ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記 作:名無しの作者
あっよろしくお願いします港さん
「改めて自己紹介させてくれ。俺の名前は港勇、こっちの超絶可愛いのがマイエンジェル優だ」
「お兄ちゃんその紹介だと苗字バグった人みたいになるからやめて」
戦いの後、俺たちは近場の公園で待ち合わせていた。裏ドレスタでランダムマッチする時、対戦相手は近場にいるキャラクターから選ばれる傾向にある。だから合流には然程困りはしなかった。
……困りはしなかったのだが。
「あはは。ちょっとその、ユニークな人だね勇くんは」
「いいですよ普通に頭おかしいって言っても」
「そ、そんなバッサリ切り捨てなくても」
改めて相対してみるとその、なんだ。
「ちょっとしっかりしてよお兄ちゃん!これから同盟組む相手に失礼でしょ!」
「まあまあちょっと待ってくれよマイスゥイィートエンジェル。語るだけでは伝えられなかった優の魅力をわかってもらってからでも話は遅くなグボァッ!?」
「あっごめんなさい兄がうるさくって。わたしが港優、こっちのパツキンが愚兄の勇です」
エンジンがかかってきた勇の脇腹に肘鉄をかまし強制停止させ、目の前の俺たちより一回り小さい少女が改めて自己紹介をする。
戦場である程度は勇と話していてなんとなく想像はついていたが……
こいつら、濃いな。
原作でもシスコン兄貴とツッコミ妹という凸凹コンビの描写があったが、実際に会ってみるとキャラが濃すぎで圧倒される。
優に至ってはあんな目に合わせてしまったと感じていた負目を思わず忘れてしまいそうなパワフルさで兄の暴走をうまく捌いていた。
「ど、どうも……秋葉歪です」
「命。渋谷命です。優ちゃんとは初めましてって感じ……かな?」
「そうですね、殆ど話してもないですし」
ぎこちないながらもなんとか自己紹介を交わすことができたようだ。それよりも気になることがあったので聞いてみる。
「あーっとその…あの後大丈夫だった?やっといてなんだけど」
「あの後?…ああ!ドレスタのことですか?私はなんともないですよ」
気が付いたら転送されてて何が何だかわからなかった、と優は苦笑した。多分恐らくきっと一撃で仕留められたとは思っていたが、改めて本人の口から告げられると肩の荷が下りる。渋谷さんもどこか安堵しているような雰囲気だ。
「あの、ごめんね優ちゃん。あんな目に合わせて」
「えーっと、あの後って私どうなったんですか?なんかお兄ちゃんも聞かない方がいいって教えてくれないんですけど」
「そ、それは……」
抑えきれなかった罪悪感からか渋谷さんが墓穴を掘っている。まあ人体粉砕ショーの詳しい内容など聞きたくも、語りたくもないだろうしね。
「そんなことよりも、だ。これからのことを話し合おうじゃないか優!秋葉達もそれでいいか!?」
たじたじになった渋谷さんを見かねてか勇が助け舟を出してくれた。ありがたくそれに乗っからせてもらおう。
「…まずこいつを見てくれ。見てくれればわかるはずだ」
港たちのコンパクトが机の上に置かれた。続けて渋谷さんも鞄から取り出し、隣に並べる。
こちらのコンパクトは手に入れた時と同じで異常は見られなかったが、港たちのそれには僅かな差異があった。
「やっぱり3ライフ制ってことか」
「知ってるなら話は早い。俺たちのライフはあと2つなんだ」
コンパクトに装飾されたハートの飾りにひび割れができていた。その下にある三つの光の内右端が黒く沈黙している。
やはり原作と同じように対人戦に敗北するとライフが尽きていき、全てなくなると本当の意味でのゲームオーバーということらしい。
「だろうなとは思っていたけど、突き付けられるとくるものがあるね」
「……っ」
渋谷さんも険しい顔をしている。散々覚悟を決めたとしても他人を死に追いやることにはやっぱり慣れるものじゃない。
その時、勇の横に座っていた優は徐に手を伸ばした。
「大丈夫。やりたくてやったんじゃないことも、ちゃんとわかってる」
暗い顔をした渋谷さんの手を優は握って、微笑んだ。……俺たちより一つ下とは思えない懐の深さだ。兄といい妹といいちょっと心配になるぐらい人がいいな。
「……うん。ありがとね優ちゃん!」
優のやさしさに渋谷さんも気を取り直したみたいだ。ドレスタの腕前はないかもしれないが、こういう善性に接していると心が安らいでいく。悪辣なデスゲームに巻き込まれた状況なら猶のほかそう感じる。
勇も後方兄貴面で腕組みしながらうんうんと頷いている。そういうのは態度に出さず胸に秘めといた方がいいと歪君思うぞ。
「改めてなんだが、俺たちと同盟を結んでくれないか?」
気を取り直して勇が続けた。取り直してっていうかいつまでもうんうんしてたから肘鉄2発目が入ったからなんだが。
「どうせ戦うしかないなら…協力してお互い生存率を上げたいと思うの」
「もちろんだよ優ちゃん!私からもお願い!」
「元は僕たちが誘ったんだ、是非お願いするよ」
拒否する理由がどこにもないので当然受諾する。
今は戦力的な意味では活躍できないかもしれないが、そんなもの後からいくらでもテコ入れできる。この後加入するであろうメンバーはどいつもこいつも癖が強いというか曲者というか、とにかく扱いずらい。
人格的にまともな港兄弟はチームメンバーとしてはマストだ。是が非にでもチームを組んでおきたい。
「……ありがとう!秋葉も渋谷も、そういってくれてうれしいよ!」
「今まで勧誘ぜんっぜんうまくいかなかったしね」
そういえば前にも一度対人戦をこなしたと言っていたが、同盟を結べたのは今回が初めてなのか。港兄弟ぐらい人当たりがよかったら俺たち以前にもチームを組めそうなものだが。
「今までは勧誘どころじゃなかったんだ。俺たちも相手も勝つのに必死でさ」
「やらないとやられるって感じで全然話できなかったんです。秋葉さんたちみたいに落ち着いて向かってこられたのなんて初めてで」
「そうだったんだ……そりゃそうか、命がけだもんね」
三回チャンスはあるとはいえ命が掛かってるんだ。話し合うよりも先手必勝で飛び掛かった方がそりゃ生き残りやすいだろうし、ぶちのめした後に話をしようだなんて余裕もまたないだろう。
「実力が拮抗してたりすると勝った後のことなんて考えてる暇もないだろうしね」
「そうなんだよ!白熱してくると相手もレバガチャしてくるから動きが読めなくなるし、必死に攻撃してたらいつの間にかギリギリ勝ってたりしてたんだ」
レバガチャねぇ、対戦ゲームだと隙だらけになる初心者の苦し紛れの抵抗に過ぎない。だが現実だとその隙すらもつけなくなるのだろう、画面とにらめっこしているときとはわけが違うだろうし。
「でもそれで倒したのはキャラクターだろ。プレイヤーの方には話しかけられなかったのか?」
「……それがな」
「私のせいなの」
優が続きの言葉を遮った、勇が止める間もなく語りだす。
「プレイヤーの男の人がナイフを持ってて、それで刺そうとして……」
「優、何回も言ったろ。殺したのは俺だって。」
「でも!」
……どうやら彼らもままならない初戦を迎えたらしい。
キャラクターが倒された時点でプレイヤーができることは何もなくなる。キャラクターが生きている限りはそのプレイヤーに対人限定の障壁が自動的に貼られるようになるからだ。
モブなどキャラクター以外の攻撃は通すが、対人戦に限って言えばキャラクターを倒さない限りプレイヤーに攻撃は通らない。
にもかかわらずプレイヤーが直接攻撃を試みたのは何も知らなかったか錯乱したか、或いは……
(だまし討ちでもされた……か)
どういうシチュエーションだったかは敢えて聞く必要はないだろう。彼らの最初の試みは不幸にも失敗した、今はそれだけでいい。
「……悪い、変なことを聞いて」
「だいじょぶだいじょぶ!秋葉や渋谷っていう頼りになるプレイヤーと会えたから問題ねーって!!」
「ごめんなさい。暗い話聞かせちゃって」
「ううん!いろいろ話してくれてありがと!」
どうにもこのゲームのことを話してるとどんどん雰囲気が暗くなってくるな。デスゲームなんだからそらそうと言われればそこまでだが。
ーーーーー
「港たちのランクはFか。そんで僕たちのは」
「Eだな。俺たちを倒して上がったみたいだ」
あれからお互いの情報を交換しつつ駄弁っていた。原作から大まかな情報は知ってはいたが、実際に経験者からの話を聞くことで再確認したり忘れていた事項も思い出せたりで結構有意義な時間を過ごすことができていた。
「えっと、確か最低ランクはFだったから……」
「私たちに勝って一つ上のランクに上がったみたいですね」
渋谷さんも順調にドレスタの知識を身に着けているみたいだ。キャラクターが覚えても仕方がないかもしれないが、実際何が困難を打破するきっかけになるかわからない。広く浅く準備していた方がいいだろうね。
「まあ、マイフェバリット優が最高ランクに位置することは揺るがない事実だがな」
「あ…ハイ聞いてないです」
「よかったな」
「慣れてきたネ二人とも」
先ほど人格的にまともと評価したが、兄の方はちょっと考え直した方がいいかもしれない。さりげなく妹に密着しようとして本日三回目の肘鉄を喰らった勇を見て心の中でそっと距離を取った。
「他にも知りたいことがあったらヘルプメニューで確認できるから」
「わかった、ありがとう」
「そして優の可愛いところなら俺で確認できるから」
「それはいらねぇかな」
「あ、あはは。……ごめんね、教えてもらってばっかりで」
まあ技量はともかく裏ドレスタの知識で言えば港たちの方が上であることは事実だ。俺たちが教えを乞う立場なのはしょうがないとはいえるが……
「代わりといっては何だが、僕がドレスタの戦い方を教えたいんだけどいいかな?」
「…!願ったりかなったりだ!!」
勇は立ち上がり、俄然興味をもって食い気味で答えてくる。向こうもそれが最大の目的らしい。
「これ以上負けて優を死なせるなんてごめんだ。痛い思いだって絶対させたくない」
「俺が強くなって、どんな相手にも勝てるように。俺を鍛えてくれ、秋葉!!」
「……任せてよ」
さっきのバトル、終始こちらの思惑通りに進んでいた。俺からしてみれば勇は確実に弱い。
原作でも頭の鈍さや技量の低さなどから完全に格下に見られていた、少なくとも現段階では。
だが、そもそも勇がきちんと攻撃できなければあそこまでスムーズに必殺技につなげられなかったことを忘れてはいけない。
必殺技ゲージは攻撃を当てるか受けるか、アイテムの効果でしか変動しない。こちらから一切攻撃しなかったことを考慮すれば、まともに攻撃を当ててくるだけの技量がなければゲージは溜まらずもっと泥仕合になっていた。
最低限の技量と、最後までレバガチャせずにコマンドを入れようとする冷静さ。
総じて、これからが楽しみなプレイヤーであると言える。
「誰にも負けないプレイヤーに育て上げてやる」
楽しみが一つ増えた。
ーーーーー
「今日は二人に会えてよかったよ」
「こちらこそ、やっと話し合えるコンビに出会えてほっとしました」
夕焼けの中、渋谷さんと優ちゃんが朗らかに笑いあっている。色々話し込んだせいでもうすっかり日が暮れそうだ。
「こんなゲームに巻き込まれて、秋葉君がいてくれたからなんとかなったけど……やっぱりちょっと不安だったんだ」
「でも。誰かのことを本気で心配できる人たちがいて、悪い人ばかりじゃないってそう思えて……救われたよ」
「渋谷さん……」
「……よかったね、渋谷さん」
「他の人からも俺と優がソウルメイトに見えて救われた」
「そこまではいってない」
「急にギア上げてくるなよ」
「お兄ちゃん、ステイ」
「アッハイ」
今日はいろいろあったから、特訓も含めて明日から本格的に活動することを約束した。グロテスクなことがたくさんあったが、こうして新しい仲間を得ることができて……俺も救われた、のかもしれないな。
「今日はありがとう。優ちゃんに……港くん」
「な、何故俺だけ名字!?」
「なんとなく距離感を掴めなくて」
「むしろ自分から振り落としに行っている節がある」
「そ、そんな……」
しばらくうなだれていたが、即座に復活しきりっとした顔をこちらに向けてくる。隣に優ちゃんも並んだ。
「……なんかあったらいつでも声をかけてくれていいからな、二人とも」
「……うん!」
「そのときはよろしくたの」
「何もなくても」
「優の愛しいエピソードを語るために、いつでも声をかけにいくから」
………
「あ ハイありがとうございます港さん」
「僕らちょっと用事あるんで、失礼します港さん」
「更に距離感が!!二人ともちょっと待ってくれぇ!!!」