コナンは、蘭と共にショッピングモールに来ていた。勿論、コナンは用がない。蘭が服を買いに来ただけである。小五郎は朝から酒と競馬で、蘭がこんなお父さんに任せられる訳がないとコナンをショッピングモールに連れてきたのだ。
「ねぇ、コナンくん。コナンくんも新しい服いる?」
「ボクは大丈夫だよ。蘭姉ちゃんはもう服買わないの?」
「うん。もう十分よ。そしたら、ジュースでも飲む?」
「うん!」
子供っぽいのは好きじゃねぇが、これもバレない為。仕方ねぇ事なんだよな。はぁ。
「あ、奇遇ですね。蘭さんじゃないですか」
「ホントですね。安室さん」
さらりと現れたポアロのイケメン。コナンが安室に視線を向ければ不本意なんだと笑顔が返ってきた。
本当に偶然かよ……。
「安室さんは何しに来たの?」
「生活必需品の購入だよ」
そう言って持ち上げられた安室の手には重そうな袋が下げられていた。
薄っすら見える中身はお米、調味料、エトセトラ。よくそれを片手で持ち上げられるな。ってか、重さで袋が破れないか?
「コナンくんと蘭ちゃんは何をしに来てたんだい?」
「服を買いに来てたんです。お父さんが朝からお酒飲んでたので、コナンくんも一緒に」
安室は想像できたようで苦笑していた。
「またですか……。毛利さんらしいと言えばらしいですけ、」
「キャーーー!」
辺りに耳を劈くような悲鳴が響く。人混みを逆流して悲鳴の方へ向かうと1人の大柄な男性が細身の男性を人質にしているようだった。
「安室さん、事件!」
「あぁ、どうもそのようだね」
犯人と人質にされた人の周りには腰を抜かして立てない女性、怯える子供たちをあやす母親、人質を見つめるサングラスの男性、スマホで通報しようとして犯人の仲間に銃を向けられ動けなくなった男性がいた。それ以外の人たちは逃げられているようで仲間の人数は少ないようだ。
「おうおう、事件の渦中に飛んで火に入る夏の虫か。ヤワそうな男にガキ、こっちの相手じゃねぇな」
「甘く見てると怪我をするのは貴方の方ですよ」
安室が笑顔で威嚇する。ポキポキと拳を鳴らした。
「おい、アンタら。早まるな。既にアイツが人質になってんだ」
サングラスの男がこっちに来て、ニヤッと笑いながら人質を指差した。人質は右目が髪で隠れたミステリアスで儚い雰囲気の男だ。普通は人質ともなれば怯えるはずなのに、男は一切そういう気配を感じさせない。ただ、柔らかく微笑んでいるだけだ。それが異様に感じられた。
「随分と余裕なんですね」
安室が皮肉気味に言った。
俺もこんな状況で落ち着き払っているのは気になるしな。
「近くで爆発に巻き込まれた時よりマシだからな。あの時は本当に死んだかと思ったけど!」
サングラスの男はふざけるように笑顔を浮かべる。
あぁ、それに比べたらこっちの方が全然マシだ。でも、だからといって、こんなに冷静なのはおかしいだろ。余りにも冷静過ぎる。
コナンが安室の方を見れば、安室にしては珍しく少し悲しく懐かしげな感情が混じった表情をしていた。
「安室さん?」
「大丈夫だよ、コナンくん。少し彼の声が昔の友人に似ていてね」
「そっか」
安室さんの友人に何があったのかは知らないが、きっと安室さんにとって大事な人だったんだろう。
「それで、犯人は何を要求しているんですか?」
安室がサングラスの男に問いかけた。
「金。だか、なんでこんなショッピングモールで強盗してるんだろうな?銀行の方がよっぽど良いのに!」
「そこのお前ら!静かにしてろ!撃ち殺されたいのか!」
人質を取った強盗の男がこちらに銃を向ける。左手で人質の首にナイフを当てたままだ。
「ふふ。それも、もうおしまいだよ」
瞬間、人質を取った強盗の男が引っくり返る。それを成し遂げたのは1人しかいない。
人質の男だ。
「ごめんね。だけど、こんな事したんだ。悪く思わないでね」
人質の男が強盗の男の肩を脱臼させる。強盗の男が呻いた。見掛けによらず強いな。
「チッ!おい、ミヤマ!起爆だ!」
「は、はい!」
起爆!?強盗の男は爆弾も設置していたのか!
ミヤマと呼ばれた男はスイッチを取り出す。その瞬間、ミヤマが地面とキスをしていた。その上には、サングラスの男が座っている。
「へー!これが起爆スイッチねぇ」
サングラスの男は興味深そうにスイッチを眺めた。
「爆弾はもう使い物にならないから心配しなくて良いよ。解体済みだからね」
人質だった男は強盗の男ににっこりと笑った。そして、鞄から取り出された爆弾。
「ふん!1個だけじゃないぞ」
「その言葉、お返ししますね」
鞄の中からは合計で4つの爆弾が出てきた。強盗の男は顔を青褪めている。
「どうして分かったんだ!俺は完璧だったんだ!爆弾のプロに教えてもらったのに!どうして!」
「それ、誰ですか?」
「ちっ!こうなったからには、もうあいつらも巻き込んでやる!名前はシュタインヘーガーって奴とアブサンって奴だ!」
「「!?」」
シュタインヘーガーにアブサン!酒の名前って事は組織の幹部か!
コナンが安室に目配せすれば肯定が返ってきた。
「成程。そこのお二方聞きましたか?」
人質だった男は、コナンたちの方を見る。コナンの疑問を察したのか男はにこりと笑った。コナンにはその優しげな笑みがどこか怪しく翳っているような気がした。
「事件が起きてからこっちに来たって事は警察かそれに準ずるもの、探偵だと思ったんだよね。警察なら警察手帳を見せるはずだけど見せてない。それでも事件を解決しようとこっちに来た。消去法で貴方たちは探偵でしょ?合ってる?」
「合っていますが、」
「おう。じゃあ伝言頼んだぜ!」
サングラスの男がニィッと笑う。
急展開すぎて全く状況が読めない。安室も良く分からないといった顔をしている。
「ミツルちゃん、帰るよ」
「おう」
ミツルと呼ばれたサングラスの男が立ち上がって人質だった男の方へ歩いていく。ミツルの下敷きになっていた男は全く動かず気絶しているようだ。ミツルは持っていた爆弾のスイッチを投げ捨てる。
爆弾のスイッチを投げ捨てるなんて!爆発したらどうするんだ!
コナンと安室は同時にスイッチの方へ駆け出した。しかし、スイッチが地面に着く方が速い。爆弾のスイッチが押される。
大きな爆発音。そして、停電。
少しして電気が復旧。強盗の男たちは爆発して肉塊になっていた。辺りに悲鳴が響く。強盗よりも悲惨なこの結果。
ミツルと人質の男はいなくなっていた。
「どいてくれ、警察だ!って、またキミ達かね」
「目暮警部!」
目暮警部はコナンたちの視線の先にあった肉塊を見て口を手で覆った。そしてコナンたちの方を見た。
「キミ達。もう今日は帰りなさい。落ち着いてから事情を聞こう」
今日はもう、探偵の出番はない。