か武器があれば!」

 膝に手をつきながら立ち上がった青池が零す。すでに全身に纏う鎧は傷だらけになっていた。

「カードを使うのよ!カードデッキは変身の時以外にも使えるわ!」

「カード?デッキに入ってた奴か!」

 そう言うと青池はベルトのカードデッキから一枚のカードを取り出した。そこには両刃の直刀のイラストが描かれていた。

「……で、これをどうすんだ?」

 カードを手にしたまま硬直する青池。鉄仮面の隙間から覗く双眸がカードをただ眺めている。

「その左手のガントレットに差し込むのよ……。こんな感じで」

 見かねたモリオンは腰のカードデッキから一枚のカードを引き抜き、青池に見せるようにしてからヒドゥンバイザーに装填した。

『ADVENT』

 電子音声がミラーワールドに響くと、モリオンの背後の空間を割るように巨大なカラスのような姿のモンスターが姿を現した。彼女の契約モンスター「ヒドゥンビーク」である。

「別のモンスター!」

「わたしたち仮面ライダーはモンスターと契約して力を得るの……。この契約のカードを使ってね。って言わなかったかしら?」

 モリオンはそう言いながらカードデッキから「CONTRACT」すなわち契約と書かれたカードを見せた。だが、青池はそんなことを聞いておらずぽかんとしている。

「いや、俺は初耳だけど」

「別の人に言ったのかしら?だけど、モンスターと契約しないと他のモンスターは倒せないわよ」

 ヒドゥンビークは空中からアングラビスに対して鋭い爪とくちばしで連撃を加える。槍を振るい抵抗するアングラビスであったが、次第にその全身には傷が増えていった。だがしかし、顔に灯る暗い光はヒドゥンビークでもモリオンでもなく、まっすぐ青池を見据えていた。

「俺も、やるしかないのか……!」

 静かに、だが力強く、青池はそう言うと、先程引き抜いたカードを手甲型の召喚機「ライドバイザー」に装填した。

『SWORD VENT』

 電子音声がライドバイザーから発せられると、虚空から一本の直刀「ライドセイバー」が青池の足元に落ちてきた。それを恐る恐る青池は手に取ると、大きく振りかぶりアングラビスに切りかかった。

 だが、アングラビスは容易くその斬撃を受け止め、槍さえ使わずそのまま青池を殴り飛ばした。その衝撃でライドセイバーもへし折れてしまった。

「折れたァ!?」

「だから言ったじゃない」

 吹き飛ばされてきたライドセイバーの切先を避けながら、モリオンはそう零した。

「全く……世話が焼けるわね」

 更なる銃撃をアングラビスに加えながら、モリオンはふと抱えていた女性に目線を向けた。いまだ気絶状態だが、その指先や末端が次第に少しずつ粒子化し始めている。ミラーワールドでは人間は、仮面ライダーも含めて長く存在し続けられない。このままではこの女性も間もなく消滅してしまうだろう。戦場を俯瞰し、モリオンは青池に声を掛けた。

「青池さん、選手交代。来た道を戻って彼女を現実世界まで送り届けてあげて」

 静かな声色で言い放たれたその言葉に、青池はモリオンの方を見た。

「けどよ……あんたは大丈夫なのか!?」

「あなたよりは、大丈夫よ。それに青池さんが手をこまねいていたらこの人死にますよ?」

 冷徹ささえ感じさせるモリオンの言葉は、戦いという非日常の中にある青池の心に鋭くしみ込んだ。青池は少し俯くと、モリオンから女性の身体を受け取った。

「あ、ああ……。来た道を戻ればいいんだよな?」

「その通りよ。ああでも、ミラーワールドの中には他にもモンスターがいるから気を付けてね」

「……ッ!分かったよ」

 仮面の裏で、青池は悔しげな表情を浮かべる。ライダーになれば怪物と互角以上に戦えると思っていたが、実際にはあくまで青池のメンタリティはそのままで、さらにモンスターと契約し、経験を積まなければモリオンのように強くなれないのだった。

 だが、その現状に腐っている場合ではない。まずは目の前の人を助けないといけない。今こうしている間にも腕に抱いた女性の身体は次第に消えかかっている。急がなければモリオンの言う通り、本当に死んでしまう。そう直感した青池はモリオンに背を向けて一目散に元来た道を駆けだしていった。

 その姿に獲物が逃げたと直感したのか、アングラビスが青池の方を見やる。だが、その上半身に無数の銃弾が浴びせかけられ火花を散らした。

「あなたの相手はわたしたちよ。さて、彼はうまくやってくれるかしら……」

 槍を構えるアングラビスから一定の距離を取りながら、モリオンは銃を構え呟いた。その傍らに、彼女の契約モンスターであるヒドゥンビークが寄り添い、モリオンの耳元で小さな音を発した。

「……別のモンスター?まあ、彼次第ってところね……」

 一言そう漏らすと、モリオンは手にしたヒドゥンバイザーの引き金を引いた。

 

 不気味な風鳴り音が鳴り響くミラーワールドの中を、青池はひたすらに走っていた。その腕には命が危うい無辜の女性の身体が抱きしめられている。

「俺は何もできないのか……!」

 仮面の奥の素肌を汗が伝う。極限の緊張状態が続く青池の身体であったが、その身体機能は彼の精神に自らの肉体の状態を正確に伝え続けていた。

「せめて、この人だけでも助けないと……!」

 今も抱えた女性の身体は次第に消えかかっている。僅かな猶予もない。そう思うと両足にさらに力がこもった。

 だが、そう簡単にはいかなかった。

「……ッ!何だこの声!」

 不意に、青池の耳に巨大な咆哮が響き渡った。続いて、大地を揺らす振動。それらに驚いた青池が振り返ると、その瞳には巨大な肉食恐竜のようなモンスターの姿があった。

「コイツ!確か昨日の夜もいた!」

 巨大な顎を口が裂けるほど開き、人間という獲物を捕食せんと吠えるその恐竜の如きモンスターは「ダイナブルート」。その刃のような牙がミラーワールドの大気にきらめいた。

「マジかよ……!」

 今この場にモリオンはいない。つまり、ここから生き延び、抱えた女性を救うには今ここで自分が戦うしかないのだ。もしそうしなければ、自分はここで死ぬ。漠然と出会ったが、死への不安が青池の心中から溢れ出た。

「死にたくねえな……!けどそれはこの人も同じか……」

 それは誰に向けた言葉であったか、青池はそう言うと腰のカードデッキから一枚のカードを引き抜き、ライドバイザーに挿入した。

『GUARD VENT』

 虚空から飛来した板のような盾「ライドシールド」を青池は掴むと、一度女性の身体を下ろし、ダイナブルートから守るように盾を構えた。

 ダイナブルートの鋭い爪の一撃がライドシールドを切り裂く。だが、先程までと違って青池は倒れない。ダイナブルートはさらに連撃を加えるが青池は一歩も引かない。後ろに守るべきものがあるから。

「俺が守らないと!目の前で死にかけてる人間ほっとけるかよ!」

 瞬く間にライドシールドはちぎれてしまった。だがそれでも青池は倒れない。根性を見せる彼であったが、しかし全身に纏う鎧は傷だらけだ。

(何か方法があるはずだ……!)

 だが諦めず、青池はカードデッキから一枚のカードを引き抜いた。そのカードの絵柄を確認すると、彼はカードを咆哮するダイナブルートの前にかざした。

(契約のカード!上手くいってくれよ!)

 契約のカードを握る手に力がこもる。彼らの周囲を眩い光が包み込んだ。

 瞼を閉じてもなお視界を照らす眩く輝く光の中で、青池は自らの前に立つダイナブルートの姿を見ていた。巨大なモンスターの身体はその光の中でいくつもの虚像に分かれ、青池の身体に重なった。

 すると、青池が纏う鎧も形状が変化していく。全身を包むアンダースーツは深い群青色に、上半身を覆う鎧はより鋭利さを増し、顔面を隠す鉄仮面は恐竜の牙を思わせる意匠が追加された。そしてそれに伴い、腰のカードデッキには恐竜の頭部を模った金色のエンブレムが追加された。

「これが俺か……!?」

 青池は振り返り鏡面に映る自分の姿を見た。そこにはダイナブルートも、先程までの自分の姿もなく、群青色に彩られた異形の騎士「仮面ライダーバジュラ」が立っていた。

「……早くこの人を元の世界に帰さないと」

 バジュラは女性の身体を抱え、元来た道を引き返し元の世界へと駆けていく。青池の全身にこれまで以上のエネルギーがみなぎる。その足取りは今まで以上に力強いものだった。

 

 一方で、モリオンとアングラビスの戦いも激しさを増していた。

『SHOOT VENT』

 モリオンは左腕から肩にかけてヒドゥンスキャッターを装備する。契約モンスターであるヒドゥンビークの頭部から胴体、翼部を模したその異形の武装の照準を定め、無数の銃弾をアングラビス向けて放つ。

 アングラビスはその銃撃を身をかわし避けるが、銃弾全てをかわすことはできず、数発が身体に迫った。

「……!そうきたか」

 アングラビスが手にした槍を突き立てると、その槍を中心に巨大な渦が現れる。その渦は銃弾から身を護る防壁となり、銃弾を薙ぎ払った。

「並のモンスターならこういう戦いはしない……。やっぱり、誰かわたしの知らない所で戦ったライダーの元契約モンスターかしら?」

 僅かな苛立ちを感じさせる口調でそう言いながらモリオンは、そのままヒドゥンスキャッターを構え接近する。その鋭いくちばしを模った先端部で、直接アングラビスの肉体を貫こうというわけだ。

 一歩、また一歩と間合いを近づけるモリオン。だが、もう少し手を伸ばすとアングラビスに届くというところで、足元にわずかな違和感を覚えた。

「潮流が……?ヒドゥンビーク!」

 モリオンは呼びだしていたヒドゥンビークに叫ぶ。瞬間、ヒドゥンビークはモリオンの肩を掴み空中へと舞い上がる。

 まさにその数秒後、モリオンが立っていた周囲は巨大な渦潮にのみ込まれた。木々をなぎ倒すほどの勢いの渦が彼女の眼下に広がる。このままではまずいと、モリオンは飛翔し渦の中心に迫る。その中心にヒドゥンスキャッターの先端を向け、無数の銃弾を浴びせかける。だがそこに手ごたえはない。

「!逃がしたか……。多分彼のところかしら?」

 渦を巻いていた水流が消えると、そこにいたはずのアングラビスの姿はどこかに消えていた。周囲を見回しその姿が見当たらないことを確認すると、モリオンは青池が逃げた方向に向けて飛び去った。

 

「ここだ……!確かこの側溝から俺たちはこっちに来た」

 バジュラは自らが飛び込んできた側溝の水面の前に立っていた。女性を抱えたままその水面に飛び込む。数瞬後には、元の世界の姿が視界に映っていた。まずは女性を元の世界に戻す。そして一度そのまま自分も戻ろうとしたバジュラであったが、その足が突如動かなくなった。何かに掴まれているのだ。その正体を確かめようとバジュラは後ろを振り返った。

「お前……!」

 網状に変形した腕でバジュラの足を力強く掴んでいたのは、アングラビスであった。砕かれた兜の中から覗く光が、バジュラを見据え爛々と輝いている。

 アングラビスの力はすさまじく、元の世界のすぐそばからバジュラをミラーワールドへと引き戻した。

「やっぱり、俺と戦いたいんだな……!いいぜ、てめえを叩き潰してやる!」

 バジュラは腰のカードデッキから一枚のカードを引き抜き、恐竜の頭部を模した手甲型の召喚機「竜召手甲ダイナバイザー」へと装填する。

『SWORD VENT』

 電子音声と共に虚像が重なり合い、バジュラの両手には一対の分厚い蛮刀「ダイナファング」が握られた。ダイナブルートの顎を模したそれは、先程の武器よりもずっと手のひらに馴染む。だらりと腕を下げるバジュラに向かい、アングラビスは槍を構える。

「ハッ!」

 バジュラは一気に距離を詰めると、アングラビスの身体に刀の切先を叩きこむ。それらは力強く怪人の身体を覆う鱗に食い込み傷を与えた。

 だが、そのままでは終わらない。連撃、連撃、連撃!両手に握られたダイナファングが次々にアングラビスの全身に傷をつけていく。その攻撃の激しさにたまらずよろめくアングラビス。

「何ッ!」

 槍を短く持ち、その両端でダイナファングを弾き飛ばしたアングラビスは、その槍を中心にまたもや渦を起こさんと、その鋭い穂先を大地に向けて突き刺した。だが、握りしめていた両手ごと槍は吹き飛ばされた。その攻撃が向かってきた方向にアングラビスは目線を向ける。そこには空中で銃を構えるモリオンの姿があった。

「黒井!」

「患部切除。そう何度も再発させないわ」

 両手を失ったアングラビスはもはや槍を持つことは叶わない。だが、それでも諦めきれないのか、あるいは闘争本能の表れなのか、両腕を網状に変形させ立ち上がると、腕を振り回しバジュラ向けて襲いかかった。

「とどめを!」

 空中でモリオンが叫ぶ。その言葉に呼応するように、静かにバジュラは腰のカードデッキから一枚のカードを抜き取った。それはカードデッキにも浮かび上がった、彼自身を象徴する紋章であった。

『FINAL VENT』

 その言葉と共に、バジュラの前にダイナブルートが出現し、モンスター向けて駆け出す。そしてその後ろを追うようにバジュラも駆けだした。そして、ダイナブルートはその勢いそのままに前方に飛ぶと、巨大な足のような姿に変形した。さらにバジュラはそれに脚から飛び込むようにして自らの脚に装着し、その巨大化した脚でアングラビス向けて飛び蹴りを見舞う!必殺技「ダイナミックストライク」!

 巨大質量を伴う強烈な蹴り込みは、アングラビスの鎧や鱗を打ち砕き、全身にダメージを与え大爆発を起こした。爆炎が晴れたそこに立つのは鋭い鎧を纏う戦士、仮面ライダーバジュラとその契約モンスター、ダイナブルートだけであった。 

 

「やっぱり、青池さんはあのモンスターと契約したようね」

 モリオンは静かに呟くと、バジュラの前に降り立った。アングラビスを倒したバジュラは大きく肩で息をしている。

「あの人は?」

「……何とか、元の世界に送り届けたよ」

「それは良かったわ。わたしたちも戻りましょうか?」

 モリオンの言葉に、だがバジュラは無言であった。

「……どうしたの?」

「この力で、俺はあの人を守れたんだよな?」

 そう話すバジュラの手は震えていた。殴り合いの喧嘩程度なら経験はあった。だがこのような命のやり取りは彼にとって初めての経験であった。

「そんなこと、早く戻って確かめてみればいいじゃない」

 対して、モリオンの言葉は静かなものであった。フリーターとして生計を立てている彼に対して、モリオンは手術台の上で日常的に命に触れている。だからこそ、彼の震えを理解こそすれど共感はできなかった。モリオンはバジュラの手を取ると手近な鏡面に飛び込み、元の世界に戻った。

「モンスターと契約するとどの鏡面からも帰ることができるの、便利でしょ?」

「確かに便利だけどよ……」

 そう言うとモリオンは変身を解いた。鎧を纏った虚像が離れ黒井由利亜の姿が露になる。その動きを見ながらバジュラも変身を解いた。

「あの人は!」

 変身を解いた青池は、元の世界に置いてきた女性の方へと駆けだした。彼女は最初にミラーワールドに入り込んだ側溝の近くに倒れていた。青池と黒井も駆け寄り、彼女の様子を確認した。

「おい!大丈夫か!」

「……ん?なんで私……?」

「大丈夫そうね。無理に動かさない方がいいんだけど」

 青池が声を掛けると、女性はゆっくりと目を開いた。だがその意識はまだおぼろげだった。

「あれ、さっきの方と確か黒井先生……?どうしてここに?」

「たまたま近くを歩いていたら、青池さんからあなたが急に倒れたって聞いて様子を見ていたの。ね?」

「あ、ああそうなんだぜ。大丈夫そうで良かったよ」

 女性の問いかけに黒井と青池は適当に口裏を合わせた。ミラーワールドで命の危機にあったといったところで彼女は気絶していたし信じられないだろう。

「それはすみません……。青池さん、もありがとうございます」

「いや、俺はたまたま近くにいただけだから……。旦那さん、見つかると良いな」

「もし不調があったらわたしの病院に来てくださいね。ちょっとサービスします」

「はい……!ありがとうございました。もし夫の件で何かあったら連絡してくださいね」

 会話を終えると、女性はそのまま去っていった。ややふらついた足取りも、数歩道を歩くうちに良くなっていった。これならもう大丈夫だろう。

「……こうして誰かを助けるのが青池さん、あなたのライダーとしての願いかしら?」

 小さくなっていく女性の背中を見ながら黒井は呟いた。だが、その言葉に青池は首を横に振る。

「いや、俺は人をモンスターから助けるために戦うんだ。だからライダー同士で戦い合うなんてやめようぜ。人間同士で戦うのはごめんだ」

 青池の言葉に黒井は少し目を細めてほほ笑んだ。その胸中は誰にもうかがい知ることはできない。

「わたしとは違うタイプだけど、技術さえあれば医者向きな心構えかもね」

「それってどういう意味だよ!?」

 しかし、並んで立っている二人を遠くから見つめる鋭い視線があった。

「ふぅん……。ライダーなのに願いのために戦わないんだ……」

 そう零したのはまだ年若い少女の声であった。少女の瞳は黒井を、そして青池を見つめている。

「理想論なんて、罪じゃない?」

 手に取った紅茶を静かに飲み干すと、少女は小さく呟いた。それに呼応するようにガラスの鏡面の奥で、白馬のようなモンスターが力強く嘶いた。

 

―続―

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