ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記   作:名無しの作者

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今年の夏も暑いので、皆さん熱中症にお気をつけて。


やっぱこいつチュートリアルの強さじゃないよね 

 熊が、敵が倒れ伏す。

 

 頭部が潰れ、内臓代わりの綿がそこら中に飛び出す。はじけ飛んだ頭の代わりにゲームの筐体が傾いたまま突き刺さっていた。いつの間にか筐体には電源が入り、スタート画面が流れ出している。聞き覚えのあるBGMと現実離れした光景がどうにもシュールだった。

 

 「……倒した……のか?」

 

 思わずフラグめいた独り言が漏れ出すが、目の前の敵はピクリとも動かない。あれだけの存在感を放っていた敵が、今となっては歪に大きいぬいぐるみにしか見えなかった。

 

 どうにか無力化に成功したようだ。

 

 窮地から脱したと体が判断したのか、アドレナリンの供給が止まり疲労感がどっと押し寄せてくる。今はそれらに身を任せ俺は地面に座り込んだ。

 

 「秋葉くーん!! 無事ー!?」

 

 遠くで渋谷さんの声が聞こえる。こちらに向けて駆けてくる彼女の方を振り向きながら、俺は人心地ついていた。

 

 

 ……彼女は、渋谷さんは本当にやってくれたんだな。

 

 

 あの時、俺が喰われかけた瞬間に見かけた渋谷さんの手には光り輝く何かが握られていた。

 

 直感的にそれがカードであると理解した俺は咄嗟に叫んだのだ。本当に咄嗟のことだったので「カード、コンパクト」しか言えなかった。が、飲み込まれかけた最中渋谷さんは手持ちのコンパクトとカードであれこれ試したのだろう。

 

 【裏ドレスタ】ではカードとコンパクトが揃うと両方が光りだす。その状態でコンパクトを開くと筐体が生成され、筐体にカードをスキャンするとキャラクターが変身、戦闘を開始する。

 

 恐らく渋谷さんは手に持ったカードとコンパクトをどうにかしようとして偶然開き、その結果飲み込まれかけたプレイヤーである俺の前に筐体が生成されたのだ。

 

 ……紙一重の勝利だった。俺が法螺混じりの打開策を言わなければ、渋谷さんがカードを見つけなければ、咄嗟に機転を利かせなければ間違いなくあそこで終わっていた。

 

 「なんとかー! そっちは大丈夫ー!?」

 

 鉛のように重たい体に鞭打って立ち上がる。

 

 渋谷さんが息せき切らせながら俺の前に立ち止まった。膝に手を当て息を整えながら、誇らしげに手の中に持ったものをこちらに突き出す。

 

 カードだ。ドレスカード、パッと見たところ最低ランクのノーマルカードだ。ドレスとも言いずらいような地味な黒色のワンピースが描かれている。必殺技も特殊効果もない所謂ハズレ。だが___

 

 

 今の俺には、それが天国行の切符に見えて仕方がなかった。

 

 

 「やったよ、秋葉君! カードあったよ!」

 「ああ、本当にやってくれたよ、渋谷さん!」

 

 差し出されたカードを受け取る。ノーマルカードがこれほど頼もしいと思ったことはゲーム序盤ぐらいだろう。これはこれで使い道があるのだが、ともかくすごい嬉しい。

 

 「ていうか食べられかけてたよね今!? どうやってなんとかしたの!?」

 「あいつの口の中で筐体が出てきたんだ。それを喉奥に押し込んだ。」

 「……この変なアートみたいなの? どうしてそんなことに?」

 「ああ、それは……っ!?」

 

 これまでの経緯を説明しようと敵の残骸を向き。

 

 

 敵が消失していないことに初めて気づいた。

 

 

 「離れて!! まだ終わってない!!」

 

 敵の身体が僅かに、しかし確かに、動いた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 「そんな、だって頭が……」

 

 渋谷さんが呆然と呟く。そりゃそうだ、普通の生き物は頭が潰れたらそこで終わりだ。さっきまで残骸めいて転がっていた様子から猶のことそう思い込むだろう。

 

 だかこいつは、ここは普通の世界じゃない。

 

 【裏ドレスタ】では敵NPCは完全に倒されると消失する。逆を言うと死にさえしなければその場に残り続け、やがて再生する。原作でも下半身を消し飛ばされた敵が一定時間後に高速で再生している描写があった。設定から、理屈としては理解できる。

 

 ……でも、だからってこれはないだろ。

 

 敵の手が動く。目どころか頭が消し飛んでいるためか手探りで頭部の異物を探している。やがて億劫げに筐体を掴み上げると、無造作に森の奥へ放った。

 

 それがスクラップになる音を他所に、巨体がゆっくりと立ち上がる。下顎より先が消失し、平衡感覚がないのかフラフラと頼りなく。

 

 

 しかし、確かに敵が再起動した。

 

 

 「……どうやら、この世界は是が非でもドレスタをさせたいらしいね。」

 

 凍り付いた渋谷さんを、そして己を勇気づけるようにあえて気取る。

 

 意味もなく眼鏡を押し上げ、無理にでも口角を上げる。笑っているように見えるといいのだけれど。

 

 「あ、秋葉君……」

 「もう大丈夫だ、勝利の条件は全て揃った。」

 

 だからそんな顔しないでよ。

 

 「渋谷さん、まずはコンパクトを閉じて。」

 「……っ! わ、わかった!」

 

 俺の強がりが功を奏したのか、取り乱すことなく渋谷さんはコンパクトを操作してくれる。遠くに転がった残骸が消失し、新しい筐体が生成準備に入る。手元の輝く切り札を弄びながらこれからの展開を組み立てる。

 

 「渋谷さん。」

 

 

 「今度こそ、勝とうぜ。」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 「今からあいつとドレスタバトルをする。僕がプレイヤーで、渋谷さんがキャラクターだ。」

 「……うん! 最初に言ってたやつだよね。」

 「このゲームはドレスカードを着て、敵と戦う。ドレスは女の子にしか着れない、だから」

 

 「これから、君が、あいつを倒すんだ。」

 

 なるべく簡潔に話す。説得しようとああだこうだ言い訳を並べる段階はもう通り過ぎている。今の渋谷さんには必要ないだろう。その証拠に___

 

 「わかった! どうしたらいい!?」

 

 二つ返事で引き受けた。……ほんといい女だよ渋谷さんは。

 

 「まずはコンパクトを開くんだ。そしたらもう一度筐体が出てくる。」

 

 頭部が徐々に再生している敵を前に、残り少ない準備時間に怯むことなく落ち着いて話す。大丈夫だ、戦闘準備の時間ぐらいはある。

 

 「その筐体にカードをスキャンする。そうしたら渋谷さん、君の出番だ。」

 「私がその、ドレスを着て戦うの?」

 「少し違う、ドレスを着た渋谷さんを僕が操作するんだ。」

 

 おどおどするな、受け入れてもらえるか不安がるな。勝手に体を操作することに対する罪悪感からは目を背けろ。言い切れ。

 

 「君を操って、これからあいつを倒す。」

 「……そっか、だから筐体が出てきたんだ。」

 

 頭の回転が速い。充分落ち着いているな、いい傾向だ。

 

 「そうだ。変身した後君がすることは一つ。」

 

 「秋葉君を信じる……だよね!」

 

 勝手に体を操られること、巨大な敵に相対すること、勝てるかもわからない戦いに身を委ねること。その全てを了承した、力強い言葉が返ってくる。

 

 

 ……負けられないな、絶対に。

 

 

 俺は力強く頷き、敵に向き合う。

 

 ようやく敵が再生したようだ。不安定な足取りは既になく、グロテスクに破裂する前の顔をこちらに向ける。

 

 

 渋谷さんがコンパクトを開く。同時に俺が持っているカードが更に光りだし、目の前で筐体が構築されていく。

 

 組みあがる筐体から目を離し、眼前を睨む。前方には出来損ないの熊人形が1体。その前には、今後の運命共同体になるであろう少女が一人。

 

 俺がしくじったら彼女諸共ゲームオーバー。

 

 ペナルティは熊公による踊り食い。

 

 場合によっては殴打による調理もある。

 

 

 何の支障もない。

 

 

 生まれ持った才能が、積み上げてきた経験が確信する。目の前の敵は取るに足らないチュートリアルでしかないと。

 

 そう自らに言い聞かせる。ランカーとして、絶対者としての余裕を纏い笑う。

 

 凍る背筋も、流れ落ちる冷や汗も全て無視して。

 

 ゲーム開始の宣言をする。

 

 

 

 「いくよ、僕に任せて。」

 

 

 

 「……はは…」

 

 

 

 「とっくに任せてるよ。」

 

 

 筐体の中央についている窪みにカードをかざす。気の抜けたBGMと同時に光が溢れ、前方に半透明のカードが出現する。

 

 「突っ込め!!」

 

 俺の合図と同時に、一切の迷いなく渋谷さんが駆け出す。ぶつかる寸前、頭を守る様子すら見せずにカードに突撃した。

 

 それは渋谷さんを受け止めて撓み、耐えきれないかのようにひび割れていく。間もなくカードは砕け散り、輝く破片から出てきた渋谷さんは変身していた。

 

 黒を基調としたワンピース。上半身はベアトップ状になっていて肩やうなじが大胆に露出していた。絵柄だと気づかなかったが背中に大きめの白いリボンが付いていた。

 

 見慣れているドレスタのドレスよりは装飾が少なく、そういう意味では地味ではあった。が、逆に現実味を感じさせる美しさを放っていた。

 

 渋谷さんの色気に見惚れる間もなく敵前に躍り出た、原作だとこのまま敵に迎撃され地に伏せることになる。

 

 「この僕が、そんな無様を晒すわけないだろ。」

 

 即座に操作レバーを半回転。殴りかかってくる敵の右腕に対し半身を捻り回避する。渋谷さんの顔面をかすめながら、しかし一切のダメージを受けることなく拳は彼方へと飛んだ。

 

 ゼロ距離、攻撃直後の無防備な鳩尾にあっけなくたどり着いた。攻撃の準備をしながら俺は叫ぶ。

 

 「合わせて!」

 「了解!」

 

 渋谷さんが回避直後の半身から腕を振りかぶり、俺の攻撃に合わせ力強く踏み込む。

 

 その細腕からは信じられないような風切り音が響き、敵の腹に拳が吸い込まれ、原作のように一撃で敵が___

 

 

 消し飛ばなかった。砂の入った袋に強くものをぶつけたらなるであろう音を響かせながら、しかし依然敵は健在。

 

 

 「だろうね。」

 

 驚きもしない、全て想定内だ。

 

 原作は持ち込んだレアドレスで、且つ打撃特化型の脳筋ドレスだったからだろう。景気よく敵の上半身を吹き飛ばしたドレスは手元になく、あるのは最低ランクのNドレス。

 

 「問題ないな、何一つ。」

 

 あんまりランカーを舐めないでほしい。必殺技もなければモブ一体にすら敵わないとかありえないだろう。

 

 倒せこそしなかったが、弱点部位である胸部のハートアップリケにいい一撃をもらったのだ。たたらを踏んで敵が後退する。怯みに入った敵を前にゲーマーがやることは一つしかない。

 

 「かちあげて! アッパー!!」

 「りょっ、うかい!!」

 

 俺の指示に従い下がった敵を追いかけるように再度懐に飛び込む。可愛くボクシングポーズをとり、次の瞬間可愛らしくない打撃音と共に敵の頭が真上に弾かれる。

 

 その勢いのまま膝蹴りを喰らわせる、重心を崩された敵は後ろに傾いていく。連撃の前に敵は何もできずに崩れ落ちた。

 

 何もさせない、常に先手を取って敵を怯ませ続ける。様子を見たり受けに回ることは今のドレス性能では死を意味する。

 

 

 このゲームのチュートリアルモブは、恐らくまともに殴り合って勝てるバランスになっていない。原作でも攻撃に対し的確にガードする知性を見せていた。アクションゲームでぞろぞろと出てくる敵が皆パリィを決めるようなものだ。

 

 カードパワーでごり押しするか、或いは敵のガードを予測して攻撃できる技量か、こいつを圧倒できる何かがないとじり貧で負ける。見た目に騙されがちだが、要素だけ見るとボス格の敵だろうこいつは。

 

 手元には最低火力のドレス、相手は完全所見の動きをするボスキャラ。ならば___

 

 「攻め続ける!怯ませ続けて!!」

 

 呑気に起き上がった敵の首元にラリアット。再度仰向けに倒れた敵にジャンプからのストンピング、狙うは勿論急所の胸元だ。スーパーアーマーのない敵の末路などハメ技以外ないだろ。

 

 起き上がる間もなく消耗していく敵を前にいったん下がらせる。原作であのドレスが一撃で倒せたことを考えるに、そろそろ奴の体力も限界のはず。

 

 「次で決めるよ、構えて!」

 「わかった!やっちゃえ秋葉君!!」

 

 拳を後ろに引き絞り、いつでもとどめを刺せるように力を蓄える。敵が上体を起こし、弱点部位が丁度拳の高さにきた、今!

 

 「終わりだ。」

 

 放たれた矢のごとく、渋谷さんが跳ぶ。

 

 突き出した拳は、最初の一撃と同様に敵の胸に突き刺さり___

 

 

 そのまま、今度こそ消し飛ばした。




『NAME:ダークワンピース』
Skill:なし
必殺技:なし
何の効果もない、最低限の能力が保証されているだけのドレス。その代わりに一切の代償や制約を持たない。それを役立たずとみなすか、可能性を感じるかはプレイヤー次第だろう。



次回「共闘者よ」
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