未来の騎士王   作:アーっr

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俺は(ヒト)。俺は救世主(ヒト)


救いの手

 

 

 『紅洲宴歳館・泰山』。

 殺人的・外道的とまで評される激辛麻婆豆腐が食べられる、冬木の中華飯店。

 

 そこに、彼は居た。

 

 「いらっしゃいませ!」

 

 アサシンの調べ通り、このサーヴァントはここでアルバイトをしている。

 労働などせずとも存在できるというのに、酔狂なことだ。

 

 「………一人だ」

 

 「お一人様ですね。こちらの席へどうぞ!」

 

 だが、それ故に知れることもある。

 この胸に秘めた迷いも、この酔狂な男ならばなんらかの『答え』を導き出すかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なかなか難儀な生き方よな、神の狗」

 

 「………アーチャー」

 

 アーチャー。英雄王ギルガメッシュ。

 彼には3分の2ほど神の血が流れている。神と人の別離を促した原初の英雄。

 

 ………神。

 今まで信じてきた聖書/経典(唯一絶対)の神ではなく、メソポタミアで信仰された神。

 

 彼の在り方そのものが、自分の信仰、その土台となる教えを否定する。

 

 「貴様の求める『救い』は神や仏には無い」

 

 「───なに、を」

 

 救い。

 そのようなものを、私が求めていると。

 

 赤い血のような眼が私を貫く。

 

 「あるいは『答え』か。なんにせよ、今のままでは解決せぬぞ?」

 

 「………お前は、私の苦悩に答えを出せると?」

 

 「(オレ)は出さん。如何なる悪鬼神仏の類いだろうと、貴様を納得させる解は無いだろう」

 

 「っ!私の信仰は、無意味だと言うのか!」

 

 ………悪魔だ。

 人を惑わし、迷わせるこの声は、悪魔のものだ。

 

 聞いてはならない。目を背け、振り返り、また歩かなければ。

 ───今までのように?

 

 「信仰は自由だ。それに興味はない」

 「よほど突き抜けた(・・・・・)モノなら別だがな」

 

 だが、と悪魔は続ける。

 

 「貴様がアレ(・・)を見て何を思い、どう行動するのか。それには興味がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私は………私には、欠落がある」

 

 厳格な神父である父より生まれ、由緒正しい聖職者として育てられた。

 

 人としての正道を歩めると言うのに、この生き物は『悪』を持って生まれた。

 

 「他者が“美しい”とする物を許容出来ない。他者が嫌悪する物を“美しい”と感じる」

 「『正義』を嫌悪し、『悪』を望んでいる」

 

 唾棄すべき邪悪。赦されざる破綻。

 

 あらゆる苦難、修練を持ってこの歪みを修正しようと試みた。

 様々な方法で欠落を埋めようとした。

 

 その悉くが失敗した。

 

 「あ、ちょっと待って下さいね……えい!」

 「じゃじゃーん、三面六臂!」

 

 そのような相談の途中、突如として目の前の男が三人になった。

 そのまま増えた二人に仕事をさせて、男はまた話を聞く体勢になる。

 

 「結局、何が言いたいんですか?」

 

 「………『答え』を、求めている。お前ならこの苦悩に答えを出せると、アーチャーが」

 

 いい加減なこと言うよなぁ、と男は呟く。

 

 このような男が、本当に私の破綻に答えを提示出来るのだろうか。いや、今更だ。

 

 この聖杯戦争に『答え』を探している以上、どれほど無意味に思えたとしても求めなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………じゃあ、貴方に馴染み深い宗教の観点から考えましょうか」

 

 男はそう切り出した。

 どこか手慣れていて、経験を感じさせて、安心感を与える声だった。

 

 「旧約聖書の『十戒』には殺人の禁止、姦淫の禁止、盗みの禁止、偽証の禁止などがありました」

 「この時代の『悪』の典型例がこのようなものだったのでしょう。そして、神はそれを禁止した」

 

 唯一神は、悪を禁止した。

 

 「当然ですね。社会を維持する為には正義が必要であり、悪はそれを揺るがす不安要素だった」

 「人の統制/管理において、悪は不要なモノです」

 

 「では、私の苦悩も不要だと?」

 

 そう簡単な話ではありません、と男は遮る。

 その声には、聞き入ってしまう引力がある。

 

 「『情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである』」

 

 「………マタイによる福音書5章28節」

 

 知っているとも。何度も読んだものだ。

 

 「ある男がこの言葉を言った当時、女性は男性の所有物でした」

 「そして、男性中心の考えを脱する為に彼はこの言葉を放った」

 

 これはおかしい、と男は言う。

 

 「モーセの十戒からこの言葉まで、約1300年ありました。それほどの時が経っても、ヒトは悪性を手放せなかった」

 「1300年ですよ?60年で一代として、20回以上の『ヒトの交代』が起こったと言うのに、まだ同じ『悪』を抱えている」

 

 「………それこそ、人の罪なのでは?」

 

 禁止されていた知恵の実を食べたその瞬間から決定付けられた、ヒトの原罪。

 かつて救世主が持っていたとされ、しかし今なお残り続けるヒトの悪性。

 

 「そうではありません(・・・・・・・・・)

 「私が言いたいのは、『神がやらせればいい』」

 「『神が何故そうしないのか』というものです」

 

 それは、つまり。

 

 「初めからそう作ればいい(・・・・・・・・・・・)。神が人を作った時、『悪を成さない』ように設計(プログラム)すればよかった」

 

 「お前は、神の全能を否定するのか?主には出来なかったから今の人の世があると?」

 

 創造主の力不足。全能たる神に対しての疑念。

 

 「(わたし)全能(あい)である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事をしていた、分離した片方の男は遮った。

 

 「全てに偏在し、計り知ることは出来ない」

 

 冷たい声で、熱い想いを込めた言葉だった。

 

 「だそうです」

 「となると、これはわざとなのでしょう」

 

 「………『しかし、驚くには及びません。サタンさえ光の御使いに変装するのです』」

 

 『コリント人への手紙』の中で、そのような記述があった。悪魔でさえ神の計画の一部である、と。

 

 男は頷き、さらに続ける。

 

 「神にとって悪は不要なモノではなく、それをもって人が成長する試練の一つなのです」

 

 「その結論には私も至った。だが………」

 

 悪が成長の糧であり、それを克服していくのが主の偉大な計画というのならば。

 克服できない私は。

 

 神に背き続ける私は、どうすれば───

 

 「人生は満足できないものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一切皆苦。全てに苦しみは存在する」

 「故に、人生とは苦である」 

 

 今度はもう片方の男がそう言った。

 重く、実感の伴った声だった。

 

 「サンキュー阿羅漢」

 

 「だが、その思想と私の苦悩は別のはずだ。内から出るこの破綻を、私は修正しなければ───」

 

 「いえ、この場合『思い通りにいかない苦しみ』を指しているので、貴方の現状にピッタリです」

 「己の悪を自覚しているのに、それを克服出来ず苦しむ貴方に」

 

 「だから───なんだ」

 

 だからなんだというのだ。

 その苦しみを自覚したところで、この破綻が修正されるのか?違うだろう。

 

 結局、何も変わらないのだ。

 

 「仏教では、この苦しみの源は『執着』にあるとしています」

 「また、その執着を捨てることでこの苦しみは軽減されるとも」

 

 「───主を、捨てろと?」

 

 それこそ最大の背徳。

 神への裏切りなど、論外である。

 

 「『主は我が牧者なり。我乏しきことあらじ。主は我を緑の野に伏させ、憩いの水際に伴い給う。たとえ我死の陰の谷を歩もうとも、災いを怖れじ』」

 

 「そうだとも。主は善き羊飼いであり、羊である我々を守り導いて───」

 

 「羊飼いは羊の所有者じゃない(・・・・・・・・・・・・・)

 

 ───。

 

 「騎士は神に祈りながら主君に仕える。奴隷は讃美歌を唱えながら主人に仕える」

 「彼らは『王』に従いながら神に救いを求める」

 

 それ、は。

 

 「『わたしには天においても地においても、すべての権威が与えられています』」

 「神の子と言われた男は、その権威が支配のためでは無い(・・・・)と知っていた」

 

 人々を思いどおりに支配したり、威張り散らしたりするための権威ではなく。

 その権威は人々を愛し、救い、生かし、養い、導くという目的のために用いられるものだった。

 

 「神は支配者ではなく、管理者だ」

 「あるいは救世主か」

 

 王と神は別物であるとした。

 支配者と救世主は異なる存在だと、知っていた。

 

 「これは仏教でも同じだ」

 

 

 

 

 

 阿逸多。『打ち負かされない者』。

 いずれ現れる未来仏『弥勒菩薩』の異名とされる名前である。

 

 しかし、スッタニパータなどの初期経典では弥勒と阿逸多は別人である。

 

 『弥勒は仏陀となると誓願を述べ、阿逸多は転輪聖王となるという誓いを表明したところ、阿逸多は叱責され、弥勒は記別を受けている』

 

 また、仏教の祖であるゴータマ・シッダールタの誕生時にとある仙人は予言を残した。

 

 『家にあれば徳によって全世界を征服する転輪聖王となるであろうし、また出家すれば人々を救済する仏陀となるであろう』

 

 「いつの世も、どの地域に居たとしても、人々が考えることは同じだった」

 「『王とは素晴らしきヒトであり、人々を豊かにする。しかし、王は神仏では無い』」

 

 王は神仏では無い。

 支配者は救世主では無い。

 

 「つまり、その二つは両立出来ないが故に同時に接することは出来る。それは背信では無い」

 

 最初から別物なのだ。

 神は嫉妬深いが、不寛容というわけでは無い。

 

 「お前が神以外の支配者を受け入れたとしても、それが神への裏切りとなることはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だから、お前に仕えろと言うのか?」

 

 今までの話、それは究極『神以外に仕える正当性の説明』に過ぎない。

 私が救われる話ではない。

 

 「違う。お前が仕えるのはお前自身(・・・・)だ」

 

 「なんだと───?」

 

 「お前はお前のために生きるべきだ」

 「エゴを通せ。恐るな」

 

 自分のために生きる。

 そんなこと、どうして出来ようか。

 

 「何故?」

 

 「この『悪』を野放しにするなど、私には出来ない。あまりにも破綻したこの在り方は、生きていく上で必ず悪禍をもたらす──!」

 

 「駄目か?」

 

 駄目か。駄目か、だと?

 

 「悪が赦されるはずがない!」

 

 「なら、俺が赦そう」

 「神仏ならざるヒト()が、お前を救ってやる」

 

 「そら、破綻しているぞ!」

 「自らに仕えるのでは無かったのか?」

 

 「そうだ。俺が赦したお前が、俺に赦されたお前に仕える。何もおかしな事はない」

 

 「詭弁だ、そのような言葉遊び───!」

 

 「いいや、遊びではない。それに………」

 「俺だけじゃないようだな。お前を赦すのは」

 

 「なに………?」

 

 ふと、周囲を見回す。

 あれほど忙しなく働いていた、分身した二人の男がいつの間にか消えている。

 

 それどころか、客が、自分以外───

 

 「ほら、いるぞ」

 

 いた。男の言葉通り、己以外にも客がいた。

 

 

 女が、店のドアのすぐ近くの席に座っている。

 

 顔は見えない。

 包帯だらけで、白く、どこかで見たような───

 

 「お、まえは───」

 

 「どうやら、良い出会いがあったようだな」

 

 「───ガ、ぐ───!」

 

 痛い。頭が、割れるように痛い。

 

 女という存在が毒のように、布に染みつく汚れのように、あるいは、触れ合った時の体温のように。

 

 己の魂に刻まれた疵が、疼く───

 

 「─────」

 

 女がこちらを向く/姿が見えない

 女がこちらに微笑む/顔が見えない

 

 「私は」

 

 己の魂から、何かが溢れる。

 

 「お前を、愛せなかった」

 

 女が、口を開く。

 声が聞こえない

 

 「あなたは私を愛しています」

 「だって泣いているもの」

 

 

 

 

 

 




ギルガメッシュ
 誰憚ることなく神嫌いを公言し、人と神を分けておきながら、彼は信仰を禁止しなかった。
 月でとある宗教家を見たときには『ああいうものが現れるから宗教は侮れん』と評価している。




 悪魔が見せる幻覚かもしれないし、ある男が望んだ誰かかもしれない。


言峰綺礼
 生まれた頃から他人と価値観が違った。
 常人と真逆の感性である。

 聖職者の家に生まれ、そう育った彼にとって、その破綻は治すべき悪であった。

 あらゆる分野に取り組み、常人の数倍の努力を熟し、結果熟達することになった。
 しかし、どんな試みも彼の歪みを正す事は出来ず、誰も彼の異常を理解出来なかった。

 歪みの修正、その最後の試みが妻だった。

 約二年。会話は少なかったが、妻は彼の歪みを理解し、癒やそうと努力をした。
 彼をして『聖女』と言わしめたその献身を持ってしても、彼は破綻したままだった。

 彼は絶望し『生まれて来てはいけなかった』と答えを出し、◾️◾️を考えた。

 しかし病弱だった妻が◾️◾️し、それによって彼は永遠に答えを出すことを止めた。


 未だ答えは定まらず。しかし、己が仕える支配者は決めた。

◾️◾️◾️◾️
 支配者でありながら救世主である者。

 まともに優しく導いた。九割まとも。適当を言っている時もある。
 支配者と救世主が両立出来ないと言ったが、己は例外枠。

 ちなみに、羊飼いが羊の所有者という場合も普通にあり得る。雇用者という場合もあるが。


 彼の宗教に対するスタンスは
『神は全てに偏在する?神に背いてはならない?』
『神がすべてにいるなら、正面以外の神に常に背を向けてるぞ。この矛盾をどうする?』
みたいな言葉遊びを楽しむ。

 それを咎められたら
『“そのうち”助けに来るらしい、居るか居ないかわからない神仏に祈るより、今助け合えるかもしれないヒトを相手にしろよ』
とか言い出す。

 今回のようなものが希少。
 悪鬼神仏が居ない鋼の大地で宇宙人を相手に闘い続けた彼にとって、唯一信じることが出来たのはヒトだった。

 彼の救世主は、神仏ではなくヒトである。

 途中から王として話していた。
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