神殺鎗は、神々の世界に生きる   作:レヴィ

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#6 The Trickster knows

始まりは、ただの気まぐれだった。

ある程度霊圧を放出しておかないと他の死神の霊圧に当てられて潰れかねない尸魂界とは違い、霊圧の強い人物の少ない迷宮都市オラリオは霊圧を放つ理由がなかった。

ここでギンに、一つの疑問が浮かんだ。

 

ほなボク、どこまで霊圧を落とせるんやろ。

 

ただの気まぐれ、ただの興味。

 

 

 

 

 

#6 The Trickster knows

 

 

 

 

 

「……さて」

 

宴から一晩明けた黄昏の館。

フィンの執務室には、ロキ、アイズ、リヴェリア、ガレス、ティオネ、ティオナ、ベート、レフィーヤといった、ロキ・ファミリアの幹部が勢揃いしていた。

 

「昨日の彼……イチマルと呼ばれる男について、少し情報を纏めてみようか」

 

神妙な面持ちで話を切り出すフィン。

まず手を挙げたのは、レフィーヤだった。

 

「あの……私昨日そのイチマルって人が『豊穣の女主人』に来た時お手洗いに行ってたんですけど……どんな人なんですか?」

 

「それはうちも気になるな」

 

酒瓶を片手に抱えフィンの机に腰掛けるロキも手を挙げる。

 

「質問に質問を返すようで悪いけど、ロキに訊きたい。ロキは昨日、イチマルの姿が見えていたかい?」

 

「見えとったで。ただ、フィン達が言うような変な感じはせんかったわ」

 

「ロキには見えていた、か……分かった」

 

「何やフィン。見えとらん奴がおったみたいな言い方やん」

 

「そう言ってるんだよ」

 

「なっ……」

 

ロキの、グラスに酒を注ぐ手が止まる。

レフィーヤは何が何だか分からないと言いたげに、キョロキョロと周りを見渡す。

 

「昨日の彼……長いからイチマルと呼ぼうか。イチマルは、僕たちやあの店の店員にしか見えていなかったね」

 

「ドアが開いた音に反応した冒険者は何人かいたが、目線がバラバラだったからな」

 

「あぁ。ババアの言う通りだ」

 

ギンに続くように豊穣の女主人へ入ったリヴェリアとベートがフィンに同調する。

特に、リヴェリアよりも先に店に入ったベートは、何人かの視線を直に受けていた。

 

「それに、あんなえげつない雰囲気を感じといて何も思わない方がおかしいぜ」

 

「そういえばベートさん。頬の湿布、どうしたんですか?ダンジョンでそんな傷受けてない……」

 

「うるせぇッ!!!」

 

レフィーヤの質問に答えず椅子を蹴り飛ばすベートを、リヴェリアが杖で殴り飛ばして黙らせる。

掴み合いになりそうになったところを、ロキがパンパンと手を叩いて締めた。

 

「ハイハイ、とりあえず今は会議や。喧嘩は後にせえ」

 

「ありがとうロキ」

 

「ええで。それより、そのイチマルはそんな強いんか?」

 

「……分からないね」

 

「はぁ?」

 

「フィンの言う通りじゃ」

 

ここまで黙っていたガレスが口を開く。

 

「ダンジョンで知らないモンスターと会ったらぞっとするでしょ?あんな感じだったよね~」

 

「私もティオナと同じ感想かしら」

 

ティオネとティオナの姉妹が、二人揃ってうんうんと何度も頷く。

リヴェリアは何も言わないながら、二人の意見に肯定していた。

 

「じゃあうちが何も感じなかったのは何や?」

 

「そこは『死』に対する感覚の違いじゃないかな」

 

ロキの疑問にフィンが答える。

 

「僕達はあの瞬間、『死』を感じ取ったのだと僕は思う。イチマルがどのくらいの実力か分からないけれど、ロキを除いて僕達を殺そうと思えば殺せたんじゃないかな」

 

「アホか。殺されるわけねーだろ」

 

推測を語るフィンに、ベートが横槍を入れる。

 

「ならベート、一度彼に接触してくれないかな。彼を野放しにしておきたくない以上、どこかでの接触は避けられないからね」

 

「ッ……」

 

「冗談だよ。君一人で行かせることはしないさ」

 

言葉に詰まるベートを優しく窘めたフィンは、机に両肘をついて指を組んだ。

 

「正直に言おう。僕は彼が怖い」

 

フィンの告白に、執務室はシンと静まりかえった。

 

「あんな目立つ冒険者が居たら必ず噂になるはずなのに、今までただの一度もそんな噂を聞いたことがない。それに、僕達一部の人間にしか姿が見えていない。あまりにも謎が多すぎるよ」

 

「フィン……」

 

重苦しい雰囲気にのまれていたアイズが、目を伏せるフィンに心配そうに声をかける。

そんなアイズにフィンはにっこりと笑いかけると、すぐに真面目な表情へ戻す。

 

「とにかく、一度彼と接触しよう。僕達……ロキ・ファミリアにとって、敵か味方か、はたまた中立か。続きはそれが分かってからにしよう」

 

解散ムードが部屋に流れたと瞬間、こんこんとドアがノックされる。

 

「団長。ラウルです。会議中申し訳ございません」

 

「ちょうど終わったから大丈夫。入っていいよ」

 

「はい」

 

遠慮がちに執務室のドアを開けたラウル・ノールドは、一堂に会した幹部を前に一瞬たじろいだ。

 

「どうしたんだい?ラウル?」

 

「えっと、ロキ様に会いたいという方が来ています」

 

「うちに?誰や?」

 

「えっと……イチマルギンという、白い髪のヒューマンです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疑念が確信に変わったのは、豊穣の女主人での出来事だった。

まずギンに小さな疑念が生まれたのは、ベルとすれ違った時だった。

いくら俯いて走っとっても、ボクのこと見えてなさすぎとちゃうか?

曲がり角でベルとぶつかりそうになったギンは、けったいな餓鬼やなァ、などと考えていたが、そこで一つの仮説に辿り着く。

 

 

もしかして彼、ホンマにボクのこと見えてなかった?

 

その後のギンは、わざわざ回り道をして大通りを練り歩きながら豊穣の女主人へと向かった。

剣を背負った人間にぶつかろうとしてもよける素振りを見せない。店先に並んだ果物を盗もうとしても止められない。

数々の状況証拠が、ギン自らが立てた仮説を後押しする。

そして極めつけの、豊穣の女主人での出来事。

強い霊圧を持つフィン達が明らかに動揺したのに対し、弱い霊圧しか持たない冒険者はほとんど反応しなかった。

 

ボクが極限まで霊圧を抑えると、一部の人間にしか認知できなくなるらしいなァ。

 

「……っと、此処やな」

 

脳味噌を回転させながら昨日オッタルから聞いていたタケミカヅチ・ファミリアのホームへ到着したギン。

なるほど確かに、独特で強い霊圧が中に居る。

 

「でも霊圧が一つしかないなァ……ん?」

 

カミサマということで護衛が何人も付いていると思っていたギンはホームにタケミカヅチ一人しか居ないことに驚くとともに、裏庭の方から何かを振る音を聞きつける。

見張りが居ないことを良いことにギンは勝手に敷地内へ侵入すると、裏口へ回る。

 

「ふっ!……ふっ!」

 

そこでは、古風な日本の衣装を身に纏った男―――タケミカヅチが、汗まみれになりながら一心不乱に木刀を振っていた。

木刀を振り下ろす度、ヒュンという心地良い風切り音が鳴る。

強い。単純な剣術だけなら、護廷十三隊でも十分に通用する。それが、タケミカヅチを見たギンの感想だった。

 

「ふっ!……ん?誰だ、君は?」

 

ギンからの視線に気づいたタケミカヅチは木刀を下ろし、近くの木にひっかけておいたタオルで顔を拭いながらギンに顔を向ける。

そしてその瞬間、タケミカヅチの直感がピクリと反応した。

木刀を握る手に力が入り、バキィと音をたてて柄が砕け散った。

 

「ちょっと訊きたいことがあるんですわ」

 

「その身なり……極東から来たのか?」

 

警戒を怠らないものの、タケミカヅチという神は善性の塊だった。

嘘は言っていないようだし、もしも困っていたら助けてあげなければ。

 

「どうやろなァ」

 

「……そうか。まぁ入ってくれ。大したもてなしはできないが、茶くらいは出そう。あぁ、俺はタケミカヅチだ」

 

「市丸ギンですわ」

 

「市丸、ギン……なるほど。とりあえず入ってくれ」

 

客間に通されたギンは、座布団の上で胡坐をかきながら考え事を始める。

あの霊圧、随分チミっ子と似とる。それに同じような霊圧を、昨日豊穣の女主人でも感じた。つまりあの時、何処かにカミサマが居ったっちゅうことや。どれや。

昨日覚えたばかりの強い霊圧を持つ一団の顔を思い浮かべるギンの前に、湯気を立てる湯呑がトンと置かれた。

 

「冷たい方が良かったか?」

 

「おおきに」

 

ギンは湯呑を手に取ると、中の熱い茶をズズと啜った。

尸魂界では毎日イヅルに淹れさせていた茶が、今のギンにはやたら懐かしく感じられた。

 

「美味い茶やなァ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいな。もっとも、命……俺のファミリアの子が淹れた方が美味いのだけどな」

 

「それで、俺に訊きたいこととは何だい?ギン」

 

「……尸魂界。聞き覚えあります?」

 

「そうる……何だって?」

 

アカンわ、これ。

尸魂界について知る人物なら、その名前を聞き返すことなどまずない。ギンはほんの少し目尻を下げる。

 

「ほな、死神は?」

 

「死神……ああ、タナトスのことか?俺自身に関りはないが、知ってはいるぞ」

 

たなとすとやらはボクが知らんわ。

それより、タケミカヅチが分からんとなると、困ったなァ。

 

「どうやら、俺の知る死神と、ギンの言う『死神』は違うようだな。何か力になれたら良いのだが……」

 

ギンの僅かな表情の変化に気付いたタケミカヅチはウームと唸りながら腕を組む。

しかし何も思いつかず、しょんぼりと肩を落としてしまった。

 

「すまない……力になれなさそうだ」

 

「いや?ええですよ」

 

薄ら笑いを浮かべそう言うギンだが、タケミカヅチは『黒』を感じ取った。

 

「代わりというわけではないが、ロキ・ファミリアに訊いてみるのはどうだろうか」

 

「ロキ・ファミリア?」

 

「あぁ。彼女のファミリアは俺のファミリアよりも何十倍も大きいし、主神のロキも聡明だ。もしロキが知らなかったとしても、団員の中で一人くらい、ギンの知りたいことを知っている子がいるだろう」

 

タケミカヅチの進言に、ギンはふむと納得する。

 

「黄昏の館までの道は教えよう。ええと、この辺りに地図があったはずだ……」

 

戸棚をゴソゴソと漁ったタケミカヅチは、かなり古い地図を一枚取り出し、ギンに渡す。

 

「古いものだが、大まかな建物は変わっていないだろう。ここが黄昏の館だ」

 

タケミカヅチはそう言いながら黄昏の館を指でさすと、地図をギンに押し付けた。

 

「その地図はギンにあげよう。俺はまだ何枚か持っているしな」

 

「おおきに。じゃ、行きますわ」

 

タケミカヅチに見送られながらギンは黄昏の館へと向かう。

途中から瞬歩を使ったこともありものの十分程度で到着したギンは、門番の横を素通りして敷地内に入り込む。

昨日の霊圧や。あそこで飲み会しとったのがロキ・ファミリアだったんかい。

霊圧を辿ってぶらぶらと敷地内を闊歩するギンだったが、中庭で、整備後の片手剣を抱えたラウル・ノールドと目が合った。

 

「……?誰ですか?」

 

「ロキっちゅうカミサマに訊きたいことがあって来たんや」

 

「は、はぁ……?お名前は?」

 

そんな話、門番から聞いていないぞ。

というか、ロキ様に会いたくて通してもらったのなら、どうしてこんな所を一人でぶらついているのだろう?

様々な疑問が浮かんだラウルだが、黄昏の館内に居る以上門番に通してもらったのだろう、と結論を出した。

 

「イチマルさんですね……分かりました。ただ、ロキ様は今取り込み中で、少し時間がかかるかもしれません」

 

「かまへんで。別に急いどらんし」

 

ギンは近くの置石に腰を下ろしながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーも」

 

「どーも。アンタがイチマルやな?」

 

緊張感に包まれた応接室で、ギンとロキはテーブルを挟んで向かい合っていた。

ロキの両側を挟み込むようにフィンとガレス、扉付近にベートとヒリュテ姉妹、扉の向こう側にリヴェリア、応接室の上の階にアイズという布陣。

全員が完全武装をしており、特にリヴェリアには扉の向こう側からいつでもギンを撃ち抜けるように魔法陣を展開していた。

隠す気のないどころかむしろ、ギンを威圧するかのような佇まい。

そんな中でもギンはいつもの調子を崩さず、薄ら笑いを浮かべていた。

 

「うちに訊きたいことがあるって聞いとるけど、何や?」

 

「ほな単刀直入に訊きますわ。尸魂界、知ってます?」

 

ギンの口から発せられた単語に、部屋の中の一同はクエスチョンマークを浮かべた。

だがそんな中だけロキは、ゆっくりと口を開いた。

 

「……名前だけは知っとるで」

 

「名前だけ?」

 

「ああ、名前だけや。フィン。倉庫の奥の例の包み持ってきてや」

 

「『妖刀』を?いいのかい?あれはロキが触らないでくれって言ってるものだろう?」

 

「ええで」

 

真剣な面持ちの主神の言うことに、フィンは素直に従う。

言われて通り倉庫へ取りに行ったフィンは、細長い包みを抱えてすぐに戻って来た。

 

「……二八年前の話や。まだフィンとも会う前やな」

 

ロキはそう言いながら、丁寧に包みの紐をほどく。

長いこと放置されていた包みが口を開くと、少し黴臭かった。

 

「……!」

 

「アンタの差しとる剣とよう似とるわ」

 

細長い包みからロキが取り出したものに、ギンは目を見開く。

何で斬魄刀がここに。

 

「二八年前、フィンと会う直前の話や。うちはたまたま、この刀を差した男と会ったんや」

 

ぽつりぽつりと語るロキの話に、ギンは耳を傾ける。

 

「偶然通りがかった河原にその男はおった。まだ若い男だったわ。うちが見つけた時にはもう虫の息でな。ここはどこだ、ソウルソサエティか、って譫言を呟きながら、まるで消えるように逝ったわ」

 

「……それで残ったのはこの斬魄刀だけ、ちゅうことやな」

 

「最初見た時は変な感じがした男だったわ」

 

ギンはロキの手から斬魄刀を受け取る。

まだ浅打や。それに、ほとんど使われた形跡があらせん。

大方、霊術院に入りたての死神見習のモンだった浅打やな。

ギンはそう、あたりを付けた。

 

「『神の恩恵』を受けて初めて見えるようになる不思議な剣や。アンタ、この剣について……そして、『ソウルソサエティ』について知っとるんやな?」

 

「知ってますよ」

 

白。

ロキはギンの言葉の真偽を確かめると、クククと笑った。

 

「まさかソウルソサエティなんて昔に聞いた言葉をもう一度聞くとは思っとらんかったわ。ソウルソサエティって一体何や?というか、よう見たらアンタ、あの時の男とよう似た恰好やな。そんな白い羽織は着とらんかったけど」

 

「ボクが前に居た場所ですわ」

 

このくらい話しても問題あらせんやろ。

正直に答えるギンだったが、その内心は、落胆一色に染まっていた。

コイツ、尸魂界について何も情報持っとらんやないか、と。

 

此処は何処なのか。

自分は何故生きているのか。

 

そんなギンの疑問は、一向に解決する目途が見えなかった。

 




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評価してくださり、ありがとうございました!

なお、『評価感謝欄が長くて本編の量を勘違いする』という意見をいただきましたので、今後は一度に全てではなく少しずつ紹介する形に移行させていただきます!
評価、感想、誤字報告等全て読まさせていただいています!本当にありがとうございます!
拙い文章と構成ですが、これからもよろしくお願いします!
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