バーボンは第6武器庫のドアを開けた。第6武器庫はそんなに大きくない。東都湾の倉庫街の端にあるような場所だ。
「こんばんは、バーボンです」
「ちょっと待ってて。もうすぐ終わるから」
パチン
ニッパーが線を切る音が微妙に明るい武器庫に響く。普段の照明よりは暗いが、手元は良く見える明るさだ。
武器庫の真ん中で若い男2人が向き合って爆弾を解体していた。
「それは……?」
「爆薬は入ってねぇ」
2人は爆弾から目を離さず解体を進めている。
手際が良い。下手をするとベテラン現役の爆処よりも速い気がする。いや、確信を持って言える。ずっと速い。
ジャガーのお面の男が線を切る。手元で工具が回る。コヨーテのお面の男は爆弾の横に置いていたタイマーを止めた。
「えっと、今回は4分56秒。お、5分切った〜!」
「ん。この爆弾にも慣れてきたな」
2人は爆弾を棚に片すとパイプ椅子を3つ出してきてその内の1つに座るようにと差し出した。バーボンが椅子に座る。3人で木箱を囲む形になった。木箱の上には資料が3つに纏められている。
「じゃあ、まず自己紹介から。お面で予想はついてると思うけど、俺はシュタインヘーガー。長いからシュタインって呼んでね」
シュタインはコヨーテのお面を突いて、ヒラヒラと手を振った。
「俺はアブサン。コイツと爆弾とは長い付き合いだ」
アブサンがシュタインへ指を向けてから後ろを指差す。差された方向を見れば棚に並べられている爆弾があった。整っていて綺麗だ。
「僕はバーボンと言います。知ってると思いますが、探り屋として活動しています」
「よろしくね〜」
「よろしく、っつー事で資料を見ろ」
バーボンは資料を手に取った。A4が3枚だけの薄い物だ。
1枚目には概要が。大きくない組織だが、小さくもない組織だ。知ってはいけない事を知ってしまったらしく、漏らされる前に潰す。
潰す?そう言えば、メールの件名も殲滅作戦について、だったな。
3人で?まぁ、命じられるぐらいだ。彼らにはそれだけの力量があるんだろう。
2枚目には作戦の内容が細かく書かれていた。とは言っても簡潔にまとめれば、バーボンが情報を抜いている間に2人が爆弾を仕掛けて誘導する。バーボンが脱出したら、2人が好きなように遊んで、最後には建物全体を爆発で壊すだけだ。遊ぶ内容は良く分からないが、相手にとってあまり良い展開でない事だけは分かる。ご愁傷さまとしか言いようがない。
3枚目は建物の見取り図。爆弾が設置予定の場所に赤で印が付いている。
「もう、覚えたよなァ?」
アブサンが木箱の上に資料を放り出した。シュタインの姿が見えない。
「ええ。資料は処分しますか?」
「うん。ゴミ箱ここにあるから捨てて良いよ。要らないでしょ?」
後ろからシュタインがドラム缶を持って現れた。バーボンは資料をドラム缶の中に放り込んだ。アブサンもドラム缶の中に資料を捨てた。
シュタインが手を叩く。高らかに音が鳴った。
「じゃあ、打ち合わせはここまで!ここからはちょっと俺らに付き合ってくれよ、バーボンちゃん?」
シュタインがバーボンに絡みながら右手を上げる。手にはバーボンの瓶があった。
「グラスは用意したぜェ。安モンのグラスだか、ソイツはいい奴だから許せよ?」
アブサンが瓶を指差すと、シュタインが瓶を揺らした。
何が、目的だ?
「別に警戒しなくてもいいのに。バーボンちゃんさ、なんだか寂しそうな目をしてたから」
たまには気を抜いてみたら?
シュタインは、柔らかくへらりと笑う。どこか無責任でマイペースなそれは、安心感があるのにそのまま消えてしまいそうだった。
やめてくれ。あの時を思い出させないでくれ。
どうしてか見えないはずのアブサンのお面の先の目が少し細まった気がした。
どうして初対面の俺を気に掛けるんだ。優しくしないで欲しい。俺と、お前らは関係ないんだ。
量産品のグラスにバーボンを注いで、飲み干す。喉を通った、嫌に美味いストレートのアルコールだけが、今の自分の、バーボンとしての顔を保っていてくれた。