煉獄の如く燃えさかる炎の中、セイバーは歩みを進める。
バーサーカーとの闘いを、最小限の損耗で切り抜けたセイバーは、王として果たさなければならない誓いを胸に、歩みを進める。
ついに一階へ辿り着き、エントランスを抜けて両開きの扉を開け放つ。眼前に、広大な吹き抜けのコンサートホールが開けた。そして正面の舞台の中央には、燦然と輝く黄金の杯が、炎に囲まれていた。
「あ・・・」
一目で知れた。まぎれもなくあれこそが目指す聖杯だと。
ホムンクルスの肉体を無機物へと還元することで精製された黄金の器。その工程を知らぬままのセイバーであったが、目の前の光景は多くを察するのに充分すぎた。
「アイリスフィール・・・」
その面影を偲んで、セイバーは嗚咽に唇を噛む。
自責と屈辱に胸を引き裂かれながら、セイバーの脳裏を過ぎるのは、常冬の城での記憶。誓いを交わしたときに託されたアイリスフィールの言葉だった。
決して違えるわけにはいかない一歩を、セイバーが踏み出した、そのとき。
「遅いぞセイバー。昔馴染みの狂犬と戯れるにしても、この我を待たせるとは不心得も甚だしい」
セイバーの行く手、観客席を抜ける通路の中央に、黄金のアーチャーは忽然と立ちはだかった。
「アーチャー・・・」
セイバーとて、敵サーヴァントの出現を全く予期してなかったわけではない。あと一戦、ライダーかアーチャー、いずれか一方とは間違いなく立ち会うものと覚悟していた。
問題なのは彼我の損耗の度合いの違いだ。バーサーカー戦を最小の損耗で切り抜けたとはいえ、セイバーには疲労が蓄積しており、その度合いはサーヴァントの自己修復機能をわずかにだが上回っている。万全の状態になるには今少しの休息が必要だろう。対してアーチャーは、充溢する魔力にこそ陰りが見えるが、無傷のままだ。
彼我の状態の差をものともせず、セイバーはアーチャーに斬りつけんとする。だが踏み出したその脚を串刺しにするべくアーチャーが宝具を投射した。
虚空から飛来した宝具の一撃こそ避けたセイバーだが、周囲を見渡して歯噛みする。既にアーチャーは『王の財宝』を展開し、その兵器群のすべての切っ先がセイバーに向いている。
「セイバーよ、お前という女は美しい」
「貴様は・・・何を・・・?」
「剣を捨て、我が妻となれ」
「・・・何のつもりだ?」
「理解できずとも歓喜はできよう?他ならぬこの我が、お前の価値を認めたのだ」
その妄言を紡ぐ口を、すぐにでもふさぎたいセイバーだったが、今セイバーのいる位置からアーチャーを狙うなら、その射線の先には舞台の上の聖杯がある。たとえアーチャーを一撃で消し炭に変えてやったとしても、そのときは聖杯もまた、もろともに焼き尽くされてしまうだろう。
活路を探るセイバーは、そのときホールの中に現れた第三の人影を見咎めた。その亡霊の如く佇むロングコートのシルエットは彼女の正規のマスター、衛宮切嗣の姿に違いなかった。
圧倒的に不利な状況に、一縷の光明が射す。
切嗣が右手を掲げ、令呪の輝きを露わにする。
そして――
――衛宮切嗣の名の下に、令呪を以てセイバーに命ず――
――宝具にて、聖杯を破壊せよ――
――第三の令呪を以て、重ねて命ず――
――セイバー、聖杯を破壊しろ!――
~完~
原作との変更点。
1.ライダーが『神威の車輪』をセイバー戦で喪失しなかったため、アーチャーのライダー戦の消耗度が高い。
2.セイバーもバーサーカー戦でのダメージは疲労程度。
3.このため、セイバーがアーチャーに一方的に嬲られない。
これにて完結です。
読了いただきありがとうございました!