神殺鎗は、神々の世界に生きる   作:レヴィ

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#11 Sweet smells along with unpleasantness

年に一度の怪物祭。

普段騒がしいオラリオは更なる喧騒に包まれ、道には様々な露店が並び、街中は冒険者で溢れ返る。

その中でも特に円形闘技場は、まるで爆弾でも落ちたかのような、地面が震える程のどんちゃん騒ぎだった。

冒険者とモンスター、モンスターとモンスターといった白熱する闘いが休む間もなく繰り広げられ、闘技場周辺には完全に違法のダフ屋までもがたむろしている。

祭りの発端となったギルドも『怪物祭くらい』とそれを放置する、無法地帯が出来上がっていた。

 

「盛り上がっとるなァ」

 

闘技場での闘いを見るもよし、露店を見て回るもよし、家の中から騒ぎをバックグラウンドミュージックにのんびりするもよし。

各々の形で年に一度の騒ぎを楽しむ民衆の中でギンは、ハードアーマード三体を相手に大立ち回りを繰り広げる冒険者の闘いを闘技場の塀の上で胡坐をかいて見守っていた。

 

 

 

 

 

#11 Sweet smells along with unpleasantness

 

 

 

 

 

「よぉー、フレイヤ。待たせたか?」

 

「いえ。私も今来たところよ」

 

東のメインストリート沿いに位置する高級なカフェにて、二人は待ち合わせをしていた。

アイズを引き連れたロキは、普段と何ら変わりない態度でフレイヤと向かい合うように座る。

しかしその目は鋭く、フレイヤもそれに気づいていた。

 

「あら?その子は……」

 

「そういや初対面やったな。ウチのアイズや。これで充分やろ?」

 

「……初めまして」

 

成程、その子がかの有名な【剣姫】ね。

アイズを初めて生で見たフレイヤは『中々可愛いわね』と小さく漏らす。

 

「放っておくとまーたすぐにダンジョンに潜ろうとするからなぁ、このお姫様は!『遠征』も終わったばっかやってのに……誰かが気を抜いてやらんと一生休みもせん」

 

ま、そこが可愛いところでもあるんやけど。

ロキはフレイヤに自慢の子を紹介しながら、その背中をバンバンと叩く。

困ったように眉を八の字にするアイズに、フレイヤは優しく微笑んだ。

しかしそんな笑みをすぐに表情から消すと、カップに半分近く残っていた紅茶を一息に飲み干した。

 

「……それで、こんなところに呼び出した理由をそろそろ教えて貰えるかしら?」

 

楽しそうにアイズ自慢をしていたロキが、一瞬固まる。

 

「……ちょいと、たまには駄弁ろうと思ってなぁ」

 

「嘘ばっかり」

 

そう言って口元を歪めるフレイヤに、ロキの顔からも笑みが消える。

つい一秒前までの和やかな空気は消え去り、神同士の化かし合いの場へと様変わりした。

注文を取りに来たウェイターが、二人の発する威圧感に気圧されてメニュー表を持ったままがくがくと震える。

 

「……素直に訊く。何やらかす気や」

 

「何を言ってるのかしら、ロキ」

 

「とぼけんなアホ。急に『宴』に顔出すわ、さっきの口ぶりからして情報収集に余念がないわ……ソウルソサエティについて突然聞き出すわ。今度は何を企んどる」

 

「企むなんて人聞きの悪い」

 

「じゃかァしい」

 

張り詰めた緊張の糸。

ぴぃんと音をたてるその糸は、ほんの僅かな衝撃で切れてしまいそうだった。

 

「……はあ」

 

暫くの睨み合いの後、ロキは盛大なため息をつく。

 

「男か」

 

否定も肯定もしないフレイヤ。

だがロキにとって、それが何よりの答えだった。

 

「誰や。ソウルソサエティについて訊き回っとるいうことはイチマルか?」

 

「違うわ」

 

誰があんなキツネ。

食い気味に否定したフレイヤに。ロキは少したじろいだ。

 

「おおう……そうもハッキリ否定されるイチマルも可哀想やな。じゃあ誰や。またどこかのファミリアの子供かいな」

 

フレイヤはこの問いにも何も言わない。

代わりの悪い笑いに、ロキは二度目のため息をつく。

 

「ったく、この色ボケ女神が。年がら年中盛りおって。誰だろうがお構いなしか」

 

「あら、心外ね。分別くらいあるわ」

 

「イチマルはどうなんや」

 

「あれは……まぁ、ないわね」

 

「ホンマに可哀想なやっちゃな……」

 

念入りに否定されるギンに、ロキは胸の中で手を合わせる。

 

「彼の魂は見なくても分かるわ。沢山の絵の具を混ぜ合わせたようにどす黒く、それでいて清流のように澄んでいる。そのアンバランスさが、薄気味悪いのよ」

 

「……待て。お前、イチマルをファミリアに引き入れたんとちゃうんか?」

 

「あら?どこから聞いたの、そんな噂。根も葉もないことよ」

 

「うちはてっきり、イチマルを引き入れたんかと思ったわ。だからソウルソサエティについて訊いてきたもんだと」

 

「そうね、接触したのは間違いないわ。でも、うちの子にはしなかった。いいえ、できなかったと言う方が正しいかもしれないわね」

 

これで、フィンの言っとったことの裏が取れたな。

『イチマルはどこのファミリアにも所属していない』というフィンの報告の裏取りをしたロキは、更なる情報を聞き出すため、テーブルに身を乗り出す。

 

「……イチマルについてどこまで知っとる」

 

「ほとんど知らないわよ。私も、貴女が何故ソウルソサエティについて知っているのか訊きたいくらいなのだから」

 

「……嘘は言っとらんみたいやな」

 

「あら、嘘つきの貴女と一緒にしないでもらえる?」

 

「口の減らん色ボケやな」

 

ギィと音をたてて椅子に座り直したロキ。

フィンの報告によれば、イチマルはまだ目的を持っとらんらしかったな。

しばしの思案の後、周りに聞き耳を立てている人がいないことを確認したロキは、先ほどよりもテーブルから身を乗り出してフレイヤの耳元に口を近づける。

 

「……あれは危険や。分かっとるやろ」

 

「ええ」

 

「可哀想やけど、排除するなら今のうちや」

 

「やるなら貴女達だけでやってもらえるかしら。私は関わらないわよ」

 

「何でや」

 

「オッタルが手玉に取られた時点で、今のオラリオでイチマルに勝てる子供は居ないわ。彼と敵対しても何のメリットもないもの」

 

「なっ……!?」

 

オラリオ最強と名高いオッタルの敗北。

フレイヤの言葉に、ロキとアイズの二人は目を見開いた。

 

「それに、確か……レイアツ、とイチマルは言ってたかしら。実力のある冒険者を感知する能力も彼は持っているみたいだし、闇討ちもほぼ成功しないと思った方が良いわよ」

 

シルとなっている時のフレイヤの護衛の存在に気付いていたギン。

まったく面倒な能力ね、とフレイヤは嘆息する。

 

「オッタルが負けたのはホンマか?」

 

「ええ。あの子も本気ではなかったとはいえ、お互い本気でやったらオッタルは負けてたでしょうね。あの子自身もそう言ってたわ」

 

「はぁ……とんでもないな、あのキツネ」

 

フィン達の言うとった『殺そうと思えば殺せた』も、あながち間違いじゃなさそうやな。

思わず頭を抱えそうになるロキだったが、三度目のため息をついて、フレイヤの耳元から口を離す。

 

「……とにかく、イチマルはお前のところの子じゃないってことでええな?」

 

「ええ。それでいいわよ」

 

「そうかい……ま、少し安心したわ」

 

そこで言葉を一度切ったロキは、ニヤァと口角を上げる。

 

「それで?今回目に留まったのはどんなヤツや?そっちのせいでうちは余計な気を使わされたんや。聞く権利くらいあるやろ」

 

「そうね……」

 

どう説明しようかしら。

有り余るベルの魅力について、フレイヤは窓の外で行われる祭りを眺めながら考える。

 

「……強くはないわ。今はまだ頼りなくて、傷付きやすくて、簡単に泣いてしまう……そんな子。でも」

 

綺麗だった。透き通っていた。あの子は私が今まで見たことのない色をしてたわ。

 

恋をする乙女の顔で語るフレイヤに、ロキは同性ながら、不覚にも一瞬目を奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

どこかワンパターンな怪物祭の催し物にギンが飽きを覚え始めていた頃。

暇潰しがてら適当に街中の霊圧を探っていたギンは、フレイヤの霊圧がどこか慌ただしく動き始めたことに気付いた。

 

「周りに霊圧があらへん……人通りの少ない道を通っとるんか?」

 

シルとして豊穣の女主人で働く時以外バベル最上階から動くことのなかったフレイヤの霊圧がここまで動いていることが気になったギンは、興味本位で様子を見てみることとした。

闘技場の塀からぴょんぴょんと軽やかに跳び降り、追跡しようとするが、フレイヤの霊圧はギンの方へと向かっていた。

しかし途中で進路を変えたフレイヤの霊圧は闘技場の西の方へと向かう。

何かあるんやろ。

そう考えたギンは、別に急ぐこともないと瞬歩を使わずに移動を始める。

 

「……此処か」

 

露店に寄り道しながらフレイヤの霊圧に追いついたギン。

闘技場の西ゲート付近に存在する倉庫に、フレイヤの霊圧はあった。

扉は人一人通ることができる程の隙間が空いており、ギンはそこから薄暗い倉庫内へ音もなく身体を滑り込ませる。

倉庫内に微かに漂う甘い香りに、ギンは本能的に顔を顰めた。

何や、これ。不愉快や。と。

 

「―――動かないで」

 

倉庫内に響く甘い声。

ギンは近くに落ちていた1M程度の木箱に身を隠し、顔を覗かせた。

 

「鍵はどこ?」

 

「あ、あ……」

 

背後から抱きしめられるような形でフレイヤの腕に捕まった女性冒険者。

まともに物も喋れず、まともな思考回路もなく、ただフレイヤに言われるがまま、腰のベルトに引っかけられた檻の鍵を女神に手渡した。

それを受け取ったフレイヤが腕から解放すると、どさりと音をたて膝から崩れ落ちた。

 

「……何やってるんです?」

 

物陰から現れたギンに、フレイヤは振り返る。

 

「あぁ……見てたのね。本当に便利ね、レイアツとやらは」

 

一瞬驚いたフレイヤだったが、すぐにギンが霊圧で人の居場所が分かることを思い出す。

今の彼女は、上機嫌だった。

 

「そうね……少し、鍵を借りただけよ。『魅了』でね」

 

「へぇ……便利やなァ」

 

焦点の合わない虚ろな瞳に、ギンは見覚えがあった。

酷く忌々しく。

 

「催眠か」

 

「えぇ。そんなところよ」

 

「……けったいな能力なことで」

 

鏡花水月。

ギンが何十年もかけて破る方法を聞き出した藍染の能力と、フレイヤの『魅了』は、奇しくも良く似てしまっていた。

 

「……どうしたの?」

 

纏う雰囲気がいつもと違い過ぎる。

鎌首を擡げた蛇のような死神の様子に、女神は強烈な違和感を持った。

 

「……何かしら」

 

キン。

問いの返事の代わりに、斬魄刀の鯉口を切る甲高い音が響く。

ギンはそのまま抜刀すると、一度は神をも葬りかけた切っ先をフレイヤへ向けた。

 

「危ないわ。キミ」

 




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