「よくぞこの場所を見破ったな。セイバー」
「我が陣営の者が調べ上げた。ここがあなたの所在だと」
真のマスターを秘匿する方針に沿い、抜かりなくセイバーは答える。
対してランサーは、いつになく沈んだ面持ちで、しばし言葉を選ぶかのように逡巡してから、やがてひとつの問いを来訪者に向けた。
「我が主の許嫁がいま何処にいるか・・・よもやお前に心当たりはあるまいな、セイバー?」
セイバーとアイリスフィールは互いに顔を見合わせる。アイリスフィールは当惑の面持ちだったが、セイバーは
「知らないが―それが何か?」
「いいや。忘れてくれ」
ランサーの長い溜息には、失意より安堵の割合がはるかに大だった。
「ところで、いいのか?キャスターにあれだけの大技を放ったお前には、それ相応の消耗があるのでは?」
「それは他のサーヴァントも同じこと。こと今夜に限っては、余計な横やりが入る心配もない。どうだ、ランサーよ?」
秘めた憂いに表情が失せていたランサーの美貌が、ようやく微笑の兆しを顕した。
「セイバーよ・・・この胸の内に涼風を呼び込んでくれるのは、今はもうお前の曇りなき闘志のみだ」
~略~
いったい10合なのか100なのか、それすらも肉眼では判別しきれなかった剣戟を交わしてから、やおら両者は距離を空け、互いの間合いから離脱する。
「セイバー、お前は―」
「―勘違いは困るぞ、ランサー。確かに私は消耗しているが、貴方とて得物を一つ失っている。今夜のうちに決着をつけることが、全力で貴方を倒すための最善の”策”だ」
「・・・騎士王の剣に誉れあれ。俺はお前に出会えて良かった」
ともに引き締めた緊迫の面持ちが、ともに口元に微笑を刻む。
「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ―推して参る!」
「応とも。ブリテン王アルトリア・ペンドラゴンが受けて立つ。いざッ!」
~略~
「赦さん・・・断じて貴様らを赦さんッ!名利に憑かれ、騎士の誇りを貶めた亡者ども・・・その夢を我が血で穢すがいい!聖杯に呪いあれ!その願望に災いあれ!いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せ!!」
現界を解れさせ、茫洋たる影へと崩れていきながら、彼は消えゆく最後の瞬間まで呪いの言葉を叫んでいた。ただ怨念に吼える悪霊の声だけを残響させて、ランサーは完全に消滅した。
「―これで、おまえには
「ああ、成立だ。もう僕にはお前たちを殺せない・・・僕には、な」
切嗣が最後に低く呟いたときには、遠く離れた物陰で久宇舞弥が、既にステア―突撃銃の引き金を引き絞っていた。
「ぐ、ぁ・・・あぁ・・・・ッ!!ソラ・・・ウ・・・・・!」
痛みすら感じる間もなく即死したソラウはむしろ幸いだったかもしれない。ケイネスは無惨なことにまだ呼吸を止めていなかった。
「・・・が・・・殺、せ・・・・殺し、て・・・・」
「悪いが、それは出来ない契約だ」
見かねたセイバーが駆け寄って、一閃のもとにケイネスの首を刎ねた。
セイバーが切嗣を見る。その翠緑の瞳は冷ややかに燃えていた。自陣営の『偽マスターを仕立てて、真のマスターが背後から敵マスターを強襲する』方針を尊重していたセイバーであったが、流石に思うところがあった。
見かねたアイリスフィールが、口を開いた。今度ばかりは彼女も声音を硬く尖らせた。
「答えて、切嗣。いくら何でも今回は、あなたに説明の義務があるわ」
「―そういえば、僕の『殺し方』を直に君に見せるのは、今回が初めてだったね。アイリ」
それまでの貝のような沈黙とはうって変わって、切嗣は乾いた声で応答した。アイリスフィールへと向き直った途端に、恥じ入るような萎れた感情を露わにした。
「ねえ切嗣。私ではなくセイバーに話して。彼女にはあなたの言葉が必要よ」
しかし、アイリスフィールに答える声は切嗣からではなく、セイバーから発せられた。
「アイリスフィール、それには及ばない」
「え―?」
「切嗣の策は合理そのもの。確かに”邪悪”ではありますが、我が陣営全員が生きてこの聖杯戦争を勝ち抜くには必要なことなのでしょう」
夫の悪辣さを初めて目の当たりにした自身の主君への気遣いと、自らのマスターの方針の合理性への理解とで、嫌悪感を隠しながら、セイバーはアイリスフィールに告げた。
静寂を搔き乱し、自動車の排気音が近づいてくる。舞弥の運転するライトバンだった。切嗣は黙って助手席に乗り込んだ。
原作との変更点。
1.セイバーがランサーに本気を出さない理由を、「切嗣の作戦を理解しているから」に変更。
2.セイバーが切嗣へ不満を述べない。