冬木市民会館から狼煙は、当然、新都の東端であてもなくアイリスフィールを捜し彷徨っていたセイバーの目にも留まっていた。
~略~
明かり一つない市民館の外壁をしばし見据えた後、セイバーはVMAXのハンドルを巡らせ、来場者用の誘導路を辿った。そのまま建物の下へと飲み込まれていく傾斜路を下り、地下駐車場へと突入する。
VMAXの野太いアイドリングも、
「A・・・」
地を這うが如き怨嗟の声。一度ならず二度までも標的とされたセイバーが、その声の主をたがえるはずもなく―
「URRRRRRRRRッ!!」
~略~
「はぁッ!!」
裂帛の気合とともに、彼女は電光石火の踏み込みで、先に投じた燃えるトラックの車体へと再度肉薄、そのままの勢いで繰り出された渾身の突きは、目眩ましの役を果たしていた炎の鉄塊を貫通し、反対側のバーサーカーにまで切っ先を届かせた。
遮蔽物の陰のセイバーの動きを完全に見過ごしてきたバーサーカーには、これを避ける術がない。セイバーの剣先が直撃の手応えを得る。
だが―
”―浅いッ!?”
勘頼りの刺突は辛くも命中打となったものの、さすがに必殺に至るほどの幸運まではなかった。
バーサーカーの被害は致命傷でこそないが、顔面にしたたかな刺突をくらった直後とあって、よろめき仰け反ったまま体勢を直せずにいる。追い打ちの一撃を浴びせるには充分すぎる隙だ。
しかし、セイバーは踏み込まなかった。このバーサーカーの真名を考えれば―
「・・・その武錬、さぞや名のある騎士と見込んだ上で問わせてもらう!」
バーサーカーの真名に心当たりがありながらも、セイバーは声を張って呼びかけた。
「この私をブリテン王アルトリア・ペンドラゴンと弁えたうえで挑むなら、騎士たる者の誇りをもって、その来歴を明かすがいい!」
セイバーの声に呼応するように、バーサーカーの総身を塗りつぶしていた霧が、渦を巻いて縮んでいく。降り注ぐ水煙の中、ついに漆黒の甲冑が細部に至るまで露わになる。
その甲冑はセイバーもよく知るものだった。間違いない、バーサーカーの真名は―
「やはり貴方だったか、サー・ランスロット!!」
~略~
バーサーカーが振りかざす漆黒の剣を、ただひたすらにセイバーはしのぎ続けていた。湖の騎士の本懐を解き放つ『無毀なる湖光』が抜き放たれた今、その技の冴えと威力は以前の比ではない。最優の座のセイバーでも守りに徹するのがやっとだった。
しかしセイバーには勝機があった。彼女はバーサーカーのマスターが急造の魔術師であると、久宇舞弥を通じて知っていた。急造の魔術師がバーサーカー、それも暴走状態にある湖の騎士に魔力を提供しているのだ。そのことを知っていたセイバーは、バーサーカーのマスターの魔力切れをひたすら待った。
そして、その瞬間は唐突に訪れた。不意にバーサーカーが動きを止めた。その瞬間をセイバーは見逃さなかった。黒い甲冑を深々と背中までセイバーの愛剣が貫通し、セイバーの手に潰えゆくバーサーカーの心臓の最後の鼓動を伝える。
「・・・私は聖杯を取る」
友を斬ったセイバーの震える籠手に涙の粒が散り、剣先から伝え落ちるバーサーカーの血糊と混ざりあう。
「そうでなければ、友よ・・・そうでもしなければ、私は何一つあなたに償えない」
「この期に及んでなお、そのような理由で剣を執るのですか・・・・困ったお方だ・・・・」
原作との変更点。
1.セイバーが戦闘開始からバーサーカーの真名に気付いている。
2.セイバーが意図的に、間桐雁夜の魔力切れを狙う。
バーサーカーの最期はアニメ版準拠。
本作のセイバーも原作と比べると軽度なだけで、しっかりメンタルダメージを受けています。