神殺鎗は、神々の世界に生きる   作:レヴィ

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#13 Brave

死の恐怖の無い世界では人は

 

それを退けて希望を探す事をしないだろう

 

人はただ生きるだけでも歩み続けるが

 

それは恐怖を退けて歩み続ける事とはまるで違う

 

だから

 

 

 

 

 

#13 Brave

 

 

 

 

 

あァ、こりゃアカンわ。

解き放たれたシルバーバックからヘスティアを連れて必死の逃亡劇を繰り広げるベルを、ギンは建物の上でそんな感想を抱きながら眺めていた。

砂埃を上げながら追跡してくる猛獣を、哀れな白兎は息も絶え絶えになりながら躱し続けている。

しかし、無情にも距離はどんどんと詰まっていく。

捕まるのが時間の問題であることは、誰の目から見ても明らかだった。

 

「あのカミサマ、何を考えとるんや」

 

あの怪物は、チミっ子を追いかけとる。

あのチミっ子は確かカミサマと名乗っとった筈……。

倉庫で妖艶な笑みを見せたフレイヤの思惑が理解できず、ギンは脳内にクエスチョンマークを浮かべた。

 

「どう見てもあの白髪の子に勝てる相手やないやろ。あのチミっ子のこと、殺す気かい」

 

ドォンという音と地を揺るがす衝撃。

巨体からは想像もできない跳躍を見せたシルバーバックが、ベルとヘスティアの間に着地して二人を分断した。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

耳をつんざく咆哮。

それだけで、レベル一の冒険者であるベルは、完全に行動停止に陥った。

 

「はァ……つまらん終幕やな」

 

あとは、あの二人が無残に殺されるだけだろう。

一度たりとも立ち向かう姿勢を見せなかったベルに興味を失ったギンは、回れ右をして豊穣の女主人へと帰ろうとする。

しかしそんなギンの足は、すぐに止まる。

 

「……ッうあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

無我夢中、という表現が正しいだろう。

勝てる、勝てないを超越したベルの魂の叫びに、ギンは彼の方へ振り返った。

ヘスティアへ手を伸ばす遥か格上の相手に、ベルはナイフを逆手に持って突撃する。

 

「へぇ……」

 

つい先程までの逃走しか考えていなかった時とは違う眼。

その眼に、ギンは興味が湧いた。

旅禍の少年と似た、しかし、まだ発展途上の眼に。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

一時捕まったベルだったが、シルバーバックの目に魔石灯を押し当て目晦ましをするという咄嗟の機転で抜け出す。

そして再び、ヘスティアの手を引いて逃亡を始める。

一瞬たじろいだシルバーバックも、すぐに小さくなっていく二つの背中に向かって走り出した。

無茶苦茶に両腕を振るい、鎖であちこちを破壊しながら。

 

「あのカミサマ、どんな催眠をかけたんや」

 

辺り一面に唾液を撒き散らしながら破壊を繰り返すシルバーバックの蛮行に、ギンは瓦礫を飛び越えながらため息をつく。

シルバーバックは、当初フレイヤがギンへかけようとしたレベルの魅了の力を受けていた。

最上級の美の神がかなりの威力を込めた魅了の力は、シルバーバックという器には収まりきるはずのない致死量だった。

それは時間が経つにつれて徐々にシルバーバックの脳を蝕み、魅了がかかってから十分あまりが経過した今、最早哀しき獣には正気というものが残っていなかった。

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?!?!?』

 

苦しみ、悶えるような咆哮。

そんな咆哮を背に、ダイダロス通りの手前でふと足を止めたベルは、ヘスティアをトンネルに押し込み鉄格子を閉め、自らが囮となることを選択した。

鉄格子の隙間から手を伸ばすヘスティアを置いて、ベルはすぐ背後に迫ったシルバーバックから距離を取るように駆けだす。

 

「でも、逃げとるだけじゃ無理や」

 

破壊、破壊、破壊。

建物を叩き壊し、電灯をへし折り、道路に罅を入れながら、怪物は目の前の獲物を追う。

『オイカケテ』

小さな女神という主語すら失った、僅かな記憶と性への訴えを頼りに。

 

「うわああああああああああああああああああああ!?」

 

「きゃああああああああああああああああああああ!?」

 

突如として現れた生ける暴力に、ダイダロス通りの住人は訳も分からぬまま逃げ惑う。

そんな人々の悲鳴を聞きながら、ベルは脱兎の如く、逃げる、逃げる、逃げる。

 

「ぐうっ!?」

 

しかし、そんな逃走も長くは続かなかった。

破壊された建物の瓦礫の一部がベルの肩に直撃し、兎は苦悶の表情を浮かべて地面を転がる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

大丈夫、腕は動く。

防具を破壊し露出した傷口にポーションをふりかけ力づくで傷の治療をしたベルだったが、その眼前に怪物が迫る。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!』

 

「うわっ!?」

 

両腕を振り下ろした渾身の一撃を躱すベル。

怪物は自らの攻撃によってもんどり返り、建物に突っ込んで動かなくなる。

 

「や、やった……!?」

 

「ベル君っ!!!」

 

「か、神様!?どうして!?」

 

「君を置いていけるワケないだろっ!」

 

『ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛!!!』

 

「「うわああああああああ!?」」

 

殺す。

それだけに囚われた怪物は、瓦礫の中からヘスティアに向かって飛びつく。

動けなくなっていたヘスティアにタックルする形で助けたベルは二人でゴロゴロと転がり、屈めば隠れられるくらいの小さな遮蔽物に身を隠した。

 

「はぁ……!はぁ……!か、神様、どうして来ちゃうんですか!」

 

「だから、君を置いて逃げ出せるワケないだろう!あと、すまない!こんな状況なのに君に抱かれ、ボクは今、幸せを感じてしまっている!」

 

「何を言っているんですか!?」

 

世迷い事を抜かすヘスティアに突っ込みながら、ベルは瓦礫の横から顔だけを出して怪物の様子を見る。

崩れた建物の瓦礫の中からヨロヨロと立ち上がった怪物は、キョロキョロと周囲を見渡し何処かへ消えた獲物を探していた。

 

「どこかで逃げるタイミングを……」

 

「……いや、ベル君。勝機だ」

 

「え?」

 

「ボクの見立てじゃ、あのモンスターは正気を失っている上にかなり疲れている。君が、あのモンスターを倒すんだ」

 

「え!?」

 

「今ここでステイタス更新をする。今から強化する君の力を、あのモンスターにぶつけてやれ」

 

そんな声で喋っとったら聞こえるで。

怪物の被害を免れた建物の屋上から様子を伺っていたギンは、遮蔽物の陰に隠れてやり取りを交わす二人へ呆れたような、しかし、何かが起こりそうな状況を楽しむような、視線を送っていた。

 

「あれが神の恩恵かい」

 

上半身の服を脱いだベルの背中に刻まれた刻印に、ギンはミアの説明を思い出す。

 

誰かを助けようとする、未だ発展途上の少年の眼。

そんな少年を助けようとする、神の眼。

 

「強い眼や……」

 

そんな眼を。

戦いの行方を見届けることなく逝った空座町で見た眼とよく似たそれの行く末を、ギンは見てみたくなった。

 

『ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛!!!』

 

咆哮。

ベルとヘスティアがステイタス更新をする遮蔽物に近づく怪物の前に、ギンは降り立った。

 

「少し待って貰うで」

 

解放。

ほんの少しの、霊圧の解放。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?!?!?」」

 

瞬間。

大気を震わせるような感覚に、ステイタス更新をするヘスティアの手が止まった。

 

「か、神様……?な、何ですか、今の感じ……?」

 

「わ、分からないよ!?ボクじゃないよ!?」

 

嫌な汗が止まらない。

震える手をどうにか動かし、ヘスティアはベルの背に淀みなく指先を走らせる。

 

「ッ!?」

 

熟練度上昇値トータル六〇〇オーバー。

嫉妬に狂う炎をどうにか押さえつけながら、ヘスティアはベルの背を強く叩いた。

 

「ベル君!行っておいで!ヘスティア・ナイフと共にね!」

 

「はいっ!!!」

 

新たな武器のヘスティア・ナイフを握りしめ、ベルは遮蔽物から飛び出した。

すると不思議なことに、怪物は足の裏から根が生えたように、ヘスティアを襲った位置から一歩も動いていなかった。

 

「……?」

 

誰かが足止めを……?

 

『ッ……ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛!!!』

 

コロス。コイツナラ、ヤレル。

先程受けた恐ろしい殺気を払拭するように雄叫びをあげる怪物。

今はそれどころじゃない!と疑問を脳の片隅に追いやったベルは、モンスターの胸を強く睨みつける。

狙いは、魔石―――。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

勝負は一瞬だった。

怪物の右ストレートを紙一重で回避したベルの振るうヘスティア・ナイフが、怪物の胸を深く穿つ。

吹き飛ばされたベルを放って断末魔の悲鳴をあげた怪物は、灰となって消え去るしかなかった。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

固唾を飲んで一挙手一投足を見守っていたダイダロス通りの住人から歓声が上がる。

そんな大歓声の中倒れ伏したヘスティアに慌てて駆け寄るベルを、ギンは民家の屋上から眺める。

 

「貴方が倒さないか、ひやひやしたわ」

 

そんなギンの隣で同じように見守っていたフレイヤが、ベルの勇姿に口元を綻ばせる。

 

「これが見たかったんか?」

 

「そうね……そうと言えばそうかもしれないし、そうじゃないと言えばそうじゃないかもしれないわ」

 

「分かりにくいなァ」

 

「まだ分かり合えないでしょうね。私と貴方は」

 

フレイヤはフードを深く被り直し、ギンに背を向ける。

 

「でも。貴方も、これが見たかったんじゃないの?」

 

「……さァ。どうやろ」

 

「……そう」

 

黒。

嘘を見抜けるのも、時には面白くないものね。

陽の光を受けて輝く銀髪を翻し、フレイヤはその場を後にした。

 

「………」

 

この日ギンは、空座町の結末を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから

 

人はその歩みに特別な名前をつけるのだ

 

『勇気』と

 

 

 

 




丸餅Zさん、柊くんさん、ウルクはここに健在です‼️さん、サイトDさん、稲の字さん、カド=フックベルグさん、玄孫っちさん、不条理な味噌汁さん、烏瑠さん、セルキーさん、琥耀さん、ファミレスさん、武人竹内さん、28子さん、よね☆1188さん、夢憑きさん、0シルキー0さん、びわしゅさん、藤の道さん、Yang-Mikeさん

評価してくださり、ありがとうございました!
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