ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記 作:名無しの作者
偽りの大地で少女たちが相対する。
片方は金髪の少女で不敵な笑みを浮かべ、拳を力強く打ち鳴らす。纏っているドレスは『セパレード・ストライク』で、白い肌を惜しげもなく晒して対戦相手を睨む。
相対する少女は鮮やかな翡翠色をした長髪を靡かせ、不安げな表情で腕を前に組んでいる。纏っているドレスは同じくセパレードの水着のような装いではあったが、髪色と同じの絹やかな手袋を嵌め、右手には真珠のようなブレスレットが輝いていた。
『クストディーレ・ジェイドゥ』(SR)
Skill:『防御特化』打撃属性の攻撃を50%カットする。被ダメージによる必殺技ゲージ量増加。
必殺技:『防壁展開』:ダメージカット率100%のシールドをキャラクター正面に展開し、防御力(大)アップ。必殺技ゲージ継続消費。
「ふん!」
「あうぅ……」
打撃主体と防御主体のキャラクターが向かい合う。
『セパレード・ストライク』の攻撃は打撃主体、その属性にメタを貼っている『クストディーレ・ジェイドゥ』の方が一見すると有利だ。
しかし『クストディーレ・ジェイドゥ』には攻撃技が乏しい。スキルも必殺技も守りに徹していて決定打を与える術がない。本来であれば主にチーム戦やレイド戦にてタンクで戦うためのドレスであり、タイマンで好んで選ぶような装いではないだろう。
故に今回の戦場で見られるのは技量。
『セパレード・ストライク』は反撃を受ける前に痛打を与え、必殺技を決められるのか。『クストディーレ・ジェイドゥ』は攻撃を往なし有効打を叩き込み続けられるのか。
ドレスタの技量を求められる泥仕合が今始まる。
「てやあぁ!!」
先手は金髪の少女。
猛然と駆け出し、跳躍からの振り下ろしでクリティカルを狙う。
ドレスタにおいて高所からの攻撃は高さと落下の勢いに応じてクリティカル発生率が上昇する。故に可能な限りなるべく高い場所から威力を出すためにジャンプ攻撃は理に適っている。
例え迎撃のリスクがあったのだとしても、開幕から大ダメージを通すことができる可能性を信じて一定のプレイヤーはよくその卓を取る。
もちろんその対策も普及しているが。
クストディーレはその場から半歩下がって腕を交差させる。
落下攻撃は機動が読まれやすい。開幕で対応が遅れるのを狙うか明確な隙を作るかしないと上級者にはまず当たらない。
例にもれず今回も標的を掠め眼前に無防備な姿を晒す。反撃を加えてくださいを言わんばかりの無防備な姿勢のセパレードに拳が振り上げられる。
そして____
「っ!?」
「へへっ!」
その拳が掌で受け止められた。
ジャストガード。
攻撃後の隙は反撃の絶好の機会だが、それは相手にも言えること。攻撃を狙って誘うことができれば、それは更なる攻めの機転にもなりうる。
ジャストガードの効果は、自分の必殺技ゲージと相手の怯みゲージの増加。このうち怯みゲージはマスクデータであるためプレイヤーが判別する手段はない。
怯みゲージが一定量蓄積すれば数秒だけ無防備状態になり、全ての攻撃耐性が脆弱になる。大まかな増加手段は攻撃を受け続けること、そしてジャストガードを受けること。
前者だと緩やかに、後者だと一気に蓄積され解消方法は時間経過かアイテムを使用するしかない。
戦闘においていかにジャストガードを活用できるかがシンプルなドレスタバトルにおいては重要となってくる。本来であればクストディーレがジャストガードを狙うポジションにいるが、こうして攻撃をうまく扱うことができれば想定された戦法も容易く変わる。
「おらぁ!!」
セパレードが受け止めた拳を投げ捨て、両の拳を振り上げて乱打する。クストディーレは腕を交差させて防御態勢をとるが勢いよく押されていった。
瞬く間に必殺技ゲージを取られ、代わりに怯みゲージを押し付けられていく。開幕にジャスガされたのが響いたのかどんどん姿勢が崩れ、今にも倒れそうになっていた。
「くらえぇ!!」
怯みよりも先に必殺技ゲージが溜まったのか、セパレードの拳が淡く光りだす。前蹴りで吹き飛ばし、腰だめに拳を構え必殺技を構えた。クストディーレの姿勢は哀れなほどに崩れ、最早防御姿勢を取ることすらできなくなっていた。
「ドレスタァ、パンチイィー!!」
必殺技のカットインが入る。少女が高らかに己の必殺技を叫び、右ストレートを力強く放った。両腕を跳ね上げられ無防備な鳩尾を晒すクストディーレにはなすすべもない。
「くっ!?」
そのまま光り輝く拳は露出された腹部にめり込___
その直前で水色をした六角形の淡いシールドに阻まれていた。
「……っ!防壁ィ展開!!」
受け止めた後で必殺技を震え声ながらも宣言する。障壁は直ぐに光度を失い薄れていくが、確かに必殺の一撃を阻んでいた。
必殺技にはそれぞれ種類があり、なかでも必殺技ゲージの使用方法についても様々なパターンが存在する。
例えば『ドレスタ・パンチ』
これは必殺技ゲージ使用量最大と表記されているように放つためにはゲージを最大までチャージしなければならない。一番スタンダードな仕様でもある。
その分一撃の威力が絶大で、且つ操作にも癖がないため初心者から上級者まで幅広く好まれている仕様だ。
だが、少数とはいえこのパターンに含まれない例外もまた存在する。
『防壁展開』はそのなかでも割とメジャーな必殺技で、必殺技ゲージ使用量がそのまま効果時間に直結している。
つまりはゲージを最大まで貯めなくても必殺技を打てるのだ。
当然貯めずに放つデメリットも存在する。まず維持できる時間がゲージ満タン時より少なくなったり、発動までの間に僅かにラグが発生するのだ。
一瞬しかシールドを展開できず、且つ展開まで一拍間を置かなければならない。
攻撃を見極め、被弾個所を予測して時間差で発動させる。それぐらいの技量がなければ扱いにくい仕様である。
……が、仕様をきちんと理解し扱えるものにとっては。
「やあぁ!!」
「ぐっ!?」
正しく必殺の一撃となる。
ジャストガードの発動条件は攻撃が接触する瞬間に防御状態に切り替えること。これはガードに限った話ではなく攻撃を防ぐことができた場合に発生する。
スキルの効果でもアイテムの効果でも、勿論必殺技によってもだ。
クストディーレが反撃の振り下ろしを頭部に叩きつける。攻撃を出し切った少女に回避する術はない。
怯んだセパレードがたたらを踏むよりも先に跳躍、同時に攻撃コマンドを受け付ける。
コマンド成立、すなわち膝蹴り。
セパレードの顎を容赦なく打ち抜き、整った顔を大空へ仰け反らせた。
ジャスガによる蓄積とダメ押しに二発の攻撃によって怯みゲージが溜まりきった少女はそのまま崩れ落ちる。
その背が地に堕ちるよりも早く翡翠色の長髪が画面いっぱいに広がり、そして………
ーーーーー
「だぁあ負けた!?やっぱ強いな秋葉!」
「そっちこそなかなか強いじゃん。ジャスガもばっちりだったよ」
「まあ散々練習しましたし」
あれから数日、俺たちはゲーセンでつるんでいた。具体的にはドレスタの筐体に張り付いて只管戦っている。
同盟を組んだといっても今の段階ではできることはまだない。精々がドレスカードを融通したりドレスタのアドバイスをするばかりでやることはあっという間に消化されていった。
次の対戦まで手持ち無沙汰になるのも精神的によろしくない、ので時間が空く度にこうしてみんなでドレスタをプレイしているのだった。
「やった勝った!勝ったよ秋葉君!」
「ううっ……また負けちゃった」
隣の筐体では渋谷さんと優ちゃんのキャラクターペアが同じく対戦している。キャラクターがドレスタの技量を身に着けてもあまり役には立たないだろうが、少しでも戦いについて学びたいと俺たちの戦いを見学したり自身らで遊んでいたりしていた。
まあ向こうはいったん置いておくとして。
こうして数日間戦ってみて大よそ分かったのだが、勇の技量は一般的といったところだろう。
攻撃やガードといった基本操作、必殺技を打つ判断力や直前で姿勢を崩すコンボを入れているのも高評価。
ただあの場合はもう少し連撃を入れて先に怯みゲージを貯め切った方が確実だっただろう。基本的なことはできるが、マスクデータの肌感覚や逆襲を受けた際の切り替えが覚束ない。
初心者からは抜け出しているが、さりとて上級者とも言い難い。
総評としては、まあ普通のドレスタプレイヤーって感じだ。
だが今のところはそう問題はない戦力でもある。そもそも参加してくるプレイヤー皆がドレスタ経験者である保証がないのだ。
ドレスタカード所持がゲーム参加条件ではあるが、キャラクターを助けるために初めてドレスタに触れたというケースもあるだろう。例えドレスタの実力が充分にあるプレイヤーがいたとしても、死の恐怖を伴う裏ドレスタに参加しないことだってありうることだ。
チュートリアルを突破したチームと戦うわけだから油断はできないとはいえ、参加チームの技量差は正直バラバラだと思っている。上級者もいれば、まともな操作方法も碌にわからずカードパワーでごり押しした初心者とも充分当たりうる。
そう考えれば最低限のスキルを身に着けている勇の実力はそう悪いものではないと言えるだろう。あとは幾つかの入れ知恵と実戦経験があれば強くなれる。
「怯みゲージがどれくらいで溜まるかの感覚は身に着けといたほうがいい。今のももう少し押せば蓄積しきっていただろうから」
「難しいんだよな目に見えないものを想像すんの。なんかこう、わかりやすい目安があったらいいんだが」
「だったらこのカードを使ってみたらどう?スキルで怯みゲージが可視化される奴なんだけど……」
「もっかい!もっかいやろ渋谷さん!」
「え~次も勝っちゃうよ~」
そんなこんなで当面の日常は過ぎていく。
「おっし!じゃあもう一戦………あっ!?」
「どした勇?……あっ」
もう1試合としゃれこもうとした勇が俺の背後を凝視する、何事かと振り返るといつの間にか背後に少女が佇んでいた。
肩まで伸びる艶やかな黒髪、それを白いリボンで結えツインテールに整えている。いいところの学校に通っているのだろうか、俺たちのようなブレザーと違って白いジャンパースカートの制服に赤いネクタイが映えている。
「ご、ごめん占領してて、いったんどこうぜ秋葉」
「…………」
「秋葉君どしたの?」
突然固まった俺に伺うように声をかける渋谷さんの声に、うまく反応できないでいた。
……いやまさかこんなところで。
「あ、秋葉?ごめんなすぐどくから」
一向に動かない俺を見かねたのか勇が腕を引き、俺を寄せようとする……よりも先に。
「へぇ、ドレスタ好きなんだ」
少女が、ずいと近づき……
「あなたも、プレイヤー……かな?」
口元を嗜虐的に釣り上げた。