ジェネリック歪君のあんまり楽しくない裏ドレスタプレイ日記   作:名無しの作者

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慈悲ある一撃

 チュートリアルを終えた翌日、渋谷さんからマッチングが完了した旨を伝えられた。原作通り六日後に転送されるようだ。

 

 「このマッチングっていうのは今までと何が違うの?」

 

 放課後、近場の喫茶店内で作戦会議をするために集まっていた俺たちはそれぞれコーヒーとパフェを待ちながら話し合っていた。因みに俺がパフェで渋谷さんはコーヒーを頼んでいる、カロリーが気になるとか何とかで。

 

 「ゲームでマッチングという単語を使うとなると……恐らくは対人戦だろうね」

 「対人戦って……人と戦うってこと!?」

 

 俺の予想に渋谷さんは顔を青ざめさせる。散々敵キャラと戦ってきたが、やはり相手が人となると勝手も覚悟も大きく変わってくる。

 

 「この悪趣味なゲームから察すると、最悪どっちかが死ぬまで戦わされる可能性も……あるかも」

 「そんな!?なんとかなんないの!?」

 

 テーブルを叩き勢いよく立ち上がる姿からは焦りと恐怖が見て取れる。無理もない……死なないようにするのと殺さなきゃいけないことを同列に語るのは余りにも酷だろう。

 

 「普通のドレスタだったら時間制限で引き分けもあったけど、最悪は考えていた方がいいだろうね」

 「噓でしょ……」

 

 渋谷さんが力なく座り込む。昨日に比べてかなり憔悴しているように見える。

 

 それでも告げなくてはならない。裏ドレスタには引き分けはない、始まったが最後どちらかがくたばるまで決して帰還することは罷り通らないのだ。

 

 ……このゲームで一番つらい時期といっても間違いはないだろう。

 

 何が辛いって強制マッチングする相手をこちらからは選べないことだ。強い相手に当たるならまだしも、もう残りライフが1つしかない最悪の当たりくじを引く可能性が常に付きまとう。

 

 裏ドレスタではランクが一定以上に上がれば自主的にバトルを挑める。そのランク帯になるとライフの回復も恒常的に行えるだろうからとどめを刺すことは滅多に起こらないはず。

 

 そのランクまで行くにはやはり強制ランクマッチ帯を勝ち抜いていかねばならない。

 

 「落ち着いて渋谷さん、僕らにライフが3つあるように対戦相手にも残機の概念はあるはずなんだ。倒しても即座に命を奪うってことにはならないはずだよ」

 「……でも……この手で人を殺すなんて……」

 

 まあそうだろうな、いくら仮想現実だからって人殺しを割り切ることなんて早々できっこない。原作では歪君の気色悪さと問答無用なプレイングで無理やり順応させれていたが、今はどちらも使えない。

 

 

 俺ができるのは、可能な限り誠意を見せることぐらいだろう。

 

 

 「少し時間をくれない?どうするか一晩考えてみるから」

 「……どうするって、どうにかできるの?」

 

 俯いていた顔を少し上げ、不安げにこちらに問いかける渋谷さんの目を見つめる。

 

 「ゲームのルールそのものを変えることはできないだろうけど、それでもやれることはあるはずだよ」

 

 それを考えてくるから待ってて、そう言い残し俺たちは解散した。

 

 あと結局渋谷さんもパフェを頼んだ、食べなきゃやってられないとのこと。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 また翌日の放課後、近場のカラオケで集合した。歌う気分では勿論なかったが、話す内容が内容なので防音性の高いルームで今後を話し合う。

 

 「それで、作戦って?」

 「まず対戦にはこのドレスを使う」

 

 そう言ってカードケースから一押しの一枚を取り出す。

 

 『NAME:アルカナ・プエラ』(SR)

 Skill:『アルカナ・スター』 ガード不可、ガード操作が遠距離攻撃に置き換わる。

 必殺技:『アルカナ・ルクス』 前方30mに魔力属性のビームを発生させる。必殺技ゲージ使用量可変。

 

 こいつは防御行動が一切できない代わりに遠距離攻撃に特化したドレスだ。通常攻撃が貧弱で距離を詰められると基本何もできずに負けるが、間合いの管理さえしっかりしていればスキルで一方的に攻撃できる。

 

 勿論スキルによる攻撃でも必殺技ゲージは溜まるので場合によっては一切ダメージを受けずに勝利することも可能なロマンドレス、だが注目すべきところはそこではない。

 

 「このカードなら相手を直接手にかけずに倒すことができる」

 

 近接攻撃で戦うとなるとどうしてもその手で命を奪うという感触からは逃れられない。自らの手で肉を割き、骨を潰す感覚を俺は渋谷さんに味わってほしくなかった。

 

 ……殺すことは避けられなくても、せめて奪う命から遠ざけたい。俺にできるのは殺人による精神負荷を極限まで和らげることだけだ。

 

 「それからこれも使う」

 「これって……目隠しと、イヤホン?」

 

 鞄から出したそれらをテーブルに並べる。置かれた目隠しを訝しみながら彼女は手に取った。

 

 「これをどうするの?」

 「これをつけて戦えば、戦っている実感を少しでもなくせるかなって思って」

 

 ようは渋谷さんを完全に操り人形にしようという話だ。視覚と聴覚を奪ってしまえば相手が誰でどういう状況なのかわからない。勿論必殺技を使ったりするなどで決着のタイミングはわかってしまうだろうけど、まともに殺害するよりかはずっと楽なはずだ。

 

 この戦法がいつまでも通用するとは思わないが、最低限渋谷さんがこのゲームに慣れるまで、フリーマッチングが解禁されるまではこれで戦おうと思う。

 

 「渋谷さんは僕が操作して相手を倒すまでこれをつけていればいい。敵を殺すのは僕の役割だからね」

 「秋葉君……」

 

 手に取ったそれをしばらく眺め、それをこちらに差し出した。……?

 

 「色々考えてくれたんだね……ありがと秋葉君」

 「これくらいしか思いつかなかった、でもこれなら負担はかけずに」

 「でも私と秋葉君が一緒に戦った方が強いんだよね?」

 「……それは、まあ……」

 

 

 「だったら私も戦う」

 

 

 ふと渋谷さんの目を見つめる、毅然とした決意に満ちた瞳だ。こちらを真っすぐ見据えながら彼女は続けた。

 

 「秋葉君が考えた方法なら確かに私は楽をできるかもしれない。でも秋葉君はどうなの?」

 「僕は大丈夫だよ、ドレスタ強い方だし多少の縛りプレイでも問題な」

 「人殺しちゃうんだよ」

 

 拙い欺瞞を切って捨てた渋谷さんは俺の両肩に手を置いた、そのまま整った顔を近づけてくる。

 

 「アタシ考えただけで耐えられなくなる、この手で誰かを傷つけるなんて」

 「秋葉君だって絶対苦しくなる、辛くなる」

 「そんな思いを秋葉君一人に押し付けたくない」

 

 

 「前一緒に戦うっていったよね。だったらちゃんと一緒に戦おうよ!」

 「渋谷さん……」

 

 

 前日に怯えていた少女と同一人物とは思えない力強さで俺に訴えかけてくる。

 

 「で、でも筐体を操作するのと直接攻撃するのとじゃやっぱり違うよ」

 「これはアタシが原因の戦いで、秋葉君はアタシについてきてくれてる。アタシにとってはそれだけで充分」

 

 きっぱり言い切って渋谷さんは自らの頬を両手でパアンと張った。俺がそれに反応する間もなくすくっと立ち上がった渋谷さんが伸びをする。

 

 「昨日一晩考えたんだ。これはアタシの戦いで、結局はアタシが頑張んないといけないの」

 「別に渋谷さんが進んで傷つく必要はないんじゃ」

 「でも秋葉君だけが傷つく必要もないでしょ?」

 

 そのままこちらに手を伸ばしてきた。呆然とその掌を眺める俺に向かって渋谷さんは告げた。

 

 

 

 「一緒に苦しんで、一緒に頑張ろうよ。秋葉君!」

 

 

 

 相棒でしょ、そういって彼女は微笑んだ。笑ってはいたが有無を言わさない迫力に飲まれかける。

 

 生唾を飲み込みそうになるのを気合でこらえ、俺も立ち上がる。……そこまでいわれたのなら、男として、ドレスタプレイヤーとして応えなければなるまい。

 

 

 「そうだね、そうだった。」

 

 

 「じゃあ、今度は勝つために話し合おうか」

 「うん!」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 マッチング当日、屋上前の踊り階段にて俺たちは集合した。原作をなぞるわけではないがそこぐらいしかマッチングのタイミングで二人きりになれる場所がなかったためとりあえず集合先にしたのだ。

 

 「準備はいい?」

 「うん。覚悟もちゃんとしてきた」

 

 この日まで毎日話し合ってきたのだ。もう迷いや怯えの表情はなく、必ず成し遂げるという気迫が伝わってくる。

 

 その覚悟を無駄にしないよう、俺も全力で報いなければならない。

 

 転送が始まる、焦げ付くような音と共に体がゆっくりと削れていく。

 

 「勝とうぜ、渋谷さん」

 「もちろん。びしっと決めて帰ろう!」

 

 互いの手をきつく握りしめる。離れないように、これからのしかかる現実に押しつぶされないように。

 

 俺たちの思いを他所にコンパクトは容赦なくゲームを構築していく。

 

 構いやしない。最後に勝つのは、笑うのは俺たちだ。

 

 その思いを最後に意識は闇に包まれた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 体が構築される、今までと同じように。

 

 違う点があるとすれば、眼前にもう一組の人間が作り出されていることだ。これまでの敵とは明らかに違う、生きた人間。

 

 男と女、兄と妹。

 

 今はそれだけの敵プレイヤーに俺たちは向かい合う。

 

 ≪これからのルール説明≫

 

 半透明のウィンドウが目の前に現れる。もっと早く、一番最初に出るべきだろという突っ込みを飲み込み中止する。それほど時間をおかずに例の甘ったるい声が響き渡る。

 

 ≪改めまして…チュートリアルクリアおめでとうございます!≫

 

 予想通りのセリフが仮想現実に木霊する。それを動じないよう努めて流す。相手も特段気にしていないように見える、こちらは渋谷さんがピクリと反応したぐらいか。

 

 ≪ここからはクマみたいなザコキャラではなく、その都度戦況によって戦い方が変わってくる知恵と勇気の…≫

 

 

 ≪対・人・戦です≫

 

 

 面白可笑しく殺し合いを強制する声に苛立ちながら、渋谷さんをちらりと見る。声に飲まれつつもしっかりとした表情でこちらを見返す、これなら大丈夫そうだ。

 

 ≪みんなチュートリアルを勝ち抜いた強者ぞろい…!≫

 

 ≪死力を尽くして戦い……見事勝利報酬のレアドレスをゲットするのは誰だ!?≫

 

 そんな戦いをする前に使えるドレスをよこせよ、チュートリアルで戦闘向けじゃないの引いたらどうすんだよ。

 

 ≪殺し合いを制し…生き残るのは誰だ!?≫

 

 

 

時間無制限一本勝負…バトルスタート!!

 

 

 

 ホイッスルのような音が鳴り響くと同時にカードをセットする。

 

 渋谷さんが駆け出し跳躍、地面に着くころにはドレス『ビスチェ・ストライク』を身に纏っていた。

 

 セパレード・ストライクのデザインを基調としつつもトップスにピンクのビスチェが追加されており、元となったドレスより僅かにだが露出が抑えられている。それが魅力を損なうこともなく、むしろ引き締まったウエストを強調し正面から覗くインナーが色気を誘う。

 

 僅かに伸びた髪型にも若干気を取られつつ、相手もドレスに着替えるまで待機する。

 

 フェアプレイのためではない。自分と渋谷さんが心の準備をするために、ドレスタプレイヤーになりきるために。

 

 相手のキャラクターが着替え終わると同時に口を開く。今までのお人よしのガワを捨て去り、冷酷なプレイヤーを纏う。

 

 

 「これから僕たちは、お前たちを殺す」

 

 

 これより先は決意表明にして宣戦布告。身も心も戦闘モードに切り替える儀式。

 

 「恨むな、なんて言わない」

 

 相手の、敵の目を真っすぐ見据える。僅かな驚愕と怯え、恐らく今まではなし崩しに始まった戦いばかりなのだろうと感じ取れる。

 

 「気が済むまで恨み、呪うといい」

 

 それはいい、こちらの覚悟を決めると同時にあちらの戦意も僅かではあるが挫けるだろう。

 

 まるでゲームのボスキャラのような口上を述べる。否、口上だけではない。

 

 自身を絶対無敵のボスキャラだと定義づける、プレイヤーキャラじゃ今のシチュエーションには合わない。攻めてくる主人公を迎え撃つようなボス、それもラスボスをイメージしろ。

 

 

 

 「それがお前たちに許される唯一の権利なのだから」

 

 

 

 




 次回「慈悲ある一撃その2」

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