神殺鎗は、神々の世界に生きる 作:レヴィ
「もうええわ。武器を下ろし。イチマルは嘘を言うとらん」
ロキの鶴の一声に、フィン、ガレス、ヒリュテ姉妹の四人は武器を下ろした。
扉の外で待機していたリヴェリアも、上の階に居るアイズを呼びに階段へと向かった。
「ベートもや。いつでも殴りかかれるぞって主張しながら話し合いができるんか?」
「……チッ」
最後まで警戒していたベートもロキに窘められ、渋々ポケットに手を突っ込み手身近な椅子にどっかりと腰を下ろす。
「悪いなぁ、イチマル。こっちも警戒はさせてもらったわ」
「別に何とも思っとらんですわ」
その気になれば此処に居る全員くらい、相手にできんこともないしな。
ギンはロキに言葉の真偽を悟られないよう、上手く本心を隠して答える。
特段隠す必要のないことではあるが、嘘を見破られるのが癪なことに間違いはなかった。
「さて……イチマルの訊きたいことをこっちは聞いたし、ギブアンドテイクや。次はうちの質問に答えてもらうで」
「はァ」
小首を傾げるギンに、ロキは人懐っこい笑みを見せる。
「そう警戒せんでええよ。イチマルにも隠したいことの一つや二つあるやろしね」
「おおきに」
ホンマ、分かりにくいやっちゃなぁ。
どう見てもフィンよりも年下なのに、妙に腹芸に慣れすぎとる。
言っていることの白黒が分かりづらいギンに、ロキは内心で毒づく。
それでもロキはワイングラスを傾け芳醇な香りを楽しむと、ふぅと一息ついた。
「アンタ、ナニモンや?」
#7 That was my everything
「ナニモン言うても、見ての通りですけど」
「見ても分からんから訊いとるんや」
あ~、と声を出しながらソファに深く腰掛けるロキ。
「イチマルは二八年前の男とよう似た雰囲気をしとる。あの男は、死ぬ時光の粒みたいになって消えたわ。人は死んでも肉体は残る。普通じゃないやろ」
「見間違いとちゃいます?」
「ほなフィンの背も一八〇Cくらいあるんとちゃうか」
見間違えるわけないやろ、と暗に伝えるロキ。
アイズを呼んだリヴェリアが扉を開く音だけが響く中、ギンはある一つの可能性を見出していた。
ここは尸魂界、現世、虚圏とも違う世界なのではないか?と。
「虚って聞いたことあります?」
「ホロウ?うちはないで。フィンは?」
「僕もない」
フィンはそう言うと部屋をぐるりと見渡すが、誰も首を縦に振らなかった。
よく考えれば、死神のボクが見えてるのに虚だけが見えないなんてことあるはずがない。
それに、此処に来てからまだ一度も虚と遭遇しとらん。
現世や虚圏にボクの知らないこの世界があったとしてもおかしくはないが、それなら虚が出ないことの説明がつかんやろ。
そもそも、カミサマが地上に居るなんて聞いたことないわ。
ギンの中で生まれた疑念が、徐々に確信へと変わっていく。
そして、ロキの言う下級隊士の話。
ボク以外に誰か来たことがあるなら、これは、藍染の崩玉のせいでもない。
「イチマル?」
そんなロキの声に、ギンは現実へと戻って来た。
「ちょいと考え事してましたわ」
「考え事もいいけど、とりあえずうちの質問に答えや」
「ただの居候ですけど」
「答えになっとらんわ、アホ」
嘘を言わず質問を躱そうとするギンに、ロキの訝しむような視線が刺さる。
そして一瞬の静寂の後、ロキはため息をついた。
「はぁ……神が嘘を見抜けるって誰に聞いたんや?」
「ヘスティアとかいうチミっ子や」
「あのロリ特盛り……!いらんことばっかりしてくれるわ……!」
ヘスティアはただギンを勧誘しただけなのだが、そんな事情を知らないロキはガーッと吠えながら立ち上がる。
「はぁ……もうええわ。そこまで分かっといて言わんってことは、自分が誰か言う気ないってことやろ。これ以上訊いても堂々巡りや」
ロキはそこで一度言葉を切り、残り少なくなったワインをグッと飲み干した。
「でも、目的だけは言ってもらうで。ただでさえイチマルはイレギュラーや。わざわざうちまで来た目的は何や?」
ロキ・ファミリアの主神として、団を護らなければならない。
そんなロキの堅い決意とは反して、ギンは本気で困ってしまっていた。
「目的……何やろなァ」
初めて見せたギンの言葉に、ロキはワイングラスをコンコンと二度叩いた。
白。ロキのサインに、全員が顔を見合わせた。
☆
乱菊が崩玉に魂魄を奪われたあの日から、藍染からそれを奪い返すことだけがボクの全てだった。
そのために霊術院に入り、死神になった。
鏡花水月の能力と破り方を聞き出すために、何十年もかかった。
その目論見が失敗し藍染に負けた今、ボクの目的は何なんやろか。
なァ、乱菊。
☆
「結局何も分からなかったね~」
ギンが去った後の応接室で、頭の後ろで手を組んだティオナが肩を落とす。
「そんなことはないさ」
「そうですね」
そんなティオナにフィンは優しく笑いかけ、ティオネは呆れたような目を向ける。
「二人の言う通りだ。彼には目的がない、ということが分かった」
「どういうこと?」
二人に同調するリヴェリアに、アイズが首を傾げる。
「目的がないってことは、とりあえず何もしねぇってことだろうが。ちったァ考えろ」
「そういうことさ。目的なしに快楽殺人でもしてるのなら、辻斬りの噂が広まっていない訳がないからね。親指も何も伝えてこないし。ロキ、どうする?」
フィンは軽く纏めると、ロキに結論を求めた。
暫く無言でワインをあおっていたロキだが、自分の中で結論を出し、その口をゆっくりと開く。
「……一旦様子見でええやろな。ただ、目的を見つけた時にどう動くか、誰にも分からん。ヘスティアとも接触しとるみたいやし、何か事を起こす前に
☆
「おかえり」
黄昏の館から帰って来たギンを、ミアは雑誌を読みながら出迎える。
「あれ、いつもみたいに料理はしてへんのですか?」
「今日は営業休みだよ。ドアにプレートかけといたじゃないか……って、そうか。イチマルは文字が読めなかったね」
そう言ってわざとらしく笑うミア。
普段逃げられ続けているギンに、ミアはささやかな仕返しをしていた。
そんなミアの仕返しをギンは特に気にすることもなく、裏の自室へ引っ込もうとする。
しかしそんなギンの足が、ふと止まった。
「……何であんな忙しいのに、こんな店をやるんや?」
「……驚いた。イチマルがそんなことを考えてるなんてね」
初めて見せるギンの姿に、ミアは目を丸くして雑誌から顔を上げる。
そのギンも何故自分がこんな質問をしているのか不思議で仕方なかった。
「……ギンは知らないかもしれないけど、数年前までのオラリオは暗黒期だったのさ」
雑誌を閉じ、少しずつ語る。
「血を血で洗うような、そんな時代だった。そんな時代でも……いや、そんなクソッタレな時代だからこそ、笑って飯を食べられる場所を作りたかったんだよ」
「へぇ」
「そんな店だから、働いてる子も訳ありな子が多いんだけどね。普通の町娘なのはシルくらいだよ」
「……へぇ」
「聞いてるのかい!?」
「おもろい話でしたわ」
ギンはそう言って片手を小さく挙げると、机に置かれた林檎を一つ取って懐に入れ、豊穣の女主人を後にした。
「……あれ。寝るために帰って来たんじゃなかったのかい」
ま、いいか。
ミアは適当に納得すると、雑誌を開くのだった。
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