ラブライブ! 女神の黒子   作:5時10分

1 / 1
第1話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリジリジリとけたましい目覚まし時計の音楽が朝が来たことを教えてくれる。俺はその聞き慣れた騒がしい目覚まし時計を止めるためベッドから起き上がった。

 足下をふらつかせながらなんとか目覚まし時計を止めるとさっきまでのことが嘘かのような静けさが広がる。

 俺は二度寝の魔の手から逃れるようにキッチンへ行く。キッチンには、空の弁当箱と昨日の内に作ったおかずがある。弁当箱におかずを手早く詰め朝食の準備を始めた。

 

パンを焼いている間、今日は久しぶりコーヒーを豆から挽くことにした。コーヒー豆特有の香りが俺の鼻を擽る。俺は朝食が出来上がるまで昨日起きた事を思い出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――昨日

 

 

 

 

 

 

 

 俺たち学生に自由を知らせる(チャイム)が学校(男子校)に響き渡る。早速、各々放課後をどう過ごすか話し合っている。

 

「やっと終わった~。錬、なんかどっか寄って行こうぜ」

 

 俺こと高瀬錬の隣の席から誘ってくるクラスメイトの藤井悟。

 

「おい、それは俺に対する嫌味か?金欠なのは知っているんだろう」

 

 わりー、わりーと全く悪気のない笑顔を見せる。その笑顔が無性に腹が立った俺は悟の顔に裏拳を入れる。鼻を押さえて少し涙目になっている悟を放置してスマホをチェックする。スマホには約二年ぶりにバイト先で再会した幼馴染の南ことりから連絡が来ていた。

 

「お!南ちゃんか。いいな、俺も会いたいなあ」

 

 回復した悟は俺のスマホを横から覗き見た。悟は過去に一度しか会っていないことりに一目惚れをしている。そのせいで何かに付け込んで会わせろと五月蝿い。

 

「無理だ」

 

「なんでだよ!?」

 

「大事な話らしい」

 

 悟はそれを聞いて大人しく引き下がった。なぜかニヤニヤしながら。珍しい。

 

「おい!!みんな、こいつこの後、女と会うんだって!!」

 

 こんにゃろー!!だからニヤニヤしてたのか。

 

女子と会う。一見普通のことのように思えるけど男子校では、そうではない。男子校生徒は常日頃から女子に飢えている(稀に飢えてないやつもいるが……)。だから男子校で女子と会うやつがいると知れ渡ると制裁(こうふくぜい)が絶対王政下の王様が白目をむくほどみんなから徴収される。

 

冷静に思い出している場合じゃない。逃げ道をさが……。ないですね~。教室の扉はすでにクラスのがたいのいい連中で固められていた。その他は俺を捕まえるためジリジリと距離を詰めてくる。目は血走っていないものの、B級ホラー映画に出てきそうな顔つきになっている。

 

こんな状況なのに、いやこんな状況だからこそ悟は俺に止めを刺す一言を言った。

 

「ちなみに会う女ってこいつの幼馴染なんだって。しかもかわいい子。読モやっててもおかしくないレベル」

 

 悟はとても爽やかな、とても爽やかな笑顔を俺に向けた。それとは対照的に他のみんなの顔が険しくなった。

 

 何人かの運動部員の背後に見てはいけないものが見えた気がするが見間違いであってほしい。アハハハ。

 

「約束の時間、間に合うかな?」

 

 それを最後に決壊したダムから流れ出る濁流の如く悟を除いた全員が俺に飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 制裁(こうふくぜい)を徴収された俺は秋葉原の某ドリンクが呪文のように長い店でことりを待っている。もう注文したドリンクはなくなり今日出された課題は粗方片付けてしまった。

 

 そんなわけで今俺は秋葉原を道行く人たちを眺めている。人間観察じゃないよ、人間観察じゃ。大事なんで二度言いました。って誰にだよ。

 

 一人でボケて突っ込むというさむいことをしているとことりが来た。正確にはことり“たち”三人だ。

 

「ごめんね、錬くん。待った?」

 

「そんなに待ってないよ。後ろの二人は……」

 

 ことりの後ろに見知った顔が二人いる。二人ともことりと同じくらい美人だ。そのせいか視線だけで殺せるんじゃないかってくらいに痛い。主に野郎からの。

 

「あれ、錬くんだ。どうしてここにいるの。そういえば、おばさん元気?いや、そうじゃない!何で二年(いままで)連絡してくれなかったの!?私たち友達でしょ!?幼馴染でしょ!?」

 

 最初は俺が知る穂乃果だったがだんだんとヒートアップしていった。

 

「穂乃果、少し落ち着いてください。他の人の迷惑です」

 

俺が驚いていると園田海未が穂乃果をなだめる。

 

「でも、海未ちゃん!!」

 

「海未の言うとおりだ、高坂。三人とも何かたのんで来い。話はそれからだ。だろ?ことり」

 

「うんそうだね。何か飲もうよ」

 

 ことりに言われた穂乃果は膨れっ面をしていたが海未と一緒にカウンターへ向かった。

 

「ことりはいかないのか?」

 

穂乃果と海未が行ったのを確認したことりは嬉しそうに俺を見ている。

 

「穂乃果ちゃんと海未ちゃんとまた会えてうれしい?」

 

「うるせー」

 

 なんとなく気恥ずかしくなった俺はことりに財布を投げた。

 

金の心配?そんなもん、知らん!!

 

 

 

 

 

 

 

「ことりなんで、俺を呼んだ?」 

 

三人が一息ついたところで今回の要件をことりに聞いた。ちなみに飲み物は俺の奢りで。

 

「朝ね、妙な視線を感じるの。海未ちゃんも感じてるらしいの」

 

 穂乃果はそんなことあったっけ?とキョトンとしている。

 

「妙な視線?ストーカー?」

 

 昔似たようなことがあったし気を付けるに越したことはない。

 

「今回は全然違うの」

 

「それは後で考えるとして、じゃあ今回も一緒に登校か」

 

 チラッとあいつ等の恨めしそうな顔が浮かんだ。

 

「ありがとう、でも今回は朝のトレーニングに来てほしいの」

 

「朝のトレーニング?」

 

「はい、ここにいる穂乃果とことりと私とここには来ていない三人で朝と夕方にトレーニングをしているんです」

 

 海未が説明してくれる。

 

「なんでトレーニングなんかするんだ?海未ならわかるけど」

 

「それは」

 

「それはね私たち今、スクールアイドルをやっているんだ!!」

 

 穂乃果が海未を遮って会話に割り込んでくる。そして聞きなれないスクールアイドルという言葉に俺は首を傾げた。

 

「スクールアイドルってアイドル目指してんのか?お前らは」

 

「違うよ!アイドルそのものだよ!!」

 

「へー、そうなんだ」

 

 幼馴染がいきなり突拍子もないことを言い始め、反応に困る。

 

「反応薄くない。再会した幼馴染がアイドルやってるんだよ!びっくりしないの!!」

 

「びっくりも何も……。高坂が変なこと言い出すのは慣れてるし」

 

 穂乃果は拗ねた顔で俺を睨んでくる。

 

「変なことじゃないよ!それにもう、私たちライブもやったしネットにもアップされているんだよ!」

 

 それなのに、それなのにと言い出す穂乃果。

 

「穂乃果、少し落ち着きなさい」

 

「海未ちゃんの言うとおりだよ、穂乃果ちゃん」

 

 海未とことりになだめられ穂乃果は少し落ち着く。

 

「……高坂の言うとおりアイドルをやっていたとしたら、ことりが朝に感じている視線ってファンって考えられないか?」

 

 ファンと聞いて穂乃果は顔がパッと輝く。そういうところは昔と変わらないんだな。

 

「だとしても私は少し怖いです」

 

 海未が怯える。

 

「そのファンの方がストーカーになってしまうと考えると……」

 

 海未の怯えがことりと穂乃果の二人に伝染して空気が重くなった。

 

「周りの大人に知らせておくのがベストだろう」

 

 重くなった空気を吹き飛ばすように俺は明るく言った。

 

「そうですね。知らせておくのとそうでないのはだいぶ違いますからね」

 

「前回の時見たく、錬くんが解決してくれないの!?」

 

 海未は納得したのに穂乃果はまだ納得していない。

 

「あのな高坂、前回の時は本当にラッキーだったんだぜ。その幸運が続くわけないだろう?」

 

「でも……」

 

「なんかあったらまた話ぐらいなら聞くよ」

 

「うん……」

 

 それで穂乃果は納得してくれたようだ。

 

「じゃあ、俺はこの後用事があるから帰るわ」

 

「錬くん、おばさんとおじさんによろしくね!!」

 

「ああ」

 

 俺は、逃げるように用事(バイト)に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーございまーす!!」

 

 従業員専用入口からいつものように明るく挨拶。気持ちをメイド喫茶(バイト)に切り替える。

 

「おはよう、高瀬くん。今日は忙しくなるよ!なんせ今日は南さんが入っているからね!!」

 

 俺が事務所に入るなり店長がいきなりウレシイことを言ってくれる。店長、ウキウキしてるしちゃってるじゃん。

 

「本当ですか!?じゃあ頑張らないと!!」

 

 俺は更衣室に入った。

 

「マジか……」

 

 ことりが来るなんて聞いてないぞ!!忙しいどころの騒ぎじゃない。あいつの人気と言ったらたった一ヶ月で秋葉原のカリスマメイド“ミナリンスキー”と呼ばれるくらいだ……。やめよう。考えても無駄だ。仕方がない。

 

 俺は制服に着替て持ち場(キッチン)に入った。

 

「おはようございます。高瀬、キッチンに入ります」

 

「早速で悪いけどこれとこれを作って」

 

 先輩から渡された伝票に書かれているメニューを手早く作り上げる。メニュー名がちょっとアレなのはここがメイド喫茶だから仕方がない。流石に二年目となれば慣れた。

 

「おはようございます」

 

 ついにことりがやってきた。二年目となってもことりが入っているときは未だに慣れない。

 

 さあ、今日も頑張りますか!!

 

 

 

 

 

 

 

「今日もすごかったね」

 

「そうだったな」

 

 店長、終始ご満悦の笑みを浮かべてたぞ。ことりとは、ここ最近バイトが終わったあとは途中まで一緒に帰っている。店長曰く『ボディーガード』らしい。

 

「錬くんは朝のトレーニングに来てくれないの?」

 

「まあ、そうだけど。なんでアイドル始めたんだ?」

 

「あのね、私たちの学校が廃校になっちゃうの。そしたら穂乃果ちゃんが『スクールアイドルを始めて入学希望者を増やそう!』って」

 

 穂乃果、単純すぎる……。

 

「で、どんな感じなの?うまくいってるの」

 

「そ、それは……」

 

 ことりの顔に影がさす。

 

「だれだって最初はそんなもんだろ。うまくいくやつなんてそういない。だから、気にすんな」

 

「ありがとう」

 

「おう!」

 

 階段の近くでことりが立ち止まった。

 

「ことり、どうした」

 

「私たちここでトレーニングしてるんだよ」

 

 ことりが見上げた先は俺もお世話になった神田明神男坂だ。

 

「本当に来てくれないの?」

 

「うん、そうだけど」

 

 俺がそう言うとことりが文字通り目と鼻の先まで近づいてきた。

 

「本当に来てくれないの?」

 

 近い近い近い!!まつ毛が涙に濡れているのがわかるくらい近いよ!?

 

「ダ、ダメかな?」

 

「……………」

 

 耐えるんだ、耐えるんだ、俺。ここで、うんって言ったら負けな気がする。

 

「お願い、錬くん!!」

 

 た、耐え、耐えるん……。

 

「行くよ……」

 

 負けた。

 

「えっ、本当!?やったあ!!絶対来てね!!」

 

 はぁ……。ことり、マジ策士。侮れないよ、この子は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということがあったのさ。

 

 丁度、朝食が出来上がる。俺はそれを味わう暇もなく胃袋に詰め込む。

 

 食器は、男坂から直で学校に行くから帰ってきてからでいいか。

 

 ここから男坂までは前の家から比べると近いがいかんせん、運動してないからな。大丈夫かな。

 

 トレーニングウェアに着替え、通学バックに制服と弁当を入れてと、さあ、行きますか。

 

「それじゃあ、行ってきます!!」

 

 誰もいないのに習慣でつい言ってしまう。まあ、いいか。二年近くやっているんだし。今更考えてもしょうがない。

 

 今日も頑張りますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外と体力ってそんなに落ちないもんだな」

 

 家からノンストップで走りきることができた。ついでに階段も駆け上がることもできた。若干息が上がっているけどこれには驚いた。

 

「早く着すぎたか?」

 

 これじゃあ、穂乃果になんて言われるか。絶対『来てくれると信じてたんだ。ありがとう!!』って言うに違いない。

 

 久しぶりに男坂から見る景色。何にも変わっていないんだな。

 

「あれ、今日は珍しい人が来てるやん」

 

 後ろを振り向くと巫女服を着た女の人(相変わらず胸がでかい!!)がいた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。ここね、もう少ししたら使うこっちが来るの。だから、気を付けてね。高瀬くん」

 

「はい、ありがとうございます。希さん」

 

「それにしても久しぶりだね、高瀬くん」

 

 ふふふと笑う希さん。この人も変わらないんだな。よかった。

 

「はい、部活やめたのでここに来る必要がなくなったので」

 

「空手とテニスだっけ?やめちゃったんだ。もったいない」

 

 自分のことのようにガッカリする希さん。申し訳ない気分になっちゃうよ。

 

「高瀬くんは何でここに来たんや」

 

「それは……」

 

「さあ、今日も気合入れていくよーー!」

 

 階段の下から穂乃果の声が聞こえてくる。

 

「お、来た来た」

 

 希さんは穂乃果の声が聞こえると嬉しそうな顔になった。

 

「つ、着いた~~」

 

「おはよう、穂乃果ちゃん。今日も精が出るね」

 

 穂乃果がゼーハー、ゼーハー肩で息をいているといつの間にか隣にいる希さんが声をかける。

 

「おはようございます、希先輩。あれ、錬くんだ!やっぱり来てくれたんだ!!」

 

「うるせー、高坂」

 

 穂乃果が呼吸を整えると同じようにことりと海未そして初めて見る女子三人が階段を駆け登ってきた。

 

「穂乃果ちゃん高瀬くんの知り合い?」

 

 この二人、知り合い?まあ、ここに来れば知り合いにもなるか。

 

「はい!錬くんは私とことりちゃんと海未ちゃんの幼馴染なんです!希先輩は?」

 

「うちと高瀬くんは昔の知り合いなんや。それで今日は久しぶりに来たから穂乃果ちゃんたちが来るから気を付けてねって教えてたんや」

 

 穂乃果は驚いていて気が付いてないけど俺のことを見る希さんの目つきが複雑そう。何かしたか?はっ、もしかして胸を見ていたのがバレたか!?

 

「穂乃果先輩その人も私たちとトレーニングするんですか?」

 

「そうだよ花陽ちゃん」

 

 知らない三人の真ん中にいる子は花陽ちゃんって言うんだ。両端にいる女の子はなんというのか。勝気なクールビューティーな子に片やスポーツが大好きで活発そうな子。いったいどうやって穂乃果たちと知り合ったのか。気になる。あっ、花陽ちゃんお願い、そんなに怖がらないで。

 

「来るんだったら来るってなんで教えてくれなかったんですか!?」

 

 勝気なクールビューティーな子が穂乃果に詰め寄る。

 

「ごめんね、真姫ちゃん。昨日の今日で来るとは思わなくて。私たちのトレーニングに入れてもいいよね、真姫ちゃんそれに凛ちゃんも」

 

「凛はいいにゃー。大勢でやったほうが楽しいから!!」

 

「べ、別にわたし嫌ってわけじゃないけど」

 

 クールビューティーな子が真姫ちゃんで活発そうな子が凛ちゃんって言うんだ。

 

「花陽ちゃんは?」

 

「別に構いませんが」

 

「それじゃあ始めよっか」

 

 おーー!!と全員が気合を入れる。いいね、これ。懐かしい。

 

「最初はいつも通り、階段ダッシュから始めます」

 

 海未が指揮してるんだ。妥当と言えば妥当だよな。

 

「海未、はいこれ」

 

 俺は持ってきたストップウォッチを渡した。

 

「えっと、ストップウォッチなら私たちのがありますけど」

 

「それわな、一往復に掛かったタイムと全体のタイムを計るんや」

 

「って希先輩、いつの間に」

 

 びっくりする海未を見てしてやったりの笑顔をする希さん。代わりに説明してくれたからいいけど。子供っぽいところがあるんだよな。

 

「目標タイムはいくつにするやん?」

 

「前は30秒台いけましたけど、久々なんですからね……。一往復32秒で」

 

 希さん以外俺の目標タイムを聞いて驚く。

 

「本当にできるのですか?」

 

 半信半疑の海未に俺は自信たっぷりに言った。

 

「やってみないとわからない。きっとできるさ」

 

 

 

 

 

 

 

「錬さん、少しタイムが落ちてきています」

 

 海未に言われ俺はペースを上げる。一往復のタイムは32秒を切っていることだろう。やばい息、切れそう。

 

「次でラストです。ファイトーーー」

 

「おう!!」

 

 自分自身に発破をかけラストスパートをかける。

 

「高瀬さんすごいですね。私たちの倍、走っているなんて。しかも私たちよりも早いなんて」

 

 走り終えるとびっくりしている花陽ちゃんが迎えてくれる。穂乃果は……、休んでやがる。

 

「ありがとう、花陽ちゃん。でもこれくらいならすぐ出来るさ」

 

 俺は持ってきたスポドリを飲み干す。

 

「花陽ちゃんこれくらいで驚いちゃだめだよ」

 

「そうなんですか」

 

 穂乃果が自慢げに言う。

 

「テニスの大会でね準優勝したことがあるんだよ!それに空手もやってるんだよ!!」

 

「それはすごいです」

 

 花陽ちゃん、尊敬の眼差しで見てくれる。嬉しいんだけど……。

 

「もうやってないんだ。テニスも空手も」

 

「えっ、そうなの!何で!?」

 

 穂乃果だけではなく声に出していないものの海未とことりも驚いている。教えてなかったし、仕方がないか。

 

「高校生デビューだよ」

 

 なんてことないくだらないよくある理由で誤魔化す。

 

「えっ、でも私は知ってるよ。試合に負けて悔し泣きをしていたことも夜遅くまで自主練して錬くんのおばさんに怒られたことも楽しそうなあの笑顔も」

 

 海未とことりを見ると同じことを思っているのか首を縦に振っている。

 

「あんなに頑張ってたのに何でそうキッパリやめられるの?」

 

 いつも以上にしつこく問いただしてくる穂乃果。ここまでとは……。

 

「人生いろいろあるさ」

 

「でも!」

 

「高坂、この話はまた今度。筋トレでも始めようぜ。時間が勿体無い」

 

「うん」

 

俺は空になったスポドリの容器を通学バックに戻しみんなで筋トレを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなが帰った後俺は、一人残ってもう一走りした。穂乃果に言われたことを振り払うように。

 

「じゃあ、俺はこれで失礼します」

 

 十分にストレッチを終え階段を降りようとする俺に希さんは声をかけた。

 

「うちには本当のこと教えてはくれへんの?」

 

 たぶんこの人は気が付いてる。俺が嘘をついていることも。

 

「本当のこと?言ったじゃないですか。『高校生デビュー』だって」

 

 一応誤魔化す。

 

「高瀬くんはそんな人じゃない。それはうちもよう知っている」

 

 参ったな~、バレてる。ここでトレーニングしてた時いろいろ話したからな。

 

「今は話したくない、はだめですか?」

 

「それはいつか話してくれると受け止めていいの?」

 

「約束はできませんが。でも、話したくなったら話してもいいですか?」

 

 今の時点で精いっぱい出せる答え。

 

「うん、いいよ」

 

 希さんが優しい笑顔になる。

 

「でも、なんで穂乃果ちゃん三人には言わない?幼馴染なんやろ?」

 

「幼馴染だからです。特に穂乃果には教えたくないんです」

 

「まあ、確かに親しい仲にも知られたくないこともあるやけど、それにしても」

 

 クスリと笑う希さん。俺、いま可笑しいこと言ったっけ?

 

「いま、穂乃果ちゃんのこと『穂乃果』って言ったよ」

 

 自分の顔が赤くなるのがわかる。希さんはくすくす笑ってる。

 

「穂乃果ちゃんの前では無愛想な高瀬くんがね、まさか」

 

 まだ、希さんはくすくす笑っている。

 

「その顔から察するに高瀬くんは穂乃果ちゃんのことが」

 

「だからあいつらには黙っててくださいね。特に高坂には!!」

 

 それを希さんに言われる前に俺はやけくそ気味に遮った。

 

「わかったよ。『穂乃果』達には秘密にしておくよ」

 

 もう“くすくす”から“ニヤニヤ”に変わってるよ、希さん。

 

「でも意外。高瀬くんだったら海未ちゃんかことりちゃんのどっちかを選ぶかと思ったのに」

 

「意外でしたか」

 

「ちょっぴりね。でもなんとなくわかる気がする」

 

「それは希さんのよく言う『スピリチャル』ですか」

 

「女の勘かな」

 

 先回りをしてドヤ顔で言ったけど答えは違った。希さんには一生敵わない気がするな。

 

「それじゃあ、今日はこの辺で」

 

「高瀬くん、学校、気を付けてね。いってらっしゃい!!」

 

 何を言われたのか一瞬だけ俺は分からなかった。

 

「行ってきます!!」

 

 我に返った俺は希さんにそう言うとただただ嬉しくてにやけてしまわないよう必死に学校へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






誤字脱字の報告お待ちしております。

あと感想も どんなものであれ嬉しいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。