ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記   作:名無しの作者

1 / 12
初投稿です。


第一巻
ヒロインは差し出しました


 

 渋谷さんがコンパクトを開く。同時に俺が持っているカードが光りだし、目の前で筐体が構築されていく。

 

 組みあがる筐体から目を離し、眼前を睨む。前方には出来損ないの熊人形が1体。その前には、今後の運命共同体になるであろう少女が一人。

 

 俺がしくじったら彼女諸共ゲームオーバー。

 

 ペナルティは熊公による踊り食い。

 

 場合によっては殴打による調理もある。

 

 

 何の支障もない。

 

 

 生まれ持った才能が、積み上げてきた経験が確信する。目の前の敵は取るに足らないチュートリアルでしかないと。

 

 そう自らに言い聞かせる。ランカーとして、絶対者としての余裕を纏い笑う。

 

 凍る背筋も、流れ落ちる冷や汗も全て無視して。

 

 ゲーム(原作)開始の宣言をする。

 

 

 

 「いくよ、僕に任せて。」

 

 「……はは…」

 

 

 

 「とっくに任せてるよ。」

 

 

 

 ゲームスタート

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 転生していた。

 

 前の最期はよく覚えていない。車か何かに轢かれたのはぼんやりと思い出せるが、きっと思い出してもいいことはないので忘れておくことにする。

 

 重要なのはここがとある漫画を原作とした世界だということだ。

 

 【ヒロインは絶望しました】

 

 タイトルからして不穏極まりないこの漫画は、主人公『渋谷明』が【裏ドレスタ】なる奇怪なデスゲームに巻き込まれるストーリーである。

 

 とにかく渋谷明がひどい目に遭い続けるリョナ系の漫画だったということは記憶している。仮想現実内で食べられたり焼かれたり下着を取られたりと、あらゆる方面で碌でもない目に遭い続けるのだ。その絶望的な状況でも諦めずに打開策を探して、最終的にはラスボスを倒して仲間との絆によりハッピーエンドを迎える話だったはずだ。

 

 転生してすぐに理解した、迷うことすらなかった。なぜなら…

 

 

 俺の名前が件のラスボスである【秋葉歪】だったからだ。

 

 キャラ的にはぴったりの名前ではある、が…

 

 実際に子供に着ける名前としてはどうなんだと毎回思わざるを得ない。我が両親は何を思ってこの名前を付けたのだろうか。こんな名前を付けるような無神経さが原作の歪君を育てたのではなかろうか、と色々邪推してしまいそうだ。幸いにも今のところ虐待やらネグレストの兆候は見られないが、逆にその平凡さが名づけとのギャップを感じて空恐ろしいものを感じる。

 

 閑話休題……原作の秋葉歪はそれはそれは無茶苦茶な卑劣漢だった。渋谷明のデスゲーム【裏ドレスタ】に巻き込まれる形で参加し、彼女を見事救ったまではよかった。そこから渋谷明に執着し始め、あらゆる方法で辱めようとするのだ。自分勝手な理論を振りかざし多くの人々を傷つけた。最終的には踏みつけていた者たちの復讐を受け、最期はナイフで刺され一人ひっそりと死んでいく末路を辿る。

 

 正直同じキャラになったとて同じ道筋を辿る気はない、というか辿れない。

 

 あれは彼が名前通り≪歪んで≫いたからこそ至った結末であり、凡人の自分では例え真似してもどこかで躊躇ってしまうだろう。というかそこまでの妄執を懐くメンタルからして持っていないし。

 

 とはいえ、彼になりきらなくても原作が始まってしまうのは事実。彼は巻き込まれただけであって黒幕ではないのだ。それを踏まえてどうするか。

 

 渋谷明を見捨てる、という選択肢はないだろう。いくら現実ではないとしても死に続ける彼女を放置することはできない。流石に良心的に無理。

 

 となると彼女が巻き込まれたときに、比較的早くコンタクトをとるのがよいだろう。原作では進展を迎えるまでに最低7回は死んでいるようだが、いくら何でもそこまでの苦痛を味合わせるのは忍びない。

 

 とはいえこれから起こることを説明するのも難しいだろう。理解してくれるかも怪しいし、最悪黒幕扱いされて拒絶されるかもしれない。1~2回死亡した後、偶然を装って接触するのがベストか。

 

 そうと決まれば早速準備に取り掛かろう。幸いにもこの身はデスゲームの元ネタ【ドレ☆スタ】トップクラスの技量を持つらしい。ストーリーをこなす分には問題ないだろうが、早めに練習しておくのも悪くないだろう。原作を読んでいて試してみたい作戦もいくつかあるしね。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 「プリント落ちてんよー。」

 

 「えっ、あっありがとう。」

 

 金髪の少女が床に伸びている書類を拾い、手渡す。落とし物を気にも留めずスマホを弄っていた少年は照れながら受け取る。

 

 「どういたしまして!」

 

 満面の笑み。人によってはわざとらしい一連の流れも、不思議と彼女が行うと微笑ましさすら感じる。

 

 彼女は、渋谷さんはとにかくよく動く。それが一緒のクラスになって感じた印象だった。ゴミが落ちていれば掃除し、誰かが困っていたらすぐ助けに入る。普通に日常生活を送っているように見えて、いろいろな部分をよく観察している。

 

 今も、休み時間中に廊下を出てすぐに気が付く。

 

 「手伝うよ。」

 

 「え…あっ。」

 

 三つ編みおさげの眼鏡少女が重そうに抱えている紙束を掻っ攫う。なかなかの手際だ。

 

 「職員室でしょ? トイレの序に持ってくだけだし。」

 

 「ありがとーっ。でも廊下は走っちゃだめだよー。」

 

 たたたっと軽やかに駆けてくる彼女を軽く呼び止める。

 

 「渋谷さん、僕の来た方に生活指導の山田先生がいたから歩いてった方がいいよ。」

 

 「マジ? ありがと。あの先生厳しーよねそういうの。」

 

 「まーね、気を付けて。」

 

 「うん、じゃーね秋葉君!」

 

 そういいつつ若干速度を落として駆けていった、いや歩いてった方がいいつっただろうがあのお転婆娘。

 

 んんっ、渋谷さんを尻目に俺は教室へと入っていった。

 

 

 

 「渋谷さんはギャルだけど良い人だよね、可愛いし。」

 

 「目立ちグループでも絡みやすいというか…それに可愛いし。」

 

 「てか可愛ー。」

 

 それしか言えんのかオドレらは。

 

 確かに見た目は可愛らしいが、一番の魅力はその善性だと思う。渋谷さんはとにかく人の助けになろうとする人だ。気配りが上手というか、世話焼きな部分がある。そしてよく笑う。

 

 少なくとも見える範囲では笑ってないところなんてないぐらいには。そんなところが可愛らしく映るのだろう。

 

 「ほんと笑うと可愛いよねー。」

 

 「それなー。」

 

 …正直見た目だけだったらちょっと怖い部分がある。金髪だし、ピアスも三つぐらいつけてるし。高校生にしては中々厳ついというか、気合の入ったギャルだ。実際原作で容姿を知っていても、初対面で面食らう程にはギャルだった。数秒後には持ち前のコミュ力ですぐ打ち解けられたが。

 

 そう、打ち解けられた。原作と比べて渋谷さんとの仲はそう悪くないのではないだろうか。作中では歪君はクラス内での人間関係を断ってひっそりと学園性格を送っていた。屋上階段でボッチ飯を取っていたのがその最たる例だが、生憎そこまで徹底したボッチにはなれないためなるべく社交的に振舞っていた。

 

 やり方は簡単、渋谷さんの真似をするだけ。兎に角周りのサポートに徹し、困っている人に手を回す。渋谷さんという最大の前例があるからであろう、普段なら不審がられる動きも直ぐに馴染んでいった。

 

 さりとてやりすぎないように。何でもかんでも押し付けられてはたまらない。ちょっと便利なクラスメート。そういうポジションを確立してからは、こうして世間話をする程度にはクラスに紛れ込めていた。

 

 渋谷さんともそうやって仲良くなっていった。たまにサポートしようとしてバッティングしたり、一緒に掃除なんかしたりしていくうちに知り合いぐらいの距離感まで縮められた、のだと信じたい。

 

 「うーん、渋谷んは小悪魔♡」

 

 総括する渋谷さんの友達であろう名もなきクラスメートA。

 

 …ごめん、まだ顔と名前が一致してないんだ…

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 【ドレス・スタイルバトル】 略して【ドレ☆スタ】。

 

 コスチュームのカードをキャラに装備させて変身!そのキャラを操作して敵を倒していくアクション型データカードゲームである!子供や一部の大人にも大人気だぞ!!

 

 …実際のところこういったカードゲームは前世でも遊んだことがない、そもそもゲーセンで遊ぶ習慣がなかったし。人に見られながら遊ぶよりかは一人落ち着いて遊べるゲームの方が好きだった。

 

 そんなコンシューマー派であった俺が明らかに女児向けの、この巨大な筐体に馴染めるかどうか。

 

 

 

 結論から言おう、俺はドレスタにドはまりしていった。

 

 

 

 まずゲームシステムがいい。このゲームはキャラと装備、それと肝心要のドレスの三つの要素で構成されている。それぞれにシナジーがあり、同じ系統のカードで揃えてコンボを狙うもよし、効果を組み合わせて独自の戦術を構築するもよしでアーケードとは思えないくらい自由度が高い。

 

 シンプルな脳筋打撃スタイルから空高く飛び回る飛行型、透明化からの必殺狙撃や果ては水中特化型なんてものもある。すごいのはどんなドレススタイルでもちゃんと勝ちに行けるいい塩梅のバランスで成り立っていることだ。

 

 こういった自由度の高いゲームは大抵強い組み合わせがあってそれら以外は論外、という程ではないにしろ勝ちにくい調整になりがちだ。ランクマッチだと戦う相手もパターン化されるものだと思っていたが、勝ち抜いていくにつれてみたこともないスタイルがまだまだ出てくるあたりよっぽど上手いゲームバランスとなっていると感じる。

 

 対人戦だけでなく、ストーリーもかなり面白い。女児向けの見た目に騙されそうになるが、ちゃんとシリアスで考えさせる内容に……

 

 まあこれはネタバレになるから割愛するとして、なるほど確かに子供だけでなく大人心もきっちり掴む大変面白いゲームだった。見てくれで倦厭するのはもったいない作品である。

 

 大人気にもなるはずだ。

 

 

 そうして幼少期の大部分をドレスタに費やした結果…

 

 

 俺は見事、原作通りにトップランカーの末席を汚すことができたのだった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 「手伝ってくれてありがとね秋葉君。ひとりじゃ教室全部は大変だったし。」

 

 箒を片手に渋谷さんは朗らかに笑った。相変わらずよく笑う子だと思った、ちょっと尊敬するほどに。

 

 「いいよいいよ、渋谷さんも災難だったね。また掃除当番の奴ら皆先帰っちゃったし、仕事ぐらいこなして帰れよな。」

 

 「ほんとそれ、あっというまに帰ってったねー。次は許さぬ。」

 

 頬を膨らませながら既に消え去ったであろう学友へ文句を言う彼女を尻目に雑巾の水気を絞る。いずれくる原作に向けて少しでも好感度を稼いでおかねば。

 

 「こないだはほんと大変だったよ、掃除してたら先生の探し物にも巻き込まれるし、体育の授業の後でくたくただってのに。前も秋葉君が手伝ってくれなかったら帰れなかったよ。」

 

 「いつもよくやるよね渋谷さん、当番でもないのにさ。」

 

 「まあね、やって帰んないとクラス諸共怒られるわけだし…」

 

 「それはそう。」

 

 このキャラに転生して随分時間がたった、原作ももう大まかにしか思い出せない。

 

 それでも、こうして元気そうな彼女を見ていると、まだ原作は始まっていないことを感じる。

 

 

 

 「そういえばさー秋葉君、ドレスタっていうゲーム知ってる?」

 

 確か原作だと、最初は女子トイレから転送されたんだっけか。

 

 「おお、知ってるよ。結構面白いんだよねあれ。」

 

 だったら初めの内は助けには行けないな、流石にそこまでやったら渋谷さんとてドン引きだろうに。

 

 「遊んでるんだ。じゃあさ、手ーだして。」

 

 そこで初めて殺されて、呪いのコンパクトを押し付けられるんだ。

 

 「なになに、どうしたの渋谷さ」

 

 

 

 

 「はい!手伝ってくれた秋葉君へのプレゼント!」

 

 

 

 

 丁度、俺の掌に置かれたこんなかた…ち……の…

 

 

 「いつの間にか鞄に入ってたんだよねこれ。調べたらイベントの結構高いやつみたい。」

 

 「私ドレスタやってないから、よかったらあげるよ。」

 

 

 

 この日、この時だけ。

 

 

 普段見慣れてるはずの朗らかな笑みが、ひどく恐ろしいものに見えてしまった。

 

 

 

ピピピピピピピ…

 

 

 




 襲い来る原作剥離!! 差し出される即死トラップ!! 誘われた仮想地獄を、ジェネリック歪君は抜け出せるのか!!



 次回「あれ?カードは????」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。