ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記 作:名無しの作者
一週間後。
俺たちはまた放課後の教室に集まり、来るべき転送に備えていた。傍らには中身が詰まったリュックサック、勿論ドレスカードケースもしっかり所持している。
あれから放課後に渋谷さんとドレスタについての勉強をしたり、チュートリアルステージでの検証内容を精査する日々が続いていた。
原作ではこの一週間に渋谷さんは仮初の自由を手に入れ、歪君は不信と執着の感情を煮えたぎらせることになる……のだが。
俺はこの貴重な準備期間を無駄に使う気は一切ない。チュートリアルステージは全部で3回、それをクリアすれば今度は対人戦がメインとなる。生身の人間と命のやり取りをする戦いが主流となるのだ。
つまり。
誰も傷つけず、命の危険もない、絶好の修行と検証環境は限りがあるということ。
この機会を全力で生かすための準備を俺たちは進めたのだった。
余談だが、あれから渋谷さんはちゃんとしたドレスタを始めた。放課後に友達と遊ぶ傍らゲームセンターに入り浸り、順調にステージをクリアしていく。
というか随分ハードなスケジュールを自らに課していた。クラスの友達とあっちこっち遊びに行きながら二人きりの時間になると裏ドレスタについて話し合い、ついでに何人かを巻き込んでドレスタを始めて序盤の難関に悶えている。
一緒についていくだけでもクタクタになる。原作でも二か月近く殺され続けたゲームに嫌悪感を抱かず遊んでみようとしているあたり、心身ともに相当タフらしい。可能な限りネタバレをしないように苦慮しながら俺はニュービー達にアドバイスするのだった。
閑話休題、件の時を迎える。
「準備オッケー?」
「ばっちし!カードも装備も全部持ってきた!」
「じゃ、いこっか。」
学校と家とゲーセンを往復している身としてはちょっとキツイ一週間を越え、万全の準備で俺たちは再度この世から消え失せるのだった。
ーーーーー
インパクトの瞬間に更なる衝撃波が拳から溢れ出る。最初の一撃で破けかかっていた体表はそれに耐えきれず無情にも引きちぎられていく。辺りに革と綿をまき散らしながら、下半身を失った敵はもんどりうって地面に倒れこんだ。
「いや強っ!」
初戦で着たドレスとの圧倒的な性能差に唖然とする渋谷さんを他所に、俺はスキャンされた自分のドレスカードを睨む。
『NAME:セパレード・ストライク』(R)
Skill:物理特化 物理属性の威力に増加補正(大)が入る。装備カードの威力に減少補正(大)が入る。
必殺技:『ドレスタパンチ』 対象一体に物理ダメージ(大)を一回与える。必殺技ゲージ使用量最大。
「やはり弱体化されてるか……」
手持ちのカードの中から恐らく原作で最初に使用されたであろうカードで戦闘を開始する、開始っていうかもう終わったけど。
今渋谷さんが来ているのはセパレードの水着のようなデザインのドレスだ。胸元と腰回りに集中して衣服を纏い、他は大胆にも露出している。
上半身はノースリーブで胸元までしか覆われておらず、白い肌が輝いて見える。下半身は実物で見るにはあまりにも短いスカートの丈を、パレオのように腰に巻き付いた白い布がカバーしていた。胸元と右腰についたものと同じピンクのリボンが、渋谷さんの美しい金髪を結びサイドテールを形作る。
激しい露出ながら麗しさを感じさせるデザインとは裏腹に、このドレスは真正面から敵と殴り合うようにデザインされている。ドレス単体で性能が完結するので、始めたての頃に排出されればうれしいスーパーレアカードだった。
スキャン済みのカードに目を落とすと、変わらずSRの記載が名前の後ろについていた。が、裏ドレスタ筐体の画面にはレアカードと表記される。
「なにか気になることあった?」
難しい顔で画面に注視しているのを感じ取ったのか渋谷さんが聞いてきた。特に黙っておくようなことでもないので答える。
「ドレスカードのレアリティが現実より一段下がってる。外から持ってきたカードはやっぱり何らかの弱体化が入るみたい。」
「それもそっか。持ち込みありだったら強いカードで無双できちゃうもんね。」
原作では歪君の腕前でカバーされていたので序盤は問題がないように見えるが、よくよく思えばこの仕様も裏ドレスタ初プレイヤーにとっては結構な落とし穴になりそうだ。例えゲームに慣れていても、サイレントデバフを喰らいながら普段通りに戦うとやはり勝てないのだろう。基本はこのゲームで出てきたドレスを使いましょうね、ということらしい。
「でも一度ゲームクリアしてるけどカードなんて出てこなかったよ?なんでだろ。」
「恐らくチュートリアルだからじゃないかな。このまま続けてると流石に一枚ぐらいは貰えそうな気がする。」
正確にはあと一回チュートリアルをクリアすればもらえるのだが、それはさておき。
「じゃあ、変身解除するよ。」
「お願い秋葉君!」
コンパクトを閉じ筐体を消す。目の前の大きな箱が消えるのと同時に渋谷さんもいつもの制服姿に戻った。
目の前には未だ再生する様子のないクマがモタモタと蠢いている。
筐体を再召喚、先程のドレスをスキャンし変身待機状態を造る。事前に打ち合わせた通りに、渋谷さんと俺の立ち位置を入れ替える。
つまり、渋谷さんが筐体の前に立ち、俺が変身用の半透明の壁の前に控えた。
「行くよ……渋谷さん!」
「いつでもおっけー!飛び込んでけ!!」
左腕を右腰に当て、右腕を斜め上に掲げる。そのまま右足を後ろにずらし半身を捻り、腰を下ろしいつでも飛び込める体勢を維持。そして……
「変っ身!!」
両腕を振りぬき腰に構え、俺は勢いよく光の壁に突撃、跳躍する!そして……
「「……」」
特に何の抵抗もなくすり抜け、俺は反対側の地面へ何事もなく着地するのだった。
「「…………」」
ーーーーー
今回のチュートリアルステージでやるべきことは、ずばり裏ドレスタの仕様把握だ。
原作の歪君も2回目のチュートリアルで渋谷さんにセクハラをかまし、システムに弾かれていた。その経験は後の戦いにおいて意外な形で役立つのだが、今回はもっと徹底的に疑問に思った仕様を検証していこうとういことだ。
例えば≪プレイヤーとキャラクターの入れ替え≫は原作でも終盤の特殊条件下にしか起きなかったが、これをもし任意で起こせるならいろいろと悪さができるだろう。まあダメだったけど……
こんな風に原作を読んでいて描写がなかったけどできたらいいな、と思うことを片っ端から試していこうというのが今回の主な趣旨である。
定期的に再生する敵を生かさず殺さずしばいて時間を稼ぎ、体力が待つまでこの空間で粘る長丁場になる。
ここで試すのは主に三つ。
裏ドレスタ内に持っていける物品の調査、ゲームの仕様が原作通りかどうかの検証、そして……
「ぅわっあっあああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
「渋谷さっ落ち着っおおおおおおおおおア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
現在俺たちは空高くカッ飛んでいた。見る見るうちに高度が増し、偽りの大地が遠ざかっていく。
『NAME:エバキュエーション・タイト』(N)
Skill:緊急脱出 超高度まで一気に跳躍し、その後ランダムな地点に降下する。離脱距離に応じてスキルのクールタイム増減。
必殺技:なし
ピッチりとしたスク水のような黒いスーツをベースに、ところどころメカメカしい装飾が張り付いている。腰回りは硬質なスカートらしき装飾が覆い、背中には二本のジェットエンジンのような装備が装着されている。ポニーテールをなびかせながら、装着されたゴーグルの中で渋谷さんが大泣きしているのが辛うじて見えた。
今渋谷さんが着ているのがエスケープ系統のドレス、エバキュエーション・タイト。同種に原作で多用された『エスケープ・ドレス』がある。
瞬間移動して離脱できるエスケープドレスと比べると離脱先が丸わかりだったり距離をとるのにある程度の時間が必要だったりする欠点があるのだが、その分長距離に逃げられる利点がある。
その使い心地を俺たちは体を張って体感していた。
「まってまってまっておちるおちるおちるおちるやだやだしにたくない!!」
「ヴッ!」
体が徐々に降下していることに気づき渋谷さんは半狂乱になる。ちなみに俺はさっき食べたお高いサンドイッチを空中投棄しないよう全力を尽くしているところだ。
裏ドレスタでドレス効果がどのように扱われるのか、俺たちは特にそこに注目していろいろなカードを試していた。
例えば今使っているエバキュエーション・タイトも通常のドレスタだとキャラクターのみ空中射出されるわけだが、裏ドレスタだと一緒にいるプレイヤーはどうなるのか……など。
プレイヤーも一緒に戦う必要がある裏ドレスタでは効果が一部変更されている可能性があり、そこを見落としてプレイすると思わぬ窮地に陥るかもしれない。そんな落とし穴を埋めるべく、俺たちは持ち込んだカード全てをとりあえず使ってみることにした。
ちなみにこのドレス効果はまず渋谷さんが高速で打ち上げられ、後を追うように筐体ごと俺も投げ出された。コスプレをした少女と、その後を追いかけるように巨大な箱にしがみついた少年が宙を舞う姿は傍から見ればシュールな笑いを感じさせるのだろう。
俺たちは全く笑えないが。
個人的にはせめて着地くらいはゆっくり降ろしてほしいと願うばかりだが、ゲームでは速度を保ったまま容赦なく地面に着弾していた。
その演出をなぞらんばかりに迫りくる大地を前に俺たちができるのは、ただ目をつむり地面のシミにならないよう祈ることだけだった。
こうして全てのカード効果と確かめたい仕様を確認した後、クタクタになりながらドレスタパンチではるか上空にクマをぶっ飛ばし俺たちは帰還を果たした。
チュートリアルボスを足蹴にしたジェネリック歪君の次なる敵は過酷極まる裏ドレスタの仕様そのものだった!!頑張れジェネリック歪君!!まずは三半規管を鍛えるんだ!!!
次回「修行検証、また修行 その2」