ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記 作:名無しの作者
丸太のような剛腕が風切り音を伴って迫りくる、目標は金髪の愛くるしい少女の顔面だ。致命的な衝撃に怯えながら、それでも目を逸らさず脅威に向かい合う。
その健気に報いらんと鍛えられた動体視力で持って最適なタイミングを算出、同時にコマンドを出力する。差し出される暴力、その側面に合わせるように右手の打撃を置く。軌道上に差し出された障害物に沿って拳は目標を逸れあらぬ方向に飛んでいく。
振りぬいた腕、隙だらけの横腹をあえて見逃し次の攻撃に備える。次は左腕の振り下ろし、インパクトの刹那左腕で撫でるように攻撃する。優しく押し出されるように衝撃が逃がされ、渋谷さんの真横に衝撃が炸裂した。
「大丈夫!?そろそろ休む?」
「だいじょぶ!まだまだいけるし!」
かれこれ1時間近く経っている。渋谷さんも、当然俺も集中力が切れるころだ。そろそろ休まないと一撃もらいそうだし、もう少ししたら休憩を提案しよう。
裏ドレスタでは渋谷さんが兎角ひどい目に遭い続けていた。敵キャラからもそうだが、相手プレイヤーからも服を剥かれたり柔肌に屈服の宣誓を剣で刻み込まれたりかわいそうなことになっていた。
渋谷さん自身も体を操られ、随分とマニアックな加虐行為に加担させられていた。それらは彼女の精神を大いに苛んだものだ。
原作を読んでふと思ったのだが、そういった動作が果たしてレバー1本とボタン四つで実行できるものなのだろうか。
特に相手を害するボタンは二つしかないのに、どうやってそこまで複雑に操作できるのだろうか。
俺はそこに一つの仮説を思い浮かんでいた。
このゲームはイメージによって自由度が飛躍的に上昇する。
例えば一番最初の戦闘で俺は攻撃ボタンを連打していたのだが、あの時出るはずだった技はパンチとキックのみのはずだった。
にもかかわらずアッパーカットや膝蹴り、ラリアットなどの技が出たのは渋谷さんが見た目によらずそういった攻撃のイメージを持っていたからなのだろう。
この仕様を応用すればもっと高度な技が使えるのではないか、チュートリアル最後の戦いで俺たちはそういった練習を試みているのだった。
チュートリアル3回目に呼ばれる前、俺は渋谷さんにあることをお願いしていた。それはなるべく敵の手足を掠めるように、攻撃を弾くイメージで殴ってほしいというものだった。
もちろん操作はこちらで行うのだが、そういう意識・イメージは常に持つようにしてほしいと伝えた。
話は変わるが、このゲームの操作方法は左手のレバーに右手の四つのボタンで構成されている。レバーは移動方法だが、右手のボタンはそれぞれ攻撃・防御・跳躍・スキル及び必殺技に対応しているのである。
そのうち攻撃に対処する手段は主に防御で、攻撃判定がでる瞬間に防御することでジャストガートが発生しダメージ大幅カットや相手への怯みを誘発させることができる。
この防御だがスキルや必殺技など特殊な条件でもない限りダメージを完全に防ぐことができない。ジャストガードしてもカスダメはどうしても受けるし、ボスキャラの一撃や必殺技など防御しきれない攻撃に対しては被害を軽減することしかできない。
プレイスキルや戦法にもよるが実力が拮抗している場合大よそは防御している側が不利で、如何にして攻撃に転じるかの駆け引きが通常のドレスタに求められるのだ。
通常のドレスタでは。
「はあああぁぁあ!!」
渋谷さんが半身に構え攻撃に備える。迎え撃つは敵が放つ左ストレート、幾度となくいなされてきたためか心なしか苛立ちを感じさせるそれはさっきまでとは僅かに早く迫りくる。
「ここいらで決めちゃおう!」
ゲームではともかく現実では攻撃直後に最大火力を発揮できるわけではない。振りかぶり、力を込めて打ち出して始めて最高威力の打撃を放てるのだ。
その直前、インパクトが溜まる直前にベクトルを分散させてしまえばそれは攻撃たりえない。
剛腕が伸びきる直前に渋谷さんが跳びこむ。敢えて敵の攻撃範囲へ、そしてその奥へと。
同時に右フックが打撃に対し放たれる。攻撃というよりかは腕を押し出すような、ゲームではカス辺りにしならないようなチンケな攻撃。
そんな攻撃もどきが最高の防御コマンドとして、敵の攻撃を弾いていた。
「おおおりゃあ!!」
可愛らしい掛け声とともに渋谷さんが一回転する。敵の殴打の勢いを利用して全身を捻り、左足を高く上げ致命の一撃を狙う。
彼女が放った回し蹴りは敵の喉元を大きく抉り、後方へ大きく吹き飛ばした。今にも千切れそうな頭に連れられるように仰向けに倒れピクリとも動かなくなる。
「よっしゃあ!!今のどうよ!」
「ばっちしだね。もう充分ものにできたんじゃない?」
僕らは裏ドレスタで新たな防御手段である弾きを開発した。
敵の攻撃に対しジャストガートのタイミングより僅か早く攻撃を差し込み、それによって攻撃そのものを不発にさせる。俺の操作と渋谷さんのイメージ・身体能力が合わさってできる技術である。
防御と違い必殺技ゲージが溜まらない、ジャスガによる怯みなど反撃の機転がない等欠点も多い。
それでもこの技に執着しているのはこれが完全防御たりうるからである。
そもそもドレスタは基本的にはダメージレースであり、如何に消耗を抑え加害するかが肝のゲームだ。だからこそ常に攻撃を無力化できる手段は用意されていないし、きっと裏ドレスタでもそれは変わらないだろう。
それはこれから俺が求めるプレイには合わない。
「そろそろ上がろうか。ここでできることは粗方やったし」
「りょーかい!決めちゃうね!」
よろよろと起き上がった敵に接近、躊躇なく顔面に右ストレートをお見舞いする。心なしか元ネタより切れのあるモーションで敵の首をガクンと仰け反らせる渋谷さんを見て、喧嘩だけは絶対しないように誓いつつ追撃を指示する。
「やあっ!たあっ!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に殴打、蹴りを次々叩き込んでいく。敢えて急所を外した連撃だったが、それでもクマの右腕は吹き飛び腸代わりの綿がそこいらに飛び散る。猫が獲物を甚振るような状況が数十秒続き、流石に同情というか申し訳なさを覚えたころダウンしていたもう一体が起き上がった。
「これで終いだ!」
「いっけぇー!!」
ボロボロのクマを目標に向けて蹴りこみ、ぶつかって縺れた二体に向かって今の必殺技である『ドレスタパンチ』が炸裂する。
気のせいか攻撃を喰らう直前で比較的無事なほうの敵がもう一方を庇うように見えた。しかし一瞬で宙を舞う綿埃に変身してしまったため、俺は何も見なかったことにした。
「はじめは怖かったけど、慣れてくるとフィットネスみたいで楽しい」
俺の思いとは別に渋谷さんは大層満足されたようだ。なんというか逞しい少女だな、と思った。
ーーーーー
「クエストクリア…おめでとうございまーす!!」
原作でもふざけた態度だと思っていたが、声が付くとより一層気分が悪くなる甘ったるい声が唐突に響いた。同時に俺たちの頭上に半透明のウィンドウが開く。
「え…何…?」
いつもとは違う演出に渋谷さんは不安げに呟いた。無機質な殺意からいきなり人間味がでできたギャップに戸惑ってもいるのだろう。
「本ステージのボス『クマ×2』をクリアしましたので、これにてチュートリアルを終了いたします」
「チュートリアルならいきなりボスと戦わせんなよ…」
小声でついた難易度に対するクレームは当然のように流され、一方的に捲し立てられる。
「今回からはクリアする度、新しいドレスカードが排出されますので頑張ってください」
できれば初回から用意して欲しかった、そう思いつつ渋谷さんの様子を伺う。
「……ここからが、本番なんだね」
緊張しつつも覚悟を決めた表情でこちらを見つめてくる。歪君デバフがないとこうも違ってくるものなのか。
何か言おうとした刹那、目の前に光が溢れだした。それは瞬く間に収束し、光の玉となって宙に浮かんでいる。
「光の…玉…?中になんかあるよ」
渋谷さんが眩しそうに覗き込んでいる。俺も目を細めながら内部を視認する。
「……普通に筐体から出してくれればよかったのに」
「ちょ、秋葉君!?」
光の中へ手を伸ばす。強い輝度の割には全く熱を感じないそれに手を突っ込み、中のカードを掴んだ。
瞬間に光は散り、手元には
『NAME:ビスチェ・ストライク』(SR)
Skill:物理特化Ⅱ 物理属性の威力に増加補正(特大)が入る。
必殺技:『ドレスタパンチⅡ』 対象一体に物理ダメージ(特大)を一回与える。必殺技ゲージ使用量最大。
「まずはチュートリアルのクリア報酬として次回から使える新ドレスを一枚プレゼント!」
「新ドレス…?これ秋葉君がもってないやつだよね」
手にしたカードを渋谷さんが覗き込んでくる。前回散々手持ちのカードを使いまくったせいか手持ちのカードは粗方覚えているみたいだ。
「そうだね。見たことないドレスカードだし、勿論こんなチュートリアルも展開も知らない」
「それでは次回本番もよろしくね」
不安げな渋谷さんを他所に言いたいことを言った運営はそのままフェードアウトしていった。代わりに俺が渋谷さんに向き合う。
「もしかしたら…ここからはもう、僕の知っているドレスタじゃないのかもしれない」
「だとしても関係ない」
「ここがドレスタである以上、僕たちの勝利は揺るがない」
自信満々に、傲慢にさえみせて渋谷さんに宣言する。何一つ問題ない、ゴールは見えている。そう思わせられるように取り繕った。
「……すごい自信だね秋葉君」
感心したような、或いは若干呆れたように渋谷さんは呟いた。その表情にもう不安はない、内なる努力が実を結んだことに内心胸を撫でおろす。
「それだけが取り柄だからね、だからこそ誇らなくっちゃ」
「あはは、すっごく頼もしいよ」
渋谷さんが朗らかに笑った。そういえばこの空間でこんなに屈託なく笑ったのは原作でもなかったような気がする、何気にレアだな。
「それじゃあ今後共々」
「よろしくね、秋葉君!」
俺たちは拳を突き合わせ、同時に世界から消失する。
チュートリアルは終わり、次からいよいよ本番に突入する。相手はクマなんかよりよっぽど予測ができない奴らばかりだ。
だとしても問題はない、必ず渋谷さんを守ってエンディングまで連れていく。
そう決意しながら、俺はこの世界を後にするのだった。
いよいよチュートリアルを終え、遂に本編へと突入するジェネリック歪君!!待ち受ける強敵たちを、ポリシーを崩さずに倒せるのか!?
次回「慈悲ある一撃」