未来の騎士王   作:アーっr

16 / 21
いつか、どこかの話。全てに偏在する男の物語。


いつかのどこか
ul jah non (アルジャーノン)


 

 

 これは、狩りだ。

 

 

 男、フォアブロ・ロワインは走っている。夜の街中で特に人通りの少ない道を必死に走っている。

 

 666の獣の因子を持つ死徒であり、ネロ・カオスとも呼ばれる彼は逃げていた。

 

 「───クッ!」

 

 狩人(・・)が投擲した黒鍵が刺さる。

 

 666の因子を持つ彼は、666本のHPゲージを持っているに等しい。

 彼を打倒するには、一撃で全てのHPゲージを消し飛ばすか、因子そのものを殺すしか無い。

 

 不死性という点に関しては他の27祖にも負けない彼は、しかし死に追われている。

 

 「───ガ、ハッ」

 

 一撃。黒鍵が一本刺さっただけで、彼の保有する因子のうち100以上が殺された。

 

 単純な威力だけでも、あるいは何かしらの魔術的な攻撃だけでもこのようなことはあり得ない。

 

 だがこのような奇跡を、理不尽なまでの強さを、彼は噂に聞いていた。

 

 「アーサー・U・ブリュンスタッド(・・・・・・・・)───!」

 

 現在確認されている中で最新の真祖であるその男は、あろうことか聖堂教会に所属している。

 

 

 代行者としての彼の活躍。その最初にして最高の功績は『第五位の抹殺』である。

 

 南米に飛来した超生物ORT。彼はその怪物を討滅せしめたと言うのだ。

 現地で見ていた旧友(ロア)の話では、何かしらの召喚術を使用したらしい。

 

 

 

 ───黒鍵が飛来する。

 

 死徒である男の目にすら映らぬほどの超高速で、計6本の黒鍵が肉体を同時に串刺しにした。

 

 500もあれば大陸に匹敵するほどの因子が、その666の全てが、ついに滅びた。

 

 「このような、潔い死など───ッ!」

 

 最後に、せめて道連れにしようと手を伸ばす。

 串刺しにされ、身動き出来ない状態になって、因子を全て失ってなお彼は動いた。

 

 「………」

 

 ドン、と。無情に、交通事故のような音を立てて、思い切り殴られて。

 そうして、男は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「めでたい!まっことめでたいことよ!」

 

 「帰って来た(・・・・・)!あの人が帰って来た!」

 

 「酒を持って来い!彼(・)を待たせるな!」

 

 聖堂教会から派遣されたシスターであるイルミアは、この村がこれほどまで賑わうのを初めて見た。

 

 地元の司祭であるフェルナンド・クローズも、

この僻地の村が狂乱的なまでに騒ぐ様子を見たことがなかった。

 

 「一体、何が………」

 

 理由はすぐに分かった。村の人々が、とある男の周囲に跪いていたからだ。

 

 

 金色の髪。左右で色の異なる目。

 この世のものとは思えない、美しい肉体。

 ───そして。

 

 千の松明を束ねた様な、光を灯す剣───!

 

 「俺は」

 

 男が、口を開いた。

 

 「俺はアーサー。騎士王アーサー」

 「未来に甦りし騎士王である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロマニ・アーキマンは気まずそうにしている。

 

 それは悪いことをした子供のようで、しかしそれは彼だけの問題で、周りに被害などない話だった。

 

 「どうした、ロマン。凡人の体に飽きたか?」

 

 「………いや、少し昔を思い出してね」

 

 アーサー・アルジャーノンと名乗った目の前の男を、ロマニ・アーキマンは知っている。

 

 生命の究極。希望の星。最強のヒト。

 遥かな未来における王。

 

 彼は、生の苦しみを脱することが出来たのにそれを実行しなかった。

 その行為の偉大さは、奇しくも人として生き始めてからようやく気づいたものだった。

 

 かつて◾️◾️◾️◾️だった頃、ロマニは同じような境遇で智慧を求めた。

 全能の力を、使ったのだ。

 

 しかし、彼は違う。

 アーサーという英雄は、人の不完全性を超越する者になれたのにそれを捨てた。

 

 だからロマニは自らの行いを恥じた。ただの装置(王)として過ごしていた自分を。

 人のために捨てた彼と違い、欲深く求めた自分を恥じたのだ。

 

 「どこが?」

 

 「………思考の読み取りはやめてくれよ」

 

 ああ、ごめん。と軽く彼は言う。

 元より身に付けていた技能か、付け足された(・・・・・・)権能によるものか、彼は心理を見通している。

 

 「お前が思ってるほど俺は高尚な人間ではない。お前も、間違っていたわけでは無い」

 

 「………そう、かな」

 

 「星々を食い尽くした俺が聖人君子のはずが無いだろう。そもそも俺は秩序・悪だ」

 

 「それはまぁ、うん」

 

 輝かしい英雄にも、その背景には暗いものがある。ローマで奴隷が扱われていたように、歴史には闇がつきものだ。

 

 そもそもロマニの………◾️◾️◾️◾️の目では今の彼は捉えられない。

 かろうじて宣言が見えたが、それ以降は見えずに終わっている。

 

 今の彼がどうしているかなど分からないのだから、断片的な部分での評価しかできなかった。

 しかし、彼が人のために自らの全能を捨てたのは事実である。

 

 「ああ、あれか。あれはまぁ………うん。別に、大したことではない」

 

 「とんでもないことじゃないか!君は至上の幸福をわざわざ捨てたんだぞ!?」

 

 あらゆる苦しみから解放される喜びを。修行僧達が求める幸福を、彼は捨てたのだ。

 

 「………少し、昔話をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は究極に至った。

 

 生命の解答。不完全性の超越。

 あらゆる事象は些事であり、ただ見守るだけの超常的存在に至ったのだ。

 

 ───ふと、後ろを振り返った。

 

 それが転換期。まさに特異点と呼べるもの。

 もし振り返らなければ、あるいは『使命』の為に全能力を費やす存在に成り果てていただろう。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 

 

 ───女が居た。

 

 美しい、大いなる宇宙のような玄い髪。

 やや黄色みのある、鮮やかな赤色の目。

 

 その女は美しく、平安を求めていた。

 

 ───そして、男は。その女を見て。

 

 「アレを、救いたい(・・・ ・・・・)───」

 

 愚かしくも、そう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………じゃ、じゃあ、君はつまり───」

 

 「ああ。一目惚れ(・・・・)だった」

 

 天を仰ぐ。この男はなんという愚か者だろう。

 人としての完成を、一目惚れしたからという理由で捨てたのだ。

 

 「言っただろう。俺も、お前も。その選択に差があるわけではない」

 

 「………そうだね」

 

 衝撃の新事実だったが、そのとてつもない衝撃で悩みも吹き飛んでしまった。

 

 「それにしても、アルジャーノンって凄い名前を付けたね。君らしいけど」

 

 究極の神の否定者(ul jah non )。

 物質的な法則の中で生きる彼らしい、神秘を冒涜するような名前。

 

 「良い名前だろう。気に入っている」

 「俺の“最大の戦績”にも合っているからな」

 

 「“最大”?君をしてそう言わしめるほどの戦いがあったのかい?」

 

 遊星との戦闘は違うだろう。となれば、己が見えなかった“続き”の話だ。

 興味が湧いた。この英雄は、どれほどの功績を築き上げてゆくのだろう。

 

 「善し。俺(おう)の話をしようか」

 

 




フォアブロ・ロワイン/ネロ・カオス
 27祖、あるいは上級死徒と呼ばれる存在。

 666の因子を持つ死徒だったが、“狩人”によって殺された。
 辻斬り並みの強襲を受けて逃走していた。
 通り魔被害者。


ORT
 ナレ死。強すぎた故に描写すら出来なかった。
 次回で話が出るはず。


ロマニ・アーキマン
 人間。凡人。

 アーサーに対して羨望や恥があったが、話をして吹き飛んだ。
 この後王の話をされて目玉飛び出るくらい驚く。


女
 宇宙色の髪と思色の目を持つ魔女。
 特異点。間接的に世界を救った聖女。

 霊長王の王妃。魔性の女。


アーサー・アルジャーノン・ブリュンスタッド
 ある時は真祖、ある時は騎士王、ある時は神父。

 あらゆる時間、あらゆる場所に登場し、好き勝手やる。迷惑な観光客。

 ORTを倒しているが、英霊に堕ちた身では勝てない。とあるものを『召喚』し消滅させた。

 一目惚れした女を一日で妻に迎えた恋愛強者。

 まだ生きているので、いくらでも功績を盛れる。
 次回は『槍』の話。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。