神殺鎗は、神々の世界に生きる   作:レヴィ

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始めまして、レヴィと申します。

楽しく読んでいってくだされば、幸いです。



第一章
#1 And the snake survived


乱菊。御免。ボクの刃は、遂には藍染には届かんかった。

 

乱菊。あかんかった。

 

結局、乱菊のとられたもん、とり返されへんかった。

 

嗚呼、やっぱり。謝っといて良かった。

 

……何て顔しとるんや、乱菊。せっかくの別嬪さんが台無しや。

 

……何を言うてるんや、乱菊。聞こえへん。

 

あれは……黒崎、一護?

 

……嗚呼。強い眼になった。

 

良かった。今の君になら。

 

 

 

任せて 殂ける。

 

 

 

 

 

#1 And the snake survived

 

 

 

 

 

いけない。そろそろ雨が来そうだ。

空を分厚い雲が覆う曇天の中、リュー・リオンはそれなりに重たい買い物袋を抱えて『豊穣の女主人』への帰り道を急いでいた。

元レベル四の冒険者であり【疾風】と呼ばれた彼女が全力を出して走ればものの一分もかからない道のりだが、そんなことをしては、抱えている買い物袋が破れせっかく買った食材を駄目にしてしまう。

とはいえ、雨に降られ濡れ鼠になるのも御免である。

店を出る時は晴れていたのに、と、リューは自らの不運にため息をつく。

遠くで微かに香る湿っぽい雨の匂いが、憂鬱な彼女の鼻をついた。

 

「あっ……」

 

一秒でも早く帰るために走っていたリューだが、買い物袋から柿が一つ零れ落ちる。

慌てて手を伸ばそうとしたものの、生憎両手は買い物袋で塞がってしまっている。

ぽとりと地面に落ちた柿は、まるで意思を持っているかのように、ころころと路地裏に向かって転がっていった。

たかが、柿一つ。

すぐそこまで迫っているであろう雨と一粒の柿を天秤にかけ、豊穣の女主人へ再び走ろうとするリュー。

たかが、柿一つ。されど、柿一つ。

まぁ、雨に濡れた所でシャワーを浴びればいいか。

そんな結論を出したリューは、豊穣の女主人へ向きかけた足を路地裏に向けた。

大通りよりも一段と薄暗い路地裏を、リューは柿を探しながら駆ける。

 

「……どこまで転がっていったの」

 

精々出入り口の付近に転がっているだろうと高を括っていた彼女は、探し物が中々見当たらないことに悪態をつく。

遮蔽物や死角の多い路地裏で小さな柿を探すのは面倒だった。

魔法で辺り一帯を吹き飛ばしたくなる衝動を抑えながら地面を凝視していたリューの目に、何かが映った。

 

「……人?」

 

リューは一度柿を探すことを諦め、視界の端で捉えた人影に近づく。

オラリオではあまり見ない極東の装いに、白い髪。性別は男性。腰に武器のようなものを差す。歳は私よりも少し高いくらい。背丈は一八五C程度。

リューは即座に分析すると、壁にもたれかかり眠っているかのような男の心臓に耳を近づける。

生きている。となると、酔っぱらいの類か。

そう結論を下しかけたリューだが、酒の匂いがしないことで、その可能性を脳内から消す。

 

「……大丈夫?」

 

武器のようなものを持っているということで警戒しながらも、声をかけてみる。

しかし、男からの反応はなかった。

怪我をしているのかとも考えたリューだったが、目立った外傷も見当たらない。

うーむ、どうするべきか。

どんどんと近づいてくる雨の足音に、この男をどうするべきか、リューは悩む。

放置して帰れば、この男は間違いなく雨に降られるだろう。

名前も知らない男だが、見てしまった以上、放置というのも目覚めが悪い。

そして何より、シルに救われた昔の自分と、重ねてしまっていた。

とりあえず、連れて帰ろう。

リューは本日何度目かのため息をつきながら、男を抱えるため、一度買い物袋を地面に置く。

そして細身の身体からは想像もできないような力で男の身体をひょいっと持ち上げ肩に担ぐ。

男性の身体に触れることに一瞬躊躇したものの、リューは『気を失っているから』と自分を納得させた。

 

「ん、こんなところに」

 

男の身体を持ち上げたリューは、そこで、いつの間にか柿が転がっていたことに気付く。

そうだ、私は柿を探しにここまで来たんだ。

当初の目的を思い出したリューは柿を拾いポケットへ放り込むと、少しの満足感と共に豊穣の女主人へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「私は男を買って来いって言ったっけ?」

 

「ごめんなさい……」

 

怒りでメラメラと燃え上がるミア・グランドを前に、リューはすっかり縮こまっていた。

雨が降る直前に豊穣の女主人に帰ることができたリューだったが、男を抱えるために地面に置いた買い物袋をそのまま忘れてくるという失態を犯してしまった。

ミアに問い詰められた時にはもう遅く、外はバケツをひっくり返したような土砂降りとなってしまっていた。

結局持って帰ってきたのは、ポケットの柿一つ。それと、身元不明の男一人。

買い物を頼んだら厄介事を持ち帰ってきたポンコツエルフに、ミアは頭を抱える。

 

「……まぁ、食材はもういいよ。こんな雨じゃ客も少ないだろうしね」

 

「はい……」

 

「それより問題なのは、あの男だよ」

 

ミアはそう言いながら、椅子を幾つか並べた簡易的なベッドで死んだように眠る男に目を向けた。

 

「まさか男を拾ってくるとはねぇ……どこで見つけたんだい?」

 

「袋から落ちた柿を追いかけて路地裏で見つけました」

 

「どこの童話だい……」

 

ミアは深く息を吐きながら、男の顔を覗き込む。

衝撃が大きすぎてあまり気にしていなかったが、それなりの……いや、かなりの色男。

あのリューがそれに惹かれて持ち帰ってきたとは思えないが。

腰に差した武器は一応没収しておいたし、もし暴れても私やリュー達が居る。

面倒事に変わりはないが、人助けをしたリューをあまり責めるのも可哀想かね。

窓を叩く強い雨音に、ミアはゆっくりと目を閉じながらそんな結論を出した。

 

「それにしてもこれ、凄い業物ニャ」

 

ミアの身体から怒りと共に発せられていた威圧感が徐々に弱まる中、金縛りから解放されたアーニャ・フロメールが男の差していた刀を抜きながら呟く。

店のライトに照らされ銀色に輝く刀身と見事に焼き入れられた直刃。

凡そ四〇C程の短い刀だが、そのあまりの完成度に、アーニャは目を奪われてしまった。

 

「これ、買おうと思ったら間違いなく一億ヴァリスは下らないニャ」

 

「というか、こんな剣が打てる鍛冶師ってオラリオにいるの?」

 

ルノア・ファウストも横から刀を覗き疑問を口にする。

 

「やっぱりそうだよねぇ、はぁ……」

 

男の持っていた武器がとてつもない一品であることはミアも気づいていたが、アーニャとルノアの反応に、がっくりと首を垂れる。

こんな高価な武器を持っているということは、それ即ち、この男が只者ではないことの証明でもあった。

ウチの店(豊穣の女主人)に食べに来た姿を見たことはない。さらに言えば、白髪で短い剣を持った男の冒険者の噂など聞いたこともない。

何処かの貴族かという考えが浮かんだミアだったが、それにしては、この剣はあまりにも使い込まれている、とも思ってしまう。

高価な剣を持った貴族が、自分から戦うだろうか?

元フレイヤ・ファミリアのトップであった彼女の冒険者としての勘が、ガンガンと警鐘を鳴らす。

いっそのこと、『神の恩恵(ファルナ)』を見た方が良いのではないか。

そんな考えがミアの頭に浮かんだ瞬間だった。

ついさっきまで寝ていたはずの男と、目が合った。

 

ボクの斬魄刀(ソレ)、そんなに珍しいです?」

 

凛とした声が、店に響いた。

 

 

 

 

 

 

いつかに、聞いていた。

死神は死ねば肉体から霊子が離れ、尸魂界の一部となるって。

でも、ボク達隊長は違う。

強い霊子は分解されず、永久に尸魂界を彷徨う。

それを魂葬礼祭によって、地獄に叩き落す。

誰に聞いたか。八番隊長さんだったか。将又、十三番隊長さんだったような気もする。

地獄に叩き落されるのは、怖くない。

ボクは、それだけのことをしていた。

ただ、他の隊長さんは可哀想に、とか思ったっけ。

怖くない。はずだったのに。

 

死なせたない人おると、急に死ぬん怖なるやろ?

 

ルキアちゃんに言った科白が、ボクの頭を幾度となく反響する。

あの眼を見た時、ボクは、彼になら任せて逝けると思った。

それなのに。

 

何故、こんなにも死ぬのが怖いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

食べ物の良い香り。

それが、目覚めた市丸ギンにとって最初の情報だった。

寝かされているギンの顔の真上にライトがあるせいで、彼の視界はぼんやりと歪んでいた。

眩しいなァ。こんなに明るくて良い香りのする場所が地獄なのかいな。

おどろおどろしい空間を予想していたギンにとって、今の状況は、かなり予想外であった。

……てか、ここ、ホンマに地獄か?

徐々にはっきりとしてくる思考回路。耳をつく女性の声。

果たして自分は本当に地獄に送られたのか疑問に思ったギンは、声のする方に目を向ける。

 

「……が打てる鍛冶師ってオラリオにいるの?」

 

そこには、鞘から半分程刀身を抜いた自分の斬魄刀を興味深く眺める、二人の女性が居た。

更に面白いことに、片方は頭に猫のような耳が生えている。

狛村のような完全な犬でない、半分人間で半分動物。

何や、ボクは物語の世界にでも迷い込んだんか?『双魚のお断り!』は、実在しとったんか?

様々な疑問がギンの頭を駆け巡る。

普段の彼なら絶対に想像しえないような考えまでもが。

 

「やっぱりそうだよねぇ、はぁ……」

 

斬魄刀を眺める女性二人を眺めていたギンだったが、今度は逆方向から声がしたので、そちらを向く。

そこには、筋骨隆々で壮年の女性と、やたら耳の長い金髪の女性が並んで思案顔を浮かべていた。

ここでギンは、藍染に斬られた胸や千切られた右腕などの傷が、綺麗さっぱり消えていることにも気づく。

何や、ホンマにどうなっとるんや。

それでも、ギンの頭は驚く程にクリアだった。

 

この部屋におるのは四人。手元に斬魄刀はないけど、瞬歩を使えば簡単に取り返せる。もし交戦になっても、まァ負けんやろ。

 

四人の霊圧を計りそんな判断を下したギンに、ちょっとした悪戯心が生まれた。

この四人は、ボクが起きてることにまだ気づいてない。ちょっと、驚かしたろ。

ギンは素早く起き上がり、自分が寝ていた椅子の一つに座り、背もたれに胸を預ける。

その瞬間、筋骨隆々の女性と、ギンの目が合った。

 

ボクの斬魄刀(ソレ)、そんなに珍しいです?」

 

ゾッ、とした。

その時店内にいたリュー、ミア、アーニャ、ルノアの四人は、後にそう振り返った。

全員が本能的に武器に手をかけた。

 

「あぁ、そんなに警戒せんとってください」

 

ちょいと、脅かしすぎたかな。

ギンは内心ほくそ笑みながら、両手を挙げる。

ほんの一瞬、霊圧を解放しただけなんやけどなァ。

 

「……アンタ、何者だい?」

 

冷や汗を垂らしたミアが、リューの前に立ちはだかるようにしながら問いかける。

狐を思わせる糸目の目の前の青年から一瞬感じたプレッシャーは、レベル六の冒険者だったミアにとっても体験したことのない、異質なものだった。

交戦になったら、まず間違いなく何人か死ぬ。よって、刺激だけは厳禁。

ミアもあらん限りのプレッシャーをぶつけたつもりだったが、ギンは何事もないかのように頬をポリポリと掻いていた。

 

「んー、それ訊きたいのこっちなんですよ。ここ、何処です?」

 

「『豊穣の女主人』って言えば分かるかい?」

 

「ほうじょ……何て?」

 

「『豊穣の女主人』だよ。どうやら分からないらしいね」

 

「スンマセンね」

 

目の前の青年は嘘は言っていない。

ミアは神ではないが、ギンが嘘を言っていないことは何となく理解できた。

対するギンも、頭の中はクエスチョンマークだらけだった。

空座町の店だとして、頭に猫の耳が生えた女の子や耳の長い女の子が働いてる店なんてあるのかなァ?なんて、呑気に考えていた。

 

「……名前は?」

 

「ん、市丸ギンって言います」

 

「イチマル、ギン……」

 

「ボク名乗ったんですし、そっちも名乗るのが筋じゃないですか?」

 

「あ、あぁ……ミア・グランドだよ。ここの店主だ」

 

「滅却師みたいな名前やなぁ」

 

「何だって?」

 

「あぁ、こっちの話ですわ」

 

ギンはにこにことした表情を崩さないまま、他の三人を順に見る。

 

「アーニャニャ」

 

「ルノアです」

 

「……リューです」

 

覚えにくいなァ。

生まれて此の方海外の人間との接触がほとんどなかったギンにとって、四人の名前は覚えづらいものだった。

そして同時に、『ここは空座町じゃない』という、決定的な証拠にもなっていた。

 

「アンタの名前は分かった。じゃあ次に、何処から来たんだい?」

 

「何処から?んー……」

 

ここで一瞬、ギンは躊躇した。

果たして、本当のことを言っても良いのだろうか。

自分は今、藍染の鏡花水月の術中にいるのではないか。

もっとも、これが鏡花水月の魅せる幻覚だとしたら、藍染の頭の中は子供の読む幻想の物語のようらしい。

 

「……空座町、分かります?」

 

それを聞いたミアは首を横に振る。

他の三人も同じように否定のジェスチャーをする中、ギンはいよいよ自分の現状が分からなくなってきていた。

 

「ここはオラリオだよ。分かるかい?」

 

「おらりお?」

 

「……ダンジョン。冒険者。神。聞き覚えのある単語は?」

 

何を言うてるんや、コイツは。

ギンの目が薄く開く。

『神』は辛うじて分からんでもないが(自分自身が死神であるし)、他の二つはさっぱり聞き覚えがない。

ミアを名乗るこの女は遊びで言っている訳でもなさそうやし……もしホンマに鏡花水月の術中なら、藍染の頭はどうなっとるんや。いや、ボクの頭がおかしいんか?

それが、ギンの出した答えだった。

 

「……本当に何処から来たんだい」

 

すっかり首を傾げてしまったギンに毒気を抜かれたミアは、バレないようゆっくりとフライパンへと伸ばしていた手を下ろす。

 

「何かキーワードとかないのかニャ?所属してるファミリアとか」

 

「うーん……尸魂界、斬魄刀、護廷十三隊。どうですかい?」

 

何を言ってるんだ、コイツは。

四人の脳内は、奇しくも同じことを考えていた。訊いたアーニャでさえも。

目を点にした四人を見たギンは、あぁ、と呟きながら天を仰いだ。

 

嗚呼、乱菊。ボクは一体、何処に来てしまったんやろなぁ……。

 

 

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